古村治彦です。

 

 今回は、その勢いでアメリカ政治を揺るがしているドナルド・トランプ(Donald Trump、1946年―)の選対の幹部スタッフを皆様にご紹介したいと思います。


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トランプ
 

 幹部スタッフを見ると、東部の一流大学、アイヴィーリーグ出身者はいません。そして、草の根保守市民運動団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティの活動家をしていた人たちが多いです。一方で、各種選挙で手腕を発揮したヴェテランの選挙のプロも選対の要所要所に配置されています。

 

 トランプ陣営の幹部たちの配置を見ていると、「非エリート」たちが「素人くささ」と「過激さ」を演出しつつ、裏で選挙のプロたちが実務を仕切っているという姿が見えてきます。こうしてトランプは、エリートやエスタブリッシュメントに対して反感を持っている、怒れる白人たちを惹きつけることに成功したということが分かります。

 

 外交政策に関しては過激な言動ばかりが取り上げられるトランプ陣営ですが、まだきちんとした外交政策の専門家たちを集めてのティーム作りはできていないようです。ただ、ティームのトップに現職の連邦上院議員ジェス・セッションズ(Jeff Sessions、1946年―)が就任しました。彼はワシントンでも5本の指に入る保守派議員であり、いくつかの舌禍事件を起こしたことでも知られています。

 

※トランプ陣営の幹部スタッフはこちらのアドレスで紹介されています

http://www.p2016.org/trump/trumporg.html

 

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●選挙対策本部長:コーリー・R・ルワンドウスキー(Corey Lewandowski、1973年―)


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ルワンドウスキー

ルワンドウスキーは、トランプの選挙対策本部を仕切っている人物です。ルワンドウスキーと政治のかかわりは古く、マサチューセッツ大学ローウェル校在学中にマサチューセッツ州上院議員選挙に立候補し敗れました。その後も様々な選挙に関わりました。1997年にアメリカン大学修士課程修了(政治学修士)した後、コーク兄弟が資金提供を行っている団体シティズンズ・フォ・サウンド・エコノミーのスタッフとなりましたが、数カ月後には、オハイオ州選出の連邦下院議員のアシスタントとなりました。2001年には共和党全国委員会の北東部地域立法部政治部長となり、そこからニューハンプシャー州選出の連邦上院議員ボブ・スミスの選挙対策本部長に就任しました。しかし、2003年の選挙でボブ・スミスは共和党の予備選挙で、ジョン・スヌヌに敗れてしまいました。そこから業界団体や広告代理店を経て、2008年から2014年まで、コーク兄弟がスポンサーの保守系草の根市民団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティの幹部スタッフとして活動しました。トランプ陣営の激しい言葉遣いや過激なスタイルはこのルワンドウスキーのスタイルが反映されていると言われています。

 

●選挙対策本部副本部長:マイケル・グラスナー(Michael Glassner

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グラスナー 

 

 グラスナーは、1985年にカンザス大学卒業(政治学士)しました。1986年から2001年まで大物連邦上院議員だったボブ・ドールのスタッフ、側近を務めました。ボブ・ドールの連邦上院議員選挙や大統領選挙出馬で手腕を発揮しました。また、選挙コンサルティングとして、2008年の米大統領選挙では共和党側のジョン・マケイン、サラ・ペイリンのために働いています。2014年からは全米最大のユダヤ系アメリカ人団体AIPAC(American Israel Public Affairs Committee、アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の南西地域担当政治部長を務めました。AIPACは、私も翻訳に関わりました『イスラエル・ロビーⅠ、Ⅱ』(ジョン・ミアシャイマー・スティーヴン・ウォルト著、副島隆彦訳、講談社、2007年)でも書かれている通り、全米最強のロビー団体であり、親イスラエル(政府)系として、アメリカ政府のイスラエル政策に大きな影響を与えています。ボブ・ドールとのつながり、選挙での経験と全米最大のロビー団体での活動から、グラスナーは、トランプ陣営の中で選挙のプロとして実務を取り仕切っていると考えられます。

 

●全国活動部長:スチュアート・ジョリー(Stuart Jolly


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ジョリー

 サウスカロライナ州にあるシタデル(サウスカロライナ軍事大学)を卒業し(政治学士)、イースト・カロライナ大学で国際関係論と経営学で修士号を取得しました。アメリカ陸軍に入隊し、第一次湾岸戦争に従軍、中佐にまで昇進しました。その後は、セントラル・オクラホマ大学の軍事学の教授を務めました。2006年からは、アメリカンズ・フォ・プロスペリティのオクラホマ州支部を立ち上げ、責任者を務めましたが、2013年からは、エデュケイション・フリーダム・アライアンスの上級部長を務めました。

