古村治彦です。

 

 2016年2月1日、アメリカ大統領選挙がアイオワ州の党員集会(Caucus)から正式にスタートしました。結果は、日本のマスコミでも報道されている通りで、民主党はヒラリー・クリントン前国務長官、共和党はテッド・クルーズ連邦上院議員が勝利しました。民主党のバーニー・サンダース連邦上院議員はヒラリーに肉薄し、ほぼ五分五分の結果を得ました。共和党側では全国調査ではトップを走っているドナルド・トランプが2位になりましたが、こちらはアイオワ州を「捨てて」おり、熱心な活動はしていなかったので、2位は既定路線、3位につけたマルコ・ルビオ連邦上院議員は善戦し、大統領選挙レースで有力候補になりました。アイオワ州の党員集会の結果については、『ザ・ガーディアン』紙には英語が読めなくても、結果が詳しく分かるようになっている記事が掲載されています。記事のアドレスは以下の通りです。

 

http://www.theguardian.com/us-news/ng-interactive/2016/feb/01/iowa-caucus-results-live-county-by-county-interactive-map

 

 党員集会の集計結果の詳細は以下の通りとなりました。

 

■民主党

①ヒラリー・クリントン:49.86%(701)

②バーニー・サンダース:49.57%(697)

 

■共和党

①テッド・クルーズ:27.65%(51,666)

②ドナルド・トランプ:24.31%(45,427)

③マルコ・ルビオ:23.10%(43,165)

④ベン・カーソン:9.31%(17,395)

⑤ランド・ポール:4.54%(8,481)

⑥ジェブ・ブッシュ:2.80%(5,238)

 

 アメリカの政治情報総合サイトである「リアル・クリア・ポリティックス(Real Clear Politics)」(http://www.realclearpolitics.com/)には、マスコミ各社や大学、調査機関が行う世論調査の結果やマスコミに掲載される政治関連記事が集められるので、アメリカ政治に関心のある人にとっては便利なウェブサイトです。

 

 このサイトでは、各種世論調査の結果から、各候補の支持率の平均を割り出して表示しています。その数字は以下の通りです。

 

■共和党

 

全国平均

・トランプ:35.8%

・クルーズ:19.6

・ルビオ:10.2%

・カーソン:7.6%

・ブッシュ:4.8%

 

アイオワ州

・トランプ:28.6%

・クルーズ:23.9%

・ルビオ:16.9%

・カーソン:7.7%

・ポール:4.1%

 

ニューハンプシャー州

・トランプ:33.7%

・クルーズ:11.5%

・カシック:11.3%

・ブッシュ:10.5%

・ルビオ:10.2%

 

 

■民主党

 

全国平均

・ヒラリー:51.6

・サンダース:37,2

 

アイオワ州

・ヒラリー::47.9%

・サンダース:43.9%

 

ニューハンプシャー州

・サンダース:55.8%

・ヒラリー:33.7%

 

 

 これらの数字とアイオワ州の党員集会の集計結果を見てみると、様々なことが考えられます。

 

 共和党では、テッド・クルーズとマルコ・ルビオの両方40代前半で連邦上院議員である2人が有力候補として浮上してきました。「政治経験もなく、失言も多いトランプよりはましだ」というある意味で「良識のある」人々がこの2人を応援しているものと考えられます。本当はジェブ・ブッシュが主流派の候補者たるべきなのでしょうが、あまりにも人気がないという状況になっています。しかし、まだまだ混戦状態が続く中で、撤退さえせずに、資金が枯渇しないようにしていけば、上位5位くらいまでの候補者誰にでもチャンスがあるのではないかと思います。それでもクルーズとルビオが有力候補となったのは興味深いことです。

 

 それは、この2人とランド・ポール連邦上院議員に対して、支援とまではいかなくても関心を持っているのが、共和党の大資金源となっているコーク兄弟だからです。トランプは自己資金で選挙戦を戦っていて、コーク兄弟を揶揄する発言を行っていますので、彼らがトランプを応援することはありません。これまでのトランプがトップを走る状況で、コーク兄弟の存在感は薄かったのですが、今回の大統領選挙に1200億円の政治資金を投入するということは明言しているので、クルーズかルビオがもっと支持を伸ばしてきた場合に、コーク兄弟が資金を投入してくることは考えられます。コーク兄弟に関しては、拙訳『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、古村治彦訳、講談社、2015年12月)を是非お読みください。

