古村治彦です。

 

 先週木曜日に、アメリカは、シリアの空軍基地へミサイル攻撃を行いました。シリア国内で化学兵器を使った攻撃が行われ、子供を含む多数の民間人に死傷者が出たことに対しての報復攻撃と、これ以上の化学兵器使用と拡散を防ぐための予防的攻撃ということでした。世界のほとんどの国々の政府は今回の攻撃を承認しています。

 

 私は今回のシリア国内における化学兵器を使った攻撃から疑問を持っています。化学兵器が使用されて、子供たちを含む民間人が多数死傷したことは間違いありません。問題は誰が化学兵器を使用したのかということです。全体として、「バシャール・アサド大統領が命じてシリア軍が使用したのだ」ということになって、それでシリア軍の空軍基地にミサイル攻撃がなされました。私は、化学兵器使用の責任が誰にあるのかはっきりしていないではないかと思っています。

 

 米軍の攻撃についてですが、トマホークという有名なミサイルをシリア軍の空軍基地1か所に59発撃ちこんだということですが、その割に被害者がほとんどいない、報道されないというのは不思議です。空軍基地は広大な規模でしょうが、米軍が誇るトマホークが59発も撃ち込まれたら、一面火の海でしょうし、周囲にも甚大な被害が及ぼされるはずです。ただ鉄の塊を撃ち込んだだけなら、警告以上の意味を持たないものに高価なミサイルを59発も撃ち込んだことになります。アメリカが本気でアサド政権を倒そうとしていないことは明らかです。

 

 空軍基地には司令部、パイロット、整備部門で多くのシリア軍の将兵が勤務していたでしょうし、現在はロシア軍の支援を受けていますから、ロシア軍の将兵もいたでしょう。アメリカはロシア軍の将兵に被害が出ないように事前通告をしたということですが、それなら、現場でロシア軍将兵が退避するという動きが起きる訳で、ロシアが仮にシリア側に通報していなくても事態は察知できるでしょうし、ロシアはシリア側に通報していたでしょう。ですから、今回の攻撃はあらかじめ仕組んであった、ロシア、シリア、中国にあらかじめ話を通してあったものではないかと思います。

 

 米中首脳会談のタイミングでもあり、いろいろとシナリオが考えられています。対北朝鮮の危機を煽る報道も目立ってきています。アメリカのトランプ政権内の路線対立によって、政策がぶれる、もしくは行き当りばったりになるということも予想されています。

 

 アメリカと中国とロシアが関係を悪化させず、表向きは悪化させても裏できちんとつながって、話を通しておけば、深刻な事態になることは避けられるでしょう。今回のケースは米中露が「危機を演出」しているのではないか、と思います。戦争を本気でやりたい、やらせたいと考えている勢力に、「本当にやるのか、大変なことになるんだぞ、戦争とはそんなに甘いものじゃないんだぞ、甘く考えるな」という警告を与える効果があったと思います(日本政府には当然のことながら、アメリカから事前通告はありませんでした)。この効果が一番に効いたのは日本の安倍晋三政権ではないかと私は考えています。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプの対シリア政策における主要なプレイヤーたち(Key players in Trump's Syria policy

 

エレン・ミッチェル筆

2017年4月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/defense/327926-key-players-in-trumps-syria-policy

 

トランプ大統領は木曜日、シリアの空軍基地へのミサイル攻撃を命じた。これは、バシャール・アサド政権に対するアメリカ初の攻撃であった。

 

今回のミサイル攻撃は、子供を含む民間人数十人が殺害された化学兵器を使った攻撃に対する対応であった。トランプ政権は、アサド政権が将来化学兵器を使用することを止めることを意図として今回ミサイル攻撃を行った。

 

発足して間もないトランプ政権において、今回のミサイル攻撃は最大の軍事的な決定となった。

 

ここにトランプの決断を導いた人々とトランプの対シリア政策に置いて重要な役割をこれから果たすであろう人々を紹介する。

 

