古村治彦です。

 

 先週水曜日に発表されたトランプ選対最高幹部の交代で、選対委員長の地位はそのままで実権は剥奪されたポール・マナフォートが正式に委員長を辞任しました。彼がウクライナの親露派の政党のために活動し、秘密裏に資金を受け取っていたということを司法省とFBIが捜査を始めたというニュースが流れてすぐのことでした。

 

 トランプ陣営では、運営責任者として、ロサンゼルスに本拠を置くインターネット上のニュースサイトであるブライトバート・ニュース社のスティーヴ・バノンが迎え入れられ、選対委員長として、上級顧問であった、ヴェテランの世論調査専門家ケリアン・コンウェイが昇格しました。

 

 この人事異動の後、トランプはこれまでのスタイルを一変させて、プロンプター(透明なプラスティック版に演説原稿を写し、あたかも原稿を読んでいないかのようにして演説ができる機械)に移された演説原稿から目を離すことなく、演説を行い、その中で、これまでの自分の言動で人々を傷つけたことを後悔していると語りました。

 

「私は態度を変えない、私は私だ(I do not pivot. I am who I am.)」と最近まで言っていたことを考えると、これは大きな変化です。トランプが本気で本選挙に勝ちに来ていることを示すものです。彼は過激な発言で予備選挙を勝ち抜きましたが、このやり方では本選挙は勝てません。本選挙では無党派や政治に関心が薄い人々にもアピールをしなければなりませんが、トランプの過激な発言や失言が彼らにアピールすることは少ないからです。

 

 これまでの選対幹部たちは、トランプがやりたいようにやることを止められなかったのでしょう。トランプがやりたいようにやる→失言が出る→支持率が下がる→何とかしろと怒鳴りつける→それにはあなたが変わらねばならないと言えない→トランプがやりたいようにやる、という悪循環が続いていたのでしょう。

 

 そこに、以前にご紹介した、大富豪のマーサー父娘が息のかかったプロたち、バノンとコンウェイを選対に入れ、「本気で勝ちたいのなら、私たちの言う通りにしなさい。そうしないとあなたはアメリカ史上最低最弱の負け犬になりますよ」と説得したのでしょう。トランプが怒鳴ろうがどうしようが、「トランプを勝たせろ」という命令を受けたプロは、トランプの意向など無視するでしょう。

 

 トランプがプロンプターにしがみついている限り、支持率の低下は止まり、少しずつ上昇していくでしょう。これがいつまで我慢できるか分かりませんが、残り80日くらい我慢できるという判断もあるでしょう。

 

 しかし、同時に、トランプの分身のような人物であるバノンを入れて、急に態度を変えたことで、トランプに対しては「態度を変えた」「うわべだけで本質的には何も変わっていない」という批判も出てくるでしょう。

 

 私は、今回の人事異動では、コンウェイの登用が重要なのだと考えます。態度の軟化は、女性有権者に対するアピールでもありますし、「不良がちょっと改悛の情を示すと、更生したということになって、良い人扱いになる(元々真面目にしていた人にはこういう効果はない)」ということになります。これが実際に起きている訳ですから、コンウェイの存在がとても大きいことが分かります。

 

 トランプの選挙運動がどれほど変化していくか、これから注目です。

 

(貼り付けはじめ)

 

ブライトバート社会長の登用はトランプにとっての最悪の結末を迎えることになる(Hiring of Breitbart exec spells utter doom for Trump

 

マット・マッコウィアック筆

2016年8月17日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/pundits-blog/presidential-campaign/291748-hiring-of-breitbart-exec-spells-utter-doom-for-trump

 

ブライトバート・ニュース社会長スティーヴ・バノンを新しい選対運営責任者に登用したことは喜劇を超えている。

 

バノンは「悪意に満ちた人物で、弱い者いじめをし、独裁者で、長広舌の攻撃をしたがる」人物だ。これは、ブライトバート社で働いていたある人物がバノンについて述べたことである。

 

簡単に言うならば、ドナルド・トランプは自分の分身のような人物を登用したと言える。

 

バノンはブライトバート・ニュース社をトランプ支持のスーパーPACのようにすることで、ブライトバート社の活動をダメにしてきた。煽情的な見出しとトランプに都合の良い架空の話ばかりを掲載してきた。亡くなったアンドリュー・ブライトバートが掲げた、鋭くて、骨太な反エスタブリッシュメントな考えは消え去った。

 

ドナルド・トランプは壁に囲まれた部屋の中にいるようなものだ。

 

状況は州を追うごとに悪化している。

 

