古村治彦です。

 

 「中国人民解放軍3万人を北朝鮮に駐屯させるべきだ」という論文をご紹介します。荒唐無稽なようですが、その論理構成を知ることは、現在の北朝鮮をめぐる情勢を考えるうえでも重要だと思います。

 

 論文では、北朝鮮が核兵器やミサイル開発を行っているのは、自国の安全保障と体制転覆に対する恐怖心があるとしています。そして、北朝鮮に安心感を与えることが問題解決の基礎になると主張しています。北朝鮮に安心感を与えるにはどうすべきか、ということで、「少数の(3万人)の人民解放軍を北朝鮮に駐屯させるべきだ」という結論になります。3万という数字は現在、韓国に駐留している米軍の数で、それと同数の中国人民解放軍を駐屯させることで、つり合いがとれるということです。

 

 朝鮮戦争では北朝鮮は鴨緑江まで押し詰められ、敗北寸前でした。この時、中国の人民義勇軍が北朝鮮に来援し、国連軍を押し返しました。300万の将兵のうち、約5分の1が死傷するという大きな犠牲を中国は払いました。中国と北朝鮮はそれ以来の「血の盟約」を結んできました。

 

 しかし、ことはそのように簡単に進みません。北朝鮮は中国に対しても歴史に基づいたある種の不信感を持っています。北朝鮮がアメリカを敵視しているのは当然ですが、中国も同盟国として信頼しているかというとそれは違います。また、朝鮮半島の人々にとって中国人民解放軍の駐屯は誇りを傷つけられる行為だと思います。そうした中で、人民解放軍の駐屯を受け入れさせることはほぼ不可能であると思います。

 

 ただ、確かに中国人民解放軍が駐屯すれば、アメリカは北朝鮮に対する攻撃がやりにくくなります。しかし、中国人民解放軍の駐屯を受け入れることとアメリカ軍の侵攻の危険性を天秤にかけて、どちらを選ぶか、ということになると、北朝鮮政府はどちらも選ばずに、「独立独歩の政策を続けつつ、ミサイルや核開発を交渉カードにして、体制保障を求める」という方向に進むのではないかと思います。

 

 もし中国人民解放軍を受け入れれば、北朝鮮政府はもたないでしょう。朝鮮半島にある政府としての正統性に大きな傷がついてしまいます。アメリカ軍の侵攻があってももたないでしょうから、中国人民解放軍を受け入れないでしょうし、北朝鮮に中国人民解放軍が入る時は、現在の北朝鮮政府が崩壊して、治安維持や復興にあたることになるのだろうと思います。

 

 北朝鮮にとっては体制保障が何よりも重要でしょうが、現状では他国にしてみれば大規模戦争(major war)にならないことが最大の利益ということになるかと思います。大規模戦争を阻止するための小規模な軍事介入という選択肢も存在しているのではないかと考えられます。

 

(貼り付けはじめ)

 

中国は北朝鮮に3万の将兵を送るべきだ(China Should Send 30,000 Troops Into North Korea

―核兵器をめぐる争いを止めさせる唯一の方法はアメリカが北朝鮮に侵攻しないし、できないと金正恩に安心させることだ

 

アルトン・フライ筆

2017年11月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/11/28/china-should-send-30000-troops-into-north-korea-symmetrical-reassurance/

 

北朝鮮は核兵器開発を断固として止めない。これに対処しようとして行っている様々な取り組みはどれも効果を上げていない。朝鮮半島の非核化という目標は失敗している。国連決議もまた失敗している。徐々に締め付けを厳しくしている経済制裁もまた失敗している。 侮辱的な発言は失敗しているだけではなく、金正恩の強硬な姿勢を高めている。北朝鮮政府は最新の挑発行為として、1128日に北朝鮮東方海上に弾道ミサイルの発射テストを再び行った。

 

実際に試みる価値がある選択肢がまだほかに残っているだろうか?冷戦期の経験からある基本的な要素が存在することが示唆される。それは、戦略的安心感を示すことである。戦略的安心感とは、安全を保障することで核兵器開発という選択肢を諦めるように説得することである。

 

