古村治彦です。

 

 今回は、トランプが共和党予備選挙で勝利することを阻止するために、リベラル派は、共和党の予備選挙に参加してマルコ・ルビオに投票すべきだという記事を紹介します。著者は、ピーター・ベイナードです。

 

 スーパーチューズデー(多くの州で予備選挙が行われ、選挙戦の流れが決まることが多い)が近づいています。各種世論調査では、トランプはテキサス以外で一位を獲得する勢いで、トランプが共和党の大統領選挙候補者に指名される可能性がどんどん大きくなっています。これについて、「トランプ旋風はいよいよ危険だ」という考えがメディアに出てくるようになりました。

 

 私はトランプ人気と日本の安倍晋三政権や橋下徹氏の人気が落ちないことには共通点があるように思います。彼らの言っていることは驚くほどによく似ています。トランプに熱狂しているアメリカ人の姿を見ていると、「ああ、あれは日本の有権者の姿でもあるのだな」と思います。閉塞感と怒りから発したポピュリズム(この言葉にはいくつかの意味があります)が、知恵のある政治家たちに利用されると暴走してしまい、革命と同じことが起きて、破壊しかもたらさないということがあります。

 

 この記事が訴えるようにリベラル派が共和党の予備選挙に参加することはないですが、ある種の危機感がアメリカにあるということは分かる記事です。

 

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リベラル派がマルコ・ルビオに投票すべき理由とは(Why Liberals Should Vote for Marco Rubio

―民主党員、民主党支持者はドナルド・トランプの共和党大統領選挙候補者指名を阻止するためにできることは全てやらねばならない。その中には、トランプを倒す可能性を持つ一人の人物を支持することも含まれる

 

ピーター・ベイナート筆

2016年2月28日

『ジ・アトランティック』誌

http://www.theatlantic.com/politics/archive/2016/02/why-liberals-should-vote-for-marco-rubio/471444/

 

 マルコ・ルビオはダメな大統領になることだろう。彼の税制に関する考えを知れば、ジョージ・W・ブッシュ前大統領は分別のある財政運営をしていたということになる。経済制裁、戦争、もしくは戦争を起こすという脅しを使うことは911事件以降、失敗続きであることはよく知られている。それでもルビオはこうしたやり方を使ってアメリカの敵たちを屈服させようとするだろう。移民問題に関して彼は誠実ではないし、臆病である。ルビオの生まれ故郷は定期的に洪水に見舞われているのに、彼自身は気候変動の影響を否定している。

 

 もし私が、共和党員ではなくても参加できる共和党予備選挙が実施される、スーパーチューズデーに含まれる9つの州の住民であったなら、民主党の予備選挙に参加して、ヒラリー・クリントンかバーニー・サンダースに投票する機会を失ってでも、共和党の予備選挙に参加して、ルビオに投票するだろう。私以外のリベラル派の人々はルビオに投票すべきだ。彼に政治献金をできる人はそうすべきだ。ドナルド・トランプの共和党大党選挙候補者指名を阻止するためなら何でもしなくてはならない。

 

 私の提案に対して3つの反論が存在する。

 

1.反論の第一は、リベラル派の観点からすれば、共和党内でルビオはなく、ジョン・ケーシックが最適の選択肢になる、というものだ。それはその通りだ。しかし、トランプを止めるという点では、ケーシックは無力だ。ケーシックは選挙資金を持っておらず、陣営の体制も整っていない。彼は自分の出身州でだけ上位に顔を出しているに過ぎない。現時点で、トランプを倒すために必要なエリートと大衆両方から羅の支持を受けられる候補者は1人だけだ。そして、その候補者こそがルビオだ。

 

2.反論の2つ目は、ルビオはトランプに比べてかなり良いという訳ではない、というものだ。実際、いくつかの争点では、ルビオはトランプよりも悪い考えを持っている。ルビオは、トランプとは違い、イラク戦争を導いた論理に挑戦してはいない。また、アメリカの選挙資金システムの腐敗について注意を喚起することもないだろう。

 

 しかし、これらの問題は確かに重要であるが、2人の候補者の間には根本的に大きな違いが存在する。ルビオはアメリカ合衆国憲法、そして特に人権宣言を尊重している。トランプは違う。トランプはアメリカの民主政治体制を脅かしている訳ではない。彼は、アメリカ国民が自分たちの指導者を選ぶ権利を否定しようとしてはいない。しかし、トランプは、アメリカの自由主義的な民主政治体制に脅威を与えている。自由主義的な民主政治体制は、たとえ民主的な選挙で形成された多数派であっても奪うことが出来ない根本的な諸権利が存在するという考えを基礎にする。トランプは世論を軽視してはいない。彼はその最も基本的な側面を利用し、煽動している。人々の憎悪と劣情に訴えればアピールできるとは分かっていても、政治家のほとんどは法的な規範と個人の権利を尊重してそうした動きを自制するものだ。しかし、トランプはこうした制限を「政治的正しさの押しつけ」と呼び、彼の侮蔑的な態度を誇らしげに見せびらかしている。

 

 トランプは、テロリストの家族を殺害することを求め、拷問に対して100%の支持を表明している。911事件の後、このような過激な言辞を使って、アメリカ国民の過半数、いや少なくとも共和党員の過半数を熱狂させることが出来るのだということを認識する、大統領候補者はこれまでにもいたと私は考える。しかし、トランプ以外の人々はさすがにそういうことはできないと踏みとどまった。トランプ以外の候補者たちもイスラム教徒を悪者扱いしているが、誰も、全てのイスラム教徒のアメリカ入国禁止など主張しない。トランプ以外の共和党の候補者たちは、オバマ大統領のアメリカ市民権に関する疑惑を問題にすることはほとんどない。トランプは、オバマ大統領がアメリカで生まれたこと自体を否定した。

