古村治彦です。

 

 「イスラエル・ロビー(Israel Lobby)」という言葉があります。これは、アメリカ国内で、イスラエルの有利になるように、アメリカ政治に影響を与えるロビー団体のことです。スティーヴン・ウォルトとジョン・ミアシャイマーという政治学の世界では著名な、トップ20に入る(異論はあると思いますが)二人が『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策<1・2>The Israel Lobby and U.S. Foreign Policy)』という本を出版したのは2007年です。

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イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1


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ウォルト(左)とミアシャイマー(右)

 アメリカではイスラエルを批判する政治家は選挙に落ちてしまう、それはイスラエル・ロビーが資金を含めて影響を与えているからだ、ということが言われています。これで、アメリカの対イスラエル政策がイスラエルの利益偏重になってしまっている、批判が出来ない状態になっている、ということになっています。イスラエル・ロビーには様々な団体が含まれていますが、代表的なものにアメリカ・イスラエル公共問題委員会(America Israel Public Affairs CommitteeAIPAC)と反名誉毀損連盟(Anti-Defamation LeagueADL)があります。

 

 最近もイスラエル・ロビーをめぐる動きがありました。民主党所属の新人連邦下院議員であるイルハン・オマル(ミネソタ州選出)の一連の発言が問題になりました。イルハン・オマルはソマリア難民として子供の頃にアメリカに移民してきた背景を持ちます。アメリカで大学を卒業し、栄養士の仕事をしながら政治の世界に入り、ミネソタ州下院議員を経て、2018年の中間選挙で当選して、連邦下院議員となりました。


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 イスラム教徒ということもあり、イスラエル・パレスティナ問題に関し、イスラエルに対して批判的な姿勢を取っており、これに対しての批判もありました。今年2月に、連邦下院少数党(共和党)院内総務ケヴィン・マッカーシーがオマルを攻撃したことから今回の問題が始まりました。

 

これに対して、オマルはパフ・ダディの楽曲の100ドル札に関する歌詞「それはベンジャミンズ・ベイビーについてだ(It's all about the Benjamins baby)」とツイッター上で書きました。また、オマルはまた、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)がイスラエルへの支持と引き換えに共和党に資金を提供している、とも述べました。

 

更に、オマルは「ある外国に対する忠誠心を推進する人々を許すこの国における政治的な影響力について話したい。全米ライフル協会、化石燃料を扱う産業、巨大な製薬会社の影響力について私が語ることは大丈夫なのに、諸政策に影響を与える強力なロビー活動グループについて語れないのはどうしてだろうか?」という発言を行いました。

 

 お金に絡めてユダヤ系を批判するというのは、「ユダヤ人がお金を遣って政治を歪めている」というステレオタイプ、偏見を助長することになります。

 

 オマルは一連の発言を謝罪しました。オマルの発言については、共和党側だけではなく、民主党内からも批判が出ました。

 

 オマルの発言を受けて、共和党側からオマルを名指しで非難し処罰しようとする動きが出てきました。これに対して、連邦下院民主党執行部は反ユダヤ主義をはじめとするさまざまな差別や攻撃を非難する決議を行うということで、オマル個人を非難させることなく決着を図るという選択をしました。これに対しても、反ユダヤ主義に対してだけの非難決議でないのはおかしい、という批判が出ていました。

 

 決議案は賛成407対反対23で可決されました。アメリカ連邦下院の総議員数は435で、民主党が235、共和党が199、欠員1という状況ですので、5名が棄権し、共和党所属の議員の大部分が賛成票を投じたということになります。連邦下院共和党執行部の議員たちは反対票を投じました。

 

 オマルの発言は軽率な部分がありました。しかし、イスラエルに対する批判、アメリカの対イスラエル政策に対する批判を、「反ユダヤ主義」という言葉で封じ込め、議論を一切できなくさせようという動きは健全なものではありません。「Jストリート」というユダヤ系団体は、選挙を経て選ばれた公務員がユダヤ人に対する偏見や先入観、敵意を助長するような発言をすることは許されないが、イスラエルに対する批判全てに対して、反ユダヤ主義というレッテル貼りをするのも許されないことだ、という内容の声明を発表しています。