 


 一方、民主党ではヒラリーに対してバーニー・サンダースが善戦しているという構図になっています。ただ、全国調査ではヒラリーがサンダースを10ポイント以上引き離しており、アイオワ州での世論調査でもヒラリーがサンダースを4ポイント上回っていました。しかし、結果はほぼ五分と五分でした。ヒラリーは勝利宣言をしましたが、サンダースの演説こそが勝利宣言にふさわしいものでした。ヒラリーにとっては敗北に等しい結果でした。

 

 私は数日前に、オバマ大統領がホワイトハウスでサンダースに会ったという記事が気になっていました。日本では次のように報じられました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「「オバマ大統領は公平」 サンダース氏と会談」

 

産経新聞 2016年1月28日

http://www.sankei.com/world/news/160128/wor1601280043-n1.html

 

オバマ米大統領は27日、次期大統領選の民主党指名争いでクリントン前国務長官(68)を追い上げるサンダース上院議員(74)とホワイトハウスで会談した。サンダース氏は会談後、記者団に対し「大統領は公平であろうと努めてきたし、今後もそうだと期待する」と語り、オバマ氏の立場は中立だとの考えを強調した。

 

 サンダース氏の発言は、初戦となる2月1日のアイオワ州党員集会を控え、オバマ氏が内心はクリントン氏を支持しているとの観測を打ち消し、後継候補として対等の立場をアピールする狙いがありそうだ。

 

 大統領執務室(オーバルオフィス)で約45分間、内政や外交問題について広く意見交換したといい、サンダース氏は「建設的かつ生産的だった」と語った。(共同)

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

 この記事では、「オバマ大統領がヒラリーを支持しないように、中立を保つように」サンダースがくぎを刺しに行ったという解説になっています。しかし、私はこの行動は、オバマ大統領が間接的にサンダースを応援し、ヒラリーの勝利を妨害するためのものであったと考えます。ヒラリーにとってアイオワ州の党員集会は「鬼門」です。2008年の大統領選挙で、ヒラリーは圧倒的に有利と言われていました。しかし、アイオワ州で勝利を収めたのは、ダークホースであった当時のバラク・オバマ連邦上院議員でした。そこからあれよあれよという間にオバマ大統領が最有力候補になり、本選挙でも勝利を得ました。ヒラリーにとってはまさに悪夢のような思い出です。

 

 ですから、ヒラリーは昨年大統領選挙出馬を表明してから、日本で言うドブ板選挙をアイオワ州で展開していました。そして、全国調査でもそうですが、アイオワ州でもトップという世論調査の結果が出ていました。しかし、党員集会直前にオバマ大統領がサンダースに会ったということで、風向きが変わり、ヒラリーは大苦戦、サンダースは大善戦という結果になりました。次のニューハンプシャー州の予備選挙に関しては、今のところ、サンダースが圧倒的に有利ということが数字上でも出ていますので、サンダースが勝利するものと考えられます。そうなると、ヒラリーの優位は揺らぐことになるでしょう。

 

 共和党は混戦状態がしばらく続くでしょう。それでも次回の討論会である程度の流れが定まってくるのではないかと思います。まだ候補者が多数乱立し、乱戦がしばらく続くとなると、最初からトップに立たずに2位や3位をずっと堅持していく候補者が最後に飛び出るという、マラソンでよく見るような感じになると思われます。

 

 民主党はヒラリー対サンダースというマッチアップ(一対一)で、やるかやられるかの戦いになっていますので、相手を圧倒できる時に圧倒しておかねば足元をすくわれてしまうという厳しい戦いになります。その点で、ヒラリーはスタートに失敗しました。ここからどう巻き返してくるかに注目です。

 

(終わり)