 

 こうした違いが存在すること自体が恥だ。トランプ以外の候補者たちが、「イスラム教徒は911事件の発生時に大喜びした」という流言飛語を垂れ流す姿など想像することはできない。しかし、トランプだけはこうした流言飛語を利用しているのだ。実際にはそうした事実はなかったことは証明されている。トランプ以外の候補者たちは、主流派メディアに対して右派の立場から怒りを表明してはいる。しかし、トランプだけが名誉棄損に関する法律を変更し、ジャーナリストが彼に対して批判的な記事を書くことを難しくしてやると主張している。そして、トランプだけが、彼を阻止するために政治資金を出している人たちを公開の場で脅しているのだ。

 

 トランプがウラジミール・プーティンを称揚しているのは全くの偶然ではない。トランプがプーティンがやったこと全てを称揚してそれをやろうという訳ではないだろうが、トランプが大統領になったら、アメリカは、ファリード・ザカリアが「非自由主義的民主政治制度」と呼ぶ方向に進んでいくだろう。非自由主義的民主政治制度の下では、アメリカ国民は大統領を選挙で選ぶことはできる。しかし、選挙で選ばれた大統領は彼の権力の行使について今よりも制限が少なくなり、より自由に攻撃対象とするグループの諸権利を奪うことが出来るようになるだろう。これらの制限の多くは社会の慣習、しきたりの問題だと言える。私たちは、誰かが攻撃するまでアメリカの民主政治体制が如何に自由主義体であったかということに気付かないでいた。ルビオではなく、トランプはまさにその点を攻撃しているのだ。

 

3.リベラルはルビオを支持すべきという考えに対する反論の3つ目は、トランプが共和党を破壊することがアメリカの利益になる、というものだ。共和党が分裂、もしくはこの秋の選挙で大敗すれば、穏健派が再び影響力を取り戻し、共和党、もしくはそれに代わる何かは、気候変動を否定すること、判事を決定することを拒絶していること、アメリカの財政破綻とデフォルトの淵に追い込むことを止めるかもしれないと彼らは言う。トランプが勝利すれば、共和党は「頭を冷やす」かもしれないと彼らは考えている。

 

私はこの主張が魅力的なものであることは理解するが、馬鹿げていると断じる。トランプが本選挙で負ける可能性は高いが、100%負けるという保証はない。ヒラリー・クリントンが起訴されることがあるかもしれない。テロリストが投票日の2日前に攻撃をするかもしれない。こうしたことが起きないにしても、誰もこれから半年何が起きるかは断言できない中で、大統領選挙の流れは健全で穏やかなものにすべきだ。

 

 しかし、私たちは、次のことをはっきりと認識しなければならない。 トランプが共和党の大統領選挙候補者に指名されること、それはアメリカが大事な一線を超えてしまうということを意味する。

 

 憲法が設定している制限を尊重せず、弱い立場のマイノリティを更に攻撃する人物が我が国の2大政党のうちの1つを率いようとしているのだ。その結果は、程度を測ることは難しいが、大変深刻なものとなるであろう。数日前、アイオワ州の高校のバスケットボールの試合で、一方のティームのファンが、ラティーノ、アフリカ系、先住民系の選手たちで構成されていた相手ティームに対して、「トランプ」「トランプ」と大合唱して威嚇するという出来事が起きた。彼らは、人種差別を行う大統領となるであろう人物の名前を叫んだのだ。トランプの選挙戦で、彼を批判する人々は暴力を振るわれている。昨年、ボストンでは、2人の男が「トランプは正しい」と叫びながら鉄パイプでヒスパニックの男性を殴打するという事件が起きた。もしトランプが共和党の大統領選挙候補者に指名されてしまったら、そして神の気まぐれで大統領になってしまったらどんなことが起きるか、想像してみて欲しい。あらゆる点で、アメリカはより醜く、恐ろしい場所になってしまうだろう。

 

 対照的に、ルビオが勝利すれば、共和党は安定するだろう。民主、共和両党の間で行われる議論で飛び交う言葉は同じものとなって、議論はかみ合うことだろう。ルビオが共和党内の急進派や「既存勢力」からどんなに好かれていても、まだましだという期待はできる。

 

 トランプが共和党の予備選で勝利することでこれらを全てひっくり返されることになる。アメリカ政治が根本から変化することになる。しかし、常々保守派の人々がリベラル派の人々に行っているように、変化は進歩ではあるとは言えない。ある場合には変化の後に起きることよりも、道徳的に腐敗した現状維持の方がより良い場合もある。トランプが勝利することは政治的にこれまで経験したことのない恐ろしい状況が生まれるということを意味するのだ。

 

 リベラル派はこのような状況を食い止めるために、マルコ・ルビオを支持すべきだ。そして、私たちがこれに失敗したならば、今度は、保守派の人々に、トランプを阻止するためにヒラリー・クリントンを支持するように訴えるべきだ。アメリカ政治における党派対立は激しくなっている。しかし、穏健なリベラル派と穏健は保守派の間には共通の規範が存在する。そして、それを壊されるのを視たくないとこれらの人々は考えている。今こそイデオロギー上の違いを乗り越えて、団結すべき時だ。

 

(終わり)

野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23