古村治彦です。

 

 今回は、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、塚本幼稚園と森友学園に関する記事をご紹介します。この記事は少し長いですが、今回のスキャンダルの概要を掴むことができます。

 

 記事の内容は、戦後教育に反対する安倍晋三首相を含む右派・保守派が伝統主義的、愛国心教育を進めようとしている中、塚本幼稚園・森友学園はその最先端を進んでいた。そのことで批判もあったが、今回、森友学園が建設中の新設小学校の土地取引を巡り、政府から好意的な扱いを受けたという詳細が明らかになり、本格的なスキャンダルとなった、というものです。

 

 今回の記事では、森友学園が突出しているということではなく、保守派・右派の戦後教育否定の流れの中にあること、戦後教育が平和主義と民主政治体制を基盤としているが、保守派と右派はそれを否定していること、そうした右派・保守派の代表が日本会議であり、それに安倍晋三首相も参加しているということ、森友学園が「世界で最も純粋な国・日本」というナチスまがいの言辞を使っていたことなどが書かれている点が重要です。

 

 読者は、こうした点から、「安倍晋三氏と安倍氏を中心とする勢力は、ネオナチのようであり、歴史修正主義者だ。アメリカが戦後築いた世界体制の根幹をなす諸価値を否定する人々だ」ということになります。安倍氏たちに利用価値があるうちは良いですが、事情が変われば、切り捨てるための大きな理由となります。

 

 安倍首相が1週間前には「私の考えを支援して下さる方」と呼んだ籠池氏を、昨日は「しつこい方」と切り捨てました。そのようなことが安倍氏自身にも降りかかることもあるのです。

 

(貼り付けはじめ)

 

偏見と不正手段を巡るスキャンダルの中心にある小学校は、日本のファーストレイディーと関係を持つ(Bigotry and Fraud Scandal at Kindergarten Linked to Japan’s First Lady

 

ジョナサン・ソーブル筆

2017年2月24日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2017/02/24/world/asia/japan-abe-first-lady-school.html?smid=tw-nytimesworld&smtyp=cur&_r=1

 

東京発。超保守的な教育方針を持つ塚本幼稚園は、現在大きくなりつつある政治スキャンダルの中心にある。この塚本幼稚園では、子供たちは、戦前に生きたこの子供たちの曽祖父母たちが「自分たちも受けた」と思うであろう種類の教育を受けている。

 

子供たちは軍隊式の音楽に合わせて、規律正しく行進をする。子供たちは19世紀の天皇が与えた、愛国的な行動を示した指針を暗唱する。塚本幼稚園によれば、こうした教育の意図は、「世界で最も純粋な国である(the purist nation in the world)」日本に生きる子供たちの中に「愛国心と誇りを醸成する」ことだということだ。

 

現在、塚本幼稚園と、伝統を重視する支持者たち、その中には安倍晋三首相の妻も含まれる、こうした人々は激しい批判に晒されている。塚本幼稚園は中国人と韓国人に対する偏見(bigotry)を促進し、政府から不法な財政的好意を受け取ったとして批判を受けている。

 

批判の声はどんどん大きくなり、安倍首相率いる保守的な政権は防御に回っている。また、日本において影響力を増大しつつある右翼教育運動の持つ暗黒の側面に対する人々の関心を集めている。

 

今週金曜日、安倍氏は国会で、昭恵夫人が、塚本幼稚園の所有者が建設中の新設小学校の「名誉校長(honorary principal)」を辞任したと述べた。この小学校は、民間の法人である所有者が、法外に値引きされた値段(steep discount)で、政府から購入した土地の上に建っている。今月になって詳細が明らかになってから、この好意的な土地取引に対する批判が起きた。

 

安倍氏は国会において、「私の妻と私は、学校の認可や土地取得に一切関与していません。もし関わっていたのなら、私は政治家の職を辞します」と発言した。

 

安倍氏と保守派の人々は、日本の教育システムはリベラル的な偏見に満ちていると非難している。彼らは、教育現場について、左翼の教師たちが日本の戦争犯罪について「被虐性愛者的、マゾヒスティックな」考えを拡散し、古くからある伝統的な諸価値ではなく、個人主義と平和主義を促進する場所となっていると考えている。

 

東京の学習院大学で教育学を専門にしている佐藤学教授は、「塚本幼稚園は、右派による押し戻しの過激な現象の中にあるのだと思います」と述べた。

 

佐藤教授は「これは、平和主義と民主政治体制(pacifism and democracy)を基礎とする戦後教育システムに対する拒絶です」と述べている。

 

塚本幼稚園では、古い形の愛国主義が表面に押し出されているが、これが時に偏見にまで発展することがある。

 

先週、塚本幼稚園は、ウェブサイト上で、「外国の方々から誤解を受けてしまう可能性がある表現」を含む文章を発表したことについて謝罪を行った。保護者たちは、PTAの会費のようなありふれた問題について、排外主義的な激烈な言辞で返されてきたと批判している。幼稚園の職員たちは、こうした保護者たちを「よこしまな考えを持つ韓国人や中国人」がトラブルを起こそうとしていると激しく述べた。保護者たちは、塚本幼稚園の籠池泰典園長は、幼稚園に韓国人や中国人の血を引く園児を受け入れるように求めた保護者たちを非難したと述べている。

 

籠池氏は保護者に配ったあるお知らせの中で、「問題は、日本人のような外見をしながら、外国人の魂を受け継いでいる人々がいることです」と述べている。

 

