古村治彦です。
今回は、訪米した金英哲朝鮮労働党副委員長についての記事をご紹介します。
金英哲は朝鮮労働党中央委員会副委員長や東一戦線部長を務めています。朝鮮人民軍では大将まで昇進し(一度は大将まで進みながら上将に降格されてしまいましたがまた昇進)、偵察総局長・副総参謀長を務めました。以下の記事にあるように、韓国海軍の艦船「天安」の沈没事件や南北の国境近くにある延坪島への砲撃事件に関与し、また、サイバー攻撃事件であるソニー・ピクチャーズへのハッキング事件にも関与しているとされています。
経歴を見ると、1946年生まれで、万景台革命学院、金日成軍事総合大学を卒業と出てきます。金英哲の両親は北朝鮮の成立や朝鮮戦争で国家に貢献したので、その子供として、北朝鮮の一番のエリートコースを進むことが出来たのだと思われます。世代としては、金正日と同世代の革命第二世代とも呼ぶべき世代に属していると思います。
その後は朝鮮人民軍に入り、昇進していきます。そして、2009年に新設された朝鮮人民軍偵察総局の初代局長に就任します。この部局は、北朝鮮の外国におけるスパイネットワークを管理したり、サイバー攻撃を行ったりする部局だと言われています。下の記事で、金英哲を「スパイの元締め」と呼んでいるのはそのためです。2010年代には、北朝鮮の強硬な外交姿勢を主導した人物と言われています。
2011年から権力の座に座った金正恩は既に多数の幹部クラスの人々を粛清しています。実の叔父である張成沢を死刑にしています。金英哲は1960年代から50年以上にわたり、粛清の波を生き延びてきたということは、相当な経験と現状把握力と危険を察知する嗅覚の持ち主だということになります。この金英哲がマイク・ポンぺオのカウンターパート、交渉担当者として出てきたということは、北朝鮮は彼らなりに相当の譲歩を行う覚悟があるということだと思います。
金英哲は孫くらいの年齢である金正恩に北朝鮮のおかれている現状を説き、いざとなれば、自分が悪者になるので、何とか体制保障を勝ち取るために相当な条件の譲歩を許してくれるように説得したのではないかと思います。そして、金正恩の親書を持って渡米しました。親書の中身は発表されていません。概要すら漏れてきていません。あんなに大きな封筒で、表彰状みたいなものであろうということは皆分かっているのに、肝心の中身が分からないのです。アメリカ政府からも漏れてこないというのは、北朝鮮にとって相当重要なことが書かれているということだと思いますが、これ以上のことは分かりません。
ポンぺオもCIA長官を1年ほど務めましたので、金英哲と同じく、スパイの親玉とも言えるでしょう。スパイの親玉を務めた人物同士が米朝首脳会談の下交渉の最高責任者ということになりました。12日の米朝首脳会談開催までにどんなことが起きるのか、会談で何が話されるのか、注視していきたいと思います。
(貼り付けはじめ)
ポンぺオと対峙する北朝鮮政府高官はスパイの元締めであり、金正恩を教育した人物で、粛清を生き延びた(North Korean Facing Pompeo Is a Master Spy Who Helped Groom Kim,
Then Survived His Purges)
―アメリカ政府高官たちは、金英哲(Kim Yong Chol)のニューヨーク訪問は、18年ぶりの北朝鮮政府高官の訪米で、米朝首脳会談を救うことを目的としていると述べた。
ロビー・グラマー筆
2018年5月31日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2018/05/31/north-korean-facing-pompeo-is-a-master-spy-who-helped-groom-kim-then-survived-his-purges-asia-diplomacy-nuclear-summit-trump-kim-jong-un-kim-yong-chol/
核兵器を巡る交渉を復活させるために、マイク・ポンぺオ国務長官と会談を行っている北朝鮮政府高官は、北朝鮮のスパイ網の元締めを務めた人物であり、北朝鮮がここ数年にわたり実行してきた軍事作戦にも関係している。2014年に起きたソニー・ピクチャーズに対するサイバー攻撃はその最たるものだ。これによってソニー・ピクチャーズは大きな被害を受け、財政的にも数百万ドルの損失を出した。
金英哲は水曜日の夕方、ニューヨークでポンぺオと会談を持った。アメリカ政府高官たちは、北朝鮮の最高幹部クラスの訪米は18年ぶりのことだと述べた。2人はフィレミヨンとヴァニラアイスクリームの夕食を楽しみ、木曜日朝から公式の会談を再開したと国務省は発表した。
分析家たちは次のように考えている。ポンぺオと金英哲の会談は両者の間の個人的な親密さを醸成している可能性がある。そして、彼らの会談は、北朝鮮政府の核開発プログラム中止を目的とするアメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談実現にとって重要な役割を果たすことになる。
