古村治彦です。

 

 ジョー・バイデン前副大統領がアメリカ大統領選挙民主党予備選挙で独走状態と言えるほど、大きなリードをしています。現在の状況では2020年の米大統領選挙本選挙で民主党の候補者となる可能性が高まっています。病気やスキャンダルが明らかになればこの状況も変わってくるでしょうが、これは中々予測できません。

 

 バイデンは自分自身の出身州であるペンシルヴァニア州フィラデルフィアに大統領選挙対策本部を設置しました。そして、5月19日にフィラデルフィアで初めての大規模選挙集会を開催しました。翌日20日にはドナルド・トランプ大統領がペンシルヴァニア州を訪問し、選挙集会を開催しました。

 

 ペンシルヴァニア州が2020年の大統領選挙で重要な激戦州だとバイデン前副大統領とトランプ大統領共に考えていることが分かります。

 

アメリカ大統領選挙の本選挙は各州に配分された選挙人を取り合う仕組みです。例外もありますが一票でも上回った候補者が選挙人を総取りすることになります。選挙人の総数は538人ですから過半数は270人となります。2016年の大統領選挙では、トランプ大統領が304人、ヒラリー・クリントンが227人(残り7人は別の人)を獲得しました。

 

2016年の本選挙ではヒラリー優勢という予想が多く出ましたが、それは民主党優勢州と見られていたペンシルヴァニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州でヒラリーが何とか勝つだろうと見られていたからでした。しかし、結果は以下にある通り、得票率1ポイント差以内の激戦で、トランプがことごとく勝利したことで、304の選挙人を獲得し当選しました。この3つの州の選挙人数は合計で46人ですから、選挙人の合計の約8.5%を占めますので重要です。

 

■2016年の大統領選挙の結果の抜粋

 

●ペンシルヴァニア州(0.72%差):20人

・ドナルド・トランプ:2,970,733票(48.18%)

・ヒラリー・クリントン:2,926,441票(47.46%)

 

●ミシガン州(0.23%差):16人

・ドナルド・トランプ:2,279,543票(47.50%)

・ヒラリー・クリントン:2,268,839票(47.27%)

 

●ウィスコンシン州(0.77%差):10人

・ドナルド・トランプ:1,405,284(47.22)

・ヒラリー・クリントン:1,382,536(46.45)

 

 バイデンがフィラデルフィアに選挙本部を置いたのは、アメリカ建国時の首都であり、アメリカでは「古都」として位置づけられる場所で、「アメリカの価値」を前面に押し出して、対立と分裂を招いているトランプと対峙しようという姿勢を見せようという目的があるからです。そして、「打倒トランプ(beat Trumpnever Trump)」を旗印に選挙戦を展開しようとしています。

 

 これについては、「それでは2016年のヒラリー・クリントンの時と一緒だ」という批判が出ています。中西部のラストベルトの白人労働者の人々は、「民主党に投票してきた。彼らは良いことをたくさん言ってきたが、自分たちの生活は悪くなるばかりだ」と考え、トランプ大統領に投票したのです。アメリカの価値も重要かもしれないが、それよりも生活、経済のことが重要だと考えました。ですから、ヒラリー・クリントンに投票せず、トランプに投票しました。

 

 現在、ジョー・バイデンが支持率でトップを独走状態なのは、民主党支持者が、「彼はトランプを倒せる唯一の人物だ」「彼には本選挙で当選可能性(electability)がある(他の候補者には当選可能性はない)」と考えているからです。本選挙は共和党支持者や無党派の有権者にもアピールしなければなりません。ですから、「過激な社会主義者のサンダース、真面目なだけのエリザベス・ウォーレン、若造のブティジエッジでは、共和党支持や無党派の有権者にアピールできないのでトランプに勝てないので、やはり安定感と知名度があって民主党支持者以外にもアピールできるバイデンだ」ということになります。

 

 ですが、バイデンがヒラリーと変わらないことばかりを言い続けても、それでは2016年の時と変わりません。それでは何か経済で新奇なことをということになっても、公共投資や保護貿易といった民主党お得意の経済政策は既にトランプ大統領に取られてしまっています。その規模を云々するくらいしかできないとなると、「アメリカの価値」を訴えるということになります。その点で、民主党側はジレンマに陥っている、と言えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「バイデン候補が大統領選キャンペーンスタート 「結束」訴え」

 

By Osamu Fukuzaki

2019-05-19

Mashup New York

https://www.mashupreporter.com/biden-first-campaign-philadelphia/

 

2020年大統領選で民主党の指名獲得を目指すジョー・バイデン前副大統領は18日、フィラデルフィアで選挙集会をスタートした。

 

