古村治彦です。

 

 先週、アメリカがシリアの空軍基地に59発のトマホーク・ミサイルを撃ち込みました。これは、シリア国内で起きた化学兵器を使用した攻撃で、子供を含む民間人に多数の死傷者が出た事件を受けての報復攻撃でした。アメリカ政府は化学兵器使用をシリアのバシャール・アサド政権の責任だとしています。しかし、私は、化学兵器使用は事実だと認めますが、誰が使ったのかについて、シリア軍だと断定するのは間違っていると思います。また、シリア軍が使ったとしても、そこにアサド大統領の命令があった、もしくは許可があったということにも疑問を持たざるを得ません。

 

 今回のアメリカによるミサイル攻撃に合わせて、トランプ政権の高官たちは、一斉に、ロシアを非難しています。非難の内容は、簡単に言うと、「ロシアは2013年にアサド政権に化学兵器をすべて廃棄させるとアメリカに約束した。しかし、今回のようなことが起きた。これはロシアが責任を果たしていないからだ」という非難です。

 

 アメリカはロシアがシリアや中東の情勢が安定するように支援してきたことに対して、失敗だと非難しています。大変身勝手な主張であると言えます。アメリカは世界の警察官を自認しながら、シリア情勢を改善するための動きは何もしていませんし、中東の情勢やテロ攻撃に関しては、アメリカ自体が「問題」であり「原因」です。

 

 2011年の「アラブの春」からリビアのムアンマール・カダフィ大佐殺害からベンガジ事件まで、アメリカの火遊びのせいで中東情勢は混沌化し、ISが出現しました。そもそも論を言えば、アメリカの失敗をロシアが何とかしようとしていることに対して、アメリカは厚顔無恥にも文句を垂れ流すという状況になっています。呆れてしまってものも言えません。

 

 下に掲載した記事では、ニッキー・ヘイリー国連大使、レックス・ティラーソン国務長官、H・R・マクマスター大統領国家安全保障問題担当補佐官がテレビに出て、ロシアを非難している様子を伝えています。また、米国防総省でも、ロシアの責任を追及する構えであることが伝えられていますが、最高責任者であるジェイムズ・マティス国防長官は直接的には何も発言していません。

 

 ここまで身勝手なことをロシアに対して言うというのは、少し芝居じみているとも思いますが、表に出てきている閣僚たちの発言を見ていると、トランプ政権の行動に関しては失望してしまうというのが感想です。国家安全保障会議の再編も含めて、もうしばらく様子を見て、何が起きており、何が意図されているかを見極めねばなりません。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプ政権の最高幹部たちがロシアに対しての批判を激化させる(Top Trump officials turn up heat on Russia

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2017年4月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/328019-top-trump-officials-turn-up-heat-on-russia

 

トランプ政権の最高幹部たちは日曜日、先週シリアで起きた化学兵器を使った攻撃で多くの死傷者が出た事件を受けて、ロシアに対する批判を激化させた。

 

トランプ政権の幹部たちは過去に結ばれた化学兵器に関する合意履行に関するロシアの責任について疑義を呈し、アメリカはロシアがシリアのバシャール・アサド政権を庇うことは許さないと強調した。

 

アメリカは先週、シリアの空軍基地1か所にミサイル攻撃を行った。これは、シリア北部で起きた化学兵器を使った攻撃で民間人に死傷者が出た事件に対する報復であった。この事件では、アメリカはアサド率いるシリア軍に責任があると断じ、非難していた。

 

日曜日、トランプ政権の幹部たちは、批判の矛先をロシア政府に向けた。ロシア政府は、シリアで内戦が勃発して以降、アサド政権の支援者となってきた。

 

米国連大使ニッキー・ヘイリーは、あるインタヴューの中で、アメリカのミサイル攻撃はロシアに対してメッセージを送ること目的に遂行されたと述べた。

 

ヘイリーはNBCの「ミート・ザ・プレス」に出演し、「トランプ政権は全員一致で何かをやらねばならないと考えていました。アサドに対してメッセージを送る必要があると考えていました」と語った。

 

ヘイリーは続けて次のように語った。「よろしいでしょうか、それに加えて、ロシアについても知らせねばならないことがあるとも考えていました。それは、あなた方はこれ以上、アサド政権を庇うことはできないだろうということを伝えねばならないと考えていました。私たちは、無辜の人々に対してこのような出来事が起きることは許しません」。

 

ヘイリーは、アメリカは「穏健なアプローチ」を取ったが、更なる手段を取ることができると述べた。彼女はロシアを批判し、化学兵器攻撃に対するロシアの反応はシリア政府の擁護になっていると述べた。

 

ヘイリーは「ロシアはどうしてそんなに早くシリア政府を擁護したのでしょうか?」と疑問を呈し、「死傷者への気遣いは後回しになっていました」と述べた。

 

ヘイリーは、アメリカは「ロシアがこれ以上アサド政権を支援すること」を許さないと述べた。

 

「私たちが言いたいのは、“化学兵器使用問題で違反があり、国連安保理決議を何度も破り、この戦争犯罪人であるアサド大統領を守るために7回も拒否権を発動しましたね、そんなあなた方を私たちは糾弾しますよ”ということです」とヘイリーは述べた。