 

 何でもかんでも反ユダヤ主義という言葉を使って過剰な攻撃を行うことで、政治家の口を封じてしまうことは、危険な行為ということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

民主党内部で争いがある中で連邦下院が反ヘイト決議を可決(House passes anti-hate measure amid Dem tensions

 

ジュリグレイス・ブルーフケ筆

2019年3月7日

『ザ・ヒル』誌

 

https://thehill.com/homenews/house/433085-house-passes-anti-hate-measure-after-tensions-flare

 

連邦下院は木曜日、反ユダヤ主義(anti-Semitism)とその他のヘイト(嫌悪)を幅広く非難する決議を可決した。イルハン・オマル(Ilhan Omar、1981年―)連邦下院議員(ミネソタ州選出、民主党)の発言が民主党内で激しい議論を巻き起こした。その底流には民主党内部の諸勢力間の緊張がある。こうした中で決議は可決された。

 

「反ユダヤ主義、イスラム教嫌悪(Islamophobia)、人種差別(racism)、その他の偏見(bigotry)」を非難する決議は連邦下院で、賛成407、反対23という結果で、大差で可決された。

 

リズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)は連邦下院共和党序列第3位の幹部で、その他の20名以上の共和党所属議員と共に決議に反対票を投じた。リー・ゼルディン連邦下院議員(ニューヨーク州選出、共和党)とルイ・ゴウメート連邦下院議員(テキサス州選出、共和党)も共に反対票を投じた。ゼルディン、ゴウメート両議員は議場での演説の中で、決議案の文面は、オマルの発言に対する注意を喚起すべきという重要難点が骨抜きにされている、と批判した。

 

今週初めに予定されていた決議案の採決は遅延された。これは、民主党側が決議の中に何を含むかということで、内部で争いが起きたからだ。木曜日午後ギリギリまで小さな変更点がいくつも加えられた。

 

オマルの発言に関して争いが激化する中で、連邦下院は決議案を可決した。オマルの一連の発言は反ユダヤ主義的だと批判された。それは、オマルの一連の発言が、イスラエルを擁護している人々はアメリカよりもイスラエルにより忠誠を誓っているのではないかという疑問を呈しているように解釈できたからだ。

 

連邦下院が可決した決議には、新人議員であるオマルの名前が明記されることはなかった。

 

オマルを批判する人々は決議の中にオマルの名前を直接明記すべきだと主張しているが、進歩主義派と各マイノリティ議連の幹部議員たちは今週になってオマルを支援するようになった。オマルへの支援者たちは、オマルだけを選び出すという提案を退け、その他の偏見の方委への非難を含むように内容を拡大するように訴えた。

 

決議案の最終版は「公職にある者全てが、反ユダヤ主義、イスラム教嫌悪、人種差別、その他の偏見の現実、これらに対する歴史的な戦いを直視し、アメリカ合衆国は、独立宣言とアメリ合衆国憲法修正第1条と第14条が具現化している、寛容、宗教的自由、平等の保護の卓越した諸原理に基づいて構成されることを確実なものとするように促進する」というものになった。

 

決議案には、第二次世界戦中の日系アメリカ人の強制収容、1世紀以上も前のフランで起きたドレフェス事件、ケネディ元大統領のカトリック信仰に対する疑念、2017年にヴァージニア州シャーロッツヴィルにおける白人優越主義者たちによる集会が含まれていた。

 

民主党側は木曜日に最後の最後で変更を加えた。ラティーノ、アジア系アメリカ人、太平洋島嶼部出身者、LGBTを白人優越主義者たちに攻撃対象にされた「伝統的に迫害されてきた」リストに加えた。木曜日午前に発表された最終版の前の版には「アフリカ系アメリカ人、ネイティヴ・アメリカン、その他の有色人種、ユダヤ人、イスラム教徒、ヒンズー教徒、シーク教徒、移民、その他の人々」と書かれていた。

