古村治彦です。

 

 保守派の著名評論家であるチャールズ・クラウトハマーはかなり早い時期からトランプを支持してきました。クラウトハマーは火曜日にテレビに出演し、「トランプは共和党の事実上の指導者となる」と語り、共和党内部のエスタブリッシュメントとの間で、激しい争いが起きると予言しました。

 

 共和党のエスタブリッシュメントのリーダーは、ポール・ライアン連邦下院議長です。彼は反トランプの急先鋒でしたが、これからどうするのでしょう。

 

 クラウトハマーの予言では共和党が変質ということです。民主党(労働組合)が強いラスト・ベストでトランプが全勝したということは、これまでの常識が覆されたということです。ですから、共和党だけでなく、民主党、更にはアメリカ政治が変質していくでしょう。共和党が変質いくうえで、エスタブリッシュメント系と反エスタブリッシュメント系との間で激しい争いが起きるでしょう。

 

 トランプの政治思想は保守思想ではなく、ポピュリズムです。ポピュリズムには、ワシントン(やニューヨーク)の汚れきったエリートたちへの人々の抵抗が基盤にあります。反エリート(反エスタブリッシュメント)です。19世紀に南部の農民たちを中心にしたポピュリスト党(ポピュリスト・パーティー、人民党)が結成され、それが民主党に合同していきました。ポピュリスト党は鉄道国有化など、アメリカ基準では社会主義的な政策を主張した政党でした。また、フランクリン・D・ルーズヴェルトが最も恐れた男、最後は凶弾に倒れたポピュリズムの悲運のリーダー、ヒューイ・ロングのスローガンは、「シェア・アウワ・ウェルス(Share Our Wealth)」でした。

 

 トランプが選挙期間中に語ったことを実際に政策として実行すると、現在の予算規模よりもおおきくなります。国債依存度、国債発行額のGDP比は大きくなります。これは、戦後の共和党が原則としてきた「均衡財政(国債を発行しないで、税収だけで予算を組む)」とは相いれないものとなります。しかし、共和党は、原則はそうですが、実際には、国債発行額を減らすことを主張していますが、実際には国債発行額を増やす方向に進み、協力してきました。また、共和党はウォール街などの財界人の政党でもありましたが、トランプは富裕層に対する課税を強化するでしょう。それは彼を押し上げてくれた人々の願いでもあるからです。トランプは税金支払いの格闘で税制には誰よりも詳しくなっているでしょうから、富裕層を痛めつけない程度で、彼らからの税収を上昇させることになるでしょう。

 

 ですから、下に掲載した記事のように、サンダースのような、民主党(彼は正式には民主党所属ではありませんが)内部の進歩派は、国内政策でトランプと協力することができると主張している訳です。プログレッシヴィズム(進歩主義)とポピュリズムは掲げるようになる政策には共通点が多くありますが、共通する最大の特徴は、既存の政党の穏健派やエスタブリッシュメントにとって目障りな、そしてもっと言うと危険な存在であるということです。

 

 簡単に言うと、今回、アメリカ政治において起きているのは、「民主党エリート+共和党エリート対民主党反エリート+共和党反エリート」、ということであり、民主党が人民党を吸収して以降掲げてきた、進歩的な政策を共和党の反エリート勢力(ポピュリズム)が乗っ取ったということです。

 

ですから、民主党内でサンダースを支持した人々や2008年、2012年の選挙でオバマを支持したが、オバマのTPP推進(エリート主義的)に失望した人々は、ヒラリー支援に積極的に動かず、極端な場合にはトランプに投票したことも考えられます。もちろん、トランプの過激な言動が嫌だという人たちも多かったと思いますが、彼のそうした表面的な行為の裏、下にある考えを知った人々は、一概に彼を嫌うということはできなかったのではないかと思います。

 

