古村治彦です。

 

 先日、ドナルド・トランプ大統領によって解任されたジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官の後任にロバート・オブライエン(Robert O'Brien、1966年―)が決まった。ロバート・オブライエンは弁護士で、アメリカ政府高官として外交分野での経験も長い人物だ。また、アメリカ軍の法務関係で神奈川県の座間にある在日米陸軍司令部に勤務したこともある。民間で弁護士をしている時代も、共和党系の半官半民の組織である国際共和研究所(IRI)の代表として、2013年には中央アジアの国ジョージアの大統領選挙、2014年にはウクライナの議会選挙の監視団に参加した。

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 2005年には当時のジョージ・W・ブッシュ大統領によって、国連総会の米国代表に任命され、総会に参加した。その頃、国連大使を務めていたのは、オブライエンの前任者となるジョン・ボルトンだった。その後はブッシュ政権からオバマ政権にかけてアフガニスタンの司法制度の構築に参加した。2018年からは人質問題担当の特使を務めていた。

 下の『ワシントン・ポスト』紙の記事では、ロバート・オブライエンの古くからの友人が、彼はネオコンとは違う、古いタイプの保守派で、トランプ大統領の「アイソレーショニスト(アメリカ国内優先主義)」に沿った助言や説得をできると絶賛している。現在、アメリカ外交は、イランとの緊張の高まり、北朝鮮との交渉が先行き不透明、ヴェネズエラ問題に対する対処の失敗などの問題を抱えている。また、アメリカの力と存在感の減退によって世界各地域が不安定となっている。現在の日韓関係の悪化もその流れにある。

 ロバート・オブライエンはロナルド・レーガン元大統領の「強さを通じた平和」という考えを一貫して持っているようだ。これは軍事力増強に多額の予算を投入しつつ、軍事力の行使には消極的ということである。アメリカ軍の強大さと巨大さを誇示することで、反抗する意図を挫くということだ。これだとトランプ大統領の意向に沿う形になる。

 トランプ大統領はアメリカ海軍の増強を主張していて、オブライエンもその同調者(navalist、海軍増強主義者)だそうだ。これはアメリカの貿易ルートを守るためということもあるだろう。現在、太平洋や東シナ海、南シナ海をめぐっては米中の間で綱引きが行われている。中国は西太平洋までを実質的に自分たちのコントロールする海にしたい。アメリカ海軍はハワイまで引け、ということになる。アメリカはそうさせじとなり、日本をますます強く握りしめる。東南アジア諸国や太平洋島しょ諸国はその間をうまく立ち回ろうとしている。 

日本に近いところでは、「第一列島線(First Island Chain)」と「第二列島線(Second Island Chain)」をめぐる綱引きが起きている。この2つの線は中国封じ込めの線となっているが、中国はこの2つの線の内側を自分がコントロールする海にしたいと考え、アメリカはそれを阻止しようとしている。日本はその間で絶妙な位置にいる。

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 ロバート・オブライエンはネオコンであった前任者の失敗を繰り返すことはしないだろう。戦争に結びつくような動きはしないだろう。トランプ大統領とオブライエン新補佐官の認識は、米軍の再建が必要だということだ。これは現在の米軍は弱体化しており、世界の諸問題に対処するにあたり、米軍の弱体化はアメリカの力と存在感の減退を招いているので、まずは米軍の再建だということになる。米軍の増強には公共事業の拡大という側面もある。

 (貼り付けはじめ)

 

トランプが次の国家安全保障問題担当大統領補佐官にロバート・オブライエンを指名(Trump names Robert O'Brien as next national security adviser

 ブレット・サミュエルズ筆

2019年9月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/461910-trump-names-robert-obrien-as-next-national-security-adviser

ロサンゼルス発。トランプ大統領は水曜日、現在トランプ政権の人質問題担当特使を務めているロバート・オブライエン(Robert O'Brien)を国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命する意向だと発表した。

トランプ大統領は「私は長い間、ロバートと共に懸命に仕事をしてきた。彼は素晴らしい仕事をしてくれるだろう」とツイッター上に書き込んだ。

トランプ大統領は先週、ジョン・ボルトンを解任した。ボルトンの後任にオブライエンが就くことになった。ボルトンは北朝鮮問題とヴェネズエラ問題に対する政権の姿勢に同調することが出来なかった、とトランプ大統領は批判した。

 国家安全保障問題担当大統領補佐官に関しては連邦上院の人事承認を必要としない。

オブライエンはトランプ政権発足後の3年弱で4人目の国家安全保障問題担当大統領補佐官となる。彼の前任者たちは、マイケル・フリン、HR・マクマスター、ボルトンだ。
オブライエンはトランプ大統領が直面している様々な困難に対処するという難しい役割を担うことになった。イランと緊張関係の深刻化、北朝鮮の非核化について交渉が頓挫している状況、ヴェネズエラの状況の悪化など他の様々な国際問題に対処しなければならない。

