古村治彦です。

 

 今回は少し古い記事になりますが、「非核化(denuclearization)」という言葉についての記事をご紹介します。「非核化」という言葉を冷静に受け止めなければ、大きな期待が大きな失望に変わってしまうという可能性があります。

 

 何度もご紹介しましたが、北朝鮮の言う「朝鮮半島の非核化(denuclearization on the Korean Peninsula)」とは「北朝鮮が核兵器を廃棄する条件は、韓国からの駐留アメリカ軍の撤退と核の傘から韓国を外すこと」です。一方、アメリカ側の考えは、「北朝鮮がまず核兵器を完全に放棄、それも、完全な、検証可能な、逆戻りできない(complete, verifiable, and irreversible)核廃棄を行うこと、話はそれから」ということです。

 

 金正恩は自分の持つ核兵器を最大限「高く」売りつけたい、ドナルド・トランプ大統領はできるだけ「値切り」たい、できれば「無料(ただ)」で良い結果を得たい、ということを考えて、駆け引きを行っているでしょう。

 

 金正恩はアメリカだけではなく、中国とロシアにも体制保障をしてもらって、保険を何重にも掛けたいところです。アメリカだけの体制保障では、いざというときに簡単に裏切られてしまいます。ですから、今中国に恭順の姿勢を示し、韓国も取り込んで、中韓を味方に引き入れて、それをバックにアメリカとの交渉に臨もうとしています。

 

 しかし、問題は、米朝間の「非核化」の定義の大きな相違です。アメリカの主張する非核化は北朝鮮の一方的な降伏を意味するもので、これでは金正恩も納得できないでしょう。アメリカとしては在韓米軍の撤退というのは自分たちの持つ選択肢の一つということで交渉に臨めますが、交渉の前提条件が「北朝鮮の一方的な核兵器の廃棄」で、「それが出来たと確認出来たら、何か話をしてやる、経済援助などは中国と日本の担当だ」という態度です。

 

 アメリカとしては、アメリカ領土を攻撃できる大量破壊兵器を北朝鮮が持っているということは国家安全保障上の脅威ですから、この問題の対処でいい加減な妥協はできません。こうなると、米朝首脳会談までの下交渉では相当厳しいやり取りが行われているものと思われます。アメリカ側は正式に国務長官となったマイク・ポンぺオが指揮を執っているので、厳しい態度で交渉を行っているでしょう。

 

 北朝鮮の核兵器問題と米朝首脳会談に関してはまだまだ楽観を許さない状況です。

 

(貼り付けはじめ)

 

北朝鮮の「非核化」の定義はトランプの定義とは大きく異なる(North Korea’s definition of ‘denuclearization’ is very different from Trump’s

 

アンナ・フィフィールド筆

2018年4月9日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/north-koreas-definition-ofdenuclearization-is-very-different-from-trumps/2018/04/09/55bf9c06-3bc8-11e8-912d-16c9e9b37800_story.html?utm_term=.a35acd131ad8

 

ソウル発。ホワイトハウスは現在、トランプ大統領と北朝鮮の指導者である金正恩委員長との非核化(denuclearization)を巡る首脳会談に向けて準備を加速させている。米朝首脳会談は来月開催されると考えられている(訳者註:期限は6月上旬まで)。しかし、「非核化(denuclearization)」は何を意味するのか?

 

答えは誰にこの質問をするのかで変わってくる。ワシントンにいる人に質問すれば、3月末にトランプ大統領がツイートしたように、「朝鮮半島の非核化」は、金正恩委員長が核兵器とミサイルを放棄し、国際機関の調査官たちが、金正恩政権が核兵器の放棄という約束を調査することを許容する、ということと答える。

 

北朝鮮政府に対して質問すれば、上記の意味とは全く異なる答えをする。北朝鮮の意味する非核化は、核兵器の廃棄に向けた相互のステップというものだ。これには、アメリカが韓国と日本に与えている核の傘を引き上げることも含まれている。

 

非核化という言葉の定義には違いがあり、この違いのために米朝首脳会談が始まる前に警鐘が鳴らされる可能性がある。

 

核拡散問題の専門家であるMITのヴァイピン・ナランは「金正恩は彼が築いた核兵器の王国の門の鍵を渡すであろうという非現実的な期待を持って交渉に入るのは危険だ。金正恩は鍵を渡すことはないだろう」。

 

「金正恩は、少なくとも、アメリカが韓国との軍事同盟を放棄することに合意するときに限り、核兵器とミサイルを放棄するだろう」ナランは述べた。アメリカと韓国の軍事同盟は1950年から1953年にかけて発生した朝鮮戦争の時以来のものだ。金正恩委員長は、アメリカの韓国と日本に対する「拡大された抑止力(extended deterrence)」を終わらせることも主張する可能性がある。

 

金正恩は、韓国と日本に「拡大された抑止力」への関与をアメリカが止めることを求めるだろう。「拡大された抑止力」は、アジアにおける同盟諸国が北朝鮮からの攻撃にさらされた場合に、核兵器で報復攻撃を行うというものだ。

 

北朝鮮は長年にわたり、韓国におけるアメリカの軍事的プレゼンスを、北朝鮮崩壊を目的とする「敵視政策」の一部だと考えてきた。金一族が北朝鮮の全体主義的な支配を維持し続ける試みとして、北朝鮮は朝鮮戦争に関して国民に教え続けており、その記憶は鮮明なままだ。朝鮮戦争時、アメリカは北朝鮮国土の大部分を爆撃し、焦土と化した。

 

