古村治彦です。

 

 今回は、おなじみのマイケル・グリーンCSIS上級副所長兼アジア・日本部長の参院選総括を皆様にご紹介します。以下のCSISのアドレスにあるものを抜粋したものです。

 

 今回はマイケル・グリーンと彼の下にいるニコラス・シェンシェーニが総括を書いたようです。シェンシェーニは経済に強い人物です。CSISに入る前には、ワシントンで、日本のフジテレビのプロデューサーをしていたという人物です。

 

 総括についてまとめると、安倍首相の経済政策(アベノミクス)と国防政策が支持された、憲法の見直しについては、可能性はあるが、まずは経済だ、ということになっています。あまり独自色のある総括ではありません。

 

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Japan's Upper House Election

July 11, 2016

https://www.csis.org/analysis/japans-upper-house-election

 

 

Michael J. Green

Senior Vice President for Asia and Japan Chair

 

Nicholas Szechenyi 

Deputy Director and Senior Fellow, Japan Chair; Asia Program

 

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●今回の選挙の概説

 

・7月10日の参院選挙で連立与党は圧勝を収めた。安倍晋三首相の政治的な力は固められた。彼は経済の再生と国防政策に重点を置いた政策を推進する。

・選挙前の世論調査によると、有権者の最大の関心事(懸念)は経済であった。しかし、大差を付けての勝利で、国会が開会された時、安倍首相はその他の重点事項である憲法の見直しに注力するのではないかという懸念も高まっている。

・選挙後のインタヴューで、安倍首相は今秋、憲法の見直しを国会の憲法審査会で議論することになると述べた。しかし、彼は経済と人々の成長への期待を高めるために努力すると重ねて強調した。

 

●問1:今回の選挙での重要なテーマは何だったか?

 

・金融緩和、財政刺激策、構造改革で構成される「アベノミクス」と呼ばれる安倍首相の経済政策への国民投票であった。

・2012年12月に第二次政権が発足して以来、安倍首相はデフレーションと戦うことを公約としてきた。しかし、積極的な金融緩和を行ってもインフレーション目標には遠く及ばない状況である。史上最大規模の国家予算といくつかの財政刺激策が行われたが、経済成長は緩慢なものにとどまっている。財政緊縮派の批判者たちは、公的債務の規模に懸念を持っている。公的債務の規模は現在、GDPの240%にまで膨れ上がっている。

・2016年第一四半期の日本の成長率は年間換算で1.9%であったが、安倍首相は、経済の失速を恐れて、2度目の消費税増税を延期した。

・構造改革に関する政策は、過去3年間で明らかにされ、貿易の自由化、企業のガヴァナンス、女性の地位向上を含む様々な施策となって出現した。それは大きな衝撃ではなかったが、確実な成長を支援することになった。

・民進党をはじめとする野党は、アベノミクスを失敗だとし、安倍首相の経済刺激策を批判し、経済格差を縮小するために社会福祉を増進させるべきだとした。

・野党側は、集団的自衛を含む自衛隊の活動制限を拡大し、攻撃されている同盟諸国の支援を行うことが出来るようにした、昨年の秋に可決した防衛改革法案を批判した。

・安倍首相はすぐに日本国憲法の戦争放棄条項を見直し、日本の平和杉を放棄すると主張する人々がいる。しかし、このような恐怖を掻き立てる戦術を用いても、連立与党の国会コントロールを弱めることはできなかった。

 

●問2:安倍首相はどの程度政治的な力を固めたのか?

 

・安倍首相率いる自由民主党は、参院の過半数にほんの少し足りないほどの議席を獲得した。連立与党のパートナー公明党と一緒だと、過半数を大きく超える。

・自公の連立与党はより力のある衆議院ではすでに3分の2の議席を獲得している。これで、参院が衆院と異なった可決を行っても覆せるだけの力を得ている。

・今回の選挙の結果は、安倍首相の議会コントロールの力を再び強めたということになる。これでしばらく国政選挙はないということになるだろう。

・次の参院選挙は2019年だし、衆議院議員の任期は2018年までだ。自民党内に安倍首相に挑戦する人はいない。安倍首相の自民党総裁の任期は2018年までだ。しかし、自民党は阿部総裁の任期を最大2期延長できるようにルールを変更することはできる。野党の力は弱い。

・民進党は、2009年から2012年まで与党であった内部がバラバラのグループだ。当時の民主党は2011年の東日本大震災以降、人々の信任を失った。民進党は、共産党を含むより小さい野党と一緒になって、安倍氏の政策を阻止しようと絶望的な試みを行ったが、安倍氏の脅威にはならなかった。

・有権者たちは毛財政帳について厳しい目で監視していたが、こうした要素のため、安倍首相の指導力が維持された。

 

●問3:安倍首相はこれからも経済問題に集中するだろうか?

 

・安倍首相はマスコミに対して、成長戦略を進めると述べた。今秋、安倍首相は、経済刺激のために900億ドル(約9兆円)の補正予算を提案する予定である。TPP批准も行う可能性もある。TPPに関しては、自民党の中核的な支持基盤である農業従事者から激しく非難している。しかし、安倍首相は、TPPは日本の経済競争力を高め、アメリカやその他の価値観を共有する国々と共に地域の経済問題に指導力を発揮するためには必要な手段だと主張した。

・今回の選挙の勝利を利用して、経済から憲法の見直しのような他の問題に力点を移す可能性が高いという疑念が高まっている。改憲には衆議院と参議院両方で3分の2の賛成と国民投票で過半数の賛成が必要だ。

・安倍首相率いる連立与党は、小規模の中道・右派の諸政党と一緒になって参院の3分の2を超えている。しかし、安倍首相は経済政策を犠牲にして、政治的資本を憲法に関する議論のために使うことないであろう。2006年から2007年までの第一次安倍政権下、安倍首相は憲法にばかり注力し、経済問題に関心を払っていないと批判された。

・安倍首相は、彼が優先しているもう一つの政策である安全保障分野において、日本が指導的な役割を拡大させるためには、経済力が根本になると理解している。そのためには成長戦略を維持する必要がある。

・憲法を議論する余地があるのは確かだ。しかし、憲法だけがリストに掲載されている訳ではない。

 

●問4:アメリカにとっての戦略上の意義はあるか?

 

・米日同盟は日本の外交政策の礎石だ。安倍首相は両国間の経済と安全保障の結びつきを教誨しようとしている。彼は既にTPP締結に向けての交渉を始めており、国防政策を改め、安全保障同盟関係を発展させるため、アメリカとの間で新しい防衛ガイドラインを作成した。

・先日のG7では議長を務め、世界共通のルールと規範を支持した。

・安倍首相はアメリカの利益と日本の政治的安定を支える政策を実行している。今回の選挙の結果で、日本の政治的安定は確保された。そして、安倍首相は日米両国間の戦略的な関係を維持することを支持している。

 

(終わり)