 オブライエンは自分の考えに固執していきすぎることなく、トランプ大統領に助言を行うことが出来るに違いない。これはオブライエンよりもタカ派のボルトンには全くできなかったことだ。

 トランプ大統領は水曜日の午後にサンディエゴで開催される資金集めイヴェントに出席するために大統領専用機エアフォース・ワンに搭乗した。途中立ち寄ったロサンゼルスで、トランプ大統領はオブライエンを伴って姿を現した。その後、再びエアフォース・ワンに搭乗してサンディエゴに向かった。トランプ大統領は途中で立ち寄ったロサンゼルスで、記者団に対して、おぶらいえんを「素晴らしい人物」と称賛し、トランプ政権下で、本国に戻ることが出来たアメリカ国民の人質の記録を示し、業績を強調した。

トランプ大統領は記者団に対して次のように語った。「オブライエンとはしばらくの間一緒に働いたが、私たちは大きな成果を上げた。私たちは多くのアメリカ人を故郷に連れ帰ったが、身代金は全く支払っていない」。

オブライエンは国家安全保障問題担当大統領補佐官という新たな役割を果たすことを楽しみにしていると述べ、トランプ政権はこれまで多くの外交上の勝利を収めてきたが、これから多くの困難も待ち受けていることは認識しているとも語った。

オブライエンは次のように述べている。「トランプ大統領に仕えることは光栄なことで、強さを通じての平和が、大統領の残りの任期である1年半続くことを望む。トランプ大東慮の指導力の下、アメリカは多くの外交政策上の成功を収めてきた。私はこれがこれ化も続くことを期待している」。

オブライエンは続けて次のように語った。「私たちは多くの困難に直面してきた。しかし、ポンぺオ国務長官、エスパー国防長官、ミュニーシン財務長官といった人々が構成する素晴らしいティームで対処してきた。私はこのティームと一緒に働けることを楽しみにしている。そして、大統領と共にアメリカを安全にするために努力する。また、軍を再建し、強硬な姿勢を通じての平和を私たちに取り戻す(get us back to a peace through strength posture)」。

オブライエンは2018年に国務省の人質担当の首席交渉者となった。彼は海外で拘束されているアメリカ国民の解放のために働いた。オブライエンはラッパーのA$APロッキー がスウェーデンで拘束され、その釈放手続き期間中にスウェーデンまで赴いた。トランプ大統領はスウェーデン政府に対して暴行事件で逮捕されたA$APロッキーの解放を求めた。

オブライエンは長年にわたり外交分野で働いてきた。ジョージ・W・ブッシュ元大統領は2005年の国連総会の米国代表にオブライエンを指名した。また、ブッシュ(子)政権とオバマ政権で、アフガニスタンの司法システム構築のために、米国人の裁判官、検察官、弁護士を訓練するための国務省プロジェクトの共同委員長を務めた。

火曜日、トランプ大統領はカリフォルニア州での資金集めイヴェントへと向かう大統領専用機エアフォース・ワンの中で記者団に、国家安全保障問題担当大統領補佐官の候補者として考えている人物たちのリストを伝えた。

オブライエンの名前は、前任の国家安全保障問題担当大統領副補佐官(国家安全保障問題担当大統領補佐官はHR・マクマスター)リッキー・ワデル、エネルギー省高官リサ・ゴードン=ハガティ、元CIA分析官フレッド・フライツ、マイケル・フリン国家安全保障問題担当大統領補佐官辞任を受けて代理を務めたキース・ケロッグ陸軍中将が掲載されたリストの中に入っていた。

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トランプ大統領は、彼自身と国家が必要とする国家安全保障問題担当大統領補佐官を正確に選択した(Trump chose exactly the national security adviser he and the country need

 ヒュー・ヒューイット筆

2019年9月19日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/opinions/2019/09/19/trump-chose-exactly-national-security-adviser-he-country-need/

トランプ大統領は水曜日に新しい国家安全保障問題担当大統領補佐官について素晴らしい選択を行った。ロバート・C・オブライエンは2018年5月以来、トランプ政権の人質問題担当特使を務めてきた。彼はトランプ大統領就任以降に20名以上のアメリカ国民を祖国に連れ帰ることに貢献してきた。

オブライエンの有能さはトランプ大統領の関心と重点政策に合致してきた。しかし、それだけで彼が国家安全保障問題担当大統領補佐官に選ばれた理由ではない。マイク・ポンぺオ国務長官はオブライエンの重要な役職への昇進を支持した。国家安全保障問題分野で活躍してきたヴェテランたちは「レーガン流の強さを通しての平和」を目指す保守派(“Reagan peace through strength” conservatives)」に属してきた。このグループは、ロナルド・レーガン政権のキャスパー・W・ワインバーガー国防長官とジョージ・P・シュルツ国務長官にまで連なる。こうしたネオコンとは違う保守派は、国家安全保障問題担当大統領補佐官の仕事をよく理解している。彼らはリチャード・M・ニクソン大統領時代のヘンリー・キッシンジャーが国家安全保障問題担当大統領補佐官の仕事の内容を激変させたことを知っている。

