古村治彦です。

 

 今回はアメリカの『ジ・アトランティック』という雑誌に掲載された金正恩朝鮮労働党委員長の訪中に関する分析記事の内容を抜粋してご紹介します。

 

 北朝鮮の指導者金正恩朝鮮労働党委員長は3月25日から28日にかけて、中国の北京を訪問しました。指導者になって初めての外国訪問となりました。中国の習近平国家主席の招待を受けての非公式訪問でしたが、最大級の歓迎ぶりでした。金正恩訪中についてはこのブログでも前回ご紹介しました。

 

 今回の金正恩訪中では、「朝鮮半島の非核化(denuclearization on Korean Peninsula)」という言葉がキーワードとなります。金正恩委員長は習近平国家主席に対して、祖父である金日成国家主席、父である金正日総書記の遺志を引き継いで、朝鮮半島の非核化に努力すると述べました。

 

 これは北朝鮮と韓国両国で核兵器は持たないということを意味する言葉です。韓国は核兵器を保有していませんが、韓国国内の米軍基地には1991年まで核兵器が配備されていましたが、ジョージ・WH・ブッシュ大統領(当時)が撤収を表明しました。昨年から韓国への核兵器配備を検討という動きがアメリカにあります。

 

 金正恩は核兵器を保有しているということを表明しつつ、韓国との関係改善を演出することに成功しました。そして、韓国を通じてアメリカに非核化について話し合いたいという希望を伝え、トランプ大統領も同意しました。

 

 金正恩としては非核化をできるだけ高く売りつけたい、少なくとも体制保障、あわよくば経済援助を引き出そうということを考えているでしょう。しかし、アメリカと約束をしても、リビアのカダフィ大佐のように、約束を反故にされて殺されてしまう危険性があります。

 

 そこで、関係を悪化させていた中国の後ろ盾が必要となります。金正恩は、中国とつながっていた叔父の張成沢を粛清し、中国が保護していた金正日の長男で、兄である金正男を殺害しました。このように中国に対して反抗的な態度を取ってきました。しかし、

 

 金日成が存命中、金正日が実務を継承した1982年に中国を訪問したことがありました。金正日は鄧小平を含む中国指導部と会談を持ち、中国国内を視察しました。帰国後、金正日は中国指導部について「修正主義者」だと批判しました。このことが中国指導部に極秘裏に伝えられ、鄧小平は激怒し、金正日を「黄嘴郎(嘴の黄色い青二才)」と呼び、「金正日のために北朝鮮は存亡の危機に瀕するかもしれない」と嘆いたと言われています。

 

 現在で言えば、金正恩が「黄嘴郎」であり、習近平は鄧小平と同じ立場にあり、「青二才である金正恩には困ったものだ、北朝鮮は潰れるぞ」と嘆いていることでしょう。それでも改善の傾向があります。金正恩は習近平との会談中に熱心にメモを取りながら話を聞いていたということです。また、金正恩が北京の駅に着いた際、出迎えたのは序列5位、中国共産党中央政治局常務委員である王滬寧(おうこねい、ワン フーニン、1955年―)中央書記処書記・中央精神文明建設指導委員会主任でした。王滬寧は中国屈指の戦略家としてヘンリー・キッシンジャーにも擬せられる人物で、習近平の側近です。

 

私は王滬寧が北京滞在中の金正恩に最新の世界情勢の情報と分析を教え、また、経済再建のための方策、権威主義的開発独裁について講義を行ったのではないかと考えています。そこで、「大変なことになるので、きちんと対応してほしい、経済発展も中国モデルを教えるから」ということになったのだろうと思います。

 

 金正恩としては、アメリカだけではなく中国からも体制保障を引き出し、二重の保険を掛けるということをやりたかったのだろうと思います。ただ、アメリカは前提条件なしで核兵器の放棄を迫るでしょう。核兵器の放棄に見返りを与えるという前例が出来てしまうのは好ましくありません。

 

 金正恩としてはアメリカからは核兵器放棄に伴う体制保障、中国からは体制保障と経済援助を引き出して、自身の支配体制を盤石なものにしたいと考えているのではないかと思います。そのためには恭順の意を示し、自分から戦争を仕掛けることはしないということを改めて中国側に確約したのだろうと思います(北朝鮮が戦争を始める場合には中国は支援しない)。

 

 習近平はアメリカに会談の様子を詳しく伝達したようです。アメリカは前提条件なしの核兵器放棄をさせて、その後のことは中国とロシア、韓国に任せるということになるのだろうと思います。ただ、北朝鮮がアメリカに対して何らかの前提条件を求めるとなると、交渉は決裂ということになるでしょう。

 

 朝鮮半島情勢は5月まで目が離せません。

 

=====

 

■記事の抜粋

 

