古村治彦です。

 

 今回は戦闘的左派antifaに関する論稿の後半部をご紹介します。著者のベイナートはここで重要なことを書いています。それは、暴力肯定、戦闘的であることは、自分たちを反対者と同じ存在にしてしまうという批判です。私はこの指摘ができるベイナートを尊敬しています。

 

 戦闘的左派antifaは若者を中心にして勢力を拡大しています。人種差別主義者や白人優越主義者たちが集まっている場所に出て行って、その集会の開催を阻止し、そのためには暴力を使います。これに対して、人種差別主義者や白人優越主義者、そして、トランプ支持者たちは自分たちの権利が侵害されているという意識を持ち、さらに先鋭化し、激しい行動に出ます。そして、被害者意識から更なる暴力をふるい、殺人事件まで起こしています。私は、白人優越主義、人種差別主義、ネオナチには一片の理解も共感もありません。しかし、こうした考えを信奉する人々とトランプ大統領を支持し、投票した人々をいっしょくたに扱うことには反対です。

 

 暴力は何も生み出さない、というきれいごとを言うつもりはありません。しかし、自分の権利が侵害される、生命が脅かされるといった場合に緊急的に暴力をふるうことは仕方がありませんが、それも過剰であってはなりません。

 

 ベイナートの論稿によると、antifaの活動家たちは、「人種差別主義者や白人優越主義者が集まって考えを述べることは、ひいては少数派に対する暴力を生み出すから、それを事前に阻止しているのだ」と述べているそうすが、これはアメリカの予防的先制攻撃(preemptive attack)の論理と変わりません。私は彼らの暴力肯定は、こうした論理から認められるものではないと考えます。

 

 また、antifaの活動家たちは、「どのアメリカ人が集会を行うことが許され、誰には許されないのか」を決める権威を持っている、と主張しているそうですが、これは大変思い上がった考えであると言わざるを得ません。何が正しいのかを決めるのは自分(たち)だ、という考えを持ち、それが実行されたとき、どれほどの悲劇が起きてきたかは人類の歴史を見れば明らかです。

 

 こうして見てくると、「正しさ」を自分たちで決めて、そのうえで反省がない場合、大きな失敗が起きるという人類の歴史でみられる現象が、現代のアメリカでも起きていると言わざるを得ません。トランプ支持者の中に人種差別主義者や白人優越主義者が混ざっていることは間違いありません。しかし、「トランプ支持者たちは人種差別主義者で、白人優越主義者で、ファシストだ」などと言うことは間違っています。彼ら全員がそうではないからです。そこをいっしょくたにして暴力をふるう対象にする、という行為は左派の持つ、寛容性や多様性というプラスの面を大きく損なうものです。

 

(貼り付けはじめ)

 

ポートランドはこうした状況を生み出すうえで最も重要な場所と言えるだろう。アメリカの太平洋岸北西部は長年にわたり、白人優越主義者たちを魅了した場所であった。白人優越主義者たちは複数の人種が共に生活する東部や南部からすると安息所のような場所だと考えた。1857年、オレゴン(当時は連邦直轄領)は、アフリカ系アメリカ人の居住を禁じた。1920年代まで、オレゴン州はクークラックスクラン(KKK)のメンバーが人口に占める割合が全米で最も高い州であった。

 

1988年、ポートランドのネオナチがエチオピアからの移民を野球のバットで殺害した。その直後、ポートランド州立大学の講師で『ファシストたちに抗して』の著者アレックス・リード・ロスは、「反ナチスのスキンヘッズたちが人種偏見に反対するスキンヘッズ(Skinheads Against Racial Prejudice)の支部を立ち上げた。その直後、ポートランドで反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)グループが結成された」と書いている。

 

トランプ時代の現在、ポートランドは反ファシズム闘争の砦となっている。トランプ当選後、数日にわたって、覆面をした活動家たちはデモ行進をしながらショーウィンドウを破壊した。今年の4月初旬、antifaの活動家たちは、ワシントン州に属するヴァンクーバー(オレゴン州の都市ポートランドの都市圏を形成している)で行われた「トランプと自由のためのラリー」に対して発煙筒を投げ込んだ。地元紙はこの時の大乱闘について、ライヴ会場での観客同士の押し合いへし合い(モッシュピットと呼ばれる)のようであったと書いた。

 

反ファシズム活動家たちがポートランドの82番街でのパレードを中止するように圧力をかけてきたとき、トランプ支持者たちは「マーチ・フォ・フリー・スピーチ」デモで対応した。デモの参加者の中に、ジェレミー・クリスティアンがいた。クリスティアンは屈強な男性で犯罪歴があり、アメリカ国旗を振り回していた。クリスティアンは人種に関する罵詈雑言を喚き散らし、ナチス式の敬礼を繰り返した。それから数週間後の今年5月25日、クリスティアンだと思われる男性がantifaを「パンクファンの尻軽女たちの集まり」と呼んでいる映像が公開された。

