古村治彦です。
今回の中間選挙は、連邦上院では共和党が過半数を維持、連邦下院では民主党が2010年以来の過半数を奪還、州知事選挙では民主党が善戦という結果になりました。この結果について、「民主党が勝利した、トランプ大統領に“ノー”が突き付けられた」とする記事をご紹介します。
今回の中間選挙では史上初と形容される出来事がいくつか起きました。史上最年少の女性連邦下院議員、史上初のイスラム教徒の連邦下院議員、史上初のネイティヴ・アメリカンの連邦下院議員が誕生することになりました。また、女性の当選者が90名以上を超え、これは史上最多ということです。以下に記事を貼り付けます。
(貼り付けはじめ)
●「多様性の勝利? 2018年の中間選挙で歴史を作った5人」
John Haltiwanger
Nov. 08, 2018, 05:30 AM POLITICS
https://www.businessinsider.jp/post-179133
大統領選並みの注目を集めたアメリカの中間選挙では、いくつかの歴史が生まれた。
議会の構成が大きく変わる以上に、この中間選挙で個人レベルで歴史を塗り替えた5人を紹介しよう。
(敬称略)
1. アレクサンドリア・オカシオコルテス(29歳) —— アメリカ史上最年少の女性下院議員。
アレクサンドリア・オカシオコルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)は、今回の中間選挙でアメリカ史上最年少の女性下院議員となった。
民主党のオカシオコルテスは、ニューヨーク州14区を代表する下院議員だ。
6月の中間選挙の予備選挙で、民主党のベテラン、ジョー・クローリー(Joe Crowley)下院議員に、劇的な勝利を収めていた。
今回の中間選挙で勝つ前から、オカシオコルテスの知名度は全国区となっていた。
2. ラシダ・トレイブ —— アメリカ史上初のイスラム教徒の女性下院議員2人のうちの1人。
ラシダ・トレイブ
ラシダ・トレイブ(Rashida Tlaib)と イルハン・オマール(Ilhan Omar)は、アメリカ史上初のイスラム教徒の女性下院議員となった。
トレイブは、ミシガン州13区を代表する下院議員だ。
パレスチナ人移民の娘で、ミシガン州初のイスラム教徒の女性州議会議員でもあった。
3. イルハン・オマール —— アメリカ史上初のイスラム教徒の女性下院議員2人のうちの1人。初のソマリア系アメリカ人女性下院議員。
投票後のイルハン・オマール
11月6日、ミネソタ州ミネアポリスで中間選挙の投票を終えた民主党下院議員候補のイルハン・オマール。
民主党のイルハン・オマールは、難民としてアメリカにやって来た、史上初のソマリア系アメリカ人女性下院議員でもある。
ミネソタ州5区を代表する下院議員だ。
トレイブとオマールは今年、選挙キャンペーンをともにしたことも。
4. ジャリッド・ポリス —— 同性愛者であることを公表している男性として初の州知事に。
ジャリッド・ポリス
民主党下院議員のジャリッド・ポリス(Jared Polis)は、コロラド州知事選で共和党候補のウォーカー・ステープルトン(Walker Stapleton)を破り、同性愛者であることを公表している男性として初の州知事に選ばれた。
彼は選挙キャンペーン中も、自身の性的指向について気後れすることは全くなかった。
5. シャリス・デイビッズ —— 史上初のネイティブ・アメリカンの女性下院議員。
カンザス州のシャリス・デイビッズ(Sharice Davids)は、先住民ホ=チャンク・ネーションの出身で、史上初のネイティブ・アメリカンの女性下院議員となった。
デイビッズは下院議員を4期務めた共和党の現職ケビン・ヨーダー(Kevin Yoder)を破った。
同性愛者でもあるデイビッズは、カンザス州3区を代表する。カンザス州からLGBTQであることをオープンにしている連邦議会議員が出るのも初めてのことだ。
(貼り付け終わり)
今回ご詳記する記事では、連邦下院議員選挙で民主党が過半数を大きく上回る議席を獲得したことが、トランプ大統領に対する「ノー」の声を表しているのだ、というものです。このブログでもご紹介していますが、連邦上院は各州2名ずつが選出されますので、人々の数ではなく、場所、州を代表するということになっていて、地方の州は共和党が押さえている状況で、共和党が有利な状況が続いています。
