古村治彦です。

 

 先週水曜日、共和党大統領選挙候補者ドナルド・トランプがメキシコを電撃訪問し、エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領と会談を行いました。その日のうちにアリゾナ州フェニックスに向かい、移民政策に関する演説を行いました。この演説を聞いたある人は、「酷い内容だった」と分析していました。激しい言葉遣いが復活し、罵倒が続いたということでした。

 

 これまで散々くさしてきたメキシコに行って、友好的な態度で大統領と共同記者会見を行った時とは全く態度が違ったそうです。そして、その原因は、メキシコ大統領がトランプが帰国後にツイッターで、「トランプとの会談では冒頭で、国境の壁建設に対してメキシコが資金を出すことは一切ないと明言した」と書いたことだったそうです。会談後の共同記者会見で、記者から壁建設の資金について合意ができたのかという質問が出て、トランプは「壁建設については議論をしたが、建設資金については議論しなかった」と答えたのですが、ペーニャ・ニエト大統領は、この時に何も言わずに、後でツイッター上にトランプの発言とは異なる内容を発表したのです。これではトランプが嘘つきであるとか、メキシコまで行って弱腰になったとかの批判を浴びることになるからです。そして、トランプは原稿通りではなく、怒りにまかせて演説を行ったということです。

 

 トランプ陣営としては、黒人とヒスパニックに対する態度変更、姿勢の軟化で、無党派層の支持を得るという戦略を立てています。今からこのように態度変更しても、一度トランプ支持と決めた以前からの支持者たちは、じゃあヒラリーに入れるという心配はありません。ですが、このメキシコ訪問は少し欲張り過ぎて失敗だったと思います。

 

 トランプが大統領になった時の姿をシミュレーションの形で見せたい、というのは分かりますが、相手が員円のメキシコというのは選択肢としては厳しいものでした。それでは、懸案があるようには思われないカナダはどうかというと、懸案がないし会談をする意味がありません。それだったらリスクがあってもメキシコにということになったと思いますが、メキシコとしては意趣返しもあって、トランプをうまく罠に誘い込んだということが言えると思います。ペーニャ・ニエト大統領はメキシコ国内で人気がない人なので、アメリカの大物を使って一泡吹かせて、アメリカに物申してやったということにして、メキシコ人の喝さいを浴びようという目的があり、それにまんまと利用されてしまいました。

 

 ここはメキシコ訪問しない方が良かったのではないかと思います。ヒラリーがどんどん自滅していく中で、あまり手を広げて動き回る必要はないのにそれをしてしまったというのは、選対内部が統一されていないことを示しているのだと思います。

 

(貼りつけはじめ)

 

共和党全国委員会はトランプの移民政策に関する演説に対する賞賛を行う計画を破棄(RNC scrapped plans to praise Trump immigration speech: report

 

ジェシー・ハッテム筆

2016年9月3日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/294391-rnc-scrapped-plans-to-praise-trump-immigration-speech

 

金曜日夜に『ニューヨーク・タイムズ』紙は次のように報じた。共和党全国委員会は、ドナルド・トランプの移民政策に関する演説を称揚する計画を破棄したが、それは演説の中でトランプが激しい言葉遣いをし、ヒラリー・クリントンを国外追放にすると主張したことが原因であった。

 

共和党全国委員会委員長レインス・プリーバスは、トランプの演説が温かみに溢れ、慎重な内容になり、それに対して共和党全国委員会のツイッターアカウントで賞賛しようと希望を持っていたとニューヨーク・タイムズ紙は報じた。

 

しかし、プリーバスは、トランプの演説の内容を聞き、共和党全国委員会は計画を破棄し、何の声明も出さないことを決めた、とニューヨーク・タイムズ紙は報じた。

 

水曜日にアリゾナ州フェニクッスでトランプは移民政策に関する演説を行った。その中で、不法移民に対する姿勢を軟化させることなどないと強く宣言し、10カ条からなる強硬な移民政策に対する計画を提案し、激しい言葉遣いで不法移民を罵倒した。

 

トランプはアメリカ南部の国境に壁を建設すると力強く誓い、アメリカに不法滞在している人は誰も国外退去を免除されないと警告を発した。

 

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トランプのメキシコ訪問の5つの成果(Five takeaways from Trump's Mexico trip

 

ジョナサン・スワン筆

2016年8月31日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/294032-five-takeaways-from-trumps-mexico-trip

