古村治彦です。

 

 今回はアメリカの著名な政治学者であるウォルター・ラッセル・ミードによる現在の日本の政治状況に関する記事をご紹介します。

 

 簡潔に述べると、ミードは、「現在、日本の政治状況は激動しているが、実は安定に向かっている。希望の党は自民党の新たな派閥であって、最終的には安倍氏が勝利する」ということを主張しています。

 

 外側からの目で見れば、安倍晋三首相と小池百合子都知事は対立する関係ではなく、一緒なのだということが明らかなのです。これは私がこのブログでも採算申し上げてきたことです。しかし、希望の党は自民党の派閥のような存在であるというのはミード氏の慧眼と言えましょう。

 

 メディアでは10月22日の選挙予測が出ています。自公の枠組みで100議席を減らす、もしくは自民党は単独過半数割れとなるが自公枠組みで過半数維持、といった予想が出ているそうです。自公が減らす分が希望に行ってしまうと、これはミード氏によると「自民党の派閥」なのですから、大きくは自民党に入れることと一緒になってしまうことになります。

 

 希望の党は民進党の前職や元職が多く公認を受けています。彼らがよもや自民党の一派閥に入った、自民党を助けるために存在するということは考えたくありませんが、外側の大きな目から見るとそうなってしまいます。ですから、民進党出身で心ある候補者の方は、希望の党の公認で当選しても、是非良識的な行動を取っていただきたい、自民党の派閥の一員に成り下がるようなことはないようにお願いしたい。

 

 私は自公の枠組みが大きく議席を減らすということは喜ばしいことだと思います。そして、その後に何が起きるだろうかということを考えてみたいと思います。自公の減少した議席数が大きれば大きいほど、安倍首相の退陣の可能性は高まります。しかし、自公が減らした分が希望の党に行く場合、しかも元民進党よりも希望の党独自の候補者が多く当選する場合、これは自民党の派閥になる可能性が高くなります。そうした人々がまとまって、自公と連立政権を組む、それに維新も入る、ということになると米政翼賛会、現代版の大政翼賛会が完成することになります。

 

 この時の大義名分は、「北朝鮮を巡る外交上の危機的な状況の中で、救国大連立を組む、そして、その指導者にはこれまで通り安倍晋三氏を立てて、継続性と安定を図る」ということになるでしょう。こうなると、小池氏は一度自民党に反旗を翻しながら、自分の手兵を率いて再び自民党に帰ることになります。そうなれば、一気に次の首相候補、ということにもなるでしょう。

 

 このような馬鹿げたシナリオが現実のものとならない為にも、希望の党の候補者に関してはきちんと調べて、投票すべきだと思います。希望の党のオリジナルメンバーと彼らに近い人物たちは、おそらく、自民党の一派閥になることに躊躇がない人たちでありましょうから、是非次の国会で議席を占めないようにしてもらいたいと考えます。

 

(貼りつけはじめ)

 

日本の選挙をめぐるドラマは、その激しさとは裏腹に日本政治の安定を示すものだ(Japan’s Electoral Drama Belies Its Stability

―安倍首相と彼の最大のライヴァルは主要な問題の多くで合意している

 

ウォルター・ラッセル・ミード(Walter Russell Mead)筆

2017年10月2日

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

https://www.wsj.com/articles/japans-electoral-drama-belies-its-stability-1506983937

 

日本は世界の諸大国の中で最も低い評価しかされていない国であるが、通常は最も落ち着いた国である。1955年の結党以来、自由民主党が日本政治を独占してきた。現在、公明党と一緒になって連立与党となり、国会の両院で3分の2の議席を有している。

 

しかし、現在の日本はこれまでよりも爆発しそうな雰囲気になっている。これは先週始まった。安倍晋三首相は10月22日に衆議院の解散総選挙を行うと決めた。人気の回復と野党側の混乱を利用しようと考えてのことだ。しかし、安倍氏の計画は、覆されてしまった。カリスマ性を持つ東京都知事小池百合子氏が新党「希望の党(“Party of Hope”)を結成し、総選挙において全国規模で立候補者を出すと発表したのだ。僅か3か月前、小池氏率いる地域政党「都民ファーストの会(“Tokyoites First”)と協力政党(訳者註:公明党など)は地方選挙で圧勝した。東京都議会では127議席の3分の2に少し足りない議席を獲得した。

