古村治彦です。

 

 これまでにもアメリカにおける戦闘的な左派グループであるantifaについての記事をご紹介しました。今回もまた、ピーター・ベイナートによる論稿をご紹介します。ベイナートの基本的な立場は、「antifaの暴力には反対だが、それを反対派が過剰に強調することにも反対」というものです。トランプ大統領が、シャーロッツヴィルでの事件が起きた後、白人優越主義やネオナチを明確に批判せずに、ぶつかり合った両者が悪い、という言い方をして批判を浴びました。

 

 白人優越主義やネオナチとそれらを信奉する人々による暴力はまずもって批判されねばなりません。白人優越主義やナチズムが席巻し、それが政権のイデオロギーになった時に、人類に大きな不幸をもたらしました。

 

 こうした白人優越主義やネオナチに対抗するために、反ファシズム運動、antifaが生まれたという歴史を考えると、その正当性が高いということは言えます。しかし、一般の人々を威圧するような行動が出てくるようになると話は別です。ポートランドで開催されたパレードで、参加者の中にトランプがかぶっている赤い帽子をかぶっている人がいれば、乱入する、という警告を出したのはやりすぎであり、自分たちの正義を押し付けて、かえって人々を抑圧し、彼らが反対していることを自分たちがやっているということになります。

 

 正義が暴走する、目的が手段を正当化する、という言葉がありますが、これは右派であろうが、左派であろうが、誰であろうが、許されることではありません。常に自分たちの主張に瑕疵はないか、間違っていないかということを顧みなければ、自分たちが抑圧する側になるということが起こります。そこは常に気を付けたいものです。

 

(貼りつけはじめ)

 

antifaに関してトランプが間違っていること(What Trump Gets Wrong About Antifa

―トランプ大統領が左派の暴力について懸念を持っているのなら、暴力的な左派の台頭を招いている白人優越主義運動と戦うことで左派の台頭の対処を開始することができる

 

ピーター・ベイナート筆

2017年8月16日

『ジ・アトランティック』誌

https://www.theatlantic.com/politics/archive/2017/08/what-trump-gets-wrong-about-antifa/537048/

 

火曜日の記者会見で、ドナルド・トランプは、彼が「オルト左派(alt left)」と呼ぶものについて長広舌をふるった。トランプは、先週末のシャーロッツヴィルで起きた事件について、白人優越主義者だけが非難されるべきではないと主張した。トランプは次のように明言した。「白人優越主義者たちの反対側にいたグループもまた大変に暴力的だった。これは誰も言いたがらないが」。

 

私はトランプの最後の言葉は正しくないということを自信をもって言える。本誌9月号には私の論稿「暴力的左翼の台頭」も掲載されている。その中で、私は、トランプが「誰も議論したくない」と主張している現象について議論している。トランプ大統領の発言は正しい。シャーロッツヴィルやその他の場所で、左派の活動家たちが振るう暴力が深刻な問題となっている。トランプ大統領が間違っているのは、左派と白人優越主義を比較可能なものと主張していることだ。

 

トランプが「オルト左派(この言葉が悪いということを後ほど説明する)」と呼ぶものは、antifaだ。Antifaは、反ファシスト(anti-fascist)を縮めた言葉だ。antifaの運動は1920年代から1930年代にかけてドイツ、イタリア、スペインの路上でファシストと戦った戦闘的左派にまで遡ることができる。1970年代から1980年代、1990年代にかけて、イギリスとドイツの人種差別に反対するパンクたちが、音楽シーンに浸透しつつあったネオナチのスキンヘッドたちを追い出そうとした。パンクを通じて、反人種差別行動と自称したグループ、のちの反ファシスト行動、antifaがアメリカで勢いを増していった。 antifaはトランプ時代になって爆発的な成長を遂げている。それには明確な理由がある。それは、白人優越主義が公の場に出てくるようになり、それに対抗するために人々が動員されるようになったからだ。

 

アナーキズム運動の一部として、antifaの活動家たちは、政府の政策を変更させることよりも直接行動で白人優越主義と戦っている。彼らは白人優越主義者たちを公の場で特定しようとし、彼らが失職し、アパートから追い出されるようにしようとしている。彼らは白人優越主義者のデモに乱入する。時には暴力が伴う。

 