 

ドナルド・トランプは水曜日にメキシコを訪問し、人々を驚かせた。そして、トランプが信用できないとしていた人物と一緒の舞台に立った。その人物はメキシコ大統領エンリケ・ペーニャ・ニエトだ。

 

トランプのメキシコ訪問は、政治に深く関わっている人々にとっては完全な不意打ちであった。そして、この訪問は、トランプが民主党のヒラリー・クリントンに付けられているリードを縮めるためならギャンブルもいとわないという決意を持っていることを示した。

 

これから、トランプがメキシコ大統領と行った共同記者会見から得られた5つの成果を見ていく

 

(1)トランプは勝利を得るためにリスクを取ることに躊躇しない(Trump is willing to take risks to win

 

共和党大統領選挙候補者として初めての外遊先としてメキシコを選ぶことはリスクが大きかった。

 

トランプは選挙戦全体を通じてメキシコを徹底的に叩いてきた。アメリカ人の雇用を奪い、メキシコ政府が積極的にレイプ犯や麻薬密売人をアメリカに送りこんでいると非難してきた。

 

メキシコを訪問し、メキシコ大統領の隣で軟化姿勢を示すことで、トランプは彼の最も忠実な支持者たちを疎外してしまうというリスクを負った。

 

実際には、トランプはメキシコ大統領の隣に立ったが、彼は自分が置かれている立場を理解していた。

 

メキシコシティーでトランプは地に足がついた行動を取った。トランプは選挙の投開票日までに更なるリスクを取ることも覚悟しているように思われる。

 

(2)トランプは和解の指導者になれることを示したいと思っている(Trump wants to show he can be a world leader

 

水曜日の共同記者会見では、トランプがほとんど話した。ペーニャ・ニエト大統領との共同記者会見は、さながら世界各国の指導者たちの会談の時のようだった。首脳用の台が用意され、記者から様々な質問が飛んだ。

 

トランプの選対はアメリカの有権者たちに、トランプが大統領になった時の姿を見せようとしていた。

 

トランプはその役割をきちんと果たしているように見えた。いつものにやついた顔を見せず、まじめそうに振る舞っていた。メキシコ大統領が話し、それを女性の通訳官が英語で話している間、尊敬をこめてうなずいていた。

 

トランプが話す番になった時、トランプは手元にある原稿を最後から最後まで読んだ。かれがいつもやるような、プロンプターを読みながら、そこから脱線して聴衆を藁らせるようなことはせず、それをやりたい欲望に抗しているようだった。

 

(3)トランプは大統領に相応しくないというヒラリーからの批判に受けて立つ(Trump is taking on Clinton's criticism that he's unfit for office

 

メキシコ大統領と合意した分野を強調し、論争の最大の争点であるメキシコが壁の建設費を払うかどうかについて言及を避けたことで、トランプは状況が必要とする場合には自身の振舞いを抑制することが出来る指導者だということを示そうとした。

 

トランプが声明を読み上げた後、質疑応答の時間になり、ABCニュースの記者ジョン・カールが、トランプとペーニャ・ニエトとの間で誰が壁建設の資金を出すのかという問題について合意ができたのかと質問した。

 

トランプは、ペーニャ・ニエトと壁建設については議論したが、建設資金の支払いについては議論しなかったと答えた。

 

(4)トランプは本選挙を控えて有権者向けに自身のメッセージを和らげた(Trump is softening his message for a general election audience

 

トランプがメキシコシティーに登場した。メキシコシティーに登場したトランプは、予備選挙を、国境を違法に超えてくる人々をレイプ犯とし、「メキシコは私たちの友人ではない」と呼んだトランプとは全くの別人だった。

 

彼は水曜日の共同記者会見の最後に、ペーニャ・ニエト大統領に対して、「私は貴方を友人と呼びます」と声をかけた。

 

トランプは貿易協定でメキシコはアメリカよりもずっと有利な条件を得ていると主張しているが、彼は言葉遣いを変更している。彼は、雇用はアメリカ国内で保持されねばならないと繰り返す代わりに、私たちの富は、メキシコ、アメリカ両国民のために「私たちの半球」の中に保持されねばならないと述べるようになった。

 

トランプは繰り返し、メキシコの人々を賞賛した。

 