 

オマルはイスラエルについて新たに発言し、それが新たに批判を浴びるということになった。オマルが所属している民主党の議員たち、大統領選挙の立候補者たちも彼女の発言を非難した。それから1週間後に、決議案が連邦下院に提出された。

 

オマルは先週あるフォーラムに出席し、「ある外国に対する忠誠心を推進する人々を許すこの国における政治的な影響力について話したい」と発言した。

 

記者団は、木曜日の決議案の採決の後、連邦下院議場の外にあるホールで二度にわたってオマルに彼女の反応を聞こうと試みた。一度目はイスラム教徒のアンドレ・カーソン連邦下院議員(インディアナ州選出、民主党)がオマルの周囲に自分の腕を回して、彼女を守った。

 

オマルは質問に対しては一切答えなかった。

 

木曜日に可決された決議に対しては連邦下院で幅広い支持を受けた。数十人の議員が、決議が反ユダヤ主義だけを非難した内容になっていないことで不満を表明した。この決議の発端は反ユダヤ主義からであった。

 

数名のユダヤ系の民主党所属の議員たちを含む議員たちが、反ユダヤ主義がそれだけで決議を構成するに足る深刻な問題であると主張した。

 

テッド・ダッチ連邦下院議員(フロリダ州選出、民主党)は木曜日の議場での演説で、「どうして私たちは反ユダヤ主義単独で非難をすることが出来ないのか?どうして私たちは非難する対象をユダヤ主義とはっきり述べること、歴史から教訓を得たことを示すことが出来ないのか?」と述べた。

 

連邦下院外交委員会委員長のエリオット・エンゲル連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は木曜日の夜の採決直前に議場で、オマルの発言は「私の心の奥底に深く深く入り込むもの」であったと述べた。

 

エンゲルは続けて次のように述べた。「私の願いは連邦下院が反ユダヤ主義に対する非難を再び銘記することであって、イスラエルに対するアメリカの政策に関して、オマルの発言をこれ以降封じることではない。しかし、ある種の発言は誰が発言しようとも、そのような発言が私たちの社会の公共的な場所に存在できないし、危険な発言であるということを銘記することは私の願いであり、このことは敢えて発言しておかねばならない」。

 

連邦下院多数党院内総務ステイニー・ホイヤー連邦下院議員(メリーランド州選出、民主党)は、二重忠誠(dual allegiance、訳者註:ユダヤ人はアメリカだけでなくイスラエルにも忠誠を誓っているという考え)という考えで、イスラエルを支持している人々を攻撃する言葉を連邦議員たちが非難することは重要だが、その他の差別の形に対して反対を示すこともまた重要だと述べた。

 

ホイヤー議員は採決の前に議場での演説の中で次のように述べた。「イスラエルを支援している、もしくはイスラエルの安全に懸念を持っているということでユダヤ人は二重の忠誠を行っていると非難することは人々を深く傷つける行為だ。それらに関する発言はその中身が何かをはっきりさせている。それは根強い偏見だ。こうした発言は、対象となる個人と共同体に恐怖感と不安を引き起こす。これと同様に、イスラム教徒のアメリカ人に対してアメリカに忠実ではない、アメリカ国民になりきっていないと述べるような不愉快な具体例を目にしている。こうした発言によって、イスラム教徒やイスラム教徒の共同体に不安と恐怖感を引き起こしている」。

 

他の連邦議員たちは、オマルの非難を浴びた発言に反対する内容の決議案が作成されるのに1週間もかかった理由について疑義を呈した。

 

連邦下院司法委員会の幹部委員であるダグ・コリンズ連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)は議場での演説の中で、「私はニューヨークから来ている友人と決議案について議論している。この決議案の内容は全て、私たちが幼稚園の時に教わったことだ。それは、親切にしなさい、敵意を向けないようにしなさい、というものだ」と述べた。

