古村治彦です。

 

 今回の森友学園・塚本幼稚園、瑞穂の國記念小學院(認可取り下げ)を巡るスキャンダルが大きな注目を集めていますが、その理由の一つが安倍昭恵夫人の存在です。安倍昭恵さんが園児たちに教育勅語を暗唱させ、天皇皇后の写真に最敬礼をさせる教育方針に感動し、講演を引き受け、園児たちの激励に涙を流して喜び、小学校の名誉校長になっていたということで大きな関心を集めました。

 

 安倍昭恵さんの存在は、安倍首相にとっては、批判を和らげる、物分かりの良い配偶者という姿を演出するのに役立つ存在でした。昭恵さんの予測不可能な行動は人々の注目を集め、男女問わず、賞賛を集めていました。

 

 しかし、昭恵さんの実像が明らかになるにつれて、「なんだ、結局、安倍さんと同じじゃないか」という失望と共に、賞賛されていた奔放さがただの無責任な行動ということになりました。

 

 昭恵さんの存在のお蔭で、首相夫人の取り扱いはどうあるべきか、「公人」か「私人」かということについて議論がなされるようになりました。これまで控え目で表に出ないのが首相夫人の姿でしたが、昭恵さんがこれをより「ファーストレディ」の方に近づけてきたことは事実です。しかし、諸外国のファーストレディのように、国民的にコンセンサスが得られる分野や問題での活動ではなく、昭恵さんは自分の嗅覚だけを頼りにフラフラとうろついてしまったために、今回のような問題が起きてしまいました。

 

 私たちは、日本にもファーストレディ執務室を作るべきなのかどうかを考えねばなりません。そうしなければ個人の嗅覚だけで行動して、今回のような問題を引き起こすことになります。その点で、問題提起をしてくれた昭恵さんには敬意を表するべきでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

人気のある日本の首相夫人はスキャンダルを巡り、教育的指導を受けている(Japanese PM’s popular wife gets schooled over scandal

 

アンナ・フィールド筆

2017年3月13日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2017/03/13/japanese-pms-popular-wife-gets-schooled-over-scandal/?utm_term=.442e1c72da92

 

東京発。安倍昭恵氏は日本の首相の秘密兵器だと長い間考えられてきた。

 

温かい人柄、品がよく、社会問題ではリベラルな考えを持ち、ソーシャル・メディアを活用している。これらが安倍昭恵夫人の特徴であり、安倍晋三首相にはないものばかりだ。昭恵夫人は安倍首相のカリスマ的な性格の裏にある、あまり知られていない人間的な側面を人々に知らせることに貢献してきた。

 

安倍晋三首相が愛犬ロイと遊んでいる写真が昭恵夫人のインスタグラムで見られる。また、2人が笑顔で、フォロワーたちにメリークリスマス、素晴らしいクリスマスになりますようにと願っている写真も見られる。昭恵夫人は公の場で夫の手を握る。これは日本ではかなり珍しい光景である。

 

2014年に『ワシントン・ポスト』紙は昭江夫人について次のようなプロフィールを紹介した。

 

「日本では妻が夫に従うというステレオタイプがあったが、安倍昭恵夫人はこのステレオタイプを否定している。明恵夫人は夫の政策に反対していることを公表している。安倍首相は日本のエネルギーにとって原子力は必要だと熱心に訴えているが、昭恵夫人は原子力に反対している。昭恵夫人は防潮堤計画に反対し、夫が韓国政府と戦っている時に韓国文化を楽しんでいる。安倍首相は昭恵夫人を「家庭内野党(“domestic opposition party”)」と呼んでいる」。

 

「今年の初め、昭恵夫人はゲイプライドパレードに参加した。日本ではLGBTに関する諸問題を議論しない国だと考えられてきた。また、自分たちが不妊治療を受けたことを公表し、一度は養子を迎えることも考えたと述べた。これは日本ではほとんど例のない振舞いである」。

 

これ以降、昭恵夫人はアメリカ軍のヘリパッド建設に反対する人々が集まる場所を訪問した。このヘリパッドは安倍首相率いる日本政府は建設が必要だと主張しているものだ。昨年夏にはパールハーバーを訪問した。それから数カ月後の12月、夫の安倍晋三首相は当時のバラク・オバマ米大統領と共に歴史的なパールハーバー訪問を行った。

 

しかし、現在、安倍昭恵夫人に関して、日本のマスコミと日本の人々は彼女の不適切な行動に注目している。昭恵夫人は、ヘイトスピーチとうさんくさい土地取引を巡る政治スキャンダルの中心にいる。そして、昭恵夫人の役割と影響力について疑問が出ている。スキャンダルは終息していない。

 

安倍首相は今月初め、国会で昭恵夫人を擁護して次のように述べた。「私の妻は私人(private figure)です。私の妻を犯罪者のように取り扱うことについては大変不愉快です」。

 

今回の疑惑は大阪府にある幼稚園が出した手紙とヴィデオ映像が発端となった。手紙には、2つのグループ、中国人と日本に住む韓国人が「邪悪な考え」を持っていると描写され、ヴィデオ映像では、子供たちが、安倍首相が中国人と韓国人を「改悛」させようとしている試みを行っており、それを支持していると述べている姿が映っている。

 