 アメリカ政治の変質がこれからの4年間で起きるでしょう。トランプも自分の持ち時間は4年間だと決めているでしょう。欲もなく、再選なども考えないで一期目を務める大統領は初めて出現したと言えるでしょう。ポピュリズムのリーダーが大統領としてワシントンに乗り込んできます。しかし、同時にトランプは経営者として、全てがうまくいくことはないし、外交交渉を含むすべての場面で、自分の望み通りにはいかないということも分かっていますから、無理はしないでしょう。ポピュリズムに殉じるということもないでしょうから、この点でもまた捉えどころがなく、批判する対象としては、攻撃しにくい人物です。せいぜい、彼の過激な発言をつかまえて批判するくらいのものでしょうが、トランプは自分の役割に徹することができる人でしょうから、それもまた難しいでしょう。

 

 トランプの過激な発言は主にツイッターでなされたものですが、大統領になれば、ツイッターで遊んでいる暇もないでしょう。

 

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クラウトハマー:共和党の「内戦」は水曜日から始まる(Krauthammer: GOP ‘civil war’ starts Wednesday

 

ジョナサン・スワン筆

2016年11月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/304980-krauthammer-gop-civil-war-starts-Wednesday

 

保守派のコメンテイターであるチャールズ・クラウトハマーは、選挙の結果に関係なく、共和党の「内戦」のゴングが水曜日の朝(選挙の翌日)には鳴り響くと警告を発した。

 

クラウトハマーは火曜日、火曜日夜に共和党大統領選挙候補者ドナルド・トランプが敗れても、トランプはポール・ライアン連邦下院議長(ウィスコンシン州選出、共和党)が進めてきた改革志向のプログラムにことごとく反対の諸原理に沿って共和党を革命的に変化させる立場に立つだろうと語った。

 

クラウトハマーは火曜日、フォックス・ニュースに出演し、「トランプは、共和党がこれからどこに向かうのか、将来を決定する人物となるでしょう」と語った。

 

クラウトハマーはトランプについて、続けて次のように語った。「彼は敗北して、そのまま退場するようなことはありません。彼は今、自分が何かを作り出していると感じているはずです。彼の直観は正しいと思います。彼は今回の選挙で大きな役割を果たしたポピュリスト的な大きな動きを生み出しました。共和党は保守主義からポピュリズムに立場を移動させることで、共和党自体が変化するでしょう」。

 

トランプが選挙に勝った場合、最初に彼がやることは、「共和党をこれまでとは全く別の形に作り変えること」だとクラウトハマーは語った。

 

クラウトハマーは、「共和党は全く新しい党になるでしょう。ポピュリストの政党となるでしょう。アメリカには、レーガン流の保守政党はなくなることになります」と述べた。

 

クラウトハマーは、トランプが敗北した場合に、ヒラリーとの差を小さく、2012年のミット・ロムニーとオバマ大東朗との差くらいに収めることが出来れば、水曜日の朝には、トランプは、「共和党の事実上の指導者」になると予言した。

 

クラウトハマーは次のように語った。「トランプは退場し、より若い人物が出てくるまで、運動が後退することにもなるでしょう。しかし、トランプは退場しないでしょう。彼はキングメイカーになるでしょう」。

 

ライアンは、福祉制度改革と赤字削減に意欲を燃やしている。クラウトハマーは、ライアンは「古いレーガン流のコンセンサス」を代表していると分析している。一方、トランプは、保護貿易政策と移民政策を柱に選挙戦を展開し、福祉政策の改革よりも保護を約束している。

 

クラウトハマーは「いいですか、内戦が水曜日から始まりますよ」と予言した。

 

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反トランプの共和党所属連邦下院議員:「恐らく」私はトランプの敵リストに載っている(Anti-Trump GOP rep: 'Maybe' I'm on Trump enemies list

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2016年11月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/305317-anti-trump-gop-rep-maybe-im-on-trump-enemies-list

 