私とオブライエンは親密な友人同士であることはここで書いておかねばならない。2つの法律事務所でパートナーを務めた仲だ。また、10年以上前から私が司会を務めるラジオ番組のゲストとして何度も来てくれた。また、私が国家安全保障分野に関するエッセイやコラムを書く際にも協力してくれた。私は昨年の夏に法律の実務から引退したが、チャップマン大学ファウラー記念法科大学院で教えることは続けている。私は2016年にオブライエンが出版した書籍『アメリカが眠っていた間に:危機に直面する世界に対してアメリカの指導力を再構築する』の推薦文を書いた。私以外にも多くの人々が今回の決定を称賛しているが、皆似たような内容の話をしている。これまでに、オブライエンは、ミット・ロムニー連邦上院議員(ユタ州選出、共和党)、前ウィスコンシン州知事スコット・ウォーカー、テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)に助言をしてきた。連邦下院少数党院内総務ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)とは長年の友人であり、マッカーシー以外にもカリフォルニア政界や国家安全保障分野に多くの友人を持つ。

今回のオブライエンの抜擢という選択を行うにあたり、トランプ大統領は、オブライエンの大統領自身とポンぺオ国務長官とうまく仕事をやっていく確立された能力だけでなく、海外や国内の法廷で複雑な訴訟で様々な依頼人の代理人を務めてきた技術を注目した。トランプ大統領が選択を行うにあたり、素晴らしい能力と誠実さを持つ人物を選ぶ必要があった。様々な事実と選択肢をまとめて大統領に説明し、大統領執務室にいない同盟諸国とアメリカ政府の高官たちを代弁して大統領を説得できる人物が必要であった。その人物こそがオブライエンだ。彼は複数の法律事務所を運営した経験を持つ。大規模な法律事務所では経営陣はエゴの塊で、野心と仕事が絡み合い、競い合う場所である。

オブライエンは様々な分野の書籍を読み、ウィンストン・チャーチルを尊敬している。オブライエンは「海軍増強主義者(navalist)」として知られている。トランプ大統領が提唱する「355隻」体制の海軍の賛同者たちは、ホワイトハウス中枢ウエストウィングに新たに友人を持つことになる。オブライエンは、トランプ大統領は艦隊の拡大を志向していることを人々に思い出させることが期待されている。私はオブライエンと一緒に船舶のエンジン・ドライブの製造工場を訪問したことがあった。私はオブライエンが工業レヴェルの現実と海軍のトップの意向をよく分かっている。

オブライエンは危機の真っただ中にある国々、アフガニスタン、ウクライナ。ジョージアを選挙監視団や外交官として訪問してきた。ジョージ・W・ブッシュ政権下、国連の米国代表部でジョン・ボルトンと一緒に仕事をした経験も持つ。最近では、外国の政府や組織に誤って拘束されたアメリカ国民の解放のためにトランプ大統領の代理として世界中を飛び回った。トランプ大統領はアメリカ国民を祖国に連れ帰るということに重点を置いており、それがオブライエンの情熱の源になった。拘束されたアメリカ国民の家族は新しい国家安全保障問題担当大統領補佐官はトランプ大統領とポンぺオ国務長官の人質奪還の強力な意向を共有していることを分かっている。最近のアメリカの外交史において、人質奪還がこれほど熱心に行われたことはなかった。オブライエンはアメリカ国民を海外で拘束しても何の得もしないと示しながら人質を解放することに成功した。

トランプ大統領はアメリカ軍の再建と現場の陸軍兵、海軍兵、空軍兵、海兵隊員の装備を最高で最強の兵器にすると主張している。オブライエンがこれまでに発表した著作や記事を概観すると、彼がこれまで長い間同じことを訴えてきたことが分かる。オブライエンはロナルド・レーガン大統領の前に立った。レーガン大統領と同様、トランプ大統領は外国の揉め事にすぐに介入することはない。トランプ大統領は国家安全保障問題について「ネオコンサヴァティヴ」ではなく、古いタイプの保守だ。自分が仕える人物の意向を受けて、オブライエンは、真剣で経験豊富なこれまでの国家安全保障専門家たちのラインに連なり、古典的な補佐官となる。

オブライエンは前任者たちとは違ってこれまで有名ではなく、国家安全保障分野では若手の間では知られている。彼はこれまでの20年間、国家安全保障分野の若手たちを教えてきた。国家安全保障分野、そして軍事分野には次世代にも受け継がれる一つの伝統が存在する。

トランプ大統領は政権の政策を実行するために有能で、公正な、そして知性のある補佐官を選択した。世界各地で緊張が高まる中で、これはアメリカに対する信頼を構築する選択となる。

(貼り付け終わり)

 (終わり)

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決定版 属国 日本論