 

コリンズは決議案に賛成するとしながら次のように発言した。「この決議には7ページもの分量は必要ではない。冗長だ。“私たちは敵意を持ってはいけない。それがどこから来たものであろうとも敵意を抱いてはいけない”とだけ書けば済むことだ」。

 

チェイニー、ゼルディン、ゴウメートに加えて、以下の共和党所属連邦下院議員たちが決議案に反対票を投じた。アンディ・ビッグス(アリゾナ州選出)、モー・ブルックス(アラスカ州選出)、ケン・バック(コロラド州選出)、テッド・バッド(ノースカロライナ州選出)、マイケル・バーグス(テキサス州選出)、クリス・コリンズ(ニューヨーク州選出)、マイケル・コナウェイ(テキサス州選出)、リック・クロフォード(アーカンソー州選出)、ジェフ・ダンカン(サウスカロライナ州選出)、ポール・ゴサー(アリゾナ州選出)、トム・グレイヴス(ジョージア州選出)、ピーター・キング(ニューヨーク州選出)、ダグ・ラマルファ(カリフォルニア州選出)、トーマス・メイジー(ケンタッキー州選出)、スティーヴン・パラッツォ(ミシシッピ州選出)、マイク・ロジャース(アラスカ州選出)、チップ・ロイ(テキサス州選出)、グレッグ・ストゥブ(フロリダ州選出)、マーク・ウォーカー(ノースカロライナ州)、テッド・ヨーホー(フロリダ州選出)。

 

木曜日、決議案が議場に提案されたことで、民主党執行部は、共和党が金曜日に採決が予定されている歴史的な選挙改革法案に対する手続き上の動議を利用することで民主党側の分裂をさらに印象付けることを避けることが出来た。

 

現状では、選挙改革法案は、連邦下院決議(H.R.1)として重要性が強調されているが、オマルをめぐる論争の陰に隠れる形になっている。

 

共和党所属の連邦下院議員たちは、オマルをめぐる出来事に対応するために、今年初めに可決された反ユダヤ主義を非難する内容を含むイエメンに関する決議を再び付託しようとしてきた。共和党所属の議員たちは新人議員オマルに対してより厳しい姿勢を取るように、民主党側に求めた。

 

連邦下院少数党(共和党)院内総務ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出)、連邦下院少数党(共和党)幹事スティーヴ・スカリス連邦下院議員(ルイジアナ州選出)、連邦下院共和党所属議員会会長リズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)の連邦下院共和党執行部は、民主党側はスティーヴ・キング連邦下院議員(アイオワ州選出、共和党)が白人優越主義に関して発言し、批判を浴び、連邦下院で処罰を受けたが、オマルの発言にも同じように対処すべきではないかと主張した。

 

キングは白人優越主義に関して発言した後、どの委員会にも参加できないという処分を受けた。キングは木曜日の決議案の採決では「プレゼント(present、訳者註:棄権に近いが定足数には数えられる)」と投票した。

 

スカリスは水曜日記者団に対して次のように語った。「実際の問題は、ペロシ議長が下院外交委員会でオマルが委員を務め続けることを許しているのはどうしてか、というものだ。ペロシ議長は、オマルが続けている反ユダヤ主義的発言に本当に反対しているのなら、オマルを連邦下院外交委員会から外す必要があるのだ」。

 

スカリスは続けて、「ペロシ議長がこのような攻撃的な行為に対峙したいと本当に考えているのなら、そのようにすることが唯一の真の対応ということになる」と述べた。

 

しかし、連邦下院民主党執行部は、キングとオマルを同じだと考えるべきではないと主張している。

 

ペロシは木曜日記者団に対して、「反ユダヤ主義に基づいた発言ではないと確信している。しかし、実際にはどのように解釈されるかということであって、私たちは疑いは全て払しょくしなければならない」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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