私は論稿の中で同意したように、彼らの戦術の中にはトラブルを引き起こすだけのものが存在する。戦術のためにかえってマイナスになることがある。それは、保守派がantifaの暴力を自分たちの正当化や白人優越主義者たちの暴力の免罪に使うからだ。これはトランプが記者会見の時に行ったことだ。戦略的にもマイナスだ。それは、白人優越種者たちが自分たちを集会の自由の権利を侵害されている被害者であると描写するからだ。道徳的にもマイナスだ。それは、antifaの活動家たちはこの権利を蹂躙しているからだ。暴力を使用することで、公民権運動の白人優越主義との闘いにおける道徳的な遺産を否定している。 そして、人種差別主義者たちが集まることを否定することで、ACLUの道徳的な遺産を拒否している。1977年、ACLUは、ネオナチがイリノイ州スコーキーで行進する権利を守るために連邦最高裁まで戦った。

 

antifaの活動家たちはまじめだ。彼らは、自分たちの行為は弱い立場の人々が傷つけられることから守っていると純粋に信じている。コーネル・ウエストは、シャーロッツヴィルで自分たちが行ったのはこれだと主張している。しかし、antifaが主張している反権威主義は、根本的に権威主義的だということが言える。それは、antifaの活動家たちは誰も選挙で選ばれていないのに、「この人の考えは醜いので公の場で表明することはできない」ことを決めることができるという主張は権威主義的だ。このような反民主的、正統ではない権力は腐敗する。これは今年4月にオレゴン州ポートランドで起きたことが示している。Antifaの活動家たちは、ポートランドのローズフェスティヴァルのパレードで共和党の地方委員会が参加する場合に、トランプ大統領がかぶっている赤い帽子をかぶっている人々が一緒に歩く場合には、パレードに乱入するという警告を発した。Antifaの警告のために、共和党の地方委員会は、物理的な暴力や脅迫のために、有権者登録ができないと主張した。

 

だから、antifaは、保守陣営の創造の産物ではない。 リベラル派こそが対峙しなければならない道徳的問題なのだ。

 

しかし、antifaが問題であると発言することは、トランプが行ったように、白人優越主義と同等の問題だと示唆することとは違う。「オルト左派」という言葉を使うことは、存在しない道徳的な問題であると主張することである。

 

第一に、antifaは、暴力を使っているが、白人優越主義者たちが使うほどのレヴェルの暴力を使ってはいない。シャーロッツヴィルで殺人を犯したのは、antifaの活動家ではなく、ナチスの信奉者であったことは偶然ではない。名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation League)によると、2007年から2016年までの10年間で、右派過激派は372件の政治的な動機を持った殺人を犯した、ということだ。左派の同様の事件はこの数字の2%以下に過ぎない。

 

第二に、antifaの活動家たちは、オルト右翼のように権力を掌握していはいない。白人優越主義、キリスト教優越主義はアメリカ史の中の長い期間、アメリカ政府の政策となってきた。アナーキズムはそうではなかった。アメリカの公園や政府機関の建物にミハイル・バクーニンの銅像がないのはそのためだ。Antifaにはスティーヴ・バノンのような人物はいない。バノンは、彼が参加していた「ブライトバート」について、「オルト右翼の討論の場」と呼んでいる。そして、現在はホワイトハウスで働いている(訳者註:その後は更迭された)。antifaにはジェファーソン・ボーリガード・セッションズ三世司法長官のような人物はいない。彼のミドルネームは南軍の将軍の名前で、ファーストネームは、南部連合の大統領の名前である。また、セッションズはNAACPを「反米的」と呼んだ。It boasts no equivalent to Alex Jones, アレックス・ジョーンズはドナルド・トランプを「素晴らしい」と称賛した。antifaの社会に関する考えは「オルト右翼」の考えほど有害ではないが、考えを実現するだけの力を持っていない。

 

antifaの考えは有害ではない。antifaの活動家たちは大量虐殺や強制奴隷労働を行った政権や体制を称賛しない。彼らのほとんどはアナーキストだ。アナーキズムは現実的なイデオロギーではない。しかし、アナーキズムはある特定の人種や宗教の人々を人間以下の存在と描くようなイデオロギーではない。

 

ドナルド・トランプがantifaを弱体化させたいと望むなら、自分自身の偏見をなくすように最大限の努力をすべきだ。彼の偏見に対抗して、antifaは人々を動員しているのだ。シャーロッツヴィルのような場所で南軍の銅像を降ろすことは良いスタートとなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)