バイデン氏は冒頭、フィラデルフィアを最初の地に選んだことについて「我々の民主主義の誕生の地だからだ」と支持者に語りかけた。平等、生命、自由、幸福の追求の権利を「自明のこととする」と謳った独立宣言を引用し、これらがアメリカの平等や公正、公平の基礎となったと語った。

 

「結束」が中心テーマ

 

現在の政治状況を、党派的で、非生産的であると述べ、「判断について議論せずに、動機を問題にし、耳を傾けるかわりに、叫んでいる。解決を探さず、得点ばかりをもとめている。」と語った。

 

続けて「しかし、これでおしまいだ。この政治は我々を分断するからだ。…政治家は分断を売り物にしている。そして、我々の大統領は分断の最高指導者だ」と述べた。

 

また「民主党では”結束”について聞きたくないという声がある。彼らは、怒りが大きい候補者ほど指名を獲得できるといっている」と左傾化が進む党内の声について語り、「私はそれを信じていない。民主党はこの国を一つにしたいと思っている」と、党派を超えてコンセンサスを重視するスタイルを強調した。

 

先週ロイター通信は、バイデン氏が気候変動対策について、トランプ氏支持者と環境保護推進者の両方にアピールする「中道」政策を検討していると報じた。これに対し、バーニー・サンダース上院議員やワシントン州のジェイ・インスレー知事などの候補者や、オカジオ・コルテス下院議員から、気候変動に中道はありえないといった批判の声が上がっていた。

 

「アメリカ市民が大統領に、分断を増やし、拳を握って冷酷に国を導き、相手を悪者扱いしてヘイトを撒き散らすことを求めるならば、私は必要ない。」と語り、「私は、民主党と共和党、無所属を含む、この国に違った道筋を開くために出馬する」と述べた。

 

最重要政策は打倒トランプ

 

演説では、気候変動対策、投票権や女性の権利の保護、医療保障の拡大といった民主党の優先課題を共有している姿勢を示し、「政府をどのように機能させるか知っている。なぜなら成し遂げてきたからだ」と、上院議員と副大統領としての経験を強調した。一方、「私の気候変動対策で、第一に重要な政策を申し上げるならば、トランプを打ち負かすことだ」と語った。

 

17日にFOXニュースが発表した調査結果では、民主党支持者が候補者選びで最も重視する点として、トランプ大統領を倒せるかどうかが第一位となった。さらにすべての有権者を対象にした調査では、バイデン氏とトランプ大統領の戦いとなった場合、49%がバイデン氏(トランプ氏38%)を支持する結果となった。

 

演説では、オバマ前大統領についても度々触れた。トランプ大統領の最大のアピールポイントの一つである好調な経済環境について、前政権の成果を受け継いだと述べた。「トランプ大統領は、彼が人生で受け継いだものと同様に、オバマ-バイデン政権から経済を受け継いだ」と語ると、会場は大きな歓声に包まれた。

 

ニューヨークタイムズは昨年10月、トランプ氏が父親から、長年にわたって少なくとも4億ドル(440億円)を相続していたことを報じた。さらに同紙は今月、1985年から1994年の間、トランプ氏がビジネスで、1,000億ドル(11兆円)以上の損失をしていたと報じている。

 

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バイデンが2020年大統領選挙の選挙対策本部をフィラデルフィアに設置(Biden to base 2020 campaign in Philadelphia

 

タル・アクセルロッド筆

2019年5月16日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/443980-biden-to-base-2020-campaign-in-philadelphia

 

ジョー・バイデン前副大統領はフィラデルフィアに自身の選挙対策本部を設置することを決めた。フィラデルフィアはラストベルトの重要な州ペンシルヴァニア州内最大の都市である。ペンシルヴァニア州は本選挙当選に向けて重要である。

 

バイデンの選対責任者グレッグ・シュルツは声明の中で、「アメリカの民主政治体制の誕生の地に私たちの選対の本部を置くことを誇りに思っている」と述べている。

 

シュルツは「フィラデルフィアは繁栄し続けている都市であり、アメリカ精神を具現化している場所である。フィラデルフィアの一般市民の創意工夫と不屈の精神によってフィラデルフィアは建設された。フィラデルフィアの積み重ねられてきた歴史と多様性によって、ティーム・バイデンは鼓舞されることになるだろう。この国の魂のために戦い続けるためのまさに理想的な場所である。」

 

バイデンは土曜日に「同胞愛(brotherly love)」という名前の付いたフィラデルフィアで選挙集会を開催することになっている。

 