 

●全国スポークウーマン:カトリーナ・ピアソン(Katrina Pierson

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ピアソン
 

 ピアソンは、父親が黒人、母親が白人ですが、両親が早くに離婚し、シングルマザーの母親の下、貧しい生活を経験しました。彼女自身も若くして結婚し、子供にも恵まれましたが、すぐにシングルマザーとなりました。20歳の頃には万引きで逮捕もされています。ピアソンは、テキサス大学ダラス校を卒業しました(生物学士)。テキサス州ガーランドでティーパーティー運動グループを立ち上げ、2014年からはティーパーティー・リーダシップ・ファンドのスポークスウーマンを務めました。更には2014年の米連邦下院議員選挙でテキサス州第32区の共和党予備選挙に立候補しましたが、落選しました。現在は自身の会社ピアソン・コンサルティング・グループのオーナーも務めています。ピアソンは叩き上げの人物で、テレビのニュース番組に出演した時、銃弾で作ったネックレスを身に着けており、注目と非難を浴びました。トランプ陣営の過激な性格を体現している女性であると思われます。

 

●ソーシャル・メディア担当部長:ダニエル・スカヴィーノ・ジュニア(Daniel Scavino Jr.


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スカヴィーノ

 ダニエル・スカヴィーノがドナルド・トランプに近づくことが出来たきっかけはゴルフでした。ピッツバーグ州立大学在学中に、ニューヨークにあったゴルフ場のキャデイをしていて、そこでトランプとコカ・コーラ社の会長と知り合いました。大学卒業後の1998年、スカヴィーノはコカ・コーラの地域マネージャーとして入社しました。2003年にはトランプがスカヴィーノと知り合ったゴルフ場を買収し、「トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブ」と改名し、スカヴィーノは副支配人となりました。その後、トランプ・オーガナイゼ―ションのゴルフ部門の責任者となりました。スカヴィーノはトランプの腹心の1人となりました。スカヴィーノはトランプ陣営のソーシャル・メディア担当となりましたが、主な仕事はツイッターにメッセージや写真、動画を掲載することで、討論会などでは他の候補者たちの発言に対して、日本風に言えば、突っ込みを入れるというようなことをやっています。

 

●全国委員会共同委員長兼政策顧問:サム・クローヴィス(Sam Clovis、1949年―)


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クローヴィス

クローヴィスは、1971年空軍士官学校を卒業しました(政治学士)。そして、25年間、アメリカ空軍に勤務し、大佐で退役しました。そして、ゴールデン・ゲイト大学で経営学修士号、アラバマ大学で公共政策博士号をそれぞれ取得しました。その後は、ラジオショーの司会者、大学教授などをしていました。政治とのかかわりは、アイオワ州財務長官選挙、アイオワ州選出の連邦上院議員の共和党予備選挙に挑戦し、それぞれ敗れていることです。また、2012年の米大統領選挙ではリック・サントラム支持で動いたことも挙げられます。今回の大統領選挙では、リック・ペリーの選対本部のアイオワ州責任者をしていましたが、トランプの政策顧問へと転身しました。保守的な立場で、トランプの「イスラム教徒の入国禁止」発言を擁護しました。

 

●上席顧問:サラ・ハッカビー・サンダース(Sarah Huckabee Sanders


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サンダース
 

 サラ・サンダースは名前で分かるのですが、元アーカンソー州知事で、共和党の大統領選挙予備選にも出馬したマイク・ハッカビーの娘です。クアチタ・バプティスト大学を卒業した後の2002年、父親マイク・ハッカビーの知事選挙再選のために働き始めました。2年ほど、教育省に勤務し、2008年の米大統領選挙の共和党予備選挙に出馬した父ハッカビーの選対幹部を務めました。2010年の連邦上院議員選挙では、アーカンソー州のジョン・ブーズマンの選対本部長を務め、ブーズマンは当選しました。2011年には、大統領選挙予備選に出馬を表明したティム・ポーレンティー選対の上級政治顧問を務めました。更には、2014年にはアーカンソー州の連邦上院議員選挙でトム・コットン陣営の上席顧問を務め、新人のコットンを勝利に導きました。夫のブライアン・サンダースは、ハッカビーの大統領選挙では政策部長を務め、現在は共和党専門の選挙コンサルティング会社ザ・ウィッカーズ・グループのリトルロック(アーカンソー州)事務所長を務めています。選挙のプロであり、父親を通じて幅広い人脈を形成していることは疑いの余地がありません。また、父親のハッカビーは、トランプを応援し、共和党の政治家たちを批判するコメントを出しています。

 

(終わり)