●国防長官レックス・ティラーソン(Secretary of State Rex Tillerson

 

ティラーソンは国務長官就任以降、スポットライトを避けてきた。木曜日のミサイル攻撃は、アメリカの外交官トップとして初めての重要な瞬間であった。

 

攻撃前の最後の会議で、ティラーソンはトランプと一緒に机を囲んでいた。ガスを使った攻撃が国際的なニュースとなって以降、ティラーソンのシリアに対する発言内容は大きく変わっている。

 

つい先日、ティラーソンはトルコを訪問した。この訪問中、ティラーソンは「アサド大統領の任期が長くなるかどうかはシリア国民によって決定されるだろう」と述べた。

 

しかし、シリア空爆実施直前の午後、ティラーソンは次のように語った。「将来のアサドの役割は不明確だ。明確なことは、彼がこれまで取ってきた行動から考えると、彼がシリア国民を統治するという役割を与えられることはないだろうと思われる」。

 

トランプがシャイラット空軍基地に59発のトマホークミサイルを発射する命令を下した直後、ティラーソンは、「今回の行動は、必要とあれば、大統領は決定的な行動を取ることを躊躇しないということを明確に示した」と語った。

 

ティラーソンはロシアに対する厳しい姿勢を取っている。ロシア政府がアサド政権の存続を支援し、シリアに対する軍事攻撃を避けるために、ロシアとオバマ政権との間で結んだ2013年の合意内容をアサドが破らせたと批判している。ロシアはアサドが貯蔵している化学兵器を全て廃棄させることを確約していた。

 

ティラーソンは次のように語った。「ロシアは2013年の約束を実行する責任を果たせなかったことは明らかだ。ロシアがシリアと共謀しているか、ロシアは合意内容の目的を達成する能力を持っていないかのどちらかだ」。

 

ティラーソンはエクソンモービル社でのキャリアを通じてウラジミール・プーティンとの関係を築いた。ティラーソンは来週、モスクワを訪問する予定だ。アメリカによるシリア攻撃によってティラーソンのモスクワ訪問の緊張は高まることだろう。

 

しかし、ティラーソンは、トランプが、アサドを権力の座から引きずりおろそうという目的で攻撃をエスカレートさせる可能性を否定した。木曜日、シリアにおけるアメリカの軍事行動についてのアメリカの政策全体には変化しないと述べた。

 

●大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスター陸軍中将(National Security Adviser Lt. Gen. H.R. McMaster

 

マクマスターは学者政治家として知られる。彼は過去と現在に関する世界各地での紛争に対する知識が豊富である。マクマスターは、シリアとロシアがどう反応するか、アメリカが物事を進めるために何をすべきかについて、彼独自の視点を提供できる。

 

マクマスターは更迭されたマイケル・フリンの後任となった。マクマスターの補佐官就任は防衛分野における人々の多くに安心感を持った。そして、政権内部で急速に影響力を確立している。

 

マーアラゴでのシリアへのミサイル攻撃直前の最終会議には、トランプ大統領、ジム・マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター補佐官が出席した。マクマスター補佐官は、「会議ではトランプと側近たちにシリアへの対応に関する3つのオプションについて議論した」と語った。

 

マクマスターは、ミサイル攻撃を行っても、アサド政権から化学兵器を使った攻撃を実行する能力を除去することはないだろうと語った。

 

マクマスターは、「アサド政権は化学兵器を使った大量殺人を行う能力をこれからも維持するだろうことは明らかだ。空軍基地を1カ所攻撃しても能力を削ぐことはないと考えている」と述べた。

 

マクマスターはしかしながら、アメリカによる空爆は「アサドの計算に大きな変化」をもたらすだろうとも述べた。

 