トランプは彼の友人の中に多くのメキシコ系アメリカ人がいること、数千人のメキシコ系アメリカ人を雇用していることを強調した。トランプは「彼らは素晴らしい人たちで、一生懸命に働く。私は彼らを尊敬している」と述べた。

 

(5)トランプは彼の中核となる考えについては変えていない(But Trump isn't shifting on his core ideas

 

トランプは水曜日の夜にアリゾナ州フェニックスで演説を行うために、彼の移民政策計画を練り上げていた。しかし、彼の記者会見の発言から、彼は中核となる考えは変えていないことが分かった。

 

ペーニャ・ニエト大統領と共同記者会見に臨んでいる間、トランプは繰り返し、北アメリカ自由貿易協定(NAFTA)は、アメリカよりもメキシコにより利益をもたらすものだと発言した。

 

トランプはまた、国境の壁建設を主張し、それがメキシコとの共同の目的の第一だと宣言した。そして、この壁を利用して、自分が大統領の間に不法移民を終わらせると宣言している。

 

そして、彼は礼儀正しくメキシコが壁建設の資金を出せと主張することはしなかったが、彼の発言の中に主張や約束から交代する内容は含まれなかった。

 

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メキシコ大統領:私は、私たちが国境の壁におカネを出すことはないと明言した(Mexican president: I told Trump we wouldn't pay for border wall

 

ハーパー・ニーディグ筆

2016年8月31日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/mexican-president-told-donald-trump-mexico-wont-pay-for-wall

 

メキシコ大統領エンリケ・ペーニャ・ニエトは、「私はドナルド・トランプに対して、メキシコが貴方の提案している国境の壁建設のために資金を出すことはないと明言した」と語った。これは、会談後の記者会見でトランプが述べたことと矛盾する。

 

ペーニャ・ニエト大統領はツイッターに次のような投稿を行った。「ドナルド・トランプとの会談の冒頭、私はメキシコが壁建設に資金を出すことはないと明言した。それから会談は別の様々な話題に移り、お互いを尊重する姿勢を保ちながら、進んでいった」。

 

大統領の報道担当官はロイター通信の取材に対して、大統領の発言を繰り返した。

 

エドュアルド・サンチェスはロイター通信に対して、「大統領が述べたことは、彼がこれまでも複数の機会で述べたように、メキシコは壁建設の資金を出すことはない、というものだ」と答えた。

 

水曜日にメキシコシティーでトランプとペーニャ・ニエト大統領が会談を持ったことは世界を驚かせた。この会談の後の共同記者会見で、トランプは記者団に対して、2人は壁建設については議論をしたが、その資金については議論しなかったと述べた。

 

トランプは次のように語った。「私たちは壁建設については議論したが、壁建設の資金については議論しなかった。それは後々のことだ。これは予備的な会談だ。とても素晴らしい会談になったと思う」。

 

トランプ選対は、メキシコ側との対話をこれからも継続していくこと、そして、トランプは交渉しようとはしなかったことを声明として発表した。

 

水曜日の夜に発表された声明の中で、トランプの報道担当ジェイソン・ミラーは次のように述べた。「今日は、トランプ氏とペーニャ・ニエト大統領との間の議論と関係構築の最初の日となった。これは交渉ではなかった。もし交渉ということになれば、会談を行うことは不適切なものであっただろう。両氏は壁建設問題について別々の考えを持っているが、これは驚くべきことではない。私たちはこれからも対話が継続されることを期待している」。

 

ヒラリー・クリントン選対委員長のジョン・ポデスタは水曜日の夜に声明を発表し、その中で、トランプはメキシコ大統領に対してお金を出すように説得できなかったことで、「自分で自分の首を絞めた」のだと述べた。

 

トランプとメキシコ大統領の食い違いが明らかになって、ポデスタは声明に対しての補遺を発表し、その中で、「トランプはただ自分の首を絞めただけではなかった。彼は会談の中で、メキシコ大統領に手痛い一発をお見舞いされ、嘘をつかざるを得なかった」と述べた。

 

民主党全国委員会はトランプ側とメキシコ側で食い違う話になっていることを批判している。

 

民主党全国委員会報道担当書記マーク・パウステンバックは次のように述べた。「本日、メキシコで行った記者会見で、ドナルド・トランプは、メキシコ大統領と壁建設でどのように資金を出すかについて議論したことについて虚偽を申し立てた。トランプはこれまでに国境に壁を作るというバカげた考えのためにメキシコに資金を出させると声高に述べてきた。しかし、実際にメキシコ大統領と一対一で顔を合わせたところ、彼は何とかごまかそうとし、そのことを世界中のテレビの前で隠そうと試みた。簡単に言えば、ドナルドは酔っぱらっていたようだものなのだ」。