 

翌日、クリスティアンは電車に乗り、「有色人種」が都市を破壊していると叫び始めた。彼はたまたま乗り合わせていた10代の少女2人に絡んだ。1人の少女はアフリカ系アメリカ人で、もう1人はイスラム教徒であることを示すヒジャブをかぶっていた。クリスティアンは2人に対して、「サウジアラビアに帰れ」「自殺して果てろ」と言い放った。少女たちは電車の後ろに逃げ、3名の男性がクリスティアンと少女たちの間に立った。1人が「どうぞ、この電車から降りてください」と言った。クリスティアンはこの3人をナイフで刺した。1人は電車の中で出血多量で亡くなった。もう1人は病院に運ばれた後に死亡宣告された。1人は何とか命を取り留めた。

 

このサイクルは続いた。クリスティアンの事件から9日後、トランプ支持者たちはポートランドで再びデモを開催した。このデモでは、バークリーで反ファシズム活動家を殴打したチャップマンも姿を現し、参加者たちの称賛を受けた。antifaの活動家たちは警察が介入し、スタンガンと催涙ガスを使って解散させるまで、デモに対してレンガを投げつけた。

 

ポートランドで失われたものは、マックス・ウェーバーが国家が機能するために不可欠なものと考えるものそのものである。それは正当な暴力の独占である。antifaの構成員のほとんどがアナーキストであるため、反ファシストの人々は白人優越主義者たちが集まることを政府が阻止することを望まない。彼らは、政府の無能さを声高に叫びながら、自分たちで阻止したいと望んでいる。他の左派グループの活動家たちからの支援を受けて、彼らは政府の邪魔をすることに一部成功している。デモ参加者たちは今年2月、市議会での会議に何度も乱入した。それは会議が非公開で行われていたからだ。2017年2月と3月、警察の暴力とポートランド市役所のダコタ・アクセス・パイプラインへの投資に抗議している活動家たちはテッド・ウィーラー市長を徹底的に追い回した。家まで付け回し、市長はホテルに避難した。パレードの主催者に送られてきたEメールには憎悪に満ちた言葉が書き連ねられていた。その中には「警察は私たちが道路を封鎖するのを阻止することはできない」という言葉もあった。

 

こうした動きをトランプ支持者たちは恐怖感を持って受け止めている。彼らはリベラル派の拠点では、彼らの言論の自由を守ることが拒絶されているのだという猜疑心を持っている。トランプ支持者であるジョーイ・ギブソンは6月4日のデモを組織した人物である。ギブソンは私の取材に対して、「私が最も不満に思っているのは、リベラル派の拠点となっている町の市長や町長たちが警察を出動させないことです。彼らは保守派の人々が集まって話すことを望まないのです」。デモの安全を守るために、ギブソンは極右の民兵組織「オース・キーパーズ」を招いた。今年6月末、マルトノマウ郡共和党代表ジェイムズ・バカルもまた安全のために民兵組織を使うだろう、それは、「デモ参加者はポートランドの町中は安全ではないと考えている」からだ、とバカルは述べた。

 

antifaの支持者たちは権威主義に反対しているantifaの活動家の多くは、中央集権化された国家という概念に反対している。しかし、立場の弱い少数派を守るという大義名分の下に、反ファシズム活動家たちは、どのアメリカ国民が公共の場で集まることができ、誰ができないかを決定する権威を持っていると自認している。彼らが持つという権威は民主的な基盤の上には立っていない。彼らが避難している政治家たちと違い、antifaに参加している男女は投票で追い出すことはできない。彼らは選挙の洗礼を受けていないし、そもそも彼らは自分たちの名前も明かしてはいないのだ。

 

antifaが自認する正当性は政府の正当性とは反比例の関係にある。トランプ時代において、antifa運動がこれまでにないほど勢いを増しているのはここに理由がある。ドナルド・トランプ大統領は、リベラルで民主的な規範を馬鹿にし、その消滅を望んでいる。こういう状況の中で、進歩主義者たちは選択することを迫られている。彼らはフェアプレイのルールを再確認し、トランプ大統領が行う心をむしばむような行為を制限しようとすることができる。そうした努力の多くは失敗してしまうだろう。もしくは、強い嫌悪感、恐怖感、道徳的な怒りの中で、人種差別主義者やトランプ支持者の政治的な諸権利を否定することもできる。ミドルベリー大学、バークリー、ポートランドにおいて、後者の方法が採用された。そして、特に若い人たちの間でそうした方法が拡大し続けている。

 

憎悪、恐怖、怒りは理解できる。しかし、一つ明確なことがある。ポートランドの町中で共和党員や支持者たちが安全に集まることを妨げる人々は、「自分たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義に強く反対しているのだ」と考えているのだろう。しかしながら、実際のところ、そうした人々は、その思いとは裏腹に、反対している相手である人種差別主義者、白人優越主義者、トランプ支持者といった人々に対しての同盟者、協力者となってしまっているのだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12