古村治彦です。

 

 今回は北朝鮮についての優れた分析記事を皆様にご紹介します。その内容は、北朝鮮は、金一族の生き残りのために合理的に動いており、ただ狂っていると非難しているだけでは問題は解決しないというものです。そして、北朝鮮の核開発問題を一気に解決する方法は存在せず、漸進的に対処していくしかないとしています。

 

 金正恩は経済改革を進めつつあり、経済制裁が科されている中で、経済成長が3%以上になっており、国民の生活水準が向上していると著者のランコフは指摘しています。そして、金正恩は、自分に対してクーデターを仕掛ける実行力、武力を持つ軍の最高幹部や治安部門のトップに対して粛清を行うことで、恐怖感を与え、クーデターが起きないようにしているということです。

 

 北朝鮮を3代にわたって支配している金一族(金日成、金正日、金正恩)は生き残りのために動いていることがよく分かります。ですから、彼らの生き残り(政治的、物理的[肉体的])ということを考えていけば、北朝鮮に対処することはそれほど難しいことではないし、ただ、おかしい、狂っているとして話も聞かない、攻撃あるのみとするのは問題解決につながらないし、かえって東アジア地域を不安定化させることになると思います。

 

 北朝鮮が合理的なアクターであることをトランプ大統領も分かっていて、硬軟取り混ぜた対応で交渉を行おうとしています。官民、頭がよさそうなインテリでも、ただ厳しいだけの単細胞的な対処をしようとしているのは日本というのが何とも悲しい話です。「暴戻支那を膺懲す」という時代から余り賢くなっていないようです。

 

(貼りつけはじめ)

 

金正恩は生き残りのために動く人物であって、狂人ではない(Kim Jong Un Is a Survivor, Not a Madman

 

北朝鮮の行動は外国人からすれば非合理的に見えるだろう。しかし、金体制は、生き残りのために論理的な行動を取っているだけなのだ

 

アンドレイ・ランコフ筆

2017年4月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/04/26/kim-jong-un-is-a-survivor-not-a-madman/?utm_content=buffer1fc93&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

あらゆる人々が北朝鮮は狂っていると考えがちだ。北朝鮮は週2回のペースでアメリカを核攻撃で焼き尽くすと脅しの言葉を吐いている。北朝鮮の指導者は将軍たちを無慈悲に処刑し、兄を殺害させた。北朝鮮は破綻した経済モデルに固執しながら、莫大な資金を核兵器開発に浪費している。北朝鮮の狂気の記事は新聞や記事のフロントページを飾っている。

 

問題は、メディアが北朝鮮政府と金正恩を非合理的だと描写していることではなく、アメリカの政治家たちがメディアと同じ行動を取っていることだ。2017年4月、アメリカ連邦下院議員ブラッドリー・バーン(アラバマ州選出、共和党)は、「私には北朝鮮の指導部は合理的だとは思えない。非合理的な誰かに対してどのように対処できるか?」。彼は米国連大使ニッキー・ヘイリーの発言を繰り返しているだけのことだ。ヘイリーは「私たちは合理的な人物に対処していない」と発言した。ヘイリーは、金正恩について、「合理的な行動を取らない人物であり、明確な思考をしない人物」だと述べている。

 

北朝鮮を理解するための手引きとしては、このような分析はただただ間違っている。北朝鮮に対する政策作りの手引きとしては、このような分析は破滅的な結果をもたらすだろう。 北朝鮮のシステムは外国にいる私たちから見れば奇妙奇天烈なものに見えるが、金一族は政治的に見て、最終的に生き残ってきた一族である。冷徹なまでのリアリストたちであって、彼らの行動は常に明確な目的を持っている。それは、一族が権力の座に居続けることである。彼らを狂人たちだと考えるのは間違っているだけでなく、危険でもある。政策が成功するためには、自分たちの反対の立場の人々の論理を理解することが基礎になっており、非合理的だと切って捨てていては成功などおぼつかない。金一族を核兵器を持った狂人たちと見ることは、彼らがより驚異的な存在だと考えてしまうようになる。そして、戦争勃発のリスクを高めてしまう。更には、北朝鮮が「正気になった」時にだけ、妥協が成立するという非現実的な期待感だけが高まることになる。

 

1980年代、金一族は味方であるはずの東側世界においても、スターリン流の非合理性を体現しているとして嘲笑の的となっていた。金一族は、時代遅れの個人崇拝にこだわっており、経済運営に失敗し、ハンガリーの改革志向の指導者グロース・カーヌイのような東欧諸国の新しい考えを持つ指導者たちを見習うべきだと批判されていた。今日、東欧の指導者たちは歴史のゴミ箱に投げ込まれている。彼らは指導者の地位を追われ、侮蔑され、忘れ去られた。一方、金一族は権力の座をいるだけでなく、それにともなる豪奢な生活を楽しみ、北朝鮮を完全にコントロールしている。

 

確かに、これまでの25年間は簡単な道のりではなかった。大規模な飢饉によって国民が塗炭の苦しみを味わい、友好国を失い、中国も支援に腰が引けるようになり、世界唯一の超大国と対立するようになった。こうした連続的な危機の中で、金一族は生き残らねばならなかった。金一族は生き残ってきた。これは彼らが合理的で冷酷な行動を取ることの徴候であると考えるべきなのだ。

 