アメリカの戦闘的左派グループについての論稿をご紹介します③

 

 古村治彦です。

 

 これまでにもアメリカにおける戦闘的な左派グループであるantifaについての記事をご紹介しました。今回もまた、ピーター・ベイナートによる論稿をご紹介します。ベイナートの基本的な立場は、「antifaの暴力には反対だが、それを反対派が過剰に強調することにも反対」というものです。トランプ大統領が、シャーロッツヴィルでの事件が起きた後、白人優越主義やネオナチを明確に批判せずに、ぶつかり合った両者が悪い、という言い方をして批判を浴びました。

 

 白人優越主義やネオナチとそれらを信奉する人々による暴力はまずもって批判されねばなりません。白人優越主義やナチズムが席巻し、それが政権のイデオロギーになった時に、人類に大きな不幸をもたらしました。

 

 こうした白人優越主義やネオナチに対抗するために、反ファシズム運動、antifaが生まれたという歴史を考えると、その正当性が高いということは言えます。しかし、一般の人々を威圧するような行動が出てくるようになると話は別です。ポートランドで開催されたパレードで、参加者の中にトランプがかぶっている赤い帽子をかぶっている人がいれば、乱入する、という警告を出したのはやりすぎであり、自分たちの正義を押し付けて、かえって人々を抑圧し、彼らが反対していることを自分たちがやっているということになります。

 

 正義が暴走する、目的が手段を正当化する、という言葉がありますが、これは右派であろうが、左派であろうが、誰であろうが、許されることではありません。常に自分たちの主張に瑕疵はないか、間違っていないかということを顧みなければ、自分たちが抑圧する側になるということが起こります。そこは常に気を付けたいものです。

 

(貼りつけはじめ)

 

antifaに関してトランプが間違っていること(What Trump Gets Wrong About Antifa

―トランプ大統領が左派の暴力について懸念を持っているのなら、暴力的な左派の台頭を招いている白人優越主義運動と戦うことで左派の台頭の対処を開始することができる

 

ピーター・ベイナート筆

2017年8月16日

『ジ・アトランティック』誌

https://www.theatlantic.com/politics/archive/2017/08/what-trump-gets-wrong-about-antifa/537048/

 

火曜日の記者会見で、ドナルド・トランプは、彼が「オルト左派(alt left)」と呼ぶものについて長広舌をふるった。トランプは、先週末のシャーロッツヴィルで起きた事件について、白人優越主義者だけが非難されるべきではないと主張した。トランプは次のように明言した。「白人優越主義者たちの反対側にいたグループもまた大変に暴力的だった。これは誰も言いたがらないが」。

 

私はトランプの最後の言葉は正しくないということを自信をもって言える。本誌9月号には私の論稿「暴力的左翼の台頭」も掲載されている。その中で、私は、トランプが「誰も議論したくない」と主張している現象について議論している。トランプ大統領の発言は正しい。シャーロッツヴィルやその他の場所で、左派の活動家たちが振るう暴力が深刻な問題となっている。トランプ大統領が間違っているのは、左派と白人優越主義を比較可能なものと主張していることだ。

 

トランプが「オルト左派(この言葉が悪いということを後ほど説明する)」と呼ぶものは、antifaだ。Antifaは、反ファシスト(anti-fascist)を縮めた言葉だ。antifaの運動は1920年代から1930年代にかけてドイツ、イタリア、スペインの路上でファシストと戦った戦闘的左派にまで遡ることができる。1970年代から1980年代、1990年代にかけて、イギリスとドイツの人種差別に反対するパンクたちが、音楽シーンに浸透しつつあったネオナチのスキンヘッドたちを追い出そうとした。パンクを通じて、反人種差別行動と自称したグループ、のちの反ファシスト行動、antifaがアメリカで勢いを増していった。 antifaはトランプ時代になって爆発的な成長を遂げている。それには明確な理由がある。それは、白人優越主義が公の場に出てくるようになり、それに対抗するために人々が動員されるようになったからだ。

 

アナーキズム運動の一部として、antifaの活動家たちは、政府の政策を変更させることよりも直接行動で白人優越主義と戦っている。彼らは白人優越主義者たちを公の場で特定しようとし、彼らが失職し、アパートから追い出されるようにしようとしている。彼らは白人優越主義者のデモに乱入する。時には暴力が伴う。

 