・2018年初頭のスピーチで金正恩は核抑止力を保有したと述べ、かつ、冬季五輪大会への北朝鮮の参加に関心を持っていることを表明した。

・平昌五輪に北朝鮮からの代表団が訪問、金正恩と韓国大統領の特使の会見、同じ韓国大統領特使がトランプ大統領に対して金正恩からの会見の提案を伝達、トランプが受け入れ、といった順序で進んでいる。

 

・3月25日、金正恩は指導者となって初めての外遊として列車で中国の北京を訪問した。

・金正恩は習近平国家主席に対して、韓国大統領の特使にアメリカと核兵器に関して交渉をする用意があると述べたということを報告した。

・「故金日成国家主席と故金正日総書記の遺志に沿って朝鮮半島の非核化に取り組むという姿勢は一貫している」

 

・今回の中朝会談によって、中国は脇役にはならないということが示された。

・習近平は国際外交の世界で手腕を発揮している。

 

・今回の中朝会談はなぜこの時期に行われたのか?

・金正恩は時間を必要としていた。権力を掌握し、基盤を強化し、核抑止力を手に入れてやっと外国に行けるようになったと感じた。

・中朝関係はうまくいっていなかったが改善する方向にある。

・過去中国が国際的なイヴェントを開催した時に北朝鮮はミサイルを発射し、中国政府をイライラさせたが、党大会と全人代開催中、北朝鮮は静かだった。

 

・中国と北朝鮮は「唇亡歯寒」(毛沢東)と形容されるくらいに緊密で相互依存関係にある。

・中国は北朝鮮の輸出の90%を占めている。

・1961年の中朝友好条約には相互防衛上皇が存在する、現在では北朝鮮が攻撃を受けた場合に中国が援助するということになっている。北朝鮮が戦争を始めた場合には中国は支援しないことになっている。

・中国にとって北朝鮮は韓国龍柱米軍3万人に対する有効な緩衝材となっている。

 

・中朝首脳会談をアメリカ政府はどのように解釈すべきか?

・北朝鮮と中国はこれからも長期的な戦略目標を共有する。

・中朝両国とも金正恩体制の崩壊を望んでいない。

・中朝両国ともにアメリカが北東アジア地域の同盟諸国からの米軍撤退を望んでいる。

・北朝鮮政府の考える「朝鮮半島の非核化」はアメリカ政府が求める核兵器の「完全な、照明付きの、再開できない」廃棄ではない。

・北朝鮮の求める朝鮮半島の非核化は北朝鮮が核兵器の廃棄をする代わりに、朝鮮半島から「核兵器による盾」を除去することである。これは中国政府の目的にも適う。

 

・これからの数カ月は予測不能でかつ重要だ。習近平は金正恩からの招待を受けて北朝鮮を訪問することを承諾した。

・ホワイトハウスは混乱の中にあり、ジョン・ボルトンが新たな大統領国家安全保障問題担当補佐官となる。

・ジョン・ボルトンは外交や非武装化交渉には興味がない。米朝首脳会談は開催の時点でもう意味がないもの(dead on arrival)となっている可能性がある。衝突に向けた危険な道を進むことになる可能性がある。

 

・トランプは水曜日、金正恩が非核化を行い、外交政策を成功させる「十分な可能性」があるツイートした。

・トランプ大統領は金正恩が交渉を求めているのは「最大限の圧力」キャンペーンが奏功しているからだとしている。

・金正恩の年頭の演説は強硬な姿勢を示していることも忘れてはならない。

・金正恩が非核化をしたいとのべているが、これはアメリカが支払いたくない代償を支払った後に行うというものである。

 

・これからの状況は4月末の南北首脳会談にかかっている。

・南北首脳会談で穏健な前提条件を基礎にしたしっかりとした中身の非核化に関する声明が出れば、これがトランプ政権に対して北朝鮮と交渉が出来て生産的な結果を得られる道を進むことが出来るということを示すものとなる。

・生産的な道のりを進むことが出来れば、アメリカ政府が求める北朝鮮の核兵器の「完全な、照明付きの、再開できない」廃棄と破滅的な核戦争を回避できる。

 

(貼り付けはじめ)

 

Why Did Kim Jong Un Just Visit China?

His surprise visit to Beijing underscores China’s influence.

 

ANKIT PANDA 11:47 AM ET   GLOBAL

https://www.theatlantic.com/international/archive/2018/03/kim-jong-un-china/556670/

 

For months, China seemed to be a side player as relations improved between North Korea and South Korea. Kim Jong Un, the leader of North Korea, kicked off the year with an address celebrating the completion of his nuclear deterrent after months of boasting about his increasing nuclear capability. In his speech, he also expressed interest in North Korea’s participation in the Winter Olympics. That, in turn, provided Moon Jae In, the president of South Korea, with the diplomatic opening he sought. What followed: an exchange of conciliatory gestures at the Winter Olympics in PyeongChang, which set the stage for a meeting in Pyongyang between Kim and a team of South Korean envoys. Those same envoys then presented an invitation from Kim to meet with President Donald Trump, who had threatened North Korea’s total destruction; Trump immediately accepted. Seoul, it seemed, was in control of the fate of the Korean Peninsula.

