古村治彦です。

 トゥルシー・ギャバード連邦下院議員(ハワイ州選出、民主党)は民主党の中で「鬼っ子」「異端児」となっている。歯に衣着せぬ発言と大胆な行動で民主党主流派や正統派を苛立たせている。民主党指導部からの受けも悪い。地元ハワイ州の民主党指導部(日系人が多い)にも平気で喧嘩を売る。ハワイ州軍の少佐であり、イラクに2度派遣された従軍経験を持つ帰還軍人だ。この点に関しては彼女を批判する人々も頭を下げる。

 ギャバードはアメリカが外国に介入することに反対し、政権転覆のための戦争(regime change wars)をするべきではないと主張している。この点ではドナルド・トランプ大統領と考えは共通している。選挙戦直後の2016年11月21日にトランプはギャバード議員と会談を持った、ギャバード議員はトランプに対してシリアに対する関与の度合いを強めることに反対するという話をしたということだ。トランプはこの時にギャバードの政権入りを考えていたが実現しなかった。

 2016年の大統領選挙の時、ギャバードは民主党全国委員会の副委員長を務めていたが、民主党全国委員会の委員長デビー・ワッサーマン=シュルツをはじめ幹部たちがヒラリー・クリントンに有利になるように討論会などを設定することに抗議し副委員長を辞任し、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)支持を表明した。

 こうしたギャバードの行動は民主党主流派、そしてヒラリー・クリントンを激怒させた。そして、最近になってヒラリー・クリントンは報復として、「ギャバードがロシアからの支援を受けている、それはトランプ大統領をさせるためだ」という根拠のない攻撃を行った。これに対して、ギャバードは鮮やかに切り返し、ヒラリーを「民主党を悪くしている腐敗の権化(personification of the rot that has sickened the Democratic Party)」「戦争屋たちの女王(queen of warmongers)」と呼んで、人々の関心を集めることに成功した。

 ギャバードのヒラリー評は本質をズバリとついた素晴らしいものだ。そして、ヒラリーの攻撃を利用して、人々の関心を集めることに成功しているのも大きい。ヒラリーの発言については民主党主流派や主流メディアも対応に苦慮している。そもそもが根拠のない話であってそれをそのまま使う訳にはいかないので、メディアでは同じ内容をヒラリーの支援者が語っている形にして引用してギャバード攻撃を仕掛けているが、うまくいかない。また、「放っておけば自滅する候補者にスポットライトが浴びるようにしやがって、ヒラリーのバカが」という批判も出ているようだ。

 今回の騒動は民主党内部の腐敗や分断がこれからも進んでいくことを象徴している。これで大統領選挙には勝てないということになり、結果としてトランプ再選を望む外国を利することになる。こうした点に思いが至らずに、自分の復讐心だけで現在も余計な動きをしているヒラリーにはそもそも大統領になる資質はなかったということになる。

(貼り付けはじめ)

クリントンのギャバード攻撃は大統領選挙において深刻な火種になる(Clinton attacks on Gabbard become flashpoint in presidential race

ジョナサン・イーズリー筆

2019年10月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/466785-clinton-attacks-on-gabbard-become-flashpoint-in-presidential-race

トゥルシー・ギャバード連邦下院議員(ハワイ州選出、民主党)の選挙運動が民主党予備選挙において火種となっている。ヒラリー・クリントン元国務長官は、ロシア政府がギャバードに対して2020年の本選挙でトランプを再選させるために第三党で出馬するように勧誘していると発言した。この発言の後、ギャバードが民主党にとっての火種となっている。

ギャバードは第三党の候補者として立候補することはないと明言した後、ヒラリー・クリントンに反撃をし、ヒラリーを「民主党を悪くしている腐敗の権化personification of the rot that has sickened the Democratic Party)」と呼んだ。

トランプ大統領は右派と左派の多くと一緒になってギャバードを擁護している。支持率が低い候補者であるギャバードに対して新しいアピールをする機会を与えることになり、このアピールは苦しい選挙運動を続けているギャバードにとって有効なものとなるだろう。

民主党員の中にはヒラリーの発言に苛立っている人がいる。こういった人々は、ギャバードはロシア政府のお気に入り、財産であることを示す証拠はないと主張している。また、自分たちはギャバードのことが気に入らないのに、2016年の大統領選挙民主党候補者ヒラリーが、そのままにしていれば消えていくはずのギャバードに人々の関心を集めさせていると非難している。