安倍氏は自身の政治家としてのキャリアを通じて、日本の教育の改善を最優先課題に挙げている。塚本幼稚園で実施されている伝統主義的な教育のよりソフトなものを主張している。日本のマスコミが入手した新設小学校が初期に出していたパンフレットの中で、籠池氏は、学校の名前を安倍氏にちなんでつけると約束している。籠池氏は後に、違う名前を選択した。この変化について、安倍首相は彼の依頼でこの変化が行われたと述べた。

 

安倍氏は、アジアを支配した時代における悪行について調子を下げる日本の歴史教科書の修正の動きを支持している。安倍首相は、愛国主義を促進する「道徳教育」を公立学校のカリキュラムの一部にするための法律を成立させた。

 

塚本幼稚園は更なる愛国主義的な教育アプローチを採用している。

 

塚本幼稚園が教育勅語を園児たちに暗唱させていることが人々の注目を集めたのが数年前のことだ。教育勅語とは1890年に発表された天皇からの布告であって、戦前の日本の軍国主義的な教育カリキュラムの基礎となり、第二次世界大戦後に廃止された。

 

保守派の人々は教育勅語を伝統的な諸価値を賞賛しているものと考えている。一方、リベラル派は、抑圧的な権威主義時代に逆戻りするものと考えている。教育勅語は、児童や生徒たちに対して、家族を愛すること、「全ての人々に愛情を広げること」、「知識を深め、技芸を上達させること」を奨励しているが、しかし同時に、「天皇に対してより良き、忠実な臣民」となり、求められた時には「自分自身を勇敢に国家に捧げること」も求めている。

 

塚本幼稚園から子供を退園させた5名のお母さんたちにインタヴューを行った。母親たちは異口同音に、塚本幼稚園では排外主義に直面したこと、籠池氏と副園長を務めるその妻から攻撃を受けたことを話してくれた。そうした攻撃には多くの場合、人種的偏見に満ちた言葉が用いられた。彼女たちは匿名にしてくれるようにと言った。それは、実名で声を上げると社会的な攻撃を受けるのではないかと言う恐怖感を持っているからだ。

 

ある母親は、「私たちの家族は韓国が大好きで、よく旅行に行っていました。ある時、息子が担任の先生に韓国旅行の計画について話したのです。先生は“韓国は汚い場所”だと言い、“日本国内のもっと素晴らしい場所に旅行すべき”と息子に言ったのだそうです」と語った。

 

別の母親は、先生たちが彼女の息子に向かって「犬のような臭いがする」と言い、籠池氏はこの母親のことを「反日的な外国人」と呼んだ。この母親は日本人である。

 

籠池氏に接触しようとしたが果たせなかった。塚本幼稚園を運営する学校法人森友学園に電話をかけたところ、女性が応対した。この女性は、自分たちの幼稚園と学校と土地取引に関する日本のマスコミの報道は「不公平」だと述べたが、彼女はそう考える理由を説明しなかった。その後、数度電話をかけたが応答はなかった。

 

幼稚園の園長を務めながら、籠池氏は森友学園を率い、また、日本会議大阪支部の支部長を務めている(訳者註:日本会議は籠池氏を役員だとしている)。日本会議は著名な右翼的圧力団体で、安倍氏やその他の影響力を持つ保守派の議員たちが会員として参加している。

 

木曜日に森友学園のウェブサイトから削除されたメッセージの中で、安倍昭恵夫人は、森友学園について、「子供たちの背骨となる基礎を強くします。これはより優れた道徳教育の基礎となります。そして、日本人としての誇りを持たせます」と賞賛した。

 

稲田朋美防衛大臣は、学校法人を賞賛し、籠池氏に対して彼の業績を賞賛する公式の文書を送った。

 

塚本幼稚園はリベラル派の批判を浴びていたが、土地取引が明らかにされて、本格的なスキャンダルの中心となった。この土地取引は昨年行われたが、詳細が明らかになるまで数カ月を要した。

 

財務省は森友学園が土地を取得することを認めた。この土地は空き地で大阪の郊外にあり、近くに飛行場がある。広さは2エーカーだ。政府の記録と国会での職員による証言によると、この土地を1億3400万円、約118万ドルで売却した。

 

土地取引の価格について、財務省は当初、価格を非公開とした。この価格は驚くほどに低いものだった。財務省は以前、土地の価格を9億5600万円と見積もっていた。この数字は実際の価格の7倍だ。比較対象として、隣にある少しだけ広い土地を2010年に豊中市が購入した時、価格は14億円であった。

 

財務省は、森友学園がゴミ撤去をしなければならないのでその分を価格から差し引いたと述べている。処分されていないコンクリートとごみ、ヒ素と鉛がその土地には埋まっていたと述べた。

 

野党政治家たちは財務省に対して土地の値段に関する計算について説明するように求めた。全国日刊紙朝日新聞が今回の事件を最初に報道した。朝日新聞は、籠池氏の「森友学園は、ゴミ撤去に“約1億円”を支出した」と言う発言を引用している。これは、森友学園が受けた値引きの額と矛盾を起こしている。

 

新設小学校は現在、敷地の中で部分的に完成しつつある。

 

奈良学園大学学長で、新設小学校に対して認可を出した審議会の委員長を務めている梶田叡一は、新設小学校に関しての議論と考慮が行われた時、土地取引のことは伝えられなかったと述べた。梶田氏は、日本の古代からの精霊信仰である神道を強調する森友学園のイデオロギーは、学校開設にとっての障害にはならないが、審議会は現在、決定について見直しをしていると述べた。

 

梶田氏は、「不適切なことがあれば、認可は撤回されることもあります。学校法人が神道であっても右派であっても、保護者が望むのなら、私たちは反対しません」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22