古村治彦です。

 

 2017年6月15日に改正組織的犯罪処罰法が成立しました。共謀罪(conspiracy)に関する法律で、277の行為がこの行為で犯罪行為として処罰されます。政府と与党(自民党と公明党)は2000年の国連のパレルモ条約批准のためには、共謀罪が必要であり、かつ、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催のために、テロ防止のためにこの法律が必要だと主張し、最後は、参議院委員会での採決を省略し、本会議で直接採決するという方法で可決しました。

 

 今回の法律改正・共謀罪については以下の本を読むことで理解ができます。


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共謀罪の何が問題か (岩波ブックレット)

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スノーデン 日本への警告 (集英社新書)

 今回の法律改正は、①2000年の国連の組織犯罪に関する条約批准、②2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催のために必要であったということになっています。しかし、2000年の条約(パレルモ条約)は、国際的に活動する組織犯罪、具体的にはマフィアを対象としています。そして、金銭的利益、物質的利益を違法な手段で得ることを防止しようというものです。対テロリズムということは、2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、世界的な潮流になりましたが、2000年の段階では国際的組織犯罪、具体的にはマフィアによる麻薬、武器、人身の取引とマネーロンダリングの方が問題でした。

 

 2000年のパレルモ条約は組織犯罪、具体的にはマフィアに対するものですが、日本で言えば、やはり暴力団ということになるでしょう。暴力団対策法施行後、暴力団の構成員の数は減少し、利益も落ちている、そのために最大勢力の山口組も分裂している、ということは報道されています。暴力団の実態については分かりにくいところがありますが、衰退傾向にあることは間違いありません。また、組織犯罪ということで言えば、左右の過激派も思い浮かびますが、彼らに大規模なテロ攻撃を行う力があるでしょうか。また、対テロリズムで言えば、既に多くの法律があります。1970年代以降の左右の過激派のテロリズムによって、この時代から既にテロリズムを防ぐ法律はあります。時代に合わせた改正と運用の改善で十分対処できます。暴力団と左右の過激派の力の衰退が顕著な日本では共謀罪は必要ありません。

 

 今回の巨棒材法案の成立は、国連の条約を使って、警察力を強化し、盗聴やおとり捜査、潜入捜査など捜査方法の拡大を行おうという世界的な流れの一端にあります。国連としては、自分たちを利用してプライヴァシー権などの市民的自由が制限されることについては困惑していると言えます。また、世界各国の官僚、特に治安関係者は、連帯して、捜査手法の拡大や権限の拡大、捜査対象の拡大を目指していると言えます。組織犯罪といえば、マネーロンダリングが付き物ですが、国境を超えて動き回るお金の動きを補足したい、止めたい、そうしておいて税金でがっぽり獲りたいという財務関係者の意図もあるでしょう。

 

 このような必要のない法律を作って、人々を縛る方向に進むというのは、世界的に官僚組織の連帯と強化が共通の認識として行われているということでもあります。また、日本の保守を自称する人々は、これを利用して自分たちに反対する人々を弾圧したいということも考えているでしょう。

 

 平成版の治安維持法でもある悪法は撤廃されねばなりません。

 

(貼りつけはじめ)

 

日本は「暴力的な」「欠陥のある」反テロ法を可決(Japan Just Passed a ‘Brutal,’ ‘Defective’ Anti-Terror Law

 

ベンサニー・アレン=エイブラヒマン筆

2017年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/06/16/japan-just-passed-a-brutal-defective-anti-terror-law/

 

2001年9月11日の攻撃以降、テロリズムの恐ろしい幻影のために、アメリカ、フランス、イギリスといった民主政治体制国家において、政府による捜査、収監、その他の手段を拡大することを認める法律が可決されてきた。そして、3度の失敗の後、日本の国会議員たちは上記の国々と同じ本能に従うことになった。一方、市民的自由を求める人々や野党議員たちは非難の声をあげている。

 

国会議員たちがほとんど行われてこなかったメカニズムを用いて反テロ法案を通常の手続きを迂回して国会で可決した木曜日、多くの人々が東京で反対の声をあげていた。新しい法律は犯罪と考えられる数百の行動をリストにしている。その中には共謀が含まれている。しかし、『ガーディアン』紙によると、リストの中には、テロリズムと関係のない行動も含まれている様であり、その中には公的な場での抗議活動も含まれている。

 

法案の支持者たちは正当化のために様々な説明をしている。法案の示している様々な手段は、組織犯罪を対象にしているもので、2000年の国連条約を批准する義務を遂行するためのものであり、2020年に東京で開催されるオリンピックを安全に行うために必要なのだと主張している。

 

法案可決後、安倍晋三首相は「東京オリンピック・パラリンピックまで3年しかない。従って、私は組織犯罪に関する条約を一刻も早く批准したい。そうすることで、私たちはテロリズム防止のために国際社会としっかりと協力できる」と述べた。

 

しかし、抵抗は強力だ。野党の指導者である村田蓮舫は法律を「暴力的」だと非難している。反対する人々の中には、盗聴やそのほかの手段を拡散させるだろうと懸念を持っている人々もいる。

 

今年5月、東京の上智大学の政治学者である中野晃一は『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に対して次のように述べた。「市民社会の動きが鈍い国において、更なる自己検閲を生み出すことになるだろう」。

 

法律は国際的な批判も受けている。プライヴァシー権に関する国連特別報告者ジョセフ・カナタチは5月に安倍首相に書簡を送り、その中で、「法律はプライヴァシー権と表現の自由の制限を助長する」ものになる可能性が高いと警告を発した。カナタチは法案を「欠陥のある法律」と批判した。