今回の攻撃の目的は、メッセージを送ることだったのか、それともアサド政権の軍事能力にダメージを与えることだったのかと問われ、マクマスターは次のように答えた。「今回の攻撃は、現アサド政権、そして彼の父親の政権時代を含めて、アメリカによる初めての直接的な軍事行動であった。今回の大規模な殺人に対応するという大統領の決断が行われたことは重要であるし、2013年に国連決議が発行して以降、起きた50以上の化学兵器を使った攻撃に対処することになるという点で重要である」。

 

マクマスターは続けて次のように語った。「従って、質問に対する答えは、その両方ということになる。攻撃目標は化学兵器を使った大量殺人を行える能力であった。しかし、そのような攻撃能力に関連する施設全体を攻撃する規模と広がりを持つものではなかった」。

 

●国防長官ジェイムズ・マティス(Defense Secretary James Mattis

 

マティスもまた、トランプの意思決定プロセスにおいて、重要な、しかし静かな役割を果たした。

 

アメリカ中央軍の元司令官として、マティスは中東地域に関しては豊かな知識と深い洞察を持っている。そして、攻撃が引き起こす結果についても十分な考察と予測を立てている。マティスは空軍基地に対する「集中攻撃(saturation strike)」のためのアメリカ中央軍の計画をトランプに説明した。

 

マティスはまた注意深くロシアに対応する方法を知っている。また、オバマ政権時代に中央軍司令官として経験したリスクの現実化ということも理解している。ロシア人に死傷者が出る危険性にマティスはこだわったと報じられている。また、中東地域にいるアメリカ軍や外交関係者が報復攻撃の標的になることを懸念していた。

 

木曜日の夜に国防総省は攻撃の詳細を発表した。ロシアとシリアの軍関係者と民間人へのリスクを最小限にするための用心深い計画が立てられていたことを国防総省は強調した。

 

マティスは、攻撃後の記者会見で、マクマスターとティラーソンと一緒に姿を現すことはなかった。また、攻撃以降、一切発言していない。

 

●米国連大使ニッキー・ヘイリー(U.S. Ambassador to the United Nations Nikki Haley

 

シリアでの化学兵器を使った攻撃に対するアメリカのミサイル攻撃に関して、ヘイリーは国連の場で徹底的に正当性を主張している。そして金曜日、アメリカはシリアに対して更なる軍事行動を取る準備をしているという警告を発した。

 

ミサイルによる空軍基地攻撃後、ヘイリーは国連安全保障理事会の席上、「アメリカは昨晩、入念に準備された行動を取った。私たちは更なる行動を取る準備をしている。しかし、そのような行動が必要とならないことを願っている」と述べた。

 

シリアにおける化学兵器を使った攻撃が起きた後、ヘイリーはホワイトハウスを代表して、もっとも多く発言してきた。ヘイリーは空軍基地攻撃についてトランプ政権の立場を主張し、攻撃は「完全に正当化できる」と述べた。

 

ヘイリーはティラーソンと同様に、アサドに対する姿勢を急速に変化させてきた。先週、ヘイリーは、アメリカの優先順位について、「ただ座っているということは終わり、アサドを追い落とすために注力することになる」と木曜日の記者団の取材に答えたとAFPが報じている。

 

ヘイリーは、化学兵器使用の停止は、アメリカにとっての「安全保障上の重要な国益」であると主張している。

 

ヘイリーは国連安保理理事会で苦しんでいる子供たちの写真を掲げた。ヘイリーは金曜日、ロシアがアサド政権を支援してきたと非難した。

 

ヘイリーは次のように語った。「アサドが化学兵器を使った攻撃を行ったのは、それによって報復攻撃を避けることができると考えたからであろう。彼が報復攻撃を避けることができると考えたのは、ロシアが後ろにいると考えたからであろう。彼の計算は昨晩で変化しただろう」。

 

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トランプが連邦議会にシリア攻撃を説明する書簡を送付(Trump sends Congress letter explaining Syria strike

 

マックス・グリーンウッド筆

2017年4月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/327962-trump-sends-congress-letter-explaining-syria-strike