私は論稿の中で同意したように、彼らの戦術の中にはトラブルを引き起こすだけのものが存在する。戦術のためにかえってマイナスになることがある。それは、保守派がantifaの暴力を自分たちの正当化や白人優越主義者たちの暴力の免罪に使うからだ。これはトランプが記者会見の時に行ったことだ。戦略的にもマイナスだ。それは、白人優越種者たちが自分たちを集会の自由の権利を侵害されている被害者であると描写するからだ。道徳的にもマイナスだ。それは、antifaの活動家たちはこの権利を蹂躙しているからだ。暴力を使用することで、公民権運動の白人優越主義との闘いにおける道徳的な遺産を否定している。 そして、人種差別主義者たちが集まることを否定することで、ACLUの道徳的な遺産を拒否している。1977年、ACLUは、ネオナチがイリノイ州スコーキーで行進する権利を守るために連邦最高裁まで戦った。

 

antifaの活動家たちはまじめだ。彼らは、自分たちの行為は弱い立場の人々が傷つけられることから守っていると純粋に信じている。コーネル・ウエストは、シャーロッツヴィルで自分たちが行ったのはこれだと主張している。しかし、antifaが主張している反権威主義は、根本的に権威主義的だということが言える。それは、antifaの活動家たちは誰も選挙で選ばれていないのに、「この人の考えは醜いので公の場で表明することはできない」ことを決めることができるという主張は権威主義的だ。このような反民主的、正統ではない権力は腐敗する。これは今年4月にオレゴン州ポートランドで起きたことが示している。Antifaの活動家たちは、ポートランドのローズフェスティヴァルのパレードで共和党の地方委員会が参加する場合に、トランプ大統領がかぶっている赤い帽子をかぶっている人々が一緒に歩く場合には、パレードに乱入するという警告を発した。Antifaの警告のために、共和党の地方委員会は、物理的な暴力や脅迫のために、有権者登録ができないと主張した。

 

だから、antifaは、保守陣営の創造の産物ではない。 リベラル派こそが対峙しなければならない道徳的問題なのだ。

 

しかし、antifaが問題であると発言することは、トランプが行ったように、白人優越主義と同等の問題だと示唆することとは違う。「オルト左派」という言葉を使うことは、存在しない道徳的な問題であると主張することである。

 

第一に、antifaは、暴力を使っているが、白人優越主義者たちが使うほどのレヴェルの暴力を使ってはいない。シャーロッツヴィルで殺人を犯したのは、antifaの活動家ではなく、ナチスの信奉者であったことは偶然ではない。名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation League)によると、2007年から2016年までの10年間で、右派過激派は372件の政治的な動機を持った殺人を犯した、ということだ。左派の同様の事件はこの数字の2%以下に過ぎない。

 

第二に、antifaの活動家たちは、オルト右翼のように権力を掌握していはいない。白人優越主義、キリスト教優越主義はアメリカ史の中の長い期間、アメリカ政府の政策となってきた。アナーキズムはそうではなかった。アメリカの公園や政府機関の建物にミハイル・バクーニンの銅像がないのはそのためだ。Antifaにはスティーヴ・バノンのような人物はいない。バノンは、彼が参加していた「ブライトバート」について、「オルト右翼の討論の場」と呼んでいる。そして、現在はホワイトハウスで働いている(訳者註:その後は更迭された)。antifaにはジェファーソン・ボーリガード・セッションズ三世司法長官のような人物はいない。彼のミドルネームは南軍の将軍の名前で、ファーストネームは、南部連合の大統領の名前である。また、セッションズはNAACPを「反米的」と呼んだ。It boasts no equivalent to Alex Jones, アレックス・ジョーンズはドナルド・トランプを「素晴らしい」と称賛した。antifaの社会に関する考えは「オルト右翼」の考えほど有害ではないが、考えを実現するだけの力を持っていない。

 

antifaの考えは有害ではない。antifaの活動家たちは大量虐殺や強制奴隷労働を行った政権や体制を称賛しない。彼らのほとんどはアナーキストだ。アナーキズムは現実的なイデオロギーではない。しかし、アナーキズムはある特定の人種や宗教の人々を人間以下の存在と描くようなイデオロギーではない。

 

ドナルド・トランプがantifaを弱体化させたいと望むなら、自分自身の偏見をなくすように最大限の努力をすべきだ。彼の偏見に対抗して、antifaは人々を動員しているのだ。シャーロッツヴィルのような場所で南軍の銅像を降ろすことは良いスタートとなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12