古村治彦です。

 

 北朝鮮については、なかなか渡航できず、情報も制限されており、実態がつかみにくい国です。たまにテレビや雑誌で隠し撮りされた写真や映像が流れたり、脱北者の証言が報道されたりで、そういうものから私たちはそれぞれに北朝鮮のイメージを作っています。YouTubeにアメリカ人が観光で北朝鮮を訪れた際に隠し撮りした映像があり、私にとっては興味深いものでした。

 

 韓国の統計庁という政府機関が北朝鮮の統計指標を毎年発表しているそうです。2017年度版が昨年12月に発表になっているそうです。『東洋経済』誌の福田恵介記者が統計数字を日韓と比較しながら、分析記事を書いています。

 

 経済規模も小さく、国民一人当たりの所得も大変低いわけで、日本や韓国の数十分の1、百分の1という数字が並んでいるのですが、北朝鮮が3.9パーセントの経済成長をしている、出生率が1.93で韓国や日本よりも高いという数字は私にとって驚きでした。

 

 鉱業生産、石炭や鉄鉱石の生産は韓国よりも優位に立っているというのは当然ですが(日本統治時代に北部は工業、南部は農業に適しているのでそのように開発された)、石炭の生産によって火力発電に使う石油の代替が出来ているとなると、石油の禁輸の効果も薄れてしまうと思われます。

 

 国連や日本による経済制裁を受けているのに、貿易が数千億円規模あって、経済成長率が3.9パーセントというのは私たちのイメージ外の北朝鮮の姿です。そして、食糧生産高は韓国と変わらない量であること(韓国は日本と同じく農産物を輸入している、できているということではありますが)、北朝鮮の人口が韓国の半分ですから、輸入が足りない、不足気味ではあっても一応食べていけているのだろうと推測されます。そうでなければ出生率が1.93で、人口増加もしているという数字は出てきません。

 

 そして、ご飯が食べることが出来て、出生率も高いということになると、これは、金正恩政権は安定していると言うことが出来ます。国民が金正恩の支配の正統性を認めているということになるでしょう。ご飯が食べられて、家族を形成できるとなると、北朝鮮国内で金体制を転覆させる勢力が力を持ちにくいということになります。

 

 このような状況では、金正恩政権を倒すこと、北朝鮮の統治システムを根本から作り直すことは難しいということになります。特に外国勢力がそのようなことをすれば、反感を生むだけということになるでしょう。ですから、アメリカは北朝鮮の体制転換までは考えていないと思われます。核兵器とミサイル開発を止めさえすれば、あの国がどうなろうが知ったことか、そこは中国とロシアが面倒を見ろよ、ということになります。

 

 中国とロシアにしてみれば、お荷物であることは事実ですが、北朝鮮があることで、米軍と国境で対峙しなくて済むというメリットもあります。ですから、中露両国はなんとかして北朝鮮情勢を軟着陸させたいと考えているでしょう。しかし、北朝鮮が中国に対して舐めた態度を取るようならば、膺懲ということがあるでしょう。その時にアメリカが中国に協力して地上軍の投入なしで、空爆、ミサイル攻撃で支援するということはあるのだろうと思います。

 

 しかし、北朝鮮を徹底的に破壊するという選択肢は米中露には存在しません。うまく北朝鮮を軟着陸させるという選択肢の実現のために、苦労しているということになるのでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「経済統計で見える「北朝鮮」の知られざる実像」

人口は韓国の半分、1人当たりGNI22分の1

 

2018年1月2日

福田 恵介 : 東洋経済 記者

『東洋経済』誌

http://toyokeizai.net/articles/-/203023

http://toyokeizai.net/articles/-/203023?page=2

http://toyokeizai.net/articles/-/203023?page=3

 

人口は韓国の半分、1人当たり国民総所得(GNI)22分の1――。韓国統計庁は201712月、「2017北朝鮮の主要統計指標」を発表した。

 

毎年12月、韓国政府は収集・推測したデータを基に、韓国と比較しながら前年の北朝鮮の経済分野などの統計を発表する。核実験とミサイル発射で日米など東アジア情勢をかきまわす北朝鮮。北朝鮮と言えば軍事面ばかり強調されるが、北朝鮮の経済・社会的姿がうかがえる統計だ。

 

今回発表された統計によると、2016年の人口は北朝鮮が2490万人(前年比12万人増)、韓国が5125万人(同23万人増)と、北朝鮮の人口は韓国のほぼ半分の規模だ。また、北朝鮮の出生率は1.94と、1.33の韓国を上回っている。

 

2016年の経済成長率は3.9%増

 

経済規模はどうか。2016年の北朝鮮の国民総所得(GNI、名目)は363730億ウォン(約3.8兆円)、1人当たりGNI146万ウォン(約15万円)で、前年比でそれぞれ1兆ウォン、7万ウォン増となっている。

 

韓国はそれぞれ16390665億ウォン(約172兆円)、3198万ウォン(約336万円)で、韓国と比べると北朝鮮の規模は45分の122分の1となる。日本の1人当たりGNIは約415万円(2015年)だ。また、経済成長率は北朝鮮は3.9%で、前2015年のマイナス1.1%から、一気にプラスへと回復したようだ。

 