 

ドラマが一気に進展したのは先週のことであった。国会の野党第一党である民進党が驚くべき発表を行った。それは、民進党は衆議院内における会派を解散し、来たる総選挙において議員たちが小池氏の旗の下で選挙に出馬することを許可する、というものであった。安倍氏の勝利は突然、当然のものではなくなった。コメンテイターたちは、安倍氏が下した総選挙の決断をイギリスのテレーザ・メイの野心的な企ての大失敗と比較し始めた。

 

小池氏の影響力が小池氏をどこまで引き上げるかを語るのは早計だ。彼女が衆議院選挙に出馬するには、東京都知事を辞任しなければならない。72%の有権者は、彼女は都知事の地位にとどまるべきだと考えている。都知事に留まっても辞任しても批判に晒される。民進党の枝野幸男氏は、小池氏が保守的すぎると考えるリベラル派をまとめるために新たな党を結成しつつある。最近の世論調査では、連立与党は衆議院での3分の2という現有議席には届かないが、安倍氏は勝利すると示していた。

 

しかし、3分の2を失うというのは問題だ。なぜなら、3分の2の議席は安倍氏にとって重要な目標を達成するためには必要な数だからだ。彼の主要な目標、それは、1948年に制定された憲法を変更することだ。この憲法は日本が戦争に参加することを禁止している。この条項は、第二次世界体制ン直後にアメリカが推進したもので、日本の漸進的な軍事力の再建と安倍氏が定義する「普通の国」になることに対してのブレーキの役割を果たしている。

 

しかし、根本的なところで保守的である日本では、変化というものは現状維持のための戦略でしかない。ある点から考えると、小池氏は一人の日本人女性としてこれまでにない力と存在感を手にしている革命家としての存在であり、彼女が所属していた政党と保護者に対して反旗を翻すことに成功している。しかし、外交政策の面では、小池氏は、安倍氏のナショナリスト的な立場にきわめて近い。現在の自公連立政権の初期段階において、小池氏は安倍内閣の防衛大臣を務め、強硬派としての評判をとっている。小池氏は定期的に、議論の的となっている靖国神社に参拝している。靖国神社には第二次世界大戦の戦死者と共に恐るべき戦争犯罪人たちも祀られている。小池氏はまた、歴史教科書から日本の戦時中の蛮行を消し去ろうとする運動を支持している。

 

政治の世界における通常の終わり方とは大きく異なる結果が出るだろう。それでも、小池氏の急速な台頭は、数十年にわたり日本政治を支配してきた政治の世界の基本モデルを更に強固なものとする可能性が高い。過去60年のうちのほとんどの期間、日本は事実上の一党しか存在しない国家であった。この状況下では、政策を巡って他の政党と競うよりも、自民党内部の派閥間の争いの方が重要であった。自民党内部の諸派閥はそれぞれ、強力な個性とボスによってまとめられ、派閥間の相違は抽象的な政治的理想というよりも、相争う産業別、政治的な各種ロビー団体の利益によって生み出されていた。

 

小池氏の東京における「反乱」は、多くの自民党の実力者たちによってひそかに支持されていた。彼女の新党「希望の党」は、西洋型の野党というよりも、自民党内部の伝統的な派閥のようである。来たる選挙における小池氏の支持者と安倍氏の支持者の争いは、自民党の大勝利をもたらす。最後に残った主要な野党は解体し、自民党内部にもう一つ派閥が出来たようなものだ。

 

安倍氏は予想していたよりも厳しい選挙戦に直面する。しかし、彼にとっての最強のライヴァルが多くの点で彼と考えが同じだということは、彼の勝利にとって重要な方策となる。日本は、アメリカによる安全の保証がかつてよりも不確かなものとなっている状況下、中国との厳しい競争、北朝鮮からの危険な脅威に晒されている。 こうした中、世界は、日本の国家戦略と軍事的な姿勢が急速に発展することを期待している。これは誰が首相になっても変わらない。

 

※ミード氏はハドソン研究所研究員で、バート・カレッジの国際問題専攻の教授である。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)




アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12