古村治彦です。

 

 今回は少し古い記事になりますが、「金正恩は何をどう考えるか」ということをテーマにした記事をご紹介します。

 

著者のロバート・マニングはジョージ・W・ブッシュ政権下で国務省に入り、2001年から2004年まで国務次官特別顧問を務め、2004年から2008年まで国務省政策企画局に勤務しました。現在はアトランティック・カウンシルの上級研究員を務めています。

 

 マニングは金正恩の意図について、「何とか核兵器を全て放棄することなく、安全保障を得て、経済成長をする」という「二兎追う」作戦を実行しようと考えているとしています。

金正恩は、経済発展のために支援を得つつ、アメリカに見つからないようにして、核兵器とミサイルを隠し持ちたいと考えているとしています。そのために核開発の「凍結(これ以上進めない)」という言葉を使って、「進めないけど、これまでの成果は保持する」

 

しかし、マニングの論の進め方で肯定しにくい部分は、金正恩が核兵器を隠し持つということを選択するのかということです。今回、うまく合意を結んだとして、もし核兵器を持っているということが明らかにされてしまえば、何の言い訳も聞かれることなく、金王朝は「お取り潰し」となります。アメリカの国家安全保障上の脅威と認定されている核兵器とミサイルを、アメリカを欺いて隠し持っていたとなれば、問答無用ですし、これではロシアも中国も肩入れできません。

 

 アメリカが考えるとすれば、北朝鮮を信頼することなく、自分たちの利益を得るということです。それは、核兵器とミサイルの完全放棄とその保証ということになるでしょう。この保証を中国とロシアに担当させて、もし北朝鮮が破れば(ごまかして核兵器とミサイルを秘密裏に保持する)、中国とロシアが厳罰を下し、それで足りなければアメリカが攻撃するということになるでしょう。

 

 しかし、金正恩が米朝首脳会談の実現と成功を望むながら、核兵器とミサイルの完全放棄は条件となります。ですから、ここで下手な小細工をしてごまかしても、次に「核兵器とミサイルを持っている」ということを明らかにしたら、その時点で、アウトということになります。

 

 

 ここで考えてみたいのは、そもそもどうして北朝鮮は、巨額の資金と膨大な労力をかけて核兵器を保有することになったのか、ということです。核兵器で脅しても周辺諸国はお金をくれる訳ではなく、かえって厳しい経済制裁を科されるということになりましたし、韓国は核兵器を持っていない訳ですから、持つ必要があったのかどうかということになります。

 

 結局、これは、下の論文にもありますが、「アメリカと合意を結んでも、それは破られてしまう。だからリスクヘッジのために持つしかない」ということが最大の動機ということになります。そう考えると、そもそも論として、アメリカが海外に過度の介入を行い、気に入らない政権を転覆させた来た、という歴史が生み出した、「自業自得」のもの、バックラッシュということになります。

 

 

 

(貼り付けはじめ)

 

ある独裁者の頭の中:金正恩の思考プロセスを把握してみたい(Inside the mind of a dictator: trying to grasp Kim's thought process

 

ロバート・マニング筆

2018年3月16日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/opinion/national-security/378769-inside-the-mind-of-a-dictator-trying-to-grasp-kims-thought-process

 

北朝鮮の李容浩外相はスウェーデンを電撃訪問した。米朝間に国交がないためスウェーデンは平壌においてアメリカの利益を代表している。これはトランプ大統領と金正恩委員長による米朝首脳会談の実現に向けた計画の遂行が行われており、李外相の訪問はその初期段階であることを示している。この訪問でアメリカ政府と韓国政府の中で、何が出来て、何ができないかについて議論が沸騰している。

 

このだらだらと続くバブルに欠けているのは、米朝最高首脳会談を成功させる、もしくは失敗させることになる2つの重要な疑問である。

 

おそらく最も重要な疑問は、「金正恩は“鄧小平になる瞬間”を持てるのだろうか?」というものだ。これまでにないほどの厳しい経済制裁で北朝鮮の経済が破壊され始めている事態に直面し、エリートたちに対して褒賞を与える力が削がれている。金正恩は中国が経済制裁を支持し、トランプが軍事攻撃を行うという脅しを行っているということを認識した。金正恩は、並進路線(Byungjin、核武装力と経済発展)を考え直さねばならない状況に追い込まれている。

 

金正恩が自分の中で自己と行う対話の論理は次のようなものとなるだろう。

 

「私は圧力を受けている。並進路線(Byungjin、核武装力と経済発展)は危機に瀕している。私は現在34歳だ。私はこれから30年から40年は生きていたい。バスケットボールとウィスキーのシングルモルトが好きだ。私はより発展した、ハイテクの統一された朝鮮半島を見てみたい。統一された朝鮮半島は緩やかな連合となるだろう。その中に私の占める位置が存在する」。

 

「経済改革と共産主義に基づく権威主義的支配は、中国とヴェトナムで機能している。両国はそれで豊かになっている。私は両国の誤りを避けることが出来る。私は韓国政府をうまく利用することが出来るだろう。それで私は支配し続けることができる」。

 

