古村治彦です。

 

 台風21号の接近、上陸の中、第48回総選挙の投開票が行われました。台風のために投票所の閉鎖時刻が早まる場所や、離島からの投票箱が届けられずに開票ができない場所が出てきました。このような状況では投票所の一時閉鎖と翌日の再開といった対処が必要ではないかと思います。台風のために参政権を行使することができない人がいるならば、その行使に全力を挙げるのが民主国家であると思います。

 

 選挙結果は、自公大勝ということになりました。現在のところ、自民党は公示前の勢力を維持、公明党は5議席減少、ということでほぼ公示前勢力を維持することに成功しました。自公だけで総議席の3分の2を獲得しました。自公に関しては、9月の段階では、勝敗ラインは過半数の233、その後、情勢調査が出て、絶対安定多数の261という話が、安倍晋三首相の側近・萩生田光一代議士から出ていましたから、まさに大逆転ということになりました。

 

 希望の党は公示前から8議席を失い、50議席前後、日本維新の会は4議席失い、10議席は確保、という結果になりました。立憲民主党は公示前15議席から約40議席を伸ばして54議席、共産党は21議席から9議席を減らして12議席、社民党は1議席は確保していますが、比例でどうなるか、分からない状況です。今回、民進党から無所属で出馬した候補者は20名以上が当選しました。比例復活がない中で当選してくるのは地盤が強いということになります。

 

 選挙速報の中で、共同通信や時事通信は、自民、公明、希望、維新を「改憲勢力」としてまとめ、この勢力で310議席を超えたという速報を打ちました。確かにこれら4つの政党で465議席中370議席という大きな数字を占めることになりました。希望を抜いても自公維で310議席以上320議席に迫る数字となっています。

 

 自公大勝、改憲勢力大勝ということになりました。野党は惨敗という結果になりました。しかし、9月から10月の初めにかけて、この言葉は、自公惨敗、希望大勝となるはずでした。安倍首相が解散を決断し、総選挙の投開票日が10月22日とされたころを思い出してみれば、安倍首相には森友学園小学校や加計学園岡山理科大学獣医学部の新設に絡む問題が付きまとい、安倍政権の支持率は下がっていました。そうした中で選挙をして、自民党は大丈夫なのか、過半数割れもあるという話になっていました。実際に9月末の状況では、自公で250議席を確保するのではないか、と言えば、「お前の予測は甘い、自公は過半数割れするのだ」という叱責を受けることさえありました。この時、私は自公で250、希望で150、それ以外で65ということになるのではないかと考えていました。かなりおおざっぱですが、希望が勝つだろうと思っていました。自公が公示前よりも40も50も減らせば、安倍首相の責任問題になって政権は持たないだろうし、それ以上の数字となれば倒閣運動が起きるのではないかと考えていました。

 

 しかし、私は同時に希望の党に懐疑的、批判的でありました。それは、このブログでも書きましたが、小池百合子東京都知事が安倍晋三首相と思想的に何の違いもないことやアメリカのジャパン・ハンドラーズとも関係が深いことを挙げて、希望の党は本当に自民党と対抗する野党なのだろうかということを書きました。小池都知事は、首班指名に関して、公明党の山口那津男代表の名前を挙げてみたり、維新との連携を図ってみたり、自民党との選挙後の連携、特に安全保障政策について連携する可能性に言及するなどの行動や言動を行いました。そして、選挙の候補者名簿を見てみれば、公明党が重視し候補者を出している小選挙区、日本維新の会(大阪の選挙区)、自民党・石破茂代議士に近い議員の選挙区には候補者を擁立せず、立憲民主党に対しては律儀なほどに対抗馬を立ててきました。

 

 思い出していただきたいのは、希望の党の結党から10月10日頃まで、希望の勢いは大したもので、立憲民主党は酷いものでした。「立憲民主?なんじゃそりゃ?潰してやるよ」という鼻息の荒さでした。希望の党は15議席も守れないだろうなというのが、10月10日に大宮駅西口での枝野幸男代議士の演説を聞いていた時の私の感想でした。同じ日の数十分前には小泉進次郎代議士が来ていて、その時の人の集まり具合を見ていたので、やはりそれよりも少ない人数でしたので、特にそう思ったのかもしれません。

 

 選挙戦が始まってみれば、安倍政権に対する支持率は上がらないが、自公が300議席をうかがう勢いという情勢調査の結果が出てきて、驚かされました。289の小選挙区の情勢を丹念に調査していけば、ある程度確度の高い分析ができるのでしょうが、それでもいくら何でも300は、と驚かされました。そして、希望の党の失速もまた驚くばかりのものでした。都知事選挙や都議会議員選挙の時の勢いはなくなっていました。

 

それはマスコミが面白おかしく報道したこともあるでしょうが、そのような報道をさせる隙を作ったのは小池都知事と希望の党であるし、何より、希望の党の曖昧さというか、どこか信じられないというところが有権者にあったと思います。小池都知事にマスコミは何度も総選挙への出馬はないかということを質問しました。私はどうしてそう何度も質問するのだろうか、小池さんは出馬は100パーセントない、と述べているのに、と思っていました。このパーセントを使った表現に関しては、小池さんにかわいそうな面があって、橋下徹氏が選挙に出る、出ないというときに%という表現を使って出馬はないと述べたが、結局出馬したということもあって、パーセントを使ってしまうとどうしても信用できないという印象が持たれやすくなっている状況もあって、これは小池さんには気の毒なことでした。しかし、彼女の煙に巻くような、少しすかした、馬鹿にしたような発言や行動は他にもあって、それが報道されて、希望の党への支持が伸びなかったということもありましょう。

 