 

トランプ大統領は土曜日、今週行ったシリアへのミサイル攻撃を命じたことについて議会に説明と弁明のための書簡を送付した。書簡の中で、連邦議会の指導者たちに対して、アメリカ政府には必要であれば、更なる軍事行動を取る用意があると述べた。

 

トランプは書簡の中で、「安全保障と外交政策の分野におけるアメリカの重大な国益に基づいて私は行動した。合衆国憲法で大統領に認められた、外交を行う権威、アメリカ軍最高司令官、アメリカ連邦政府の最高責任者の職責に従った」と書いている。

 

彼は続けて、「アメリカ合衆国は、必要がありそれが適切であれば、重要な国益を更に追及するために、追加的な行動を行うだろう」と書いている。

 

トランプ大統領からの書簡は、アメリカ連邦下院議長ポール・ライアン(ウィスコンシン州選出、共和党)とアメリカ連邦上院仮議長(the Senate president pro tempore)オリン・ハッチ(ユタ州選出、共和党)連邦上院議員宛てに送付された。

 

戦争権限法では、大統領は軍事行動から48時間以内に武力使用に関する説明をしなければならないという規定がある。トランプ大統領の今回の行動に関しては、提出期限は土曜日夜までとなっていた。

 

トランプの書簡の内容は、木曜日の夜にミサイル攻撃から1時間後に行ったトランプの声明発表を繰り返したものだ。声明の中でトランプは、ミサイル攻撃をアメリカの「重大な安全保障上の国益」だと述べた。

 

トランプはフロリダ州マーアラゴにあるリゾートで中国の習近平国家主席を迎えていたが、トランプはミサイル発射後の声明発表で、「強力な化学兵器の拡散と使用を阻止することは、アメリカの安全保障にとって、致命的に重要な国益である」と発言した。

 

世界各国の指導者たちは金曜日になって、アメリカの攻撃を支持した。シリアのイドリ県で化学兵器が使用されたがその責任はシリアのバシャール・アサド大統領にあるという非難があり、化学兵器使用は、必要なそして適切な対応であったと各国の指導者たちは賞賛した。

 

シリア政府と、アサド政権を長年にわたり支持し軍事援助を与えてきたロシアは、ミサイル攻撃を非難した。ロシアのウラジミール・プーティン大統領の報道官は金曜日、ミサイル攻撃を「主権国家に対する侵略的攻撃」の行動と呼び、アメリカが国際法に違反したと非難した。

 

アメリカ連邦議会の議員たちは攻撃に対しておおむね支持を表明した。しかし、多くの議員はシリアに対する更なる軍事作戦を行う前には議会の承認を得るように求めている。

 

連邦上院共和党院内総務ミッチ・マコンネル上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、トランプ大統領は軍事行動に関して更なる承認を求める必要はないと主張した。

 

マコンネルは、2001年9月11日の同時多発テロ発生後に連邦議会で通過し、2002年にも認められ、イラク戦争が容認された基盤となった武力行使容認決議によって、トランプ大統領の今回の行動は正当化されると主張した。

 

マコンネルは金曜日、保守派のラジオ番組に出演し、司会者であるヒュー・ヒューイットに対して次のように語った。「私たちは2001年と2002年に決議を通した。オバマ前大統領は中東で私たちがやってきたことを自分もできるのだということを認識していたと思う。私はトランプ大統領も同じように考えるように期待している」。

 

トランプは、もし必要であれば、シリアに対して更なる攻撃を実行する用意があると主張した。金曜日、アメリカ国連大使のニッキー・ヘイリーも同様の主張を行った。ヘイリーは、ロシアからの非難に反論し、トランプ大統領の行動を正当化した。

 

ヘイリーは「アメリカは昨晩、周到に準備された行動を取った。私たちには更なる行動を取る用意があるが、そうした行動が必要ではなくなることを願っている」と語った。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22