古村治彦です。

 

 今回は、オバマ大統領の外交についてそれを評価し、改善点を明確にする記事をご紹介します。オバマ大統領の外交については、消極的(リビアやシリアにアメリカの地上軍を派遣しなかった)という評価で、評判が悪いですが、この記事の著者ローザ・ブルックスはオバマ大統領を評価しています。

 

 2つの記事がありますので、2回に分けてご紹介します。

 

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オバマ大統領:最後の年と彼の残すものパート1(Obama: The Last Year and the Legacy, Part 1

 

7年経って、オバマ大統領は今こそアメリカの外交政策を秘密の影から明るい場所に持ち出すべきだ

 

 

ローザ・ブルックス筆

2016年1月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/13/obama-the-last-year-legacy-guantanamo-drones/

 

 一般教主演説が終わった。しかし、オバマ大統領の人気は終わっていない。バラク・オバマ大統領の任期は1年残っている。この1年でまだ終わっていない仕事を済ませ、誤りを正し、2008年に彼をホワイトハウスに送り込んだ数千万のアメリカ国民の希望に従うことが出来る。専門家たちは、この1年はオバマ大統領が残せるものを確立するための時間であると述べている。彼らの主張は正しい。

 

 オバマ大統領の残り1年は厳しいものとなるだろう。イランとの核開発を巡る合意と気候変動に関するパリ合意のような成功があったにもかかわらず、アメリカ国民の過半数はオバマ大統領の仕事を支持しておらず、それよりも大きい割合のアメリカ国民はオバマ大統領の外交政策を支持していない。直接的な介入をしないで、中東に平和をもたらし、ロシアと中国にきちんとした民主政治体制をもたらすには1年では短い。

 

 しかし、数は少ないが彼にはできることがまだ残されている。彼がそれらに集中したらではあるが。オバマ大統領が2016年にやるべきことリストには4つの自公が書かれている。

 

①グアンタナモ基地の閉鎖。これは本当のことだ。オバマ大統領は大統領就任以来、グアンタナモ基地の収容施設を閉鎖したいとずっと望んできた。しかし、連邦議会がそれを許さなかった。これは悲劇的なことだ。連邦議会はグアンタナモ基地の収容者をアメリカ国内に移送する際に公的な予算を使うことを禁じる法案を通過させた。グレゴリー・クレイグとクリフ・スローンが昨年11月に『ワシントン・ポスト』紙に掲載した論説の中で指摘しているように、「この制限は憲法違反」なのである。

 

 移民制度改革や銃規制などの問題について、オバマ大統領は、連邦議会の妨害行動に直面する中で、大統領令で乗り切ってきた。彼がグアンタナモ基地を閉鎖したいと本気で臨むなら、彼は大統領令を発してそれを行うべきだ。現在のグアンタナモ基地の収容者数は少なくなっているが、その象徴的な効果は大きなものとなるだろう。グアンタナモ基地を閉鎖すると決め、収容者たちを軍用機に乗せてアメリカ国内に連れてくれば良い。それですべて終わりだ。

 

 連邦議会の共和党所属議員たちは大きな声で批判や非難をするだろうが、思い出して欲しい。彼らはジョージ・W・ブッシュ政権時代には、連邦議会は大統領の軍最高司令官としての力を制限すべきではないと主張した人々なのだ。

 

 ②根拠のない収容の停止。その象徴性は置いておいて、グアンタナモ基地の抱える真の問題は国外にあるという、地理の問題ではなく、収容されている人々のほとんどは14年も収容されているのに、彼らは裁判を受けておらず、判決も受けていないということだ。彼らの多くは犯罪容疑で起訴されてもいないのだ。オバマ政権の説明によると、収容者たちは法的な根拠に基づいて収容されていないのだが、彼らはアルカイーダとその周辺の勢力との戦闘においてアメリカ軍と戦った戦闘員だったので収容されたということである。しかし、収容者の多くにとってこのような収容の正当性の説明は法的な詭弁以上のものではない。同時多発テロ事件が起きてもう14年も過ぎて、アルカイーダの「中核」は除去されている。現在の状況下でこのような正当化の詭弁はもう通らない。将来の「危険性」のために人間を有無を言わさずに監禁すること、公開されない証拠に基づいて閉ざされた空間に収容することは、長い目で見て道徳的に受け入れられるものではない。

 

 グアンタナモ基地に収容されている収容者のうち、45名の人間はアメリカ軍からも国家安全保障上の脅威とは既に見なされていない。彼らは即座に開放され、生活再建の支援を受けられるようにすべきだ。また、それ以外の人々は裁判を受けられるようにすべきだ。そして、彼らが有罪であることを証明されなければ、彼らもまた釈放されるべきだ。連邦議会にこうしたことを止める憲法上の権限はない。そして、オバマ大統領にはこれを行う権限がある。だから、彼らは今すぐにこれをやるべきなのだ。