この幼稚園を運営する学校法人は現在小学校の建設を進めていて、その名前を一度は「安倍晋三記念小學院(Shinzo Abe Memorial Elementary School)」にしたいとしていた。 昭恵夫人は名誉校長に就任する予定であった。また、実際に小学校の場所を訪問した。

 

安倍昭恵夫人は2014年12月と2015年9月の2度、この幼稚園で講演を行った。2度目の講演では、聴衆に対して、「私の夫もこの幼稚園の教育方針は素晴らしいと考えています」と述べた。

 

この学校法人が大幅に値引きされた価格で土地と購入したことが明らかになった。土地の価格は評価額の14%という破格のものであった。小学校開校の認可は取り下げられ、政府当局は土地の返還を求めている。しかし、議論は終息していない。

 

安倍首相は、自分自身もしくは妻が間違ったことに関与していないと強く否定している。明恵夫人はスキャンダルが発覚後に名誉校長を辞任した。安倍首相は繰り返し、昭恵夫人は私人、民間人だと述べている。

 

昭恵夫人は今回の論争について一度だけ公にコメントした。彼女は現在マスコミの注目を浴びていることに戸惑っていると述べた。

 

昭恵夫人は先週、世界女性デーを祈念する討論会に出席し、「私がどうして現在の状況に置かれて、多くの注目を浴びているのかを考えると、ただただ当惑してしまうだけなんです」と述べた。昭恵夫人は、学校を巡るスキャンダルに直接言及しなかったが、「再びファーストレディになってから、私の活動範囲は拡大しました。私はたくさんの場所を訪問しました。様々な事柄について様々な人々から頼みごとをされます」と語った。

 

「ファーストレディ」という概念は、日本では比較的新しいものだ。8年前まで、日本の首相夫人のほとんどはスポットライトの外にいた。2006年から2007年にかけての安倍首相の第一次政権期、昭恵夫人は現在よりも目立ってはいなかった。

 

しかし、昭恵夫人は、安倍首相の第一次政権期にワシントンを訪問した際にローラ・ブッシュ大統領夫人(当時)に感銘を受けたとこれまで何度か語っている。2007年、ローラ夫人は昭恵夫人と一緒にマウント・ヴァーノンにあるジョージ・ワシントンの邸宅を訪問した。安倍昭恵夫人は、ミッシェル・オバマ大統領夫人(当時)と日本語プログラムを実施しているヴァージニア州北部の小学校を訪問した。

 

コメンテイターのフィリップ・ブレイザーは『ザ・ジャパン・タイムズ』紙で、「ファーストレディという役割が日本では比較的新しいものであるので、昭恵夫人と政府との関係を見ていくことは大事なことだ」と書いている。更に続けて次のように書いている。「昭恵夫人はこれまでの日本の首相夫人よりも、英語の単語である“ファーストレディ(first lady)”に近い行動をしてきた。そして、首相夫人(prime minister’s wife)に関する人々の受け止め方を変化させてきた」。

 

政治評論家の小林吉弥は、安倍昭恵夫人はこれまで、夫である安倍晋三首相に大きな利益をもたらしてきたと指摘する。小林は朝日新聞の取材に対して、昭恵夫人の影響力は「大きい」と述べ、「外国訪問中に外側に向けて話ができる人がいることは外交上大きな利点となる」と語った。

 

現在、安倍昭恵夫人は違った理由で注目を集めている。国会議員たちは、今回の問題に関して昭恵夫人を国会に招致して質問することを要求している。

 

今月初め、野党第一党の民進党所属の榛葉賀津也参議院議員は記者たちを前にして次のように語った。「昭恵夫人は公人(public figure)です。彼女には、どうして名誉校長の依頼を受け入れたのか、どうして講演を引き受けたのかについて説明する責任があります」。

 

ファーストレディという役割が日本ではまだ新しいもので、また、日本版「イースト・ウィング(訳者註:アメリカ大統領夫人執務室)」について議論されてこなかった。野党の国会議員は、内閣府に対して昭恵夫人がどのようなサポートを受けてきたのかを明らかにするように求めた。

 

首相の広報担当は、安倍昭恵夫人には2人の常勤、3人の非常勤のスタッフが中央官庁から派遣されている、また公務の時には政府の自動車を使っていると答えた。

 

左派の新聞である朝日新聞は今月初め、社説の中で次のように書いている。「たとえ安倍昭恵夫人が個人の能力の範囲内で活動しているとしても、首相夫人は慎重さを示し、責任感を持たねばならない」。

 

社説には「公的な立場にある個人として、安倍昭恵さんにはこの問題について人々が納得するような説明をする責任がある。“民間人”として彼女自身を隠すようなことをしてはいけない」と書かれていた。

 

匿名のある野党議員は、今回のスキャンダルは切り抜ける方法がないと述べている。この議員は『東京スポーツ』紙の取材に対して、首相の最側近の名前を出しながら次のように語った。「菅官房長官は安倍政権内にいてこれまでいくつかのスキャンダルのダメージコントロールをしてきました。その方法は基本的にトラブルを起こした大臣を更迭するというものでした。しかし、菅官房長官は昭恵さんを首相夫人から引きずりおろすことはできませんし、離婚するように言うこともできません。この問題は尾を引きますよ」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)