 

ボストンを拠点とする犯罪学教授ニコス・パソスは、国連の国際的組織犯罪条約の起草に貢献した人物だ。安倍首相は法律がこの条約を批准することを目的にしていると主張している。パソスは6月13日に『ジャパン・タイムズ』紙とのインタヴューに応じ、その中で、条約はテロリズムと戦うためのより締め付けの厳しい法律を必要としてはいないと述べた。パソスは、条約は「イデオロギーによって引き起こされた犯罪」を除外するという含意を持っていたと述べている。

 

東アジアの民主国家の中で言論の自由を制限しようという動きが続いており、今回のことが初めてのことではない。表現の自由に関する国連特別報告者デイヴィッド・ケイは木曜日に発表した報告書の中で、人々による開かれが議論と出版の自由が日本では制限されつつあると警告を発した。ケイは、メディアによる自主検閲と歴史教科書における日本の戦時中の犯罪行為に関する議論の欠如を例として挙げている。

 

2010年以降、安倍首相は日本の伝統的に防御に徹してきた軍事力の使命を拡大させてきた。彼はまた、日本の平和主義的憲法の改定を目指している。これは今のところ成功してはいない。

 

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市民的自由に対する懸念の中日本は「暴力的な」対テロ法を可決(Japan passes 'brutal' counter-terror law despite fears over civil liberties

 

国連の専門家を含む批判者たちがCritics including UN expert fear legislation passed by Abe government could target ordinary citizens and deter grassroots opposition to government policies

 

ジャスティン・マカリー・ロイター通信(東京発)

2017年6月15日

『ザ・ガーディアン』紙

https://www.theguardian.com/world/2017/jun/15/japan-passes-brutal-new-terror-law-which-opponents-fear-will-quash-freedoms

 

日本は議論が分かれていた法律を可決した、法律はテロリズムやそのほかの重大な犯罪のための共謀を対象とするものだ。これに対して、国連が法律は市民的自由を損なうために使用できる可能性があるという懸念を表明した。こうした中で法律は成立した。

 

与党である自民党と連立相手は、議事堂の外で多くの人々が反対する中、参議院で法案を可決した。

 

法案の採決は人々からの反対が強まる中で3度も延期された。そして、国連の専門家が「欠陥のある」法律だと述べた後に採決された。国連の専門家の発言に対して、日本の安倍晋三首相は怒りを持って対応した。

 

日本政府の高官たちは、法律が世界規模の組織犯罪2000年の国連条約の批准に必要だ、2019年のラグビーのワールドカップ、続く年のオリンピックの開催の純部のために、日本の対テロリズム対策の改善が必要だと主張している。

 

安倍首相は記者団に対して次のように述べた。「東京オリンピック・パラリンピックまで3年しかないので、組織犯罪に関する条約を速やかに批准したい。そうすることでテロリズムを防ぐために国際社会と協力できる。これが法律を成立させた理由だ」。

 

法律は共謀と277の「深刻な犯罪」を犯罪化するだろう。

 

しかし、日本弁護士会とその他の批判者たちは、法律が対象としている行為の中には、テロリズムや組織犯罪と関係がないものも含まれていると指摘している。それらにはアパートの建設に反対するための座り込みや音楽のコピーがある。

 

反対者たちはこの法律が安倍首相の国家機関の力を拡大させようというより広範な目的の一部だと考えており、政府は否定しているが、一般市民が標的とされるのではないかと恐れている。

 

野党民進党の党首である村田蓮舫は、安倍政権は「暴力的な」法律を通して思想の自由を脅かそうとしていると述べた。

 

批判者たちは、法律が合法的な盗聴の拡大と裁判所が警察の捜査力の制限を躊躇することで、政府の政策に対する草の根の反対を押さえることになると主張している。

 

法律の成立をスピードアップしようとして、連立与党はこれまでに例のない、反対の多い方法を採用した。それは参議院の委員会での採決を省略して、直接参議院本会議での採決を行うというものであった。

 

プライヴァシー権に関する国連特別報告者ジョセフ・カナタチは、先月安倍首相に書簡を送った。その中で、首相に対して、法律は「プライヴァシー権と表現の自由に対する制限をもたらす」リスクがあることを明らかにするように求めた。

 

安倍首相はカナタチの法案に対する評価を「著しくバランスを欠いた」ものと評し、カナタチの行為は「客観的な専門家のそれとは言い難い」と述べた。

 

カナタチは木曜日、日本政府は「欠陥のある法律」を可決するために、「恐怖心理」を利用したと述べた。

 

カナタチは更に次のように述べた。「日本はプライヴァシー保護を改善する必要がある。まして今回の法律が成立するならなおのことだ」。

 

共謀についての情報を集めるには、警察の捜査能力の拡大が必要であり、この法律は日本版の「思想警察」を生み出すことになると批判者たちは述べている。日本の思想警察は、第二次世界大戦前と戦時中、公共の秩序に対する脅威と見なされた政治グループを捜査するための広範な力を持っていた。

 

共同通信は先月世論調査を実施した。その結果は、法案について有権者は割れており、支持は39.9%、反対は41.4%であった。

 

国会議事堂前には推定5000名の人々が集まり、デモを行った。彼らは新しい法律を「専制的」であり、日本を「監視社会」にすることを防ごうと訴えた。

 

共同通信の取材に対して、54歳の女性ミユキ・マスヤマは次のように答えた。「平和なデモがテロリズムと見なされて禁止されてしまうかもしれません。私たちの表現の自由が脅威にさらされているのです」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)