 

「私たちは、化学兵器使用という事実とそれを隠蔽しようとしているあなた方を糾弾します」とヘイリーは語った。

 

国務長官レックス・ティラーソンもヘイリーと同じくロシアを批判し、ロシアは責任を果たしていないと述べた。

 

2013年、ロシアはアメリカと交渉し、シリアが貯蔵していた化学兵器をすべて破壊するという合意を結んだ。ティラーソンは、ロシア政府がこの合意内容の遂行に失敗している、もしくは無視していると非難した。

 

ティラーソンは日曜日、ロシアが「安定したシリアを実現するプロセスを支持する」ことを希望すると述べた。

 

ティラーソンは、ABCの「ディス・ウィーク」に出演し、「シリアにおける本当の失敗は、2013年の化学兵器を巡る合意内容をロシアが守ることができなかったことにあると考えており、私はこのことについて失望しています」と述べた。

 

ティラーソンは、「シリア国内の化学兵器の管理、破壊、監視の継続という役割はシリア政府とロシア政府が行うべきものです」と述べた。

 

ティラーソンは、シリア国内での化学兵器を使った攻撃は「大きな部分で、ロシアが国際社会に対する責任を果たさなかったこと」に原因があると断じた。

 

ティラーソンは、「私は、ロシアがバシャール・アサドとの同盟関係の継続について注意深く考慮することを願っています。このような恐ろしい攻撃が起きるたびに、ロシアの責任はどんどん重くなっていくのです」と述べた。

 

このティラーソンの主張は、大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスターも繰り返している。マクマスターはロシア政府に対して、アサド大統領に対する支援について再考するように求め、「問題解決」にはロシアが参加すべきだと主張している。

 

マクマスターは日曜日、フォックス・ニュースに出演し、「ロシア政府は“自分たちはここで何をしているんだろう”と自問自動すべきです」と述べた。

 

マクマスターはまた次のように語った。「自国民を大量に殺害し、最も憎むべき武器を使用する殺人者が率いる政権を私たちはどうして支援しているのだろう、と考えてみるべきです」。

 

マクマスターは、アメリカのシリアに対する姿勢の見直しは、ロシアにとって行動の見直しのための良い機会になるとも述べた。

 

「ロシアは問題解決に参加できます。現在のところ、世界のほぼすべての国々はロシアが問題の大きな部分を占めていると考えています」とマクマスターは述べた。

 

マクマスターは、ロシア政府がどのような形の米ロ関係を望んでいるのか、という疑問を発した。

 

マクマスターは「彼らは競争と将来は衝突が起きるかもしれない形の関係を望んでいるのでしょうか?私はそれがロシアの利益になるとは思いません。それとも、相互利益となる協力できる分野を見つけることができる関係を望んでいるのでしょうか?」と述べた。

 

マクマスターは更に「今回のシリアでの内戦や中東全体の破滅的な状況が続くことが一体だれの利益になるのでしょうか?」と発言した。

 

シリアのイドリブ県で化学兵器を使った攻撃が発生した、これはアサド政権が実行したものだと批判の声が上がった。これを受けて、トランプ大統領は先週、シリアのシャイラット空軍基地にミサイル攻撃を行うように命令を下した。化学兵器攻撃によって子供を含む民間人の多くが死亡し、また負傷した。

 

国防総省(ペンタゴン)によると、59発のトマホーク・ミサイルが発射され、基地内の戦闘機、戦闘機格納庫、燃料貯蔵庫、武器貯蔵庫、レーダー、防空詩システムが標的となった。

 

トランプは今回の決定について土曜日に連邦議会に送付した書簡の中で説明している。彼は書簡の中で、攻撃実行の決断は、アメリカの「国家安全保障上、外交政策上の重大な国益」に基づいて行われたと述べた。彼はまた、必要とあれば、アメリカ政府には更なる軍事行動を取る用意があるとも述べた。

 

米軍幹部は金曜日、国防総省が、シリア国内の化学兵器攻撃について、また、病院に対する攻撃について、ロシアが参加、もしくは支援していたのかどうかを調査していると述べた。

 

ある米軍幹部は国防総省での取材に応じ、記者団に対して、「私たちは今回の化学兵器攻撃にロシアが関与しているのかどうか分かりません。しかし、私たちが調査を行うことで、その証拠が見つかるかもしれません」と述べた。

 

 

国防総省は、2013年にシリアで化学兵器を使った攻撃が発生したことについて、ロシアがアサド政権をコントロールすることに失敗したので起きたと主張した。

 

ある幹部は次のように語った。「当時、ロシアはシリアに既に介入していました。この時、ロシアはシリア政府の化学兵器能力を除去し、完全に消去することを保証すると述べました。その当時、ロシア政府は、シリア政府が所有する全ての化学兵器を集め廃棄したと報告してきました」。

 

この幹部は更に「ロシア政府は彼らを頼っているシリア政府をコントロールすることに失敗したのです」と語った。

 

もしロシアが化学兵器を使った攻撃に参加したことを示す証拠や合理的な告発が出てきたら、「私たちはそれらに基づいて、私たちの持つ能力を最大限に発揮することになるでしょう」とこの幹部は述べた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)