ペンシルヴァニア州はミシガン州とウィスコンシン州と同じく、2020年の大統領選挙で最も激しい戦いが展開される州となるだろう。これらの各州は長年にわたる民主党勝利の歴史を止め、2016年の選挙で勝利を収めた。

 

トランプ選対の上級顧問たちはペンシルヴァニア州でのトランプ大統領の再選の可能性について危惧を抱いているという報道が出た。2016年の選挙ではトランプ大統領は得票率で1ポイント以下の差で勝利を収めた。

 

バイデンは「要石の州(Keystone State、訳者註:ペンシルヴァニア州の別名)」の出身である。バイデンは白人の労働者階級の有権者たちの支持を取り戻そうとアピールに躍起になっている。白人の労働者階級の有権者たちは伝統的に民主党に投票してきたが、2016年の大統領選挙では民主党の候補者ヒラリー・クリントンではなくトランプ大統領を支持した。バイデンは今回の大統領選挙で自分がペンシルヴァニア州スクラントン出身であることをアピールし、アメリカのブルーカラーの労働者たちの苦境について理解があることを示そうとしている。

 

バイデン前副大統領は多くの候補者が立候補している予備選挙で先頭を走っている。先月に正式な出馬表明を行って以降、全国規模の世論調査で全て支持率トップを記録している。また、数百万ドル規模で選挙資金の寄付を受けている。

 

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2020年の大統領選挙での警報が鳴り、トランプ選対幹部がペンシルヴァニアを訪問(Trump camp descends on Pennsylvania as alarms grow over 2020

―トランプ選対はペンシルヴァニア州共和党の

The president’s team is set to meet with a state Republican Party riven by dissension.

 

アレックス・アイゼンスタッド、ホーリー・オッターバイン筆

2019年4月24日

『ポリティコ』誌

https://www.politico.com/story/2019/04/24/trump-pennsylvania-2020-1288797

 

2020年の米大統領選挙のトランプ陣営の上級アドヴァイザーたちは水曜日、ペンシルヴァニア州共和党の幹部たちと会談を持つためにハリスバーグに向かう。彼らは大統領選挙の結果を左右する激戦州でのトランプ大統領の勝利の見込みについて懸念を募らせながら当地に向かう。

 

トランプ選対は、2018年の中間選挙で共和党が大敗を喫したペンシルヴァニア州で挽回しようとして動いている。ペンシルヴァニア州共和党内部は対立や内部闘争などで分裂状態になっている。

 

6名の共和党幹部が会談実施は事実だと認めた。この会談はペンシルヴァニア州が大統領にとって重要な州であることを強調するためのものだ。2016年の大統領選挙で、トランプ大統領はペンシルヴァニア州において得票率1ポイント差以下で辛勝した。選対の幹部たちはペンシルヴァニア州に配分されている20名の選挙人が再選にとって極めて重要であると考えている。ペンシルヴァニア州は象徴的な面でも重要性を持っている。2016年、トランプ大統領はペンシルヴァニア州のブルーカラー労働者たちに向けた選挙運動を積極的に展開した。彼らの多くは伝統的に民主党に投票してきた人々だった。

 

ペンシルヴァニア州を訪問するトランプ選対の幹部には、選対の全国各地の人員の配置や資金の投入を決める部門の責任者クリス・カー、共和党予備選挙の代議員と各州の党組織との連絡と協力を担当するビル・ステピエンとジャスティン・クラークが含まれると見られている。共和党全国委員会の幹部たちも同行すると見られている。

 

今回の訪問は、各激戦州訪問の第一弾となる。最初の訪問地がペンシルヴァニア州になったことについて、選対幹部たちは、この州の重要性があることと再選の可能性について懸念が高いことを理由として挙げている。

 

ペンシルヴァニア州共和党委員長を務めたロブ・グリーソンは「党の現状は素晴らしいものではありません。このことは誰の目にも明らかなことです」と述べている。

 

会談では、人員や資金の投入、有権者に関するデータ、ペンシルヴァニア州共和党と全国委員会と選対の協力が中心議題になると見られている。

 

ペンシルヴァニア州共和党側から出席するのは、党委員長のヴァル・ディジオルジョと共和党全国委員会員ボブ・アッシャーと見られている。2016年にペンシルヴァニア州でのトランプ勝利に貢献したテッド・クリスティアンとデイヴィッド・アーバンも出席すると見られている。また、2018年の中間選挙で連邦上院議員選挙に敗北した、トランプ大統領の盟友ルー・バーレッタもと連邦下院議員も出席すると見られている。

 

大統領選挙トランプ選対の報道担当ティム・マーターは会談についてのコメントを拒絶したが、トランプ大統領がペンシルヴァニア州で勝利する見通しに自信を示した。

 

