古村治彦です。

 3月に入り、国際情勢が大きく動いています。このことを受けて、日本国内の内政問題に関して、「そんな大したことのない問題にかかずらうな」という声も出ていますが、日本は主要なアクターではないので、まずは主要なアクターとなれるように、内政問題をきちんと解決するところから始めねばなりません。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領の安全保障担当補佐官である鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長が3月5日に北朝鮮を訪問し、北朝鮮の最高指導者である金正恩労働党委員長に会見しました。この時、南北首脳会談の実現と米朝による対話の促進が確認されました。

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この直後、3月8日、鄭義溶韓国国家安保室長らが大統領特使としてホワイトハウスを訪問しました。アメリカのドナルド・トランプ大統領、マイク・ペンス副大統領、ハーバート・R・マクマスター大統領国家安全保障問題担当補佐官にこれまでの経過を報告しました。そして、金正恩委員長による米朝首脳会談実現提案があったことを伝えました。そして、トランプ大統領も提案を受け入れ、5月いっぱいまでに米朝首脳会談実現したい旨を述べた、と鄭室長はメディアの前で発表しました。その後、サラ・ハッカビー・サンダース報道官は楽観的な見方を否定する記者会見を行いました。


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 一つ気になったのは、鄭義溶がホワイトハウスの外で会見をした際に、アメリカ側のカウンターパートは誰も立ち会っていなかったということで、これはアメリカ側としては事前に米朝首脳会談提案について聞いておらず、トランプ大統領はその場では受け入れるということを述べましたが、トランプ政権としては事前に聞いておらず、態度を決められないので、賛意も反対も示すことができず、

 

3月13日にレックス・ティラーソン国務長官を解任、後任にマイク・ポンぺオCIA長官を指名しました。3月6日(ゲイリー・コーン国家経済会議議長解任の日)と13日にジョン・ボルトンとホワイトハウスの大統領執務室で会い、3月22日に、ハーバート・マクマスター陸軍中将を解任し、ジョン・ボルトンを後任にすると発表しました。

 

3月25日から28日にかけての金正恩労働党委員長の訪中、習近平国家主席との会談はこのような流れの中で実現しました。中朝首脳会談についての分析記事は既にこのブログでご紹介しました。29日にはトランプ大統領は演説の中で、トランプ大統領は「在韓米軍は負担になっている」と述べました。在韓米軍の削減、もしくは撤退に向けた動き(ジミー・カーター大統領時代も検討された)ではないかとも考えられます。

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 こうした動きの中で、中国の習近平国家主席が3月9日に米中韓朝4か国による朝鮮戦争休戦協定の平和協定への移行をトランプ大統領に直接提案したという報道が出ました。この時、トランプ大統領は「聞きました」という態度であったということです。

 

 3月上旬、韓国が「外交攻勢」を強めており、南北首脳会談の実現、米朝交渉の促進で主導権を取っています。同時期、中国の習近平国家主席が朝鮮戦争休戦協定を平和協定に変更するという提案を行いました。1953年の朝鮮戦争休戦協定の署名者はアメリカ(国連軍)、北朝鮮、中国です。韓国はこの時署名者にはなっていません。ですから、休戦協定を変更するためにはアメリカを通さねばなりません。習近平国家主席は、中国、アメリカ、北朝鮮に韓国を加えた新しい枠組みで平和協定を締結することを提案しました。

 

 韓国は同盟国であるアメリカ、そして日本と緊密に協力していくとしながらも、裏では中国とつながり、中国を利用して北朝鮮問題において改善を図ろうとしているように思われます。また、中国も韓国を引き入れて、北朝鮮問題を解決しようと考えているようです。これに対して、アメリカ側、トランプ大統領は、本当は何を考えているのか、肚の底を見せずに、ある意味で不気味な沈黙というか、穏やかな姿勢を保っています。しかし、軍事行動を主張する強硬派、超タカ派(uber-hawk)のマイク・ポンぺオ、ジョン・ボルトンの起用をしてみせて、決して、中韓の考えている路線には同調しないという姿勢を見せました。しかし、在韓米軍がアメリカにとって負担という発言もし、新しい平和枠組みに乗るかもしれないと思わせ、巧みに周囲を翻弄しているのはトランプ大統領の真骨頂が発揮されています。

 

 中国と韓国が北朝鮮問題について本腰を入れ始めることはアメリカにとって歓迎すべきことですが、あくまで主導権と決定権はアメリカになければなりません。北朝鮮の核兵器がアメリカの国家安全保障上の問題にまで深刻化してしまった以上、照明付きの完全な廃棄、しかもそこには何の前提条件もないということがアメリカにとっての重要なことです。

 

 金正恩としては体制保障が確実にならなければ核兵器を放棄することはできません。アメリカとの約束もどうなるか分からないのはリビアのカダフィ大佐の最期を見れば明らかです。アメリカだけでは不安となれば、中国をそして韓国、できればロシアも体制保障の枠組みに入れたいところです。金正恩は中韓朝の枠組みを構成するという動きをうまく利用していると言えます。

 

 最後の米朝首脳会談でどうなるかということですが、米朝首脳会談自体の準備が進んでいるのかどうか、いまだに分からない状況というのが事態を不透明にさせています。アメリカとしてはあらゆる可能性をシミュレーションしているでしょうし、国内政治、中間選挙も絡んで複雑な方程式を解かねばならないというところでしょう。