 

Then, on Monday, speculative reports observed that an armored train from North Korea was en route to Beijing. Eventually, state media in China and North Korea confirmed that the visitor aboard the armored mystery train from North Korea to Beijing was none other than Kim Jong Un. For the first time in his six-year reign, Kim had finally left North Korean soil to meet the leader of his country’s oldest benefactor, China. During the visit, Kim reportedly told Xi Jinping, the president of China, what he had told South Korea’s presidential envoys: that he was ready to talk to the United States about his nuclear weapons. “It is our consistent stand to be committed to denuclearization on the peninsula, in accordance with the will of late President Kim Il Sung and late General Secretary Kim Jong Il,” Kim was quoted as having said, according to Xinhua.

 

The Beijing meeting showed that whatever may come of the upcoming inter-Korean and North Korea-U.S. summits, China will not be a peripheral player. Xi Jinping, fresh out of the National People's Congress with an open-ended mandate as president of the People’s Republic, has flung himself into international diplomacy with gusto.

 

After news of the Xi-Kim meeting broke, one of the obvious questions was: Why now? (For comparison: Kim’s father, Kim Jong Il, also waited six years before leaving North Korea to engage the outside world.) Kim likely just needed time. After eliminating his rivals, consolidating power, and achieving what he likely saw as the completion of a sufficiently credible nuclear deterrent, Kim finally felt ready to go abroad. Recent events also suggest that the Beijing-Pyongyang relationship, which is often strained, is on the mend. North Korea withheld from any ballistic missile provocations during China’s 19th Party Congress. Kim also congratulated Xi both after the Party Congress and the recently concluded National People's Congress. In the past, by contrast, North Korea launched missiles as China held a range of significant international events, embarrassing and annoying Beijing.

 

But no matter the tensions of the moment, China and North Korea are as close and interdependent as “lips to teeth,” as Mao Zedong put it. Whatever the temporary hiccups in their relationship, China accounts for 90 percent of North Korea's external trade, giving it extraordinary leverage over Pyongyang. The two countries also share a tight historical bond: Chinese soldiers fought, bled, and died on North Korean soil during the Korean War. Their 1961 Treaty of Friendship includes a mutual defense article—one that is thought to only apply now in the case that North Korea is attacked by an aggressor. (China would not back North Korea should it initiate a war.) Finally, for China, North Korea represents a useful buffer, separating it from the nearly 30,000 U.S. troops based on South Korean soil. Kim’s time with Xi underscored the unshakeable bond between Beijing and Pyongyang.

 

How should Washington interpret the Beijing meeting? For one thing, it should make abundantly clear to the Trump administration that, no matter what, North Korea and China will continue to share long-term strategic objectives. Neither country wants to see the end of the Kim regime, and both Beijing and Pyongyang seek to evict the United States from its alliances in Northeast Asia. It’s also worth remembering that Pyongyang’s interpretation of a “denuclearized Korean Peninsula” is not one where its arsenal has been “completely, verifiably, and irreversibly” dismantled as Washington would like, but one where it gives up its weapons in exchange for the United States withdrawing its nuclear shield from the Peninsula and leaving altogether. This would comport well with Chinese objectives.

 

The next few months are unpredictable and critical. Xi has accepted an invitation from Kim to visit North Korea. Meanwhile, the White House remains in chaos, anticipating the arrival of John Bolton as Trump's new national security advisor. Bolton, infamous in North Korea for his disinterest in good-faith diplomacy and disarmament talks, could leave the U.S.-North Korea summit dead on arrival, potentially paving a dangerous path for the president toward conflict.

 

Trump, meanwhile, said in a tweet on Wednesday that he believes there is a “good chance” that Kim will denuclearize and give him a foreign policy win that evaded his predecessors. He attributes Kim’s willingness to talk to his “maximum pressure” campaign. But Kim’s post-New Year’s overture is one borne of a position of strength, not weakness—something the White House must recognize. When Kim tells Trump that he’s willing to denuclearize, he’ll likely follow that up with a price that the United States should not be willing to pay.

 

Much will depend, too, on the success of the late-April summit between Moon and Kim. If this meeting produces a concrete statement on denuclearization, with moderate preconditions, it could show the Trump administration that there may be a productive path forward with North Korea. Where might this path lead? To a destination somewhere between “complete, verifiable, and irreversible denuclearization” and a disastrous nuclear war.

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)


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