核・ミサイル開発で北朝鮮に対する経済制裁が強化され、対外的な経済活動に制約を受けている北朝鮮だが、2016年の貿易総額(輸出額と輸入額の合計)は65億ドル(約7360億円)となっている。韓国は9016億ドル(約102兆円)で、北朝鮮の139倍の規模だ。北朝鮮の貿易総額のうち、輸出額は28億ドル(約3171億円)、輸入額は37億ドル(約4190億円)。ちなみに2016年の日本の貿易総額は約136兆円だった。

 

日本では食糧不足のイメージが続く北朝鮮の農業生産はどうか。2016年の食糧作物生産量は482万トン(前年比31万トン増)、韓国は471万トンとほぼ同レベルだ。そのうち、北朝鮮のコメ生産量は222万トン、トウモロコシは170万トンだ。北朝鮮が自給できる食糧作物生産量は550万~600万トンと言われている。食糧作物生産量のうち韓国はコメがほぼ9割を占めるが、北朝鮮ではトウモロコシも主食の一つとされている。

 

2017年秋から山形県や秋田県、石川県などの海岸に漂着する北朝鮮漁船が相次いでいる。北朝鮮の漁獲量をみると、2016年は101万トンで前年の93万トンより増えている。だが、韓国は325万トンで、3分の1の規模だ。日本は465万トン(2015年)水準である。

 

鉱工業統計では北朝鮮が優位に

 

北朝鮮が韓国を上回る数少ない経済データは、鉱工業関連統計だ。たとえば石炭生産量は北朝鮮が3106万トン(前年比357万トン増)、鉄鉱石は53万トン(同3.4万トン増)と、韓国の173万トン、4.5万トンよりはるかに多い。

 

朝鮮半島はもともと現在の北朝鮮である北部地方に地下資源が多く眠っている。また、1990年代後半からの経済難や自然災害で鉱山の生産活動が萎縮していたが、2010年以降、緩やかな経済回復を追い風に掘削など生産設備の更新も進んで生産活動が徐々に正常化したことが、増産の背景となっている。

 

だが、経済活動の基本となる電力生産量がふるわない。北朝鮮の発電設備容量は766万キロワットで韓国の14分の1。発電量も239億キロワット時で、韓国の23分の1水準だ。前2015年はそれぞれ743万キロワット、190億キロワット時で増加傾向にはあるが、十分な経済活動を行うには足りないことは、北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長も認めている事実だ。

 

20171012月に平壌を訪れた中国人や在日コリアンらに話を聞くと、「停電もほとんどなく、電力事情は悪くはなかった」と口をそろえる。最も簡単に入手できる石炭を燃料とする火力発電所を増やし、電力供給量を増やしていることもある。最近では、「石炭から原油を生産する石炭液化を積極的に進めている」という話も出てきた。しかし、経済制裁で原油やガソリンなどの石油関連製品の輸入が強く制限され始めており、2018年以降、発電事情がより厳しくなるとの見方が多い。

 

ユニークな統計も発表されている。携帯電話加入者数だ。北朝鮮での携帯電話加入者数は361万人で、10人に1.4台となり、まだ11台という状況ではない。北朝鮮では200812月ごろから移動通信事業が本格化したが、2009年の加入者は7万人だった。

 

その後、金党委員長政権が本格化した2012年以降、加入者数は増加。170万人から翌2013年は242万人に、2015年には324万人と300万台を突破した。平壌など都市部では携帯電話で通話する市民の光景は日常茶飯事となって久しい。

 

平壌市内には、日本のような携帯電話販売店も出現。北朝鮮で製造されているとされる「平壌」「アリラン」「チンダルレ(日本語でツツジ)」といったブランド名が付けられた携帯端末が販売されている。どのブランドも、現在はいわゆるガラケーとスマートフォンともに製造・販売されている。同時に、さまざまな携帯電話向けアプリも開発され、通信教育にも使用されているという。

 

韓国政府の意向が働く場合も

 

だが、韓国側が発表する北朝鮮統計には、注意も必要だ。その理由はまず、あくまでも韓国側の推計であることだ。北朝鮮は「敵国である米国に自国の状況を知らせるわけにはいかない」(朝鮮社会科学院経済研究所)という理由で、自国の統計を発表していない事情もあるが、韓国の情報機関などが情報分析などを土台に、これら統計を推計しているに過ぎない。韓国のある統一相経験者も「おおよそのトレンドがわかる統計」と述べるなど、その正確性については口を濁すほどだ。

 

さらに、韓国の時の政権における北朝鮮政策のスタンスによって、数字に手を加えられることもある。たとえば前述した経済成長率の場合、2015年のそれはマイナス成長と発表された。だが、2012年以降は平壌だけでなく全体的に北朝鮮経済が改善していることが実感できる状況だったのも事実で、けっしてマイナス成長とされるような要因を探すことは難しかった。

 

朴槿恵(パク・クネ)前政権は北朝鮮に対して厳しい政策スタンスを取っていたため、あえて低めの数字が発表された可能性もある。一方、20175月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は前政権よりも北朝鮮との対話を重視する方針であり、より温和な対北朝鮮政策を掲げている。そのような背景もあり、3.9%と前年比で大幅なプラス成長として発表されたのではないかとの見方もある。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23