 

 人々を一番驚かせる内容は米中韓朝の平和協定が成立して、韓国からアメリカ軍が撤退、韓国は米中との間で友好を維持しつつ、北朝鮮を少しずつ経済発展と自由化の方向に勧める、これに中国とアメリカ、ロシアも協力する、ということになることでしょう。韓国から米軍が撤退する場合、日本はアメリカの橋頭堡、不沈空母として存在し続けねばならず、自衛隊の米軍との共同運用の増加、駐留米軍への負担の増加といったことが起きる可能性があります。日本はこれからも蚊帳の外に置かれながら、負担だけは重たくなっていくという厳しい状況のままに置かれることでしょう。これは国民の無関心と無知、政治家の覚悟のなさが原因であり、自業自得と言わざるを得ません。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「習氏、トランプ氏に新安保を提唱 米中南北の平和協定も」

 

2018/4/1 02:01

©一般社団法人共同通信社

https://this.kiji.is/352860349210477665?c=39546741839462401

 

 【ワシントン共同】中国の習近平国家主席が39日にトランプ米大統領と電話で北朝鮮情勢を協議した際、朝鮮戦争の主要当事国である米中と韓国、北朝鮮の4カ国による平和協定の締結を含む「新たな安全保障の枠組み」の構築を提唱していたことが31日、分かった。複数の米中外交筋が明らかにした。

 

 国連軍と北朝鮮、中国が1953年に締結した朝鮮戦争休戦協定の平和協定への移行を念頭に置いているとみられる。習氏は日本に言及しておらず、南北、米朝の首脳会談後の交渉を、4カ国を中心に進める考えを示唆した可能性がある。

 

 トランプ氏は明確な賛否を示さず、圧力維持を習氏に求めたもようだ。

 

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●「「金正恩氏、トランプ氏との面会熱望」 訪米の韓国高官」

 

朝日新聞 ワシントン=香取啓介2018391147

https://www.asahi.com/articles/ASL393CHCL39UHBI00R.html

 

 米ホワイトハウスで8日、韓国大統領府の鄭義溶(チョンウィヨン)・国家安保室長が記者団にした説明は以下の通り。

 

 本日、トランプ米大統領に対して、私の最近の北朝鮮・平壌訪問について、報告する栄誉にあずかった。トランプ大統領、副大統領、私の友人のマクマスター将軍(国家安全保障担当大統領補佐官)をはじめとする素晴らしい国家安全保障スタッフにお礼を言いたい。トランプ氏のリーダーシップと、国際社会と連帯した「最大限の圧力」政策によってここまで来られたと説明した。そして、トランプ氏のリーダーシップに対する文在寅(ムンジェイン)大統領の感謝をお伝えした。

 

 我々との会談で、北朝鮮指導者の金正恩(キムジョンウン)氏が非核化に取り組むと言ったことをトランプ氏にお伝えした。金氏は北朝鮮がこれ以上の核実験やミサイル発射実験を控えることを約束した。また、通常の韓米合同軍事演習が続けられることに理解を示した。そして金氏は、トランプ氏にできるだけ早く面会することを熱望していると表明した。

 

 トランプ氏は報告に感謝し、恒久的な非核化のために、金氏と5月までに会うと言った。韓国は米国、日本、その他の多くの世界のパートナーとともに、朝鮮半島の完全なる非核化に断固として取り組んでいく。

 

 トランプ氏とともに、我々は平和的解決の可能性を探る外交プロセスが続くことを楽観している。韓国と米国、我々のパートナーはともに立ち向かい、過去の過ちを繰り返さないと強調する。そして、北朝鮮がその言葉に見合う具体的な行動をするまで圧力をかけ続ける。(ワシントン=香取啓介)

 

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●「「北朝鮮の具体的行動」なければ首脳会談せず 米報道官」

 

朝日新聞 ワシントン=峯村健司20183101207

https://www.asahi.com/articles/ASL3B2VQ5L3BUHBI00M.html

 

 米ホワイトハウスのサンダース報道官は9日の会見で米朝首脳会談の開催合意について、「北朝鮮が言葉通りの具体的行動をとるまでは会談することはない」と述べた。米政府当局者は9日、朝日新聞の取材に対し「北朝鮮側が約束を履行するかどうかを注視している」と説明した。

 

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は8日に韓国高官を通じて米側に対し、非核化に取り組むことや、核実験や弾道ミサイル試射を凍結すると伝えた。サンダース氏は、北朝鮮側が「具体的措置をとるという前提で要請を受け入れた」と説明。首脳会談の時期や場所、議題などは決まっていないとした。

 

 一方、ペンス副大統領は9日、「北朝鮮が核開発終結に向けた永続的かつ検証可能で具体的な行動をとるまで、すべての制裁と最大限の圧力は続く」とする声明を発表。首脳会談が実現しても、北朝鮮に核放棄を求める圧力を緩めない考えを改めて強調した。

 

 トランプ大統領は9日、自身のツイッターで「北朝鮮とのディール(取引)は進展しており、うまくいけば世界にとってすばらしいものになる」と語った。(ワシントン=峯村健司)

 

(貼り付け終わり)

※私の仲間である石井利明さんのデビュー作『福澤諭吉フリーメイソン論』が2018年4月16日に刊行されます。大変充実した内容になっています。よろしくお願いいたします。

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(仮)福澤諭吉 フリーメイソン論

 

(終わり)


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