また、人種差別などに人々の不満を逸らせるというやり方は機能するが、今回の選挙ではそうしたトランプ流の手法の限界を露呈したということも今回ご紹介する2本の記事で書かれていることです。民主党はそうした問題よりも、医療(オバマケア)や経済問題を中心に訴え、共和党はトランプ流に引きずられ、人種問題や移民問題を訴えるということで、偏った選挙戦になり、うまくいかなかったという分析もあります。
連邦下院議員選挙での大勝はありましたが、民主党内部には問題が山積しています。2016年の大統領選挙以来の党主流派、体制派と、民主社会主義者系との分裂は続いたままです。また、2020年の大統領選挙に向けて、有力候補者が出ていない、名前が30名上取り沙汰されているというのは、有力な候補者がこの時点でいないということを示しています。来年にはもう大統領選挙に向けて動かねばならない時期にこれでは民主党は厳しいと言わざるを得ません。そして、ヒラリー・クリントンの再出馬という話も出てしまって、これではトランプ大統領、共和党を利するばかりです。トランプ大統領としては、再選に向けて、ヒラリーが出てくれないかな、それなら楽に戦えるのに、くらいに思っていることでしょう。
今回の中間選挙、民主党は連邦下院議員選挙で勝利、州知事選挙でも善戦でしたが、決して楽観はできない状況にあります。
(貼り付けはじめ)
トランプはどのようにして中間選挙で敗北したか(How Trump lost the
midterms)
E・J・ディオンヌ・ジュニア筆
2018年11月7日
『ワシントン・ポスト』紙
https://www.washingtonpost.com/opinions/how-trump-lost-the-midterms/2018/11/07/55f124d6-e2c8-11e8-8f5f-a55347f48762_story.html?utm_term=.39373081cfed
2018年の中間選挙はトランプを中心とする連合の破壊の始まりとなった。
トランプ連合はまだまだ機能している。いくつかの州での結果は失望するものであった。そして、トランプ大統領の共和党の掌握は強化された。しかし、アメリカ国民の大多数は、分裂を助長する、自国中心的な政治を拒絶した。民主党は古くからの工業地帯の有権者に対するトランプ大統領の掌握に衝撃を与えた。勝利した女性候補者たちはアメリカ史上最も多い数となった。
反トランプ運動の唯一の最重要の目的は、共和党のワシントン支配を打ち破ることだった。民主党は、連邦下院で過半数を獲得することで、この目的は達せられた。開票作業はまだ継続しているが、民主党は30議席以上躍進するだろうと見られている。30台中盤から後半まで行く可能性もあると見られている。
長期的に見て重要なことは、民主党の候補者たちが獲得した得票数がこれまでになく大きいものとなったことだ。カリフォルニア州の集計はまだ行われているが、民主党が共和党につけた得票数の差は1994年、2010年、2014年の共和党躍進の波の時よりも大きくなるだろう。連邦上院は約3分の1の議席が選挙となり、連邦下院は全議席が選挙となった。従って、連邦下院議員選挙への投票は、トランプ大統領に対する不満を示す指標となる。
ブルーカラー(労働者)が多く住む州や郡で民主党は大きな成功を収めたことは大きな現象となった。こうした地域では、2016年の大統領選挙で、人々はもともと民主党支持だったのにトランプに投票し、彼を当選させたのだ。
民主党はオハイオ、ペンシルヴァニア、ウィスコンシン、ミシガンの各州で連邦上院議員の議席を保持した。各州は2年前のトランプ勝利にとって重要な州であった。民主党はウィスコンシンとミシガンの州知事選挙で現職の共和党を破り、ペンシルヴァニアの州知事選挙では地滑り的勝利を収めた。民主党は共和党から7つの州知事の座を奪った。バラク・オバマ大統領時代の中間選挙での悲惨な結果から取り戻すことになった。
共和党所属のウィスコンシン州知事スコット・ウォーカーは州教育長トニー・エヴァースに敗れたことは大きな出来事であった。保守運動の権化であるウォーカーはリコール運動を乗り越え、何度も危機を乗り越え、何度も生まれ変わったように見えるほどであった。ウォーカーの敗北は火曜日の中間選挙におけるより大きなメッセージの一部である。エヴァースを含む中間選挙の民主党の候補者たちの多くは、共和党のイデオローグたちに対して、現実的な問題解決者として勝利した。このような民主党候補者たちを元アイダホ州知事トム・ヴィルサックは「言葉遣いは穏やかだが考えは進歩的」と描写した。
