古村治彦です。

 

 「1つの言葉しか話せない人のことを何と言いますか?」「アメリカ人です」という冗談が外国にあります。日本人も同様でしょうが、英語の場合は、世界中に話者が多くいるので、日本以外に話者はあまりいない日本語しか話せない日本人よりはまだ世界中を旅行するときに便利でしょう。日本だけで暮らしていく場合には日本語だけで十分ではありますが。

 

 アメリカ国内で、特に白人が外国を話している人たちに因縁をつけ、トラブルになる出来事が増えているようです。たまにインターネット上にトラブルの様子を撮影した映像が拡散されています。「ドナルド・トランプ大統領時代になって、一気に排外主義が拡大した」という解釈もありますが、外国語嫌い、外国人嫌いはその前から連綿としてアメリカ文化の中に流れているものだと思います。サミュエル・ハンチントンの『分断されるアメリカ』(鈴木主税訳、集英社、2004年)は、アメリカの多文化主義に警告を発しています。

 

 アメリカでもヒスパニック系の数と人口に占める割合が大きくなっていく中で、スペイン語が公の場に出てくることは多くなっています。テキサス州出身の政治家たちはスペイン語を話すことが出来る場合もあります。ジョージ・W・ブッシュ元大統領も弟のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は2人ともスペイン語を話すことが出来ます。今回の大統領選挙民主党予備選挙の有力候補ビトー・オローク前連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)も国境の町エルパソ出身ということもあってスペイン語を話せます。そして、このブログで何度もご紹介しているピート・ブティジェッジは7か国語を話せる人物です。




 しかし、「1つの言葉しか話せない」ということがアメリカ人のアイデンティティになっているようで、外国語を聞くとイラっとくるようです。大都市で旅行者らしい人たちがそれらしい格好をして(ポーチをつけたり、外国語のガイドブックを持っていたり)、外国語を話すのは旅行者だからということで目くじらを立てる人はアメリカでもいないでしょう。

 

 アメリカ白人たちの多くが、旅行者の外国語に文句を言わないのに、アメリカで暮らしていると思われる人々が外国語を使うことに対して因縁をつけるというのは、元々が世界中からやってきた移民の国であるアメリカの成り立ちと矛盾するのではないかと思います。しかし、英語を話すことは、こうした白人たちにとっては、アメリカの歴史である専制と戦い、自由と平等(あくまで理念的なものですが)を勝ち取ったことを象徴しており、「お前たちはこの歴史を受け入れないのか、アメリカの価値観を受け入れる気がないのか」という気持ちになり、爆発してしまうのだろうと思います。

 

 また、ヒスパニック系の場合はカトリックということもあって貧乏人の子沢山というイメージもあり、また不法移民が多いという状況で、英語を話さない人間たちは、税金を納めないどころか、自分たちが納めた税金が原資の福祉を食いものにしている、フードスタンプや学校教育などをずるく利用している、という感情もあるのだと思います。


 非白人、特にヒスパニックで移民第一世代の人々は社会的な地位の高い、報酬の高い仕事に就ける訳ではありません。厳しい肉体労働や日雇い労働が主となります。そうした中で仲間同士で助け合うということになれば、英語を話す必要はないということになります。アメリカは社会体制として、理念としては自由と平等を謳いながら、実際には非白人に対する差別は構造として残り、住む場所も人種別で固定化されるなどしてきました。そして、こういう非白人マイノリティは安い労働力として利用されてきました。安い労働力を再生産するために、人種グループを固定化し、際立たせてきたということもあるでしょう。

 理念としての自由と平等などこうした人々からすれば何の感慨もないということになります。だからと言って、アメリカに反逆をするなどということもないのですから、目くじらを立てるのも狭量と言いたくなりますが、アメリカ白人のアメリカの国際的な地位と経済力の低下、国内的には多数派からの脱落などに対する恐怖心があるのだろうと思います。

 アメリカは現在割合は小さくなっていつまで続くかは分からないとは言え、世界一の経済大国であり、唯一の覇権国であることは間違いないところです。そうなれば、世界中から人々が押し寄せる、特に発展途上国や貧困国から移民が押し寄せるのは当然の話で、そうした人々全てにアメリカの歴史と英語を完全にマスターせよ、ということは不可能です。アメリカは変質を余儀なくされるということになります。

 

 アメリカで非白人が人口に占める割合がやがて5割を超え、将来的に6割に近づくということにもなっていくでしょう。英語が共通語にして公用語ということは変わらないでしょうが、やがて上記のような冗談は実態にそぐわない、そんな時代になっていくのではないかと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

共和党支持の白人の約半数、民主党支持の白人の18%が公の場で外国語を聞くと気になると答えた(About half of white Republicans, 18 percent of white Democrats would be bothered to hear foreign language in public

 

アリス・フォーリー筆

2019年5月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/442749-about-half-of-white-republicans-18-percent-of-white-democrats?fbclid=IwAR3Z6KPCAMkJTVT2dO1hQ16H0uAuAmDq6rqu1qYA91nJZfq-GBsk0fpnOGQ&fbclid=IwAR1mam9-C3gkXQns36hbCIO4ZLcnoOPg0cJbmi8bsmTrj070Pk3nq15eyBI

 

ピュー・リサーチセンターが水曜日に発表した最新の世論調査の結果によると、アメリカ国内の共和党支持の白人の約半数が公の場で外国語を話す人がいると気に障ると答えた、ということだ。

 

世論調査の結果によると、調査に答えた共和党支持、もしくは共和党寄りの白人の47%が公の場で英語ではない言葉を話す人物がいると「いくらか」もしくは「大いに」気に障ると答えた、ということだ。一方、民主党支持、もしくは民主党寄りの白人の18%が気に障ると答えた。

 

民主党支持の白人の58%は公の場所で外国語を話す人たちがいても気にならないと答えた。共和党支持の26%は同様の答えをした。


 
こうした分類を別にすると、白人全体の31%が公の場所で外国語を話す人がいると気に障ると答えた。アフリカ系アメリカ人の24%、アジア系の24%、ヒスパニック系の14%も気に障ると答えた。


ヒスパニック系の68%は、公の場所で英語ではない言葉を話す人がいても気にならないと答えた。アジア系の約半分も同様の答えであった。アフリカ系アメリカ人の48%、白人の41%も気にならないと答えた。

 

ヒスパニック系については、アメリカ生まれではない人の場合は76%が気にならないと答え、アメリカ生まれの61%が気にならないと答えた。

 

最近、白人が公の場で英語以外の言葉を話す人たちに高圧的な態度を取りトラブルとなっている様子が撮影され、インターネット上で拡散される出来事が続いている中で、今回の調査は実施された。

 

今年初め、カリフォルニア州のガソリンスタンドで、従業員が、客に対してスペイン語を話したことで因縁をつけ、アメリカ市民であることを証明するように求めた様子が撮影され、その映像がインターネット上で拡散し、この従業員は解雇された。

 

昨年、ダンキン・ドーナッツも謝罪に追い込まれた。従業員がソマリア語を話す家族と口論になったが、その理由は家族が母国語を話していたからというものであった。

 

2018年5月、ニューヨーク市の弁護士が店員と客がスペイン語で会話しているところに詰め寄って、移民関税捜査局(ICE)に通報してやると脅す様子が撮影された映像がインターネット上で拡散し、この弁護士は激しい批判を浴びた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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