古村治彦です。
前回に続いて、『トランプ大統領とアメリカの真実』を皆様にお読みいただきたく、ご紹介いたします。

前回に続いて、『トランプ大統領とアメリカの真実』を皆様にお読みいただきたく、ご紹介いたします。

ドナルド・トランプがアメリカの二大政党の一つ、共和党の予備選挙を勝ち抜き、アメリカ大統領選挙の本選挙の候補者になるなんて誰が予想できただろう。私は、政界や財界に人脈を持つ、ジェブ・ブッシュが共和党の大統領選挙候補者になるだろうが、本選挙では、ヒラリー・クリントンに負けてしまうだろう、そして、ヒラリー・クリントンが大統領になると考えていた。民主党ではヒラリー以外には、有名な候補者はいなかった。現職のジョー・バイデン副大統領が予備選挙に出ないと表明した時点で、2016年のアメリカ大統領選挙は、ヒラリーが楽に圧勝する、そういうシナリオで展開すると考えた。
しかし、2015年後半からトランプの勢いが加速していった。彼は「イスラム教徒の入国を禁止しろ」「アメリカとメキシコの間の国境線にメキシコの負担で壁を作れ」と叫んだ。「こんなことを言ったらダメだ」と思った。
「こんな差別感丸出しのことを言ったら有権者から総スカンを食うはずだ」と私は考えた。しかし、トランプ支持は
どんどん拡大していった。トランプを支持しているのはどんな人たちなのか、とアメリカのマスコミは調査を行った。そして、「テキサス州を除く南部から東部沿岸部の衰退しつつある工業地帯に住む、学歴が高くない白人男性」がトランプを支持している、ということが明らかになった。そして、あれよあれよというまに、共和党の予備選挙で並み居るライヴァルたちを打ち倒した。私は、自分の人間観の甘さと先入観を反省した。
イギリスのEU離脱といい、トランプといい、「怒れる白人たちの反乱」と言える。
トランプ支持が根強いのは、「彼がワシントンに、そしてアメリカ政治に、アメリカ経済に“チェインジ(Change)”
をもたらしてくれる」と多くの有権者が考えているからだ。あれ、と思った。どこかできいたことがあるぞ、と。「チェインジ(Change)」「イエス・ウイ・キャン(Yes, Wew can)」のスローガンで大統領選挙を勝ち上がった人物が既にいる。日本に住む私たちも好感をもって迎えた、バラク・オバマ現大統領だ。人々は、黒人のオバマが変革をもたらすとして熱狂した。この時に民主党予備選挙で圧倒的に有利だったはずのヒラリーは、一敗地にまみれた。
新しい人物が大統領になるとき、アメリカの有権者は「変化」を求める。既成の体制を壊して、何か全く別の新しいものが出てきてほしいと願う。2008年に無名のオバマがヒラリーを倒したときから、「外国を助けるのをやめたい、アメリカ国内が大変なのに、外国まで戦争をしに行ってお金ばっかり使ってどうする」という考えが広がっていった。これが「アメリカ・ファースト!」となった。「アメリカ国内の様々な問題を解決することを優先しよう、一番最初にやろう」ということだ。この流れの中に、つまり、トランプの方がオバマの後釜にふさわしいとも言えるのだ。
本書『トランプ大統領とアメリカの真実』は、アメリカ政治“今”“最前線”を知るために最適に一冊だ。
トランプが何かパッと出てきたように、またアメリカ国民がふざけているかのように、日本人には見えているかもしれない。しかし、トランプが共和党の大統領選挙候補者になるには、その背景がある。それはとても重層的だ。
その幾重にも積み重なったアメリカの「今」を俯瞰(空の上)から、水平(地上)のレヴェルまで、あらゆる要素で説明している。アメリカ白人たちの持つ危機感、アメリカの政治思想上の戦い(ややハイブラウな)、トランプという人物のこれまでの人生などが網羅されている。
トランプはアメリカのテレビ番組(リアリティ・ショーと呼ばれる)で、経営者として応募してきた人たちに「お前はクビだ」という決め台詞で人気が出た。しかし、彼はこの決め台詞を言う前に、その人たちに、どういう点が良くて、どういう点が改善点で、ということをきちんと説明していた。そうしなければ、ただの暴君である。この部分があって「だから、君はここにふさわしくない」となって、「お前はクビだ」ということになった。この前段階はあまり注目されないが、ここで彼の経営者としての手腕と人を見る観察眼の確かさが発揮された。
トランプの経営者としての手腕が2000年代にテレビ番組を通じてアメリカに浸透していった。そして、今回の大統領選挙だ。自分の力で1兆円もの資産を築き上げたような叩き上げの経営者・資産家がアメリカ大統領に出馬したことは過去に例がない。「多くの人々の雇用を自分の力で生み出した経営者」という、アメリカ人が賞賛し、ロールモデルするタイプはこれまで政治家を支援することはあっても自分が政治家になることはなかった。
オバマ大統領が「黒人初」の大統領という形容詞がつくのと同じく、トランプが「経営者・資産家初の」大統領と
なるその一歩前まで来ている。
現在、10ほどある激戦州(Battleground States、Swing States)の世論調査では、ヒラリーとトランプは互角である。これらの激戦州の動向いかんでは、トランプ大統領の誕生の可能性は高まる。
アメリカが世界に提示した、ドナルド・トランプとトランプ現象、これを理解せずして、時代の空気を理解することはできない。
そのための最良の一冊となることは間違いない。
(終わり)
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