ヴァージニア州とフロリダ州のような重要な州での情勢は、トランプにとって劣勢だ。これらの州で、トランプは選挙運動を行っていない。選挙運動事務所も持っていない。夏のオリンピックが終わるこの時期になって、ようやく今週末にテレビコマーシャルを開始した。

 

私は、ケリアン・コンウェイが選対責任者として何ができるのか、分からない。コンウェイは技術を持ち、尊敬を集めている選挙運動と世論調査の専門家である。また、女性に対するメッセージに関する専門家でもある。

 

しかし、トランプはこれまで何カ月も全ての助言を拒否し、穏健な態度に変更することを拒絶した。また、選対に選挙のプロを入れることも拒絶した。そして、大統領選挙候補者として成長することも、共和党をまとめることも拒否した。

 

バノンを起用することで、選対委員長であるポール・マナフォートには不信任を突き付けた格好になる。マナフォートは、トランプを予備選挙の時の心構えから変えさせて、6500万から7000万票の得票が必要な本選挙の態度に刺せようと試みて、失敗した。

 

バノンのような制御不能な人物を起用することで、共和党内部では、本選挙でぼろ負けするので、連邦下院と連邦上院の選挙に集中すべきではないかという議論が沸き起こっている。

 

トランプはさらに多くの支持者集会を行い、更に攻撃的になりたいと望んでいる。今のやり方をさらに加速させても、機能しない。

 

トランプはおべっかを使う人間を周囲に置きたがる。阿諛追従によって、トランプのエゴを満足させ、彼の馬鹿さ加減がさらに進むのだ。

 

コーリー・ルワンドウスキーを選対委員長の座から追い出した後、トランプは役にも立たない助言を求め続けた。

 

トランプの子供たちは、ルワンドウスキーが選対に戻ることを認めないだろうから、バノンの起用は次善の策ということになる。

 

バノンが回答だというのなら、その答えが導き出される設問が何なのかを想定できない。バノンは、彼は、予算と人事を含む選挙運動の全てを取り仕切っていると語っている。

 

トランプ陣営と共和党の利益は全く異なるものになっている。

 

今回の人事異動は、トランプが候補者として態度を改めること、地滑り的な惨敗を避けることを願っていた人々に失望を与えるだろう。

 

ドナルド・トランプとスティーヴ・バノンは、選挙戦後に新しいメディア帝国を始めることになるだろう。彼らはこのメディア帝国を使って巨額の金を生み出す方法を見つけることだろう。

 

詐欺師は常に勝利するのだ。

 

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新しいトランプ選対に会ってみよう(Meet the new Team Trump

 

ベン・カミサー筆

2016年8月17日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/campaign/291715-meet-the-new-team-trump

 

各種世論調査で共和党大統領選挙候補者ドナルド・トランプは劣勢になっている。そこで、トランプはブライトバート・ニュース社会長と、テッド・クルーズ、ジャック・ケンプ、ニュート・ギングリッジのために働いた経験を持つ共和党のヴェテランの世論調査専門家を選対に入れた。

 

ブライトバート社会長のスティーヴン・バノンはトランプ選対の責任者となった。これまでポール・マナフォートが率いていた選対の責任者にバノンが就任したが、マナフォートは選対委員長の座に留まった。

 

世論調査の専門家ケリアン・コンウェイはトランプのアドヴァイザーをしていた。そして今回、トランプ選対の選挙運動責任者となった。コンウェイは、最近の3回の大統領選挙の共和党予備選挙で活動し、トランプの副大統領候補となったインディアナ州知事マイク・ペンスも顧客だった。

 

2人の選対入りはトランプにとって重要である。トランプは激戦州のいくつかで2桁の差をつけられており、8月は最悪の月になった。

 

今回の人事異動は、トランプが選挙運動を再スタートさせたいという希望を反映している。特にバノンを起用したことは、約80日を残す選挙期間中に無制限に何でもやるという意思を示している。

 

昨年ブルームバーグが掲載したプロフィールの中で、バノンは「アメリカで最も危険な政治活動家」と書かれていた。バノンは右翼系のニュースサイトを率いていた。このサイトでは、トランプを支持し、その他の共和党員たちを攻撃していた。そのやり方は恐れ知らずであった。特に連邦下院議長ポール・ライアン(ウィスコンシン州選出、共和党)は激しく攻撃された。

 

ライアンの事務所は、バノンの起用についてのコメントを拒否した。

 

バノンは民主党支持の家に生まれた。そして、海軍将校になった。彼は、ジミー・カーター元大統領がアメリカを危機に晒すと考え、レーガン大統領と共和党を支持するようになった。

 

