古村治彦です。

 

 先日、全国高等学校野球選手権大会が閉幕しました。決勝では大阪桐蔭高校野球部が13対2で秋田県立金足農業高校野球部を下し、同校2度目の春夏連覇を達成しました。同一校が春夏連覇を達成したのは初めてのことです。

 

 金足農業は県立高校で全国から優秀な選手を集める制度もなく、選手たちは地元の中学校を卒業し、高校で初めて硬式ボールを使ってプレーする人が多く、また、3年生だけで決勝まで勝ち上がってきたティームでした。一方の大阪桐蔭は全国から腕に覚えのある優秀な選手たちが多数集まり、スターティングラインナップ9名がそのまま高校日本代表になってもおかしくないし、ベンチ入りした選手であれば、少なくとも東京六大学野球リーグ、東都大学野球リーグ1部でもそのまま通用するでしょう。

 

 金足農業が劇的な勝利を重ね、全国的に有名な、これまでに全国制覇を達成した経験を持つ横浜高校や日大三高を破ったことで、人気に火が付きました。吉田投手のハンサムさもそれに拍車をかけたことは間違いありません。

 

 私は小さい頃から運動は苦手でしたが、スポーツを見るのは好きという人間で、高校野球も人並み以上に見てきたつもりです。地元鹿児島のティームを応援してしまうのはまさに習い性となるというところでしょうか。鹿児島では昔から鹿児島市内の三校、鹿児島商業、鹿児島実業、樟南(鹿児島商工)が甲子園に行くもの、たまに、鹿児島市立鹿児島玉龍か、くらいでした。鹿児島市以外の学校では、出水商業、れいめい(川内実業)が出たことがあるくらいでした。

 

 それが北薩の串木野にある神村学園が強化され(もともと看護系で有名な女子高でしたからびっくりしました)、大隅半島からも甲子園出場、更に21世紀枠でしたが、奄美大島の大島高校(奄美群島、離島における中心的進学校)も出場を果たしました。

 

 今年の選手権(夏の甲子園大会)は100回目の大会でした。夏の甲子園は日本の夏の一大イヴェントとなっています。2週間にわたりNHKのテレビとラジオ、民放が完全に中継します。高い視聴率を誇るイヴェントです。甲子園は春の選抜大会、プロ野球阪神タイガースの試合、夏の選手権大会、冬の甲子園ボウル(アメリカンフットボールの大学日本一を決める東西代表による試合)と一年中忙しい球場です。それでも「甲子園」と言えば、高校野球の代名詞となっています。

 

 今回、私は高校野球の様々な問題点を指摘する著作『甲子園という病』を皆様にご紹介します。著者の氏原氏は長年にわたり高校野球を取材してきた経験を基にして、現在の高校野球の問題と改善の糸口を提案しています。

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甲子園という病 (新潮新書)

 

 今回の選手権でもそうでしたが、まず投手の登板過多による怪我、その怪我が深刻なために野球生命を潰してしまうという問題が提起されています。これまでにも高校での登板過多のために野球生命を終わらせてしまった名投手は数多くいました。高野連や現場では複数投手育成を頑張っていますが、部員が少ないティームなどでは同じレヴェルの投手を育成するだけでも大変ですし、ついつい絶対的なエースに頼ってしまうということが起きてしまいます。

 

 アメリカなどで日本の高校野球が報じられる場合には、投手の投球数がクローズアップされ、虐待だ、クレイジーだ、という論調になります。甲子園に出てくる投手の場合、その多くが子供の頃から優秀な投手として、小学校や中学校、リトルリーグ、シニアリーグで多くの試合を投げて来ています。ですから高校の短期間での投げ過ぎという問題に加えて、それまでの積み重ねられてきた投げ過ぎによる疲労や弊害ということもかんがえていかなければなりません。

 

 複数投手制度はどうしても必要です。そのために、野手をやっている選手で投手もできる選手がいないかどうかということを指導者はチェックしてみるというのは面白いことになるかもしれません。短いイニングならストレードで抑えられる、変わった変化球で一回りは抑えられるということであれば、継投で試合を作ることが出来るでしょう。

 

 氏原氏は著書の中で、投手に対して、指導者が「どうだ、痛いか」と「どうだ、いけるか」と質問する場合が多いと指摘しています。私は、これは日本的な責任回避の方法だ、高校野球の現場でもあるのかと改めて驚きました。「いけるか」と質問されて、未成年の生徒たちは未熟な自己判断で「いけます」と答えるしかありません。それで怪我をしても、指導者は「彼が自分で大丈夫と判断したから」と逃げることが出来ます。これは、旧日本軍にあった、上官が曖昧な命令を出し、その後、「自分はそんなことを言っていない」と否定するという構図と一緒です。

 

 また、著書の中では、一年生でマスコミの脚光を浴びてしまったが故に、その後の高校野球人生を狂わせてしまった選手のことが取り上げられています。たかが部活動、それなのに野球部に集まる注目は大変なものです。私の行っていた高校も野球部があり、旧制中学時代に鹿児島から初めて選抜大会に出場したことがありました。その後は甲子園には縁がありませんでしたが、県予選でベスト8、ベスト4にたびたび進出することがありました。NHKのローカルニュースで、注目の学校などと言われて取材され、放映されていました。私の所属したボート部も明治以来の伝統を誇りましたが、マスコミに取材されたことなどありませんでした。地元紙のスポーツ欄に試合結果が掲載される、それだけでしたが、これが当たり前です。

 

 春の選抜は毎日新聞と毎日放送、夏の選手権は朝日新聞と朝日放送、そしてNHKの大きな利権となっています。また、高校野球だけにお金が集まり、高等学校野球連盟、いわゆる高野連だけが肥え太るという状況が起きるのは好ましいことではありません。また、私立高校が受験生獲得、宣伝のために野球部に有力選手を集めて、勉強そっちのけで昼から深夜まで練習をさせて、甲子園に行くことで宣伝活動にするということも好ましいことではありません。しかし、マスコミからの注目度が高い以上はそのような宣伝活動を行う学校も出てくるでしょう。高校野球を大人たちが食い物にして、高校生たちの汗と努力をお金に換える、それを高校生たちに還元しないということでは、これは本当の虐待ということになります。

 

 春と夏の甲子園に対して、私は批判的ですが、それでもやっぱり試合を見てしまいますし、良い選手やプレーを見るのを楽しみにしてしまいます。私は「甲子園という病」に部外者、観客という一番無責任な立場で罹患してしまっているのかもしれません。まず、甲子園という病、洗脳されていることを自覚する、そこから始めねばならないでしょう。脱魔術化、と言った方が良いかもしれません。

 

 高校野球が少年野球からつながり、大学野球、社会人野球、そしてプロ野球ともつながっており、既存の大きなシステムとなっている現状を変革することは難しいでしょう。ですから、批判的な目を持って、おかしいところ、早急に何とかしなければならない点を指摘しつつ、高校野球を応援するということになるのだろうと思います。

 

(終わり)

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