北朝鮮を核兵器開発に駆り立てる重大な懸念とは何であろうか?北朝鮮政府は、重大な懸念を「アメリカと韓国が金体制を転覆させるために侵攻を計画している」ことについて恐怖感を持っていると主張している。アメリカ側にしてみれば、そのような恐怖感は馬鹿げているように思われる。レックス・ティラーソン国務長官はそのような意図はないと明確に否定している。しかし、北朝鮮が国力を結集し多くの予算を投入するミサイルと核兵器開発プログラムを行っているのは恐怖感が原動力となっている、そして、こうしたプログラムは金正恩を危険にさらしている。 したがって、アメリカは北朝鮮に対して、第一に北朝鮮侵攻の脅威は現実的ではないと示し、第二に、そのような脅威をなくしたうえで、核兵器とミサイル開発を抑制するようにという国際社会の要求を拒絶し続けることは、自衛ではなくより邪悪な目的を持っていることになる、ということを示すことが重要だ。

 

アメリカ政府と韓国政府による各種の宣言も十分ではない。しかし、より効果的なアプローチが可能である。これらのアプローチは、核兵器開発の可能性のある国々に思いとどまらせるように仕向ける政策を基礎としている。ドイツ、日本、韓国が重要な具体例となる。これらの国々は、核兵器開発の基礎となる技術に関しては、北朝鮮よりもはるかに具体性と実現性を持っている。これらの国々が核兵器開発を自制する選択を行っているのは、多くの要素のためである。しかし、アメリカとの軍事同盟やアメリカ軍基地の自国内での展開 による安全保障のために自制できている。歴史家のマイケル・ハワードは同盟による安心感は、敵国による抑止と同じ程度の効果を持つと主張した。永続的な戦略的安定性は同盟による安心感と敵国による抑止の両方に依存している。

 

北朝鮮の思慮に欠けた行為を止めようとして強制的な外交策と軍事攻撃の脅威を用いるのは理解できる。より強制力の伴った方法を採用する必要性もあるだろう。北朝鮮のミサイルが日本の領土を飛び越える事態が続くならば、それらを迎撃するためにミサイルを発射する大きな理由となる。専門家たちの間でほぼ共通した理解となっているのは、直接的な軍事行動は、大きな戦争へとつながる深刻なリスクを伴うということだ。

 

長年にわたり、議論と断続的な交渉についてのテーマは常に中国政府はこのような悪い状況を止めるためのカギを握っているということだった。中国は金正恩率いる北朝鮮の主要な貿易相手国であり安全保障に関して最強の支援者ではあるが、その影響力を使って北朝鮮政府にコースを変えさせようとしている。中国は明確に北朝鮮の核武装化は自国の利益にかなわないと表明している。徐々にかつ消極的にではあるが、中国政府は北朝鮮に経済的、政治的圧力をかける多国間の行動に参加するようになっている。ここ数カ月で、中国は北朝鮮に対する国連安保理の出した強い内容の決議と厳しい経済制裁に参加している。特に中朝間の貿易を削減することを公約としている。現在の状況が示しているのは、外交上と経済上の厳しい制裁をもってしても金正恩に核兵器とミサイル開発をあきらめさせることが出来るのかどうか疑問だということだ。

 

状況は、恐らく、まったく異なる方法について検討する時期に来ているのだ。アメリカが韓国に安心感を与えているのと同じように中国は北朝鮮に安心感を与えられるか?中国政府は北朝鮮の行動について懸念を高めている状況で、中国は北朝鮮が攻撃を受けた際に支援するという内容の1961年に北朝鮮との間で結んだ協定は有効であると表明している。しかし中国は北朝鮮自身が戦争を始めた場合には金体制を支援しないだろう。これは建設的な姿勢であるが、北朝鮮政府にしてみれば長年にわたる独立独歩政策を正当化するための中国の優柔不断な態度とみなしていることだろう。北朝鮮の若き独裁者金正恩は1950年から1953年にかけての朝鮮戦争で中国がどれほどの大きな犠牲を出したかについてのちしきはほぼもっていないのかもしれない。約300万の将兵が戦闘に参加し、38万以上が負傷、18万以上が戦死した。中国側の戦死・戦傷者数はアメリカ側を大きく上回った。北朝鮮が敗北を認めそうになった時に、中国は支援に入った。

 

中国の介入は韓国を防衛していたアメリカや他の国々にとって歓迎されざるものだった。中国の払った犠牲は中国政府の与える安全保障の信頼性を高めるものだった。中国の与える安全保障がより信頼に足るものとなるには、北朝鮮の領土内に中国人民解放軍が実際に展開されることが伴うものとなる。北朝鮮に韓国と同様の安心感を与えるには中国人民解放軍の将兵3万人が駐屯することも可能性としては否定できない、38度線よりも南の韓国には同数の米軍の将兵が駐屯しているのだ。

 