エヴァースは前回の選挙で共和党に支持を移したウィスコンシン州南部の各郡を取り戻した。
労働者の町ヤングスタウンを含むオハイオ州マホニング郡は、2016年の選挙で反民主党的な党派移動を起こした場所の一つであった。2012年の大統領選挙でオバマは63%の得票を獲得した。しかし、2016年の大統領選挙ではヒラリーは50%以下の得票しかできなかった。今年、民主党の連邦上院議員シュレッド・ブラウンは60%を獲得し、2012年の結果に大変近くなった。州知事選挙では、民主党の候補者リチャード・コーディは結果として敗北したが、マホニング郡では55%を得票した。
同様な民主党に対する動きはペンシルヴァニア州エリー郡でも起きた。ここでオバマは58%、ヒラリー・クリントンは47%をそれぞれ得票した。火曜日、民主党所属のペンシルヴァニア州知事トム・ウォルフは60%、民主党所属の連邦上院議員ロバート・P・ケイシー・ジュニアは58%を得票した。
このような変化は、民主党が医療、教育、インフラ(社会資本)、その他の経済問題について集中して選挙運動を行ったことで起きた。2018年の選挙はオバマケアの大勝利を象徴することになるだろう。これは4年前と6年前の選挙で民主党を敗北に導いた医療費負担適正化法(オバマケア)が現在ではアメリカ国民が医療府負担に関してアメリカ政府に求める最低限の水準になったことを示している。
民主党にとっては残念なこともあった。フロリダ州知事選挙に民主党の候補者として出馬したアフリカ系アメリカ人のアンドリュー・ギランが共和党の候補者となったロン・デサンティス連邦下院議員に僅差で敗れたのは特に残念なことであった。ギランは人種の融和を訴えたが、デサンティスは極右過激派との関係を公にするような人物であった。
トランプは水曜日に中間選挙後の記者会見を行った。トランプは予想通り、連邦上院における共和党の躍進を称賛し、これらの勝利は自身の選挙運動のおかげだと自画自賛した。しかし、ノースダコタ、インディアナ、ミズーリといった保守が強い各州での勝利はトランプ戦略の限界を示している。トランピズムは激戦州と穏健な郊外に住む、教育水準の高い女性といった有権者たちからは後退しつつある。
そうした中で、共和党はトランプのイメージにより縛られるようになっている。
保守地盤に集中する以外に方法はないということをトランプは示している。より穏健な共和党の政治家たちを敗北に導いた過激主義を唱えるトランプ大統領は、記者たちを前にして、トランプと距離を取るという賢い選択を行った共和党の候補者たちを罵倒した。
トランプは強硬な主張を続けた選挙運動の結果に対して責任を取るのではなく、選挙に敗れた共和党の候補者たちは自分に頭を下げることを拒否したために敗北したのだと主張した。このような発言は民主党に連邦下院の過半数を任せた種類の有権者たちを遠ざけるものである。
民主政治体制は長い時間を必要とする試みである。民主政治体制には関与と寛容が必要である。火曜日の中間選挙は政治をひっくり返すことはなかった。しかし、中間選挙は、私たちの国を正しい方向に勧めるための長い道のりの第一歩となるだろう。
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中間選挙によって暴露された厳しい事実(The Harsh Truth Exposed
by the Midterm Elections)
―アメリカの伝統に立ち向かうのはトランプではない。トランプを止めようとしている、完全ではない勝利を収めた人々こそがアメリカの伝統に立ち向かっている。
ピーター・ベイナート筆
2018年11月7日
『ジ・アトランティック』誌
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2018/11/trump-and-harsh-truth-exposed-midterms/575128/
火曜日の中間選挙の結果から出てくる物語は次のようなものとなるだろう。2つのアメリカの潮流は更に離れている。共和党は、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプが勝利した各州から民主党を追い出すことで、連邦上院で過半数を獲得し、拡大させた。民主党は2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝利した各選挙区から共和党を追い出すことで、連邦下院で勝利を収めた。次期連邦議会で、民主党はよりリベラルな姿勢を取るだろう。共和党はより保守的な姿勢を取るようになるだろう。トランプに対して曖昧な態度を示していた連邦議員の大多数は議会に戻ってこないだろう。