軍務に就いた後、バノンはハーヴァード大学経営大学院に進み、その後、1980年代末にゴールドマン・サックスに入社した。そして、1990年に数人の同僚と自分の投資銀行を設立した。ブルームバーグ社のプロフィールによると、エンターテイメント産業で資産の一部を形成したということだ。バノンは、キャッスル・ロック・エンターテイメント社が制作した5つのテレビ番組の権利を保有している。その中でも有名なテレビ番組は「サインフェルド」だ。

 

自身の投資銀行を売却した後、バノンはハリウッドに移り、映画製作に携わった。この時に、アンドリュー・ブライトバートに出会った。アンドリュー・ブライトバートはブライトバート・ニュース社の創設者だ。ブライトバートは2012年に死亡した。バノンは、ブライトバート社の再スタートのために投資家から資金を集めた。

 

バノン率いるブライトバート社は、徹頭徹尾トランプ支持でこれまでやってきた。

 

ブライトバートは常にトランプを擁護してきた。最近では、トランプが「オバマ大統領はISの創設者だ」という発言を擁護し、それを発展させた内容の記事を幾つも掲載している。

 

トランプに対する支持に関しては、ブライトバート内部でも論争が起きていた。

 

ブライトバート・ニュース社の記者だったミッシェル・フィールズと同僚たちは今年初めに会社を辞めた。フィールズはある記者会見の後に、当時のトランプ選対委員長のコーリー・ルワンドウスキーに腕を掴まれ、引き倒されたと訴えた。それに対して、会社の経営陣は彼女の側に立って守ることをしなかった。そのためにフィールズと同僚たちは抗議のために辞任した。

 

ブライトバートは最初の内、口論についての記事を掲載していたが、すぐに、フィールズの訴えの信憑性について疑問を呈する記事を掲載した。

 

バノンは保守系の監視団体がヴァンメント・アカウンタビリティ・インスティテュートの理事を務めている。この団体の代表がピーター・シュワイザーで、シュワイザーは衝撃的な本を書いた。そのタイトルは、『クリントン・キャッシュ』で、クリントン家の私的な財産とヒラリー・クリントンの国務長官としての決定との間にある疑いについて詳しく書かれた本だ。

 

しかし、バノン率いるブライトバート社は共和党の政治家たちを厳しく追及している。

 

8月の最初の9日間で、ブライトバート社はライアン下院議長を攻撃し、彼の予備選挙のライヴァルを褒める記事を少なくとも15本掲載した。ライアンは予備選挙で70%の支持を集めている。

 

ブライトバートは、共和党内部のトランプの反対者たちを批判した。今年の初め頃、ブライトバートは、トランプに反対する共和党員で、トランプに対する反対運動を組織しようとしたビル・クリストルを「裏切り者のユダヤ人」と呼んだ。

 

クリストルは水曜日、「ブライトハートは、“右翼の非寛容な卑劣なニュース”と改名すべきだ」と反撃した。

 

バノンは共和党にとってのアウトサイダーであるが、トランプはインサイダーにも助けを求め、コンウェイを登用するに至った。

 

コンウェイが初めてトランプに会ったのは10年前のことだった。ニューヨークにあるトランプ・ワールド・センターで行われたコンドミニアムの自治会でのことであった、と今年初めにワシントン・ポスト紙が報じた。

 

コンウェイは元々弁護士をしていたが、世論調査の専門家に転身した人物だ。そして、世論調査会社を設立し、子会社として、女性消費者について研究するウィメン・トレンド社を起ち上げた。

 

コンウェイはこれまで共和党内の様々な政治家や候補者のために活動してきた。その中にはジャック・ケンプやダン・クエール元副大統領も含まれる。

 

2008年の大統領選挙では、元連邦上院議員(テネシー州選出)のフレッド・トンプソンのために働いた。2012年では、元連邦下院議長(ジョージア州選出)ニュート・ギングリッジ、2016年では、クルーズ支持のスーパーPAC「キープ・ザ・プロミス」のために働いた。

 

テッド・クルーズ支持のスーパーPACを率いていたコンウェイはトランプを攻撃していた。

 

2016年1月、コンウェイは新たに放映を始めるCMに関する声明を発表し、その中で、トランプが過去に中絶を容認する発言をしたことを攻撃した。

 

「保守派と共和党は選択肢しなくてはならない。ヒラリー・クリントンと同じ考えを持つ人物か、それともロナルド・レーガンと同じ考えを持つ人物か?」とコンウェイは声明の中で書いている。彼女は、民主党の大統領選挙候補者となったヒラリーとトランプを同じだと切って捨てた。

 

コンウェイは、アメリカ人の多くが中絶を「野蛮な行為」と見なすようになって、「15年」も経っていないとも書いている。この点ではトランプと考えが違っている。

 

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(終わり)