 私は希望の党が無理やり過半数の233人の立候補者を立てたことに疑問を持ちました。そして、その中身を見て、憤りを覚えました。選挙はやはり勢いや風ではうまくいきません。国政選挙、特に総選挙では有権者は特に慎重になります。日頃から地道な活動をしているから応援してやろうということになります。どうしてもそうなります。それなのに、その選挙区から代議士となっている人、代議士となった経験がある人、選挙に備えて地道に活動してきた人たちに対して、選挙区の変更が指示されました。自由党に属していた人や小沢一郎代議士に近いと言われている人たちからそのような人が多く出て、私はどうしてそんなことをするんだと憤りを覚えました。

 

樋高剛氏という人物がいます。樋高氏は小沢一郎代議士の秘書として研鑽を積み、生まれ育った神奈川で代議士を目指し、3回の当選を経験した人物です。義父は平野貞夫元参議院議員で、小沢氏の側近と言える人物です。2012年、2014年に苦杯をなめましたが、地道に活動を続けていました。しかし、樋高氏は今回千葉県の選挙区から立候補し、落選しました。いきなりの国替えで、名前を覚えてもらうところから始めてよく3万6000票も獲得できたものだと思いますが、これでは人材の無駄遣いです。このような例はほかにもあります。そして、立憲民主の候補者がいる場所には律義に広報車を立てて、自民批判票を分割して共倒れ、希望の党のほうが獲得票数が多い小選挙区が少なく、立民支持者からは「希望が本当に邪魔だったなぁ」という嘆き節が出てくる始末でした。

 

 しかし、このような嘆き節が出るはずではなかったのです。希望が少なくとも100議席は獲得、うまくいけば150議席だ、ということになっていたを思い出すと、どうしてこうなったのかということを今更ながらに思います。そして、小池都知事の振りまいた幻影と風が今回の総選挙では自公を利しました。小池都知事の吹かせた風が逆風となって希望の党に吹き付け、前進を阻んだということになります。小池氏が自民党を助けるために、希望の党を作って野党を分断したということまでは言いたくありませんが、結果としてはそうなってしまいました。意図してそうしたかどうかは分かりませんが、外形上そうなってしまいました。

 

 野党、安倍政権批判勢力が大敗したことは間違いありません。野党が分立し、しかも野党の核となるであろうと考えられていた希望の党に逆風が吹く中ではいかんともしがたいということになりました。立憲民主党は現有から40議席伸ばしましたが、これを喜ぶことは当然ですが、浮かれてはいけないと思います。支持者で浮かれている人は少ないでしょう。希望、民進系無所属、共産、社民といった野党、維新という「ゆ党(野党でも与党でもない)」、自公という与党の中で、自分たちの立ち位置を確かめ、これから支持を拡大していくという作業が必要になります。参加しているプレイヤーが多くなるとどうしてもその作業は複雑なものとなります。ここで失敗すると順風から逆風になりますし、その変化の速さは希望の党が今回示しました。

 

 総投票数、各政党の獲得票数といったことをこれから見ていかねばなりませんが、自民党に対する票数が全投票数に占める割合は、議席に占める割合である約60%を大きく下回っているでしょう。野党が分立してさえいれば、漁夫の利で自公が勝利する、ということを2012年からずっと見せられてきました。野党共闘の枠組み作りが全国各地で進められてきましたが、結局それはうまくいかないということになりました。

 

 前原誠司・民進党代表は野党共闘路線ではなく、希望に全員合流して、一気に巨大政党を作り上げることをもくろんだのでしょう。しかし、希望の党の結党メンバーには民進党のリベラル派が嫌で離党した人々が多く、とても全員が合流できる状態ではありませんでした。また、安保法制であれだけ反対していたのに、希望の党から出るということは、その時との整合性を問われるということになります。自公からそのような戦いを強いられたら、厳しい戦いになったことは間違いありません。また、小池氏は自分の子飼いを増やすということもあったでしょうから、民進系は厳しい処遇をされたことでしょう。自由党から言った人たちに対する扱いを見ればそのように思わざるを得ません。

 

 希望の党にも行けない、行っても厳しい、当選も難しいという「負け犬」たちが作ったのが立憲民主党です。しかし、この立憲民主党に支持が集まってしまったのです。これは安倍政権もいや、だけど、小池都知事もいやという人たちの受け皿となりました。私はこれまでずっと枝野幸男という政治家に批判的でした。しかし、安倍晋三、小池百合子、枝野幸男と並べられて、誰を支持するかと問われたときに、枝野幸男という選択しかありませんでした。「立民は現有維持できないだろうな、いやできるかもしれない、へー20台獲得という話も出ているのか、倍増の30?本当に?、40台なんてそんな馬鹿な」という感情の変遷がありますので、立憲民主党が50台を獲得できたことはうれしいですが、はたしてこれからどうしていくのか、いけるのかということには不安もあります。

 

 自公は自分たちへの支持が増えなくても、野党が分立してくれれば勝てるという基本戦略を確立しました。それに対しての対抗策は、野党がまとまること(候補者を立てあって潰しあうのを止めること)しかありません。今回の選挙で大きな傷が野党側に残ってしまいました。希望と立民が協力することは難しいかもしれません。また、小池氏が敗北を認めた希望から離脱する議員も出てくるのではないかという話も既に出ています。そうなったときに、元民進党の再合流となる時には、民進党の再興では意味がありません。リベラルから中道右派までを包むアンブレラパーティーになることが重要であると思います。

 

 今回は自公惨敗、となるべき選挙でした。それが野党分立となってしまったことは、野党側に責任があります。自民党を利してしまったという事実は厳然として残ります。そこで、どこが悪い、何が悪いということを言い合うのはありですが、それをいつまでも引きずっても自公を利するだけです。自公政権、安倍一強状況を打ち壊すために何が最善なのかということを考えていかねばなりません。

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12