しかし、アメリカは深く分裂してしまってはいるが、民主党と共和党は全く別の方向を向いて分裂を深めていたことは記憶しておくべきだ。民主党は今年の中間選挙でより多くのアフリカ系アメリカ人と女性が候補者として立候補し、共和党の候補者の多くが移民とブレット・カヴァナーについて選挙運動を行った。その結果、今回の中間選挙については文化戦争だと形容したくなる状況になった。これは誤っている。文化戦争は一方の側ばかりで戦われている。民主党の候補者たちは人種と性別の多様性を体現していた。しかし、この人たちは多様性を中心にして選挙運動を行わなかった。民主党の多様な候補者たちは中間層のセイフティーネットを守るというメッセージを発した。民主党側はバラク・オバマを出さなくても、オバマケアは人々の支持を集めているということに気づいた。『ニューヨーク・タイムズ』紙のアレックス・バーンズが書いているように、民主党の選挙運動は次のように要約できる。「名詞、動詞、既往歴(訳者註:オバマケアでは既往歴を理由に保険加入を拒否することが出来ない)」ということになる。
共和党は大きな後退と妥協を行った。2010年にオバマケアに対して激しく反対したのに、今年の選挙では、共和党はオバマケアの主要な点を支持するかのように振舞った。アリゾナ州では、共和党の連邦上院議員選挙候補者マーサ・スカリーは「既往症も保険適用となるように保険会社に強制するための戦いを主導する」と発言した。ミズーリ州では、共和党のジョシュ・ハウリーも同様のことを訴えた。
以前は、民主党は経済上の安全について選挙運動を行っていたが、この時共和党は経済上の機会について選挙運動を行っていた。民主党は政府による保護を公約した。一方、共和党は政府からの自由を公約した。しかし、2012年にミット・ロムニーとポール・ライアンが使ったリバータリアニズム的な、大きな政府に反対する言葉遣いは全くなくなってしまった。経済が好調なのにもかかわらず、共和党は減税を主張することすらなかった。
トランプ政権下、共和党は経済的な安全の代わりに、文化的な安全を前面に出している。トランプ大統領は、南米からやってくると殺人者たちと、性的暴行を告発することで男性の生活を台無しにする女性たちから、アメリカ国民を守ると公約した。この公約は、ある程度機能した。地方の白人という支持基盤を動員することで、フロリダ州とオハイオ州のようなパープルステイト(激戦州)において民主党の攻勢に対抗し、ノースダコタ州、インディアナ州、ミズーリ州のようなレッドステイト(共和党優勢州)において民主党の現職連邦上院議員を圧倒することが出来た。これは古くからあるやり方が成功した具体例なのだ。W・E・Bデュボイスはこれを「心理的な報酬」と呼んだのはよく知られている。経済的苦境から白人たちを救う代わりに、白人たちの中にかき立てられる悪魔のような違う人種の人々から守るということを訴えるのだ。そして、トランプはこの古くからのやり方の達人であることは議論の余地がない。多くのアメリカ国民が医療を受けられないという恐ろしい状況にあるのに、トランプはフォックスニュースの助けを借りながら、ホンジュラスからの難民希望者たちの脅威を奏した人々に感じさせることが出来るということを理解していた。選挙が終わってしまえば、難民希望者たちの様子はフォックスニュースの画面から消え去り、トランプにとって再び必要になるまで、彼のツイッター上で言及されることもなくなるのだろうと私は推測している。
厳しい事実は次のようなものだ。人種差別は多くの場合機能する。経済的な正義を求める人種の違いを超えた連合の出現は、アメリカ史上における例外的な現象だ。自分たちの人種的な優越を守るために白人を動員することは当たり前の現象であった。2018年の中間選挙から得られる教訓は、アメリカ政治は「当たり前」に戻ってはいないということだ。多くの点で、トランプ大統領を中心とする政治、トランピズムはアメリカの当り前の現象そのものである。そうしたアメリカの伝統に立ち向かうのはトランプではない。そうしたアメリカの伝統に立ち向かうのは、トランプを止めようと勇敢に立ち上がったが、完全な成功までは収められていない人々なのである。
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