古村治彦です。

 

 少し古い記事ですが、2回目の米朝首脳会談直前の首脳会談に関する分析記事をご紹介します。

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 記事の内容は、トランプ政権内に北朝鮮に対する姿勢で2つの流れがあり、北朝鮮に対して融和姿勢を取る派(トランプ大統領とスティーヴン・ビーガン特別代表)と強硬姿勢を取る派(ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官やマイク・ポンぺオ国務長官)があり、強硬姿勢派が影響力を強めている、というものです。また、北朝鮮は本当に非核化を進める意図はないのだということも主張しています。核兵器を持ちつつ、経済発展の道を進む、ということが北朝鮮にとっては最善の道である、ということを述べています。

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 李英哲、マイク・ポンぺオ、スティーヴン・ビーガン

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手前からジョン・ボルトン、ポンぺオ、トランプ

 「朝鮮半島の非核化(denuclearization of Korean Peninsula)」という言葉は、受け取り方でどうとでも解釈できるものです。このブログでも以前に書きましたが、朝鮮半島の非核化となると、多くの人々は、北朝鮮が核兵器を廃棄すること、と解釈します。しかし、この言葉は朝鮮半島であって、北朝鮮(North Korea)ではなく、朝鮮民主主義人民共和国(Democratic People’s Republic of KoreaDPRK)の非核化とは書いていません。北朝鮮からすれば、自国が非核化するならば、韓国の非核化、韓国は核兵器を保有していませんから、韓国に対するアメリカの核の傘を取り去ること、これが朝鮮半島の非核化ということになります。こうなると、まず言葉の定義から問題になって、先に進むことが難しくなります。

 

 2回目の首脳会談はワーキングランチが取りやめになり、共同宣言が出ず、金正恩北朝鮮国務委員会委員長は不機嫌な態度で会場を後にしました。北朝鮮としては、アメリカから何かしらの譲歩があるのではないかと期待したところがあったのかもしれません。トランプ大統領は交渉を継続すると明言しましたが、それ以外に何の成果もありませんでした。決裂しなかったということが唯一の救いということになりました。

 

 下に紹介している記事は、首脳会談直前に発表されたものですが、この記事は今回の首脳会談の結果を言い当てています。そうなると、今回の首脳会談に関しては、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官とマイク・ポンぺオ国務長官の影響がかなり強く出ており、何も決めないで先送りするということになったのだろうと思います。ボルトンやポンぺオが北朝鮮に対して強硬姿勢を取ることをトランプ大統領に助言し、トランプ大統領がこのような意見が政権内にあり、かつ、国内問題で大変な時期なので、と金正恩委員長に説明し、金委員長もまぁしぶしぶ受け入れたというところではないかと思います。

 

 気になるのは、この首脳会談に前後して、スペインの首都マドリードにある北朝鮮大使館に賊が侵入し、一時館員を捕まえ、コンピューターなどを盗んだという事件、金正恩委員長の兄で、金委員長が殺害命令を出して殺害したと言われる金正男氏の長男金漢率(キムハンソル)氏を保護しているという団体「千里馬民間防衛(CCD)」が団体名を「自由朝鮮」と変更し、併せて朝鮮臨時政府発足を発表したという出来事です。

 

 こうした動きの裏にアメリカがいるのではないか、諜報戦、情報戦が水面下で激しく戦われているのではないかと思われます。CCD(自由朝鮮)の動きは北朝鮮政府にとって神経を逆なでされる出来事です。この裏にアメリカ、特にアメリカ政府内の高官、具体的にはジョン・ボルトンやマイク・ポンぺオがいるのではないかと私は考えています。

 

 シンガポールでの1回目の首脳会談で出された共同宣言が有効である以上、北朝鮮もアメリカもお互いに安全を保証する(攻撃をしない、ミサイルを飛ばさない)ということになりますが、この共同宣言を無効化するような動きが出てくると危険だと考えられます。

 

(貼り付けはじめ)

 

本当の北朝鮮に関する頂上会談はトランプ政権内部で起きている(The Real North Korea Summit Is Inside the Trump Administration