確かに中国が北朝鮮領土内における軍事力強化を行うというのは常識的ではないと思われるだろう。アメリカの国益に関して言えば、このような行動は非倫理的であると考える人たちもいるだろう。残虐な人権侵害を行っている国家を支援することは安全保障のためには高すぎる代価と言えるかもしれない。しかし、戦争の勃発可能性を引き下げるためには効果的な方法ではある。

 

韓国とアメリカは中国人民解放軍と朝鮮人民軍と戦う戦争が起きるということを常に想定しなければならなかった。しかし、中国軍の少数の将兵が駐屯しても軍事バランスが崩れることはないだろう。韓国とアメリカは既に北朝鮮に侵攻する意思を持っていない。少数の中国軍の駐屯があってもこのような現状を変更することはないであろう。

 

安心感を与える政策を実行し、北朝鮮が攻撃を受けた際に中国は支援するということに関する疑いを払しょくすることが中国にできることである。安心感によって北朝鮮政府が表明しているアメリカによる侵攻の恐怖感から北朝鮮を解放し、状況を不安定化させる核兵器とミサイル開発プログラムの正当性を取り除くことになる。経済制裁と政治的孤立を緩和するためのいくつかの提案と共に安心感を与えることで、金正恩が核兵器とミサイル開発プログラムを停止するための最大の誘因を提示することが出来る。

 

中国がこの進路に進む準備ができるだろうか?現在のところ、中国は北朝鮮を占領する意向も姿勢も示していない。1950年代後半の大規模な介入の後、中国軍は撤退した。ソ連は東欧の衛星諸国に対して長年にわたり大規模な軍隊を駐屯させ、これらの国々を支配したことと比較してみて欲しい。しかし、しかし、現在の状況は全く別の問題を提示している。核不拡散体制の崩壊を防ぎ、大規模戦争の危険性を減らすため、中国政府は朝鮮半島に最低限の軍隊を駐屯させる準備をすべきだ。

 

更に不確定なことがある。北朝鮮は独立独歩を貫いてきたが、このような協定を受け入れるだろうか?1950年に金日成が持っていたもともとの意向は、中国の支援なしに朝鮮半島を統一することであった。しかしながら、金日成の下に集った将官たちは朝鮮人であったが毛沢東率いる中国人民解放軍に参加した経歴を持っていた。中国が国連軍の反撃から北朝鮮を守ったと言っても、金日成と子孫たちは巨大な隣国に対して複雑な感情を持っていた。中国からの支援が必要不可欠だと認識しながら、依存に対する後悔と支援するために来てくれる中国に対する恐怖感を持っていた。このような積極的な中国の安心感を与える行動を歓迎するように説得することは不可能ではないが、困難な仕事となるだろう。

 

北朝鮮を説得するという責務は中国が担うことになるだろう、一方、アメリカは中国人民解放軍の駐屯によって北朝鮮に安心感を与えるという考えに対して韓国が持つであろうと予想される懸念を弱めるために動かねばならない。北朝鮮指導部は中国人民解放軍駐屯の提示を、状況を安定させる提示というよりも、金体制打倒の序章として受け止めるかもしれない。このような疑念を乗り越えるのは歴史的な外交上の挑戦ということになる。しかし、中国政府に残された選択肢は他にはない。金政権に核兵器を放棄させることができる選択肢が他にあるのなら、中国は北朝鮮への人民解放軍の派遣と駐屯を拒絶することができるだろう。しかし実際にはそれは不可能なのだ。複雑な多国間の交渉において約束を守るということは主要な要素となる。

 

北朝鮮が中国人民解放軍の駐屯による安心感を拒絶するならば、北朝鮮が進める核開発プログラムはより敵意を持った目的のためのものではないのかという疑念を認めてしまうことになるだろう。これらの疑問についてのあらゆる推測は必要でもないし、役立つものでもない。これらの疑問に対する最高の答えは、積極的で、革新的な外交によって出されるものだ。現在の状況が示している将来像は、戦争かもしくは北朝鮮が何の規制も受けないで核兵器を製造するというものだ。少なくとも将来的に破滅的な衝突が起きる危険性を高めるというものだ。

 

様々な利益、選択肢、可能性、野心の間の差し引きは複雑だ。皮肉な状況が生み出されてしまっている。北朝鮮に安心感を与えることは、不愉快なことであろうが、事態が悪化すれば戦争に巻き込まれることになるすべての利害を持つ国々にとっては必要不可欠なことなのである。

 

※アルトン・フライ:外交評議会(CFR)名誉上級研究員

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23