「しかし、私がその代償として支払わねばならないのは私が持つ大量破壊兵器をすべて放棄するというものだ。“ビッグバン”のような衝撃的な合意によって中国が改革開放で進めた経済改革が我が国でもすぐにスタートするだろう。そして、経済成長は私の統治の正統性を担保するのに十分なものとなるだろう」。

 

「北朝鮮と韓国が平和条約に向けて前進し、平和条約締結後にアメリカが朝鮮半島に関わらなければ、私に核兵器など必要ないのだ。アメリカは私の持つ核兵器の所在地全ては知らないはずだ。私は核弾頭の1発か2発かはアメリカが見つけられない場所に保管できるだろう」。

 

「平和条約締結と核兵器を隠し持つことは試してみる価値がある。私は南北首脳会談で核開発の凍結を提案できる。文在寅大統領は核開発の凍結を非核化に向けた“一時的なステップ”と考えるはずだ。しかし、私はこの条件として国連による制裁の解除を主張できる」。

 

「このようにして圧力を解除できれば、我が国はパキスタンのような通常国家として受け入れられるだろう。そして、核開発の凍結以上よりも先に進まないための言い訳を探すことが出来る」。

 

「アメリカが反対するならば、少しずつ譲歩する。私の核兵器と大陸間弾道ミサイルを放棄するための代償を釣り上げることが可能だろう。エネルギー援助と現金がとりあえずすぐに必要だ。ロシア極東からの水力発電も必要だ。北東アジア地域における統一的なエネルギー供給システムの一環として石油と天然ガスのパイプラインが必要だが、北朝鮮国内にそれらを通して、賃貸料を受け取ることもできるはずだ」。

 

「2005年の合意の時と同様、私は米朝関係の正常化を要求できる。そして、アメリカ、ロシア、中国の3か国による安全保障も求めることが出来る。これによって、リスクを減らし、外国からの投資に門戸を開くことが出来る。私は朝鮮半島再建基金のために200億ドルを要求し、それを中国が主導する「一帯一路計画(BRI)」の一環であるアジアインフラ投資銀行に要求する」。

 

このようなシナリオはある種の賭けを行い、中国型の改革を行うことがあれば実現する可能性がある。しかし、アメリカと北朝鮮が誠心誠意話し合い、合意に達するにしても、2つ目の疑問がこのシナリオの実現可能性を低めてしまう。

 

それは「いかなる合意が出来たとしてもその実行をどのように検証するのか?」というものだ。

 

北朝鮮は極秘のうちに1990年代に高濃縮ウランプログラムをスタートさせた。これは1994年の合意をアメリカが破ることを想定してそのための備えとしてであった。また、北朝鮮は極秘のうちにシリア国内に核関連施設を建設した。そのため、北朝鮮政府に対する信頼はほぼゼロだ。トランプ大統領は、北朝鮮は、冷戦期におけるレーガン大統領のゴルバチョフへの対応と似た対応を取ることになるだろう。それは、信頼はしないが、検証はする、というものだ。

 

北朝鮮がこれまで繰り返してきた違反行為や虚偽はこの際脇に置いておく。それでもまだ大きな問題が一つ残る。私たちは金正恩がどれくらいの数の核兵器を保有しているのか正確に知らないし、それらがどこにあるかを正確に把握していない。私たちは中距離、長距離の移動式ミサイルがどれほど存在しているのかを正確に知らないし、どの山やトンネルに隠されているのか分かっていない。高濃縮ウラン施設の数と場所についても正確に把握していない。

 

通常であれば、合意に至るまでに、北朝鮮政府は国際原子力機関(IAEA)に核兵器プログラムの詳細を明確にし、報告しなければならない。IAEAは核関連施設を監視し、調査を実施することになる。しかし、徹底した調査を行うとしても、金正恩が核兵器とミサイルを完全に放棄しどこか見つけられない場所に隠してなどいないと確信を持てる人はいるだろうか。

 

これらの合意は全て完璧という訳にはいかない。アメリカ政府は北朝鮮政府がごまかしを行うということを前提にしなければならない。しかし、アメリカはどれくらいのごまかしまでは許容できるだろうか、私たちが知らないことをどのように私たちは知ることが出来るようになれるだろうか?

 

現在のところ、金正恩が戦略的な選択をし、「鄧小平となる瞬間」を持つという考えには論拠となる証拠はあまり存在しない。今年1月1日の演説以降の金正恩の行動はこれまでになく合理的だ。アメリカ政府は「金正恩が合理的に行動している」という前提についてテストをしてみる必要がある。

 

武器の放棄の確認をどのように行うかという問題については、私は考えつかないが、アメリカが許容できる実行可能な形式が存在する可能性はある。これまで文中で提起した疑問に答えを出せる人はノーベル平和賞を受賞できるだろう。そのほかの問題は比較してみて大した問題はないということになる。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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今の巨大中国は日本が作った

※私の仲間である石井利明さんのデビュー作『福澤諭吉フリーメイソン論』が2018年4月16日に刊行されました。大変充実した内容になっています。よろしくお願いいたします。

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(仮)福澤諭吉 フリーメイソン論

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