 

 オバマ大統領が今これをやらなければ、次の大統領に頭痛のタネを残すことになる。そして、アメリカの中核的な原理である法の支配と相反する前例を残すことになる。

 

 2001年の軍事力行使容認決議を巡るくだらない駆け引きを止めること。オバマ政権は2001年の軍事力行使容認決議を根拠にして、シリアのイスラミック・ステイトやその他の地域の悪者たちに対して軍事力を行使できると主張している。しかし、オバマ大統領はこれが決議内容を逸脱していることを分かっている。2001年の軍事力行使容認決議は911の同時多発テロ事件について責任を持っている人物や組織に対して軍事力の行使を認めている。こうした人物や組織が再び「アメリカに対して国際規模でのテロリズム攻撃を行うことを阻止する」ために軍事力行使を容認している。この決議は、永遠に変化し続ける悪者リストに掲載される人物や組織に対して永久に戦争を行うことを意図して作られたものではない。

 

 オバマ大統領は繰り返し、2001年の軍事力行使容認決議には欠陥があり、それを無効にしたいと述べてきた。もし彼がそれを真剣に望むなら、彼は政権内の法律家たちに対して2001年の軍事力行使容認決議を根拠とすることを止めるように求める必要がある。そして、連邦議会に対してアメリカ国民そして無数の外国人の命を危険に晒すことになる決定について責任を取るように求めるようにすべきだ。オバマ大統領はイスラミック・ステイトに対するアメリカ軍の空爆をすべて停止すべきである。そして、連邦議会が明確な内容の軍事力行使容認決議を行うまで、アメリカに対する窮迫な脅威を除いてアメリカの軍事力を行使しないと宣言すべきだ。そうすることで連邦議会も目を覚まして動き出すことだろう。

 

②秘密の戦争と秘密の法律を廃止すること。大統領に就任以来、オバマは「対象を絞った攻撃」を数百回にわたり許可した。そのほとんどはドローンと呼ばれる無人の飛行装置を使ったものだ。これらの攻撃によって6カ国で数千人の命が失われたと言われている。しかし、政権幹部たちは、これらの攻撃のほとんどが特定の個人を対象にしていたものであると公の場で説明すること、そして、死者の多くが巻き添えで殺害された無辜の人々であったことを認め責任を取ることを拒否している。こうした攻撃の基礎となる法的根拠ははっきりしていない。

 

 これがグアンタナモ基地の法的な手続きを経ない収用問題である。これをできるだけ簡潔に言えば、アメリカ政府は秘密のうちに多くの人間(数百の単位ではなく、数千の単位で)を殺害したということだ。アメリカ政府は、秘密の理由で、匿名の人間が秘密のプロセスで評価された秘密の証拠に基づいて、秘密のうちに人々を殺害してきたのだ。

 

これはアメリカ大統領ならば誰も残したいとは思わない遺産である。

 

 オバマ大統領も繰り返し監督機能の強化と透明性と説明責任の工場を実現したいと述べてきた。少なくとも、彼が真剣にそれを望むのならば、実現することは可能だ。アメリカがどれだけの地点で、どれだけの人々と組織を標的に攻撃して殺害したか、そしてどれだけの民間人を殺害したかを公表できない理由は存在しない。

 

 現在のアメリカ国内法と国際法の下で、テロリストを標的にして殺害することに関して、政権には法的な正統性があることを説明するための詳細な報告書を公表することが出来ない理由も存在しない。法の支配にとってこの報告書は最低限必要なことだ。人間を殺害する場合に、その殺害についての法的な理由を公にすることは最低限必要なことだ。このような対象を絞った攻撃の監視を改善するための道理にかなった、現実的な提案を行うことが不可能だとする理由は存在しない。連邦議会の協力があろうがなかろうが、オバマはこれらの改革を実行することが出来る。しかし、どちらにしても、改革は実行されねばならない。

 

 オバマ大統領が改革を実行しなければ、彼は次の大統領に対して頭痛の種を残すことになる。対象を絞った攻撃に対する規制がほぼない状況をそのままにすることになる。

 

 オバマ大統領が2016年にやるべきことリストはこれで終わりではない。次回のコラムでは、オバマ大統領の最後の1年で取り組むべき問題の残りについて書きたいと思う。残りの2つは、国家安全保障、リスク、脅威に関する論説を変えること、そして国家安全保障会議(NSC)と情報機関の改革、である。

 

(終わり)