ギャバードは38歳の帰還軍人である。ギャバードはこれまでも民主党指導部を攻撃し、シリア大統領バシャール・アサドと会談を持ったこともあった。こうした行動で、民主党主流派と対立している。アサド大統領率いるシリア政府はロシア軍によって支えられている。

しかし、ギャバードに関心が集まるようにしてしまったことで、ヒラリー・クリントンは民主党内のエスタブリッシュメントと反主流派との間の亀裂を再び深めることになった。前回の大統領選挙民主党予備選挙で反主流派はバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出。無所属)をヒラリー・クリントンに負けない候補者にまで押し上げた。

民主党に政治献金を行っているある人物は次のように述べている。「ヒラリー・クリントンが2020年の大統領選挙に関してギャバードの名前を出すたびに私たちは恐怖感を持ってしまう。民主党員がお互いに戦い、今回の論争が古い傷を再び開けてしまえば、トランプ大統領を利するだけだ」。

ヒラリーの発言内容は民主党全国委員会を苦しい立場に追い込んでいる。民主党全国委員会は外国政府からの介入への懸念と予備選挙での中立性の維持との間でバランスを取ろうとしている。

ギャバードは民主党全国委員会が資金集めと世論調査の支持率の数字に関する参加条件を「不正に操作している(rigging)」と非難している。参加条件を意図的に厳しくすることで、彼女やその他の候補者たちが討論会に参加することを困難にさせていると主張している。

ギャバードは11月の討論会の参加条件をクリアしていない。それでも月曜日、ギャバードは11月の討論会の参加条件となっている4回の支持率に関して最初の1つをクリアしたと発表した。

民主党全国委員会は今回の論争についてのコメントを拒否している。しかし、討論会の参加条件を設定している。そして、多くの候補者が立候補している予備選挙をうまく管理しながら条件の透明性を確保していると主張している。

民主党全国委員会のある幹部は、民主党全国委員会はインターネットのネットワークの補強と民主党の候補者たちに関する偽情報を監視することに多額の資金を投入していると述べた。

しかし、ヒラリーの「ギャバードは意図していないだろうがロシアにとっての財産になっている」という当て擦り発言は、民主党幹部たちが私的な会話の中で話していたことを表に出すものとなった。

2016年の大統領選挙に関して民主党幹部たちが嫌な思いを今でも持っているのは、緑の党の候補者ジル・ステインが重要な各州でヒラリーに向かうはずの投票を奪った可能性が高いというものだ。

民主党の一部には、ギャバードは不穏な考えを持つ泡沫候補で全く見込みのない無謀な選挙戦を展開しているが、こうした彼女の行動は、親トランプ派のコメンテイターのマイク・サーモヴィッチや「クークラックスクラン」の元指導者デイヴィッド・デュークのような右派の物議をかもす人物たちからの支持を集めている、と考えている。

ギャバードはデュークから支援を受けているという指摘を否定している。しかし、彼女はフォックスニュースチャンネルに複数回出演し、タッカー・カールソンのインタヴューを受けており、こうした行動が民主党指導部を苛立たせている。

月曜日、トランプ大統領はギャバードを擁護した。

大統領は「(ヒラリーは)誰でもロシアのエージェントだと非難している。こうした人々は病気なのだ。何か悪いことがこうした人々の中で起こっている」と述べた。

ギャバードの支援者や協力者たちは、彼女の選挙運動が右派に向けてアピールするものではないと述べている。しかし、エスタブリッシュメントに対する攻撃と民主党正統派の考えからの逸脱は、トランプ支持者の一部を含むすべての場所の反主流派の共鳴を呼んでいる。

ギャバードの支援者たちはヒラリー・クリントンが組織化しているギャバードへの攻撃に怒っている。また、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ギャバードは右派からの支援を受けているとかロシア政府は積極的に彼女の選挙戦を支援していると当てこするヒラリー・クリントンの支援者や協力者の発言内容を引用することでギャバードに対する攻撃を支援する形になっている。

今週末に公表したヴィデオ映像の中で、ギャバードは「2016年の大統領選挙で私はバーニー・サンダースを推薦した。多くの人々がそんなことをしたらあなたの政治キャリアは終わることになると言った」と述べた。

「人々は次のように私に言った。“ヒラリーはこのことを決して忘れない。だから、彼女と彼女の富裕で力を持つ友人や協力者たちがあなたを破滅させることは間違いない。彼女の友人たちは政界やメディアに多くいる”と。選挙戦に出馬した初日から数えきれない程の、私に対する汚い言葉に満ちた攻撃が始まった。こうした攻撃をしている人たちは私の評価と私のこれまでの公務に傷をつけ破壊しようとしている。何故なら私がこうした人々の考えや行動に立ちはだかっているからだ」。

カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)の協力者たちはギャバードに対する攻撃に参加している。ハリスの検察官時代の仕事内容についてのギャバードの攻撃を増幅しているインターネット上での疑わしい行動が存在していると協力者たちは主張している。

ギャバード選対がロシアと協力していることを示す証拠は存在しない。また専門家たちは、インターネット上のロシアのボットを使った活動は、アメリカ国内の多くの組織や団体をより分断させることを目的にしていると指摘している。

ギャバードの擁護者たちは、ハリスからの攻撃は討論会での衝突から出たものだと見ているが、ヒラリー・クリントンからの攻撃は2016年にギャバードがサンダースの取り扱いに抗議して民主党の副委員長を辞任したことに対する報復だと主張している。

サンダースを支持している進歩主義派のストラティジストであるジョナサン・タシニは次のように述べている。「ヒラリー・クリントンからの攻撃は、赤狩りのマッカーシー時代の中傷と同じだ。ゴールドマンサックスにいる彼女の親友であり欺瞞のプロたちとシャルドネワインを飲みながら何の証拠もないところから中傷をあっという間に生み出す」。

タシニは続けて次のように述べている。「より皮肉なことは、もしある人物が外国政府から資金を受け取って財産のような存在になっているというならば、ヒラリー・クリントンこそがその人だということだ。ヒラリーの財産はサウジアラビアから数百万ドルを受け取っている。サウジアラビアの独裁者たちは女性を抑圧し、イエメンで一般市民たちに対して虐殺に近い戦争を実行している。こうしたことは彼女を困らせてはいないようだ」。

予備選挙候補者のうち、実業家アンドリュー・ヤン、ビトー・オローク前連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)、インディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジはギャバードに対する攻撃には根拠がないとし、彼女を擁護している。

専門家や主流メディアに出ているニュースキャスターはヒラリーの発言内容について、敵意とより深い疑義をもって扱っている。

しかし、ヒラリーの協力者たちはある種の賭けに出ている。こうした人々は、ギャバードに対しての発言はギャバードが第三党の候補者として立候補することや別の候補者が当選した際に閣僚などになることを阻止するための試みなのだと主張している。

民主党系ストラティジストであるアダム・パークホーメンコは次のように述べている。「民主党全国委員会が何をしようがしまいが、トゥルシーと彼女のボットは不正に操作されているとか共同謀議だと叫び続けるのだ。シリアのアサド大統領を擁護する人々と同じ考え方なのだ。私が大変失望しているのはロシアの介入を否定する機会を与えられた候補者たちがそれに惨めに失敗していることだ」。

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ギャバードはクリントンに対して「戦争屋たちの女王」と反撃(Gabbard hits back at 'queen of warmongers' Clinton

マーティー・ジョンソン筆

2019年10月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/466524-gabbard-hits-back-at-queen-of-warmongers-clinton

アメリカ大統領選挙民主党予備選挙候補者トゥルシー・ギャバード連邦下院議員(ハワイ州選出、民主党)は金曜日、2016年大統領選挙民主党指名候補ヒラリー・クリントンが「ギャバードは2020年の大統領選挙でロシアのお気に入り」という示唆をしたことに対して反論し、ヒラリーのことを「民主党を悪くしている腐敗の権化(personification of the rot that has sickened the Democratic Party)」と呼んだ。

ヒラリー・クリントンはポッドキャスト番組「キャンペーンHQ」に出演し、司会のデイヴィッド・プロウフに対して「彼女はロシア人のお気に入りだ。これまでロシア人たちは多くのサイトとSNS上のボットを作り、彼女を支援している」と述べた。プロウフは2008年の大統領選挙でバラク・オバマ陣営の選対責任者を務めた人物だ。

元ファーストレイディーにしてニューヨーク州選出の連邦上ン議員でもあったヒラリーはギャバードの名前を出さなかったが、彼女の発言がギャバードを指していたのは明白だ。ギャバードはこれまでにもロシアにとっての財産であるとか手駒であるという非難を繰り返し否定してきた。

一連のツイートの中で、ギャバードはヒラリー・クリントンを攻撃し、ヒラリーを民主党エスタブリッシュメントの「腐敗の具現化」と呼んだ。

ギャバードは「