アダム・キンジンガー連邦下院議員(イリノイ州選出、共和党)は水曜日、ドナルド・トランプが保有している「敵リスト」に自分が載っているだろうと語った。

 

キンジンガーはCNNに出演し、「恐らくそうでしょう。私は多くの人々の敵リストに掲載されているでしょうね。アメリカ国内中のね」と語った。キンジンガーは大統領選挙期間中に、トランプ次期大統領への支持を拒否した。

 

キンジンガーは「それでも、私は興奮しています」と語った。

 

キンジンガーは、選挙後、様々な「感情」が襲ってきたと語った。

 

「人々は怒っています。私に対して怒りを持っていたトランプ支持者たちから色々と言われます。理解できます」とキンジンガーは述べた。

 

「私はそうした中で毎日を過ごさねばなりません。人々は怒っています。人々の怒りは結実しました。しかし、翌朝になって、私が現在感じているのは、今回のことは我が国が団結する機会になるということです」。

 

トランプを強力に支持したオマローザ・マニゴールドは火曜日、トランプは、大統領選挙で彼に投票しなかった共和党幹部たちのリストを覚え続けているだろうと述べた。

 

 

テレビ番組「アプレンティス」の出演者だったマニゴールドは、『インディペンデント・ジャーナル・レヴュー』誌に対して次のように語った。「私たちがホワイトハウスに入るにあたり、誰が敵を明確にすることができたのは素晴らしいことです。私たちの立場は明確になりました」。

 

マニゴールトは、リンゼイ・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)が火曜日、彼は大統領選挙で無所属のエヴァン・マクミランに投票したとツイートしたことについて言及した。

 

マニゴールドは、「グラハム議員がその候補者を選ぶことが自分のためになると考えていたのなら、これ以上何も言いません。神様の祝福があることを祈ります」と語った。

 

ゴールドは、「私は自分の権利と、彼が選びたい人を選ぶという自由を行使したことについて判断することはしません。しかし、良いですか、トランプ氏はずっと覚えておられるでしょうし、私たちは反対した人々のリストを持ち続けるでしょう」と語った。

 

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サンダースはトランプと協力することを示唆(Sanders signals willingness to work with Trump

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2016年11月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/305337-sanders-signals-willingness-to-work-with-trump

 

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は、いくつかの分野でドナルド・トランプと協力する用意があると示唆した。

 

ヴァーモント州選出の連邦上院議員で民主党大統領選挙予備選に立候補したサンダースは水曜日に声明を発表し、「トランプ氏がこの国の労働者の家族の生活を改善するための政策を実行することに真剣であり続けるなら、私や他の進歩主義者たちは、彼と協力する用意がある」と述べた。

 

サンダースは声明の中で続けて、「彼が人種差別、性差別、外国嫌悪、反環境保護主義的政策を実行するならば、私たちは強力に彼に反対するだろう」と述べた。

 

サンダースは今年の初めに予備選挙から撤退し、ヒラリー・クリントンを支持した。サンダースは、トランプに対して、「彼は大統領にふさわしくない」として攻撃した。

 

サンダースは選挙期間中にヒラリー・クリントンのために選挙運動を展開し、ヒラリー・クリントンを大統領に当選させるべき理由を語り続けた。

 

 

水曜日に発表した声明の中で、サンダースは次のように語った。「トランプ氏は、エスタブリッシュメントのための経済、エスタブリッシュメントのための政治、エスタブリッシュメントのメディアに倦み、怒りを持っている没落しつつある中流階級の怒りを把握し、当選した」。

 

サンダースは声明の中で次のように述べた。「人々はより低い賃金でより長時間働き、きちんとした仕事が中国や賃金が低い国々に奪われているのを目撃し、大富豪が連邦所得税を支払わず、子供たちを大学に行かせられない、ということに倦み疲れている」。

 

サンダースは「富裕層がより富裕になる状況だ」と述べた。

 

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