古村治彦です。

 

今回は「ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)」が世界各国で行ったサーヴェイ・リサーチの結果の中で、特に日本に関するものを読んで、その内容を簡単にご紹介したいと思います。記事のアドレスは以下の通りです。ピュー・リサーチ・センターは様々な世論調査を行っているアメリカのシンクタンク、研究所です。

 

http://www.pewglobal.org/2017/10/17/japanese-divided-on-democracys-success-at-home-but-value-voice-of-the-people/

 

サーヴェイ・リサーチというのは、人々に多くの質問をしてそれに答えてもらうものです。日本ではアンケートと言いますが、英語ではクエスチョナリーと言います。その際に回答者の年齢、性別、職業、学歴、居住地域なども記録されます。名前は出ません。今回の調査では日本では1000名ほどの人々が調査に協力したようです。調査は2017年3月8日から4月2日まで行われたようです。このサーヴェイ・データを使って、たとえば、年齢と投票率の関係や学歴と支持政党の関係などを調査することができます。そして、ある事象に対する因果関係に関する仮説を立て、統計学を使って調べることができます。

 

 今回の記事では、日本の回答者におけるアメリカへの信頼感の低下が特徴として取り上げられています。ジョージ・W・ブッシュ元大統領時代に約60%であったものが、バラク・オバマ大統領時代に約70%、最高値85%をつけていたのですが、ドナルド・トランプ大統領時代になって72%から57%になりました。それでも過半数は維持しています。アメリカの大統領への信頼感はブッシュ時代で3割台、オバマ時代が7割台でしたが、トランプ時代には2割台となってしまいました。アメリカへの好意とアメリカ大統領への信頼感は連関があるようですが、トランプ大統領時代になってアメリカへの好意が少し低下してしまっているようです。大変興味深いのは、年代別で見ると、若年層では、トランプ大統領へのマイナス評価の割合が低くなるという結果が出たことです。日本の若年層は、トランプ大統領をそこまで嫌っていないということになります。その理由については書かれていませんが、ああいう型破りなスタイルはやはり若い人たちには受け入れられやすいのだろうかと思います。11月にトランプ大統領が訪日しますが、若い人たちは歓迎するのでしょう。しかし、もちろんオバマ大統領に比べれば人気は全くないということになりますが。

 

 日本人の自国の民主世辞体制についての評価は私にとって興味深いものでした。現在の日本の民主政治体制はきちんと機能していると答えた人が50%で、そうではないと答えた人が47%という結果が出ました。現在の状況を好意的にとらえていない人が多くいるということが分かります。そして、日本にとって、「代議制民主政治体制」「直接民主体制」が良いと答えた人はそれぞれ77%、65%を超え、「専門家による支配」には49%、「強力な指導者による支配」には31%、「軍部による支配」には15%が良いと答えました。

 

 日本人の半分は現在の民主政治体制に満足しているが、しかし、47%は不満を持っている、そして、強力な指導者による支配には69%が良くないと答えた、ということになります。これは、現在の日本政治の状況、安倍一強状態に不満を持っている人たちが多いということになると思います。そして、アメリカに対する好感度の低下は、安倍首相のなんでもかんでもアメリカ追従、従米路線に対する嫌気も影響しているのだろうと考えられます。ただ、全体として10代、20代は50代以上に比べて、現状に満足し、専門家(官僚)による支配を支持しているという結果も出ました。失われた20年の中で成長した若い人たちは、現状を受け入れながら生きていく術を身につけ、年齢が高い人たちは日本の良い時代を知っているので現状に対して不満を持ちながら生きている、ということになるのではないかと思います。

 

 経済については、現状に多くの人々が満足していますが、将来もこのような状態が続くのかどうか、子供たち世代が自分たちよりも良い暮らしができるかということについては不安を持っているという結果が出ました。日本の経済規模、世界で第3位ということを考えると、生活水準が全体で急激に低下するということは考えにくいですが、一人一人の生活実感では、このまま世界の先進国としてやっていけるのだろうか、生活を維持できるのかということを不安に思っている人たちが多いようです。

 少し心配なのは、57%の人が「多様性は日本社会を悪くする」と答え、24%の人が「良くする」と答えたことです。日本人らしさ、日本の伝統ということを過度に強調すると、日本という国全体が息苦しくなるのではないかと思います。

 

 北朝鮮問題について、北朝鮮が核兵器を保有することについて3分の2の人が大変懸念を持っている、という結果が出ました。これは韓国の結果(59%)よりも高い数字となりました。そして、61%が北朝鮮に対する経済制裁を強化することを支持し、25%が北朝鮮との関係を進化させることを支持するという結果が出ました。若い人たちの41%と50代以上の21%が関係強化を支持しました。日本国民は、経済制裁をすることで交渉のテーブルに出てこさせようということを考えているようです。それでは武力行使までエスカレートさせるのが良いとまでは考えていないと思います。

 

 中国に対しては、否定的な答えが多くなっていますが、中国の経済成長だけは過半数の人々が評価している、望ましいと答えています。中国の世界GDPに占める割合は14%を超え、日本の2倍以上となっています。中国の経済成長率が6.9%であったと発表されましたが、日本が追いつくには二けた中盤の経済成長率が必要ですが、それは全く持って不可能な話です。ですから、日本国民の多くは、感情で中国は嫌だなぁと思っても、合理的に、経済で恩恵を受ければよいと考えているようです。ロシアに関しては脅威だと感じている人たちが多く、歴史的な経緯からロシア恐怖症やロシア嫌悪は拭い去れないということが分かります。

 

 今回の結果発表を読むと、若い人たちにはある種の諦観と周囲と争いたくないという感情があるようで、これは、高度経済成長を知らない若者たちの守りの姿勢を示していると思います。ですから、「世界の中心で輝く」とか何とか勇ましいことを言っても受けないのではないかと思います。低成長時代の先進国・日本のシュリンクした姿が見えてくるように私には感じられました。

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12