古村治彦です。

 

 トランプ大統領の周辺がざわつき、アメリカ国内では右派と左派が激しく衝突しています。トランプ政権はもうだめだ、トランプ大統領は次の選挙では落ちてしまうだろう、と考える人も多くいると思います。

 

 しかし、民主党側では状況を楽観視していないようです。民主党全国委員会委員長を務め、2004年の大統領選挙の民主党予備選挙では序盤にリードした経験を持つハワード・ディーン元ヴァ―モント州知事がテレビ番組に出演し、「2020年、民主党がアメリカ大統領選挙で勝てないだろう」と述べました。彼は「現職大統領に勝てない」と述べましたが、この現職大統領が2020年の段階でトランプ大統領なのか、他の人物なのかははっきりしません。

 

 民主党側では2020年の米大統領選挙の有力候補者になりそうな人物がいません。そうした人物が選挙直前に出てくることもありますが、ビル・クリントンにしても、バラク・オバマにしても、当時は民主党の若手政治家として大統領選挙の数年前から既に名前が知られていました。ですから、この時期にそうした政治家の名前が出てこないのは民主党の人材不足です。現在、全国的な知名度を持っている、たとえばジョー・バイデン前副大統領、バーニー・サンダース連邦上院議員、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員は高齢です。ここのところをディーンは心配しているようです。

 

 ディーンは次の大統領選挙では50歳以下の若い人が大統領候補になるべきだと述べています。2016年の大統領選挙では共和党のドナルド・トランプ、民主党のヒラリー・クリントンと共に60代後半から70代でいわゆるベイビーブーマー世代です。ベイビーブーマー世代、日本で言えば団塊の世代は、両国の社会の動きに大きな影響を与えてきましたし、これから人類初の大規模な超高齢化世代として影響を与えていくでしょう。これほど多数の人々が高齢化を迎えるということは人類史上初と言わねばなりません。

 

 ディーンの懸念ははっきり言えば、「ヒラリー・クリントンよ、ベイビーブーマーの代表格であるあなたの出番はもうない。だからもう静かにして表舞台に出てこないように」ということです。ヒラリーは、選挙戦直後はさすがにしばらく静かにしていましたが、今はいろいろな集会に顔を出してはスピーチをして、FBIと民主党全国委員会の悪口を言って回っています。これは民主党んにしてみれば大変迷惑な話です、敗戦の痛手を癒して、次に進もうとしているのに、ヒラリーにその邪魔をされているということになります。ヒラリーが2018年の中間選挙、2020年の大統領選挙に向けての体制づくりの邪魔になってい訳です。

 

 日本的な表現をするならば、怨念を持ったヒラリーが恨みを持ったまま成仏も出来ずに、この世に出てきては生者の世界にちょっかいを出して邪魔をしている、ということになります。ジョージ・W・ブッシュに敗れたアル・ゴアは選挙直後に逼塞する形となりましたが、本来はこうあるべきです。しかし、ヒラリーは表舞台に出てきて復権を目指しています。また、彼女にしてみれば表舞台に出て影響力を持ち続けなければ、国家機密情報の取り扱いに関して逮捕されてしまうという恐怖感もあるかもしれません。そう考えると、哀れな晩年と言いたくもなってしまいます。

 

 公民権(Civil Rights)とは政治に参加する権利、具体的には、投票する権利と公職に立候補する権利のことを指します。公民権運動(Civil Rights Movement)とは1950年代から60年代にかけて、黒人をはじめとする少数派の人々の選挙に参加する権利を認め、人種差別を撤廃しようとして人々が立ち上がった運動です。アメリカ南部では長年にわたり、黒人の参政権が認められなかったり、参政権を行使しようとすると妨害されたりということが続きました。こうした差別を撤廃しようというのが公民権運動です。

 

 公民権運動の過程で、多くの流血事件が起きました。論稿の中で紹介されているケント州立大学の事件やエドマンド・ペタス橋での事件(「血の日曜日」事件と呼ばれています)でも死傷者が出ています。現在の状況も同じだとディーンは述べています。このブログでもご紹介しましたが、若い人々の間で戦闘的な左派グループの勢力が大きくなっています。そうした中で、これからも暴力や流血はしばらくの間続いていくでしょう。そうなると、これに対する揺り戻しで、戦闘的な右派、左派両方のグループは退潮していくと思われます。

 

 現在のアメリカで激しい対立が人々の中に起きているのは、トランプ大統領に不満を持つ人々にとっての展望がない、つまり次の大統領選挙で支持したい、支持すべき政治家が不在という状況になっていることが原因であると私は考えます。

 

(貼りつけはじめ)

 

ディーンは2020年の大統領選挙で民主党が勝利することはないと考えている(Dean doesn't think Dems will win White House in 2020

 

ジョー・コンカ著

2017年8月25日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/media/347978-dean-trump-election-was-kent-state-moment-for-millennials

 

金曜日、ハワード・ディーンは、トランプ大統領の支持率は低いが、2020年の大統領選挙で民主党が勝利することはないと考えていると述べた。

 

金曜日に放映されたテレビ番組「モーニング・ジョー」に出演したディーンは、「2020年に我々民主党が現役大統領を打倒すことはないでしょう」と述べた。ディーンは以前、民主党全国委員長を務めた。

 

ディーンは次のように述べた。「2020年に我々がホワイトハウスに入ることができるなどと考えている人に会ったことがないんです。誰が勝利をもたらす候補者になれるかについて頭を悩ましてばかりですよ」。

 

「それはもう大変なことですね」と代理で司会者を務めたウィリー・ガイストは冗談めかして述べた。

 

2016年の共和党の大統領選挙予備選挙には17名の候補者が立候補した。

 

ディーンは更に、ミレニアム世代にとって、トランプの選挙の当選は、過去に起きた「ケント州立大学」事件の時と同じような事件となったのだ、と述べた。

 

「トランプの選挙の勝利は、現在の若い世代にとっては、エドマンド・ペタス橋やケント州立大学(両所とも公民権運動の舞台となった)で起きた事件のようなものだと思いますね」とディーンは述べた。

 

「ミレニアム世代全体が持つ原理原則が侵害されています。彼らはそれに対して自分たち自身で戦わねばならないのです」とディーンは述べた。

 

ディーンは次の大統領選挙での民主党の候補者には50歳以下の人物がなるのが望ましいと述べた。

 

1970年5月4日、学生たちはケント州立大学でヴェトナム戦争反対デモを行った。それに対してオハイオ州兵が発砲し、4名の学生が殺害された。

 

エドマンド・ペタス橋は「血の日曜日」事件の舞台となった。1965年4月、アラバマ州セルマ近郊のエドマンド・ペタス橋をデモ行進していた公民権運動の参加者たちが地元警察から殴打された。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12