古村治彦です。

 

 日本でもそうですが、アメリカでもマスコミや大学、研究所(シンクタンク)などが様々な世論調査を行っています。今回は最近の世論調査の結果について報じた記事をご紹介します。

 

 今年秋の中間選挙(連邦下院全議席、連邦上院一部議席、州知事の一部)のテーマとなりそうなのが、「メディケア・フォ・オール(Medicare for All)」の導入、公立大学の無償化、そして、アメリカ合衆国入国税関管理局(ICE)廃止です。

 

「メディケア・フォ・オール」とは単一支払者健康保険システム(single payer health care system)の別名で、政府が保険料を徴収し、国民の医療にかかるお金を全て支払うというものです。アメリカでは健康保険は常に論争のテーマとなっています。ヨーロッパや日本といった先進諸国では国民皆保険制度(各国で違いはありますが)ですが、アメリカはそうではありませんでした。オバマケアの導入で国民の大部分が健康保険に入れるということになりましたが、増税などで大きな批判があります。

 

 アメリカでは長きにわたり、国民皆保険制度は共産主義と同じだ、という主張がなされ、国民皆保険制度を評価する人間に対して批判が寄せられることが続きました。

 

 現在、民主党急進派は、「メディケア・フォ・オール」という制度の導入を主張しています。これは、政府もしくは公的機関が保険料を徴収し、そこが医療費コストを支払うという制度です。アメリカで長年にわたり批判されてきた共産主義的なシステムです。

 

 この制度について、民主党支持者の85%が賛成しているというのは分かりますが、共和党支持者の52%が賛成しているのは注目されます。今回の世論調査の結果は、アメリカ国民の多くが国民皆保険を支持しているということを示す一つの数字となります。

 

アメリカ合衆国入国税関管理局(ICE)は、国土安全保障省(Department of Homeland Security)に所属し、不法移民の取り締まりなどを行っています。最近、不法移民の親子を別々に収容して、「親子を引き離すとは何事だ」という批判に晒され、ドナルド・トランプ第登用が親子を別々に収容しないようにせよという命令を出しました。

 

 ICEについて、共和党支持者の7割は廃止に反対(存続に賛成)で、民主党支持者では44%が廃止に賛成、44%が廃止に反対という世論調査の結果が出たということです。アメリカ国民の過半数はICEの廃止に反対しているということになります。

 

 興味深いのはリベラルであろう民主党支持者たちの間でICEの廃止について意見が割れている点です。民主党支持者でもICEの存続を求める声が多いのは、不法移民に対する否定的な感情がアメリカ国民に多くあるということであろうと思います。こうした不法移民が低賃金の重労働を担っているという現状がありますが、一方で、移民たちが自分たちの仕事を奪っている、更には外国の安い労働力がアメリカの仕事を奪っているという不満が人々の間で高まっています。

 

 これはアメリカ国民の多くが不法移民を拒絶しているということになります。不法移民でやってくる人々がいなければ、低賃金の肉体労働は成り立たないほどになっていますが、不法移民流入に伴うマイナス、麻薬の流入や社会保障の負担増大などについて、リベラルな民主党支持者も辟易しているということになります。

 

 アメリカ国民は富の再分配を求め、同時に、これ以上の不法移民の流入は阻止したいという考えを持っているということになります。自分たちに対してはリベラルな政策を求め、自分たち以外の存在には厳しい政策を求めているということになります。人々のこのような考えを実行しているのがトランプ大統領です。トランプ大統領のやることは、ワシントンやニューヨークにいるエリートたちには訳の分からないものだと思いますが、人々の気持ちに合っているので、支持率が下がっていないということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

最新の世論調査によると、アメリカ国民の70%が「メディケア・フォ・オール」を支持している(Seventy percent of Americans support 'Medicare for all' in new poll

 

ミーガン・ケラー筆

2018年8月23日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/healthcare/403248-poll-seventy-percent-of-americans-support-medicare-for-all

 

多数のアメリカ国民、7割のアメリカ国民が「メディケア・フォ・オール」を支持しているということが最新の世論調査で分かった。「メディケア・フォ・オール」は、単一支払者健康保険システム(訳者註:政府、もしくは公的機関が保険料を徴収し、政府が医療費を全て支払う)である。

 

ロイター通信・イプソス実施の世論調査によると、民主党支持者の85%が「メディケア・フォ・オール」を支持し、共和党支持者の52%が支持している。

 

リバータリアニズム系のシンクタンクであるジョージメイソン大学メルカトス研究所が、「メディケア・フォ・オール」を導入すると10年間で連邦政府の支出が32兆6000億ドルを増加させるだろうという研究結果を発表した。この後、「メディケア・フォ・オール」は連日報道されるようになった。

 

研究結果を発表したチャールズ・ブラハウスは、2018年8月初旬に『ウォールストリート・ジャーナル』紙に寄稿し、その中で、税率を2倍にしても単一支払者健康保険システムの予算を賄うことはできないと主張した。

 

一方、「メディケア・フォ・オール」導入を主張する人々は、「メディケア・フォ・オール」を法律として成立させれば、2031年までに健康保険にかかる予算を2兆ドル削減できると述べている。

 

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は、メルカトス研究所の研究結果は「人々を間違った方向に誘導し、バイアスがかかったものだ」と述べた。

 

ロイター通信社の最新の世論調査によると、アメリカ国民の過半数は大学学費の無料化を支持している、ということだ。共和党支持者の41%、民主党支持者の79%が支持している。

 

アメリカ合衆国入国税関管理局(ICE)廃止の動きに対しては、世論調査の対象者の過半数が反対している。共和党支持者の70%が、創設15年の政府機関ICEの廃止に反対し、民主党支持者の中は半々に割れている。約44%が廃止に賛成し、44%がICEは存続させるべきだと答えた。

 

ロイター通信の世論調査はアメリカ国内の成人に対して今年6月と7月を通じて行われた。ロイター通信は2989名に対して「メディケア・フォ・オール」について、5339名に対して大学無償化について、7737名に対してアメリカ合衆国入国税関管理局(ICE)廃止について質問した 「メディケア・フォ・オール」と大学無償化に関しての誤差は2ポイント、ICE廃止に関しての誤差は1ポイントの誤差だった。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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