マーターは「2016年の大統領選挙でペンシルヴァニア州の有権者の皆さんはトランプ大統領につきました。2020年でも再び大統領の側に立つでしょう」と述べた。

 

トランプ選対はここ数か月ペンシルヴァニア州に力を注いできた。2019年1月、ディジオルジョはワシントンを訪問し、トランプ選対の幹部たちと再選について非公式に話し合った。ディジオルジョはその場で2020年の本選挙に関する見通しと計画を発表した。ヴォランティアの募集、2018年に共和党から離れた有権者たちへの広報活動、現在低調な資金集めを転換することについて詳細を報告した。

 

ディジオルジョは、ペンシルヴァニア州共和党はトランプ選対と緊密に協力し、それによって来年の選挙で「もう一回勝利」ができるであろうと述べたと言われている。

 

ペンシルヴァニア州共和党にとって悪いニュースが数か月続いた。その後に水曜の会談が開催された。2018年3月、保守的な土地柄で知られるペンシルヴァニア州南西部地区で実施された補欠選挙で共和党の候補者が落選した。2018年11月の中間選挙では、連邦上院議員選挙、州知事選挙において得票率で2桁の差をつけられて惨敗となった。また、連邦下院議員選挙でも3つの選挙区で敗北を喫した。これは選挙区が民主党に有利なように改正されたことが一因であった。

 

それ以降もマイナスな出来事が続いた。2019年4月に実施された州上院議員の補欠選挙で2016年にトランプ大統領が勝利した選挙区で民主党が勝利を収めた。全国レヴェルで、2019年に入って民主党が共和党から議席を奪還したのはこれが初めてのこととなった。共和党員の中からペンシルヴァニア州共和党は有権者にアピールし投票してもらうために十分な資金と人的資源を投入していないという不満の声が上がるようになっている。

 

ペンシルヴァニア州共和党内部の権力闘争によって執行部は大きなダメージを受けた。共和党員の中には委員長のディジオルジョには資金集めの能力がなく、2017年に実施された州共和党委員長選挙で分裂した党をうまくまとめることが出来なかったと批判している人々もいる。

 

その他にも失敗があった。先週、フォックスニュースのタウンホールミーティング形式に番組に民主党の候補者バーニー・サンダースが出席した。この番組はペンシルヴァニア州ノーザンプトンで収録され生中継された。この町は伝統的に民主党優勢の土地柄であったが2016年の選挙ではトランプ大統領が勝利した。ゴールデンタイムに放送されたこの番組は、トランプ王国で人々から喝さいを浴びるサンダース、という構図を視聴者に見せることになった。共和党支持の視聴者たちは、共和党の活動家たちがトランプ大統領の支持者をこのイヴェントに出席させてサンダースにブーイングをさせることを怠ったのではないかと疑念を持つほどであった。

 

しかし、ペンシルヴァニア州共和党の状況が安定し始めていることを示す兆候も出てきている。今年の冬の総会でディジオルジョ委員長に対する不信任決議がなされるという噂が数カ月に渡り流れたが、実際には決議はなかった。

 

ペンシルヴァニア州西部を代表している州共和党委員会委員ブルース・ホットルは総会前には州共和党執行部については「よく検討される」べきという立場を取っていた。しかし、現在までに彼は考えを変えている。

 

ブルースは「州共和党執行部は昨年秋の選挙で何がうまくいかず、何がうまくいったかについて検討を行い、改善すべき点を何とかしようと努力しています。ですから、私たちは同じ罠に再びはまってしまうことはないでしょう」と述べた。

 

州共和党の関係者の中にはペンシルヴァニア州で党が直面している問題は自分たちで何とか出来るレヴェルを越えていると見ている人たちもいる。フランクリン・アンド・マーシャル大学が先月発表したペンシルヴェニア州で実施した世論調査の結果では、登録済有権者の中でトランプ大統領の仕事ぶりを肯定的に評価する人たちは34%に留まった。これは現職大統領としては危険な水準である。

 

2020年の大統領選挙でペンシルヴァニア州において再び勝利するために、共和党幹部たちはトランプ大統領に対して、2016年の大統領選挙の際のパフォーマンスを再現する必要があると助言した。伝統的に民主党が優勢な州で2012年の選挙でもオバマ大統領(当時)が勝利した州で再び勝つためには2016年を再現しなければならない。To win

 

ペンシルヴァニア州共和党の幹部を長年務め、資金集め担当者であるアッシャーはトランプの再選に向けた選挙運動について手放しの賛辞を送っている。彼は水曜日の会談の際に「選対はペンシルヴァニア州の隅々に至る全ての人々、共和党関係者全てに参加してもらえている」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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