ナランは次のように述べている。「米朝首脳会談が最悪の失敗に終わる場合、それはトランプ大統領が朝鮮半島の非核化は金正恩が一方的に核兵器を放棄するという誤った考えを持って会談に臨んだ時だ」。

 

実際、アメリカ政府は北朝鮮がはじめに核兵器の放棄が交渉に入るための「不条理な前提条件」だとしていることについて、2016年中盤頃には、それは行わないと主張していた。アメリカらかの核兵器廃棄要求に対して、北朝鮮は5つの条件を提示した。その中で、北朝鮮は、アメリカに対して、韓国領内からアメリカの核兵器を発射しないことを明言することを求めた。

 

北朝鮮は5つの条件を取り下げるとは述べていない。今月末の南北首脳会談に向けて文在寅大統領に助言を行っている韓国の専門家たちの中には、これら5つの条件を求めることは非現実的だと金正恩は分かっていると述べている。

 

専門家たちは、金正恩はその他の妥協的な条件を求める可能性があるとしている。東国大学の北朝鮮研究の教授で文大統領に助言を行っているコウ・ユファンは、北朝鮮は韓国駐留の米軍の規模の縮小を求める可能性があると述べた。

 

アメリカは約28000名の将兵を韓国に駐留させている。韓国の首都ソウルの南に巨大な基地を置いている。この基地は北朝鮮の通常の火力兵器の射程距離外にある。

 

米国防総省は毎年実施している韓国軍との共同訓練を、2月に開催された冬季五輪後まで延期することに同意した。

 

しかし、実施された訓練は例年に比べて規模が小さいものとなった。フォール・イーグルと呼ばれた実地訓練には11500名の米軍の将兵が参加した。昨年の訓練には15000名の将兵が参加したので、参加人数は減少した。双竜上陸作戦用軍事演習は前回2週間に渡り行われたが、今年は1週間だけとなり、先日の日曜日に終了した。

 

こうしたことは4月27日に開催される南北首脳会談に向けた環境作りを目的としている。南北首脳会談は南北の境界線にある「平和の家」で行われる南北首脳会談の翌月には米朝首脳会談が開催される見通しだ。

 

韓国の専門家たちは、アメリカ政府関係者の多くは首脳会談に関して誤った前提を持っているかもしれないと述べている。

 

トランプはこれまで、金正恩が突然外国との交渉に関心を示しだしたのは、金正恩に対するアメリカの「最大限の圧力」の成果だと述べてきた。

 

米朝間で話し合いが成立すると見ている専門家から話し合いが決裂し、米軍が侵攻すると見ている専門家まで存在する。彼らは「トランプの発言には正しい部分もある」と述べている。しかし、完全に正しい訳ではないとも述べている。

 

34歳になる金正恩はこれまでの6年間あまり大きな期待をされてこなかったが、彼は元在、これまでにないほどの大きな自信を感じている。

 

ソウルにある梨花女子大学で北朝鮮研究学を専門にしているキム・ソクヒャン教授は南北首脳会談に関して韓国大統領の助言者を務めている。キムは次のように語っている。「金正恩は、国内は安定していると安心しているように見える。核兵器を所有しているので、自分は世界の指導者の一人として遇される資格があると感じている」。

 

キム教授は金正恩が北京で習近平国家主席と会談した後に、「金正恩は準備をしている。彼の夢は実現しつつある」と述べた。

 

専門家たちは、金正恩が会談を行っているのは、アメリカ主導の経済制裁によって北朝鮮経済に大きな打撃を与えることに対して懸念を持っているということは疑いないところだと述べている。

 

慶南大学大学院の北朝鮮研究の専門家リム・ウルチョルは、トランプが自身の対北朝鮮姿勢を示す言葉として頻繁に使っている言葉を使い、「最大限の圧力は効果を上げつつある」と述べている。

 

ソウルにある延世大学の国際関係論教授ジョン・デルリーは「最大限の圧力」というよりも、「最適の圧力」という言葉が近いだろうと述べている。

 

デルリーは、核兵器を開発しながら経済発展も目指すという「2つの政策を同時に遂行」するという金正恩の野心について言及し、「圧力は現実のもので、その力は増大しつつある。圧力によって金正恩の野心は邪魔をされている」と述べた。

 

デルリーは「金正恩は彼の計画の最初の半分を成し遂げた。彼は彼が現在実行していることをこれからも継続できるという自信を持っている」と述べた。

 

昨年11月、北朝鮮は最後のミサイル実験を行った。この際、北朝鮮は新たに「巨大な弾頭を装着」できる大陸間弾道ミサイルを新たに構築し、これによって「ロケット武器システムの開発が完了した」と宣言した。

 

デルリーは、アメリカは金正恩が交渉に乗ってくるように自信を持たせるべきで、追い詰められたと感じさせるべきではないと述べている。「金正恩を交渉の場に出させる」とデルリーは述べた。

 

リムは、北朝鮮の指導者である金正恩は核兵器の開発に成功したと宣言しているが、自身を持ち、「同時に2つの政策を推進する」という姿勢のうち、経済面での発展を進める準備を進めようとしている、と述べた。

 

リムは「金正恩は核兵器を持っていると判断しているために交渉のテーブルに出る決心をした。アメリカは金正恩と交渉を行うことに関心を持つようになるだろう」と述べた。

金正恩が交渉で合意を成立させるに足る自信を持っているのかどうかはこれからも注視し続ける必要がある。 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

 

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真実の西郷隆盛

 

imanokyodaichuugokuwanihonjingatsukutta001

今の巨大中国は日本が作った

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(仮)福澤諭吉 フリーメイソン論