 

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メキシコ大統領とトランプ、国境の壁建設の資金で食い違う(Mexican president contradicts Trump on who'll pay for border wall

 

ベン・カミサール筆

2016年8月31日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/294021-trump-i-didnt-discuss-whether-mexico-will-pay-for-border

 

水曜日、ドナルド・トランプは、トランプの大統領選挙運動の中心である国境にメキシコの経費負担で壁を作ることについて、メキシコ大統領と議論することを拒絶した。

 

しかし、エンリケ・ペーニャ・ニエトは共同記者会見で、メキシコが経費を負担することはないと主張し、水曜日の夜にツイッターに、トランプとの会談中、トランプに対して資金を出すことは決してないと述べたと投稿した。

 

ペーニャ・ニエトはツイッターで、「トランプとの会談の冒頭、私はメキシコが壁建設に資金を出すことはないと明確に述べた。それ以降、会談は他のテーマに移った。会談はお互いが敬意を持って穏やかに行われた」と書いた。

 

ペーニャ・ニエトのツイートは、その直前にロイター通信が報じたトランプによる会談内容の説明と矛盾した。

 

水曜日の夜、メキシコ大統領の報道担当官エドゥアルド・サンチェスはロイター通信に対して、「大統領は何度もメキシコは壁建設の資金を出さないと述べた」と語った。

 

ペーニャ・ニエト大統領の官邸にコメントを求めたところ、大統領の一連のツイートを参照するようにという回答を得た。

 

メキシコシティーでの共同記者会見で、トランプは、トランプが壁建設をペーニャ・ニエト大統領に提案したが、誰が資金を出すかについては「議論しなかった」と述べた。

 

トランプは次のように述べた。「私たちは壁建設については議論した。壁建設の資金については議論しなかった。それは後々のことだ。今回は予備の会談だ。素晴らしい会談になったと考えている」

 

トランプは続けて次のように述べた。「多くのテーマで強い物言いになったと思う。しかし、私たちはそうしなければならない」。

 

トランプ選対はメキシコ側との対話を続けたい、そしてトランプは交渉はしないと発表した。

 

トランプの報道担当ジェイソン・ミラーは水曜日の夜に声明を発表し、その中で「今日は、トランプ氏とペーニャ・ニエト大統領との間の議論と関係構築の最初のパートとなった。これは交渉ではなかった。もし交渉ということになったらそれは不適切なことであったはずだ。壁建設について2人は別々の考えを持っていたが、それは驚くべきとではない。私たちはこれからも対話が続くことを期待している」。

 

トランプの報道担当は、ウォールストリート・ジャーナル紙に対して、ペーニャ・ニエト大統領がトランプに対してメキシコは壁建設の資金を出さないと述べた時、トランプは何も反応しなかった、なぜならこれは議論ではなかったからだ。だから、トランプは記者団に対して嘘などついていない、と答えた。

 

トランプの壁建設という主張は、彼の移民政策関連戦略の中心をなす。トランプのウェブサイトに掲載されている第二の点は、メキシコが壁建設の資金を出さねばならない必然性について書かれている。トランプの選挙運動では多くの場合、「壁を作れ」の大合唱が起きる。そして、トランプはメキシコが資金を出せということを支持者たちと掛け合いをして大声で叫ぶ。

 

ペーニャ・ニエト大統領は記者団の前で壁建設についての自分の考えを述べなかった。ペーニャ・ニエト大統領はトランプとの会談前、CNNの取材に対して、メキシコが壁建設に資金を出すことは「絶対にない」と答えた。トランプに対して批判するべき点があるかという質問に対して、ペーニャ・ニエト大統領は楽観的なトーンで答えた。

 

ペーニャ・ニエト大統領は通訳を通じて次のように語った。「トランプ氏の持つメキシコに対する印象、間違った印象のために不幸にしてメキシコ国民を傷つけ、衝撃を与えた。メキシコ国民はいくつかのコメントのために侮辱されたと感じている。しかし、トランプ氏がメキシコと関係を築きたいとする考えは、アメリカとメキシコ両国の関係をより良いものにするだろう」。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)