北朝鮮との交渉を担当した経験を持ち、現在はリチャードソン・センター・フォ・グローバル・エンゲイジメントの副会長ミッキー・バーグマンは、「個人的な関係がより重要だ。それは、北朝鮮の人々は個人的関係に価値を置くからだ」と述べている。リチャードソン・センターは世界各国の政治犯の釈放を求めて活動している非営利組織だ。
外交官や情報機関関係者たちは、金英哲は北朝鮮における黒幕と呼べる人物の中で最も力を持つ人物であり、金体制の中を生き延びた人物であると評している。金英哲がアメリカ政府との交渉に出てきたことは、金英哲が、金正恩以外で北朝鮮の方向を変えることが出来る巨大な影響力を持っていることを示している。
73歳になる金英哲は、北朝鮮を支配する朝鮮労働党の副委員長である。そして、北朝鮮の独裁者3代に仕えた人物である。金英哲はこれまで何度もあった粛清の嵐を生き延びた。2011年に金正恩が権力の座に就いてから北朝鮮政府の高官たちの多くが粛清されたが、彼は生き延びた。
CIAの分析官を務め、現在はシンクタンクであるCSISの朝鮮半島専門研究員を務めるスー・ミー・テリーは、「金正恩は権力の座に就き、数百名の人物を粛清した。金英哲は粛清を生き延びただけでなく、金正恩の右腕となることができた」と語った。
テリーは続けて「金英哲は金正恩の考えを代弁することが出来る。彼以外にそのようなことが出来る人物はいない」と語った。
2009年から2016年にかけて、金英哲は北朝鮮の情報機関とサイバーセキュリティー担当部署である偵察総局の責任者を務めた。ここで彼は北朝鮮による西側諸国や韓国に対するサイバー攻撃にかかわった。2012年に韓国で北朝鮮のスパイネットワークが一斉検挙されたことで、金英哲は降格処分となったと考えられている。しかし、「リハビリテーション」と呼ばれる期間を経て、復活した。
CIA分析官を務め、現在はブルッキングス研究所に所属する北朝鮮専門家のジュン・パクは、権力の座に就いたばかりの金正恩の教育に金英哲は貢献したと述べている。
ジュン・パクは次のように述べた。「北朝鮮におけるスパイ組織は極めて重要な存在だ。特に指導者の教育機関には重要な役割を果たす。金正恩が権力の座に就いてから7年間、金英哲は恐らく失敗をしなかったのであろう。そして、金正恩の信頼を勝ち取ったのだろう」。
金英哲は1960年代に韓国との国境にある非武装地帯の衛兵からキャリアをスタートさせた。その後、国連との連絡将校や金正日の護衛を務め、1990年代から2000年代後半には南北交渉における軍事交渉担当官を務めた。
金正恩の側近として、金英哲将軍はアメリカによる制裁の対象者となっている。
金英哲はスパイ組織の責任であった時期に起きた韓国に対する2度の攻撃で主要な役割を果たしたと考えられている。2010年3月、韓国海軍の艦船が魚雷攻撃を受け、46名の乗組員が死亡した。同年末、韓国のある島が砲撃を受け、4名が死亡し、19名が負傷した。
2014年北朝鮮はソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃を実行した。これは金英哲の直接の指示だと考えられている。この時、ソニー・ピクチャーズは、金正恩の暗殺のシーンがあるコメディ映画を発表した後であった。
最近になって、金英哲は北朝鮮の外交の中心的存在となっている。金英哲は、南北の非武装地帯での南北首脳会談において、北朝鮮側代表団に参加し、2度も韓国の文在寅大統領と会談している
金英哲は今年2月に韓国で開催された冬季オリンピックへの北朝鮮代表団に参加している。閉会式で、トランプ大統領の娘で補佐官でもあるイヴァンカの近くで無表情で起立している金英哲の様子は映像に残っている。お互いはお互いの存在を無視していた。
金英哲はニューヨークを訪問し、ポンぺオと3度目の会談を行った。CIAの前長官で現在は国務長官のポンぺオは今年に入って2度北朝鮮を極秘に訪問し、拘留されていた3名のアメリカ人の解放に成功し、6月12日にシンガポールで開催される米朝首脳会談の地ならしを行った。
先週、トランプ大統領は首脳会談を突如キャンセルした。キャンセルを通知する書簡の中で、トランプ大統領は北朝鮮のアメリカに対する「大いなる怒りと敵意の公表」に言及した。しかし、トランプ大統領は首脳会談の実現可能性についても言及した。
ホワイトハウスのジョー・ハジン次席補佐官率いるアメリカ代表団(「プレ・アドヴァンス」ティーム)は現在シンガポールに滞在し、予定されている米朝首脳会談の後方支援準備を行っている。
これとは別に、アメリカの幹部外交官と安全保障担当が、南北の間にある非武装地帯で北朝鮮政府の担当者たちと交渉を行っている。
(貼り付け終わり)
(終わり)
今の巨大中国は日本が作った
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