現在のところ、金正恩は抑制的だ。また、彼は祖父、父と同じく長期的な責務を担っている。それは、彼自身と彼の子孫の統制下で政権の存続を確かなものとすることである。一族の生き残りには3つの脅威が存在する。金正恩の政策から判断すると、彼はこれらの脅威を認識しているだけでなく、無効化しようと努力している。

 

第一の脅威は外国からの攻撃だ。彼の父親同様、金正恩もまたこれを大変に懸念している。これは誇大妄想と言えるかもしれない。しかし、諸外国が自分を狙って出てくるとなると、誇大妄想とは言えない。サダム・フセイン、アフガニスタンにおけるタリバンの指導者たちの運命を考えれば分かる。イラクとアフガニスタン、そして北朝鮮は、アメリカ政府によって、ひとつのグループとして扱われてきた。しかし、リビアのムアンマール・カダフィの悲運が金一族にとって最も重要な教訓となっている。2003年、リビアの指導者カダフィは、西側諸国との間で、核兵器開発プログラムの放棄し、その見返りに寛大な経済援助を受けることに合意した。アメリカと対立してきた国によってこのような妥協がなされたのはリビアが最初であった。

 

2011年にリビアで革命が勃発し、カダフィ政権を滅亡に追いやったのは、NATOによる飛行禁止区域設定であった。この物語の結末は、自動車のボンネットの上に打ち捨てられた毀損されたカダフィの遺体であった。

 

10年前、アメリカの外交官とジャーナリストたちの間では、リビアの核開発放棄合意について喜びがあふれた。彼らは異口同音に「北朝鮮の指導者たちもリビアの教訓から学ぶべきだ」と語った。彼らは実際の結末とは全く異なるバラ色の結末を想定していた。

 

金正恩は核開発プログラムを純粋に防衛上の施策だと考えている。韓国への進攻は、理論上は可能なものと言える。しかし、韓国への進攻は金正恩の手に負えないものである。アメリカは韓国防衛の責任を負っているし、韓国も経済と技術上の力の優位を持っている。金正恩は、北朝鮮が韓国、もしくはアメリカを攻撃すれば、悲劇的な結末を迎えることになることを分かっている。おそらく自分は殺害されるだろうと考えている。金正恩は自殺志願者ではない。しかし、金正恩は、アメリカは、核保有国、特にミサイル能力と第二次攻撃能力を持っている国を攻撃しないだろうし、アメリカのトランプ政権は内部闘争に明け暮れており、北朝鮮に関わっていられないのだと主張している。

 

従って、北朝鮮の指導者たちは核開発にこだわらねばならないと確信している。そして、核兵器は国家安全保障を担保する存在になると考えている。彼らを説得して考えを変えさせることができる圧力の形態は存在しない。いかなる圧力をかけても彼らは考えを変えない。彼らに提案を受け入れさせるための約束は存在しない。北朝鮮の指導者たちは核兵器がなければ死んだも同然だと確信している。これは北東アジア地域にとって厄災であるが、金一族は完全に合理的な選択ということになる。

 

北朝鮮の核開発プログラムは防御を目的とするものだが、世界に向けて、自国の存在を認識させ、「マッドマン戦略」とリチャード・ニクソン大統領が呼んだ戦略を使っていることは合理的な行動だ。「マッドマン戦略」とは、敵に対して自分のことを非合理的で、爆発しやすく、コストを無視する存在だと考えさせる戦略だ。そのために、北朝鮮のプロパガンダは様々な激しい言葉遣いになるのだ。北朝鮮のテレビ番組では、「ソウルを火の海にする」、オーストラリアのキャンベラを核攻撃する、アメリカの地図に核攻撃の標的となる各都市を示し、その前に金正恩の姿を重ね合わせて放送しているが、ただひとつのメッセージを発信している。それは、「私たちはここにおり、私たちは爆発する、敵たちが脅威を与えるならば行動することを躊躇しない」というものだ。

 

核兵器がなければ、金一族はアメリカからの直接攻撃を懸念することになる。しかし、彼ら同時に、北朝鮮内部の反乱にアメリカ、もしくは中国が介入してくるのではないかと心配している。彼らはリビアで起きたことを認識している。リビアでは西側の諸大国が飛行禁止区域を設定し、反乱勢力の勝利を手助けした。彼らはまた、1956年に中国が当時のソ連と協力して金日成を失脚させるための共同謀議を支援したことを記憶している。この試みは失敗した。金日成は現在の最高指導者である金正恩の祖父だ。

 

金正恩の別の非合理的に見える政策は防御的なものと考えるべきだ。核兵器は政権の防衛のための十分条件にはならない。核兵器があれば外国からの攻撃を防ぐことができるかもしれないが、国内の軍事クーデターの危険を除去することはできない。金正恩はまだ若年で、将軍たちが彼に対して、若年と経験のなさから悪感情を持っていると疑ってしまうのは自然なことだろう。金正恩は父親の急死のわずか1年前に後継者に仕立てられたが、その当時、その存在は全く知られていなかった。金正恩は、非民主的な国家でクーデターが起きることは常態であり、成功するケースが多いということを認識しているのは間違いない。最新の研究によると、1950年から2010年にかけて世界中で発生した457回のクーデターのうち、227回は成功したということだ。227回の成功例のうち、2回は北朝鮮が最も注目している国で起きた。韓国だ。

 

(貼り付け終わり)

 

(続く)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22