古村治彦です。

 

 2016年アメリカ大統領選挙が終わりました。共和党のドナルド・トランプが、民主党のヒラリー・クリントンを大差で破って当選となりました。まだ最終的な開票結果は出ていませんが、ヒラリーはトランプに敗北を認め、祝意を伝える電話をかけたということです。ヒラリー派選挙終盤、選挙が終わったら何をしたいかと質問され、テレビの米デイショーやドラマをたくさん録画しているので、それらを見たいと冗談半分に述べましたが、まさかそれらを見る時間がたっぷり用意されるとは思っていなかったでしょう。

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 選挙直前、PBSのニュース番組に、アメリカ連邦下院民主党院内総務であるナンシー・ペロシが出演していました。彼女は現在のアメリカ政治で最高位にある女性です。「あと数時間で、最高位にある女性という言われ方が終わります」と言っていましたが、彼女がこれからもしばらくはアメリカ政治の最高位にある女性ということになります。

 

 ヒラリー陣営が投開票後の集会を開くための会場にしていた場所はコンヴェンションセンターでした。そこは天井が高くてガラス張りでした。これは、「ガラスの天井(グラス・シーリング、女性は目に見えない壁に阻まれて社会的に上昇できない)を打ち壊す日」を意味するための会場選びだったそうです。しかし、それも今や幻のように消え去りました。アメリカの有権者は、「ヒラリーが女性だから」という理由で彼女を選ばなかったのではないし、女性は大統領にふさわしくないなどとも考えていないでしょう。ヒラリー個人がふさわしいかどうかの判断でありました。彼女の選対は約500億円の政治資金を集めました。トランプの倍です。それでも選挙に勝つことはできませんでした。

 

 私は選挙速報を見ながら、ヒラリー側は関ヶ原の西軍側、石田光成のような気持だったのではないかと思います。軍勢の数や布陣で言えば圧倒的に有利(明治時代に関ヶ原の戦いの布陣図を見たドイツ軍参謀本部の将校は西軍勝利と言ったそうです)だったのに、負けてしまった、それに近いものがあると思います。また、私はトランプを応援していましたから、何となく2009年の日本の政権交代、民主党勝利を思い出していました。

 

 私は2016年11月7日付のブログで、ヒラリーが316、トランプが222で、ヒラリーが当選すると予測しました。これは見事に外れました。現在の情勢では、この数字がほぼ逆で、トランプが勝利ということになるでしょう。私の未熟さと無能さのために、このような恥ずかしいことになったと反省しています。そして、どうしてこうも大きな外し方をしたのか、ということを考えたいと思います。

 

 まず、私の判断材料は世論調査の数字とアメリカのメディアの記事だけでしたが、世論調査が「世論」を反映していなかったということが挙げられます。現実を反映しない世論調査の数字は役に立たないどころか害悪です。世論調査をはじめとする統計調査ではどうしても誤差が出てきますし、今回の場合は激戦州での世論調査で1、2ポイントの差、もしくは引き分けということもあって読みづらいものでした。更には、日本でも一部報道されたそうですが、「隠れトランプ支持者」と呼ばれる、世論調査には出てこないトランプ支持者が多かったということがあるようです。

 

 次に中途半端な経験から、五大湖周辺のラスト・ベルト、ペンシルヴァニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンは民主党が連勝しているし、ヒラリーが世論調査の数字で数ポイント分リードしているから、ヒラリーだろうと安易に判断してしまいました。オハイオは最後の方はトランプがヒラリーを追い抜いていましたから、トランプが取るだろうと思っていました。私が7日付のブログで書いた、「こうなったら面白いシナリオ」は、フロリダとノースカロライナをトランプが取ったら、ヒラリーとは接戦になるというものでした。しかし、ヒラリーがペンシルヴァニア、ミシガン、ウィスコンシンを落としたために、接戦とはならず、トランプが300以上を取る結果になりそうです。ラスト・ベルトの大学教育を受けていない白人労働者たちがヒラリーではなく、トランプを支持した、「トランプは俺たちの仲間だ」ということになりました。

 

 ラスト・ベルトが決戦場だということは分かっていましたが、別の点では安易に考えていたために、失敗を犯しました。反省しています。

 

 トランプはポピュリズムのリーダーとして、初めてワシントンに行きます。ウィリアム・ジェニングス・ブライアンやヒューイ・ロングが果たせなかったことを果たしました。映画「スミス都に行く」をもじると「トランプ都に行く」となります。彼はまず連邦政府と共和党の変革を強く求めるでしょう。もちろん、妥協するところも出てくるでしょうが、オバマの「チェンジ」とは異なるポピュリズムによる「革命」をおこすことになるでしょう。外交・防衛政策分野ではネオコン系や人道的介入主義派は一掃されるでしょう。

 

 経済政策は保護主義的になるでしょうし、ポピュリズムですから弱者保護(福祉)も行うでしょう。そうなると、これまでの「共和党=金持ちのための党、民主党=貧乏人のための党」という単純な図式は崩れていくでしょう。私が忘れられないのは、第3回目の討論会で、司会者が「両候補の政策を実行すると、国債のGDP比で言うと、クリントン候補が●●%、トランプ候補が▲▲%になりますね」と言ったことです。この時、ヒラリーよりもトランプの方の数字が大きかったのです。これは、トランプが言葉は悪いですが、ばらまき政策をやることになるということです。この点で、共和党伝統の「国債を減らして、均衡財政を行う」という考えとは全く異なりますから、共和党がトランプという指導者の出現で、変質していく可能性があります。

 

 今回の選挙では私は予測を外すという恥ずかしい失態をしました。人間は失敗をすることで学ぶことができるということもありますが、やはり失敗はできればしない方が良いものです。このことを糧にして精進してまいりたいと思います。

 


(終わり)