―現在までに、北朝鮮が核交渉の中で提示したいと望んでいることは明らかになっている。アメリカはそれにどう対処するかについて疑問が出ている。

 

ジェフリー・ルイス筆

2019年2月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/02/26/the-real-north-korea-summit-is-inside-the-trump-administration/

 

一方の側にはアメリカ特使のスティーヴン・ビーガンと恐らく大統領自身が立っている。こうした人々は何十年も続いたアメリカの北朝鮮関与政策を退けたいと望んでいる。彼らの望む政策は、サンシャイン・ポリシー(太陽政策)と呼ばれるものの流れに沿っている。このアプローチは金大中から文在寅まで続く韓国の進歩主義派によって採用されてきた。考えは極めてシンプルだ。敵意をもって接すれば金正恩は核兵器に固執する。それは北風によって人々は来ているコートの襟を固く掴み、自分の片田に引き寄せるようなものだ。しかし、暖かい日の光が当たれば、人々はコートを脱ぎたいと思うようになる。太陽政策はこれと同じく、金正恩に核兵器を放棄させる、もしくは少なくとも近隣諸国に対しての敵意を放棄させるというものだ。

 

北風を代表しているのは、アメリカ政府の官僚たちの大部分ということになる。国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトンは特に北風を吹き付け続けることに熱意を持っているように見える。こうした政府高官たちはアメリカと北朝鮮との間の緊張を緩和するには、北朝鮮がまず武装を解くことが必要だという確信を持ち続けている。ボルトンに対して公平な評価をすると、この姿勢はこれまでの歴代政権が一貫して採用してきた考えであり、交渉における厳格さの度合いはそれぞれの政権で違いが存在した。

 

これまでの数週間、ハノイでの首脳会談に先立ち、北朝鮮の核兵器の放棄に向かってはほぼ進展はないのではないか、北朝鮮がどれほど強硬に要求をしてくるかということについて、アメリカ政府高官の大部分が懸念を持っている様子を伝える報道が多くなされた。『ポリティコ』誌は、アメリカ政府高官たちは「国際舞台で勝利宣言をしたいために、トランプ大統領は非核化の空約束と引き換えに大幅な譲歩を行うのではないか」と懸念している、と報じた。アメリカ側による譲歩が選択肢の中に入っているかどうかは明確ではない。しかし、朝鮮戦争は終了したという宣言、外交関係の構築、経済制裁の解除が行われる可能性は存在する。

 

情報のリークはビーガン特別代表にも向けられている。2019年2月25日、フォックスニュースのジョン・ロバーツはツイッター上で、「ある政権幹部はフォックスニュースに対して、ホワイトハウス、国務省、国防省、財務相、エネルギー省では、トランプ大統領が任命した対北朝鮮特別代表スティーヴン・ビーガンが北朝鮮との交渉で“彼に与えられた権限から大きく逸脱している”という懸念が存在している、と語った」と書いている。

 

ビーガンが彼に与えられた権限から大きく逸脱している。この表現は、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権の一年目に、1994年に結ばれた米朝合意が崩壊した時のことを思い出させるものだ。当時のコリン・パウエル国務長官は、ブッシュ大統領は、ビル・クリントンが放置した北朝鮮と対話を行うと公式の場で発言した。それに対しては反撃が起こり、パウエルはテレビ放送の中で、自身を否定する発言をしなければならなくなった。パウエルは、対話するかどうかは大統領自身が決定することで、その決定はまだなされていないと発表した。パウエルはCNNのアンドレア・コッペルに対して、「私は自分に与えられた権限から逸脱した」と述べた。それから2年もしないうちに、米朝合意の枠組みは無力化され、北朝鮮は核開発の道筋をたどり、2006年に初めての核実験を実施するまでになった。(ボルトンは、パウエルが恥をかいたことについて、回想録の中で大きな喜びを込めてわざわざ書き残している。)

 

こうした動きに私たちは驚いている。ボルトンと側近たちは北朝鮮政策では敗北を喫したので、中東での政策的な勝利に集中するのだろうと私たちの多くは考えていた。(イランが自滅するような動きはないだろうと私は考えている。)しかし、最近になってマスコミが報じているリーク情報から見るとボルトンは、北朝鮮との関与についてもう一つの方向に進めようと活発に動き回っていることが考えられる。そして、驚くべきことに、マイク・ポンペオ国務長官は、ビーガンに対して一切擁護していないように見える。

 

北朝鮮の非武装化がアメリカの関与の主要な目的だとするならば、トランプ大統領は側近たちにうまくあしらわれているということになる。ここで、ある一つのことを明確に理解することが重要だ。それは、北朝鮮は非武装化を提示してはいないということだ。北朝鮮は「朝鮮半島の非核化(denuclearization of the Korean Peninsula)」という特別な言葉を使用している。この言葉が意味するところは、北朝鮮が非核化するならば同程度にアメリカも非核化せよということなのだ。金正恩委員長が非核化について言及する際、彼の父親と祖父と同様に、彼の声明もまた大いなる希望を述べる内容になっている。これと対比すべきなのは、プラハでのバラク・オバマ大統領(当時)の演説だ。この演説でオバマは、核兵器が廃絶された平和と安全保障を目指すと訴えた。これについて、誰も、オバマ大統領に対する的外れな批判をするような人たちでも、アメリカだけが一方的に非核化を進めることなどないと考えるはずだ。

 

北朝鮮が現在提示しているのは、見せかけの非武装化のジェスチャーである。アメリカとの新しい関係を築きたいという見せかけのステップである。例えば、北朝鮮は核実験施設を閉鎖し、ロケットエンジンの実験施設を一部破壊し、寧辺の核施設の閉鎖を提案している。これらのステップでは、朝鮮人民軍に既に配備されている北朝鮮の核兵器の脅威を減少させることにつながらない。また、北朝鮮が核兵器と、アメリカにまで達する長距離ミサイル を製造し続けることを止めることも出来ない。

 

言い換えると、北朝鮮が要求しているのはイスラエルが享受している立場に似たものなのである。イスラエルが核兵器を保有していることは誰もが知っている。しかし、イスラエルは公式には核兵器の所有を認めていない。私の言い換えは完璧なものではない。私の同僚であるヴィパン・ナランはインドとの方がより正確な類似を示す比較となると考えている。しかし、基本的な考えは理解しやすいものだ。2017年の北朝鮮による一連の核実験とミサイル実験は、トランプ政権の神経を逆なでし、トランプ大統領個人に屈辱感を与えるものであった。朝鮮戦争の終結を宣言し、外交関係を樹立し、アメリカと国際社会による経済制裁を解除することの引き換えに、北朝鮮は国際社会とうまく付き合い、核実験やミサイル実験をすべて中止し、実験施設などを閉鎖することで北朝鮮が世界にとって良いニュースの主人公となりたいと北朝鮮は述べている。

 

私は、これは試してみる価値があると考えるが、このアプローチの限界について正直に目を向けねばならないとも思っている。結局のところ、これが意味するところは、金正恩が自身の統治を維持するために暴力的な政治手法を使うことを容認し、共存することに慣れるということなのだ。もし北朝鮮が思い通りに行動できないとなると、北朝鮮は多くの場合、挑発行為を行い、その結果としてアメリカや韓国の軍隊から犠牲者が出るということが続いてきたという酷い事実もまた存在する。40名以上の韓国海軍将兵が死亡した天安の撃沈事件から10年も経っていないのだ。この攻撃の主謀者が金英哲だったことは明白であり、この金英哲がアメリカを訪問し、ドナルド・トランプ大統領に対する親書を手渡したのだ。しかし、ここに明白な事実がある。北朝鮮は核兵器を保有している。これは、核抑止余力がいかに機能するかということを私たちに教えてくれている。サダム・フセインやムアンマール・カダフィがもし核兵器を保有していたら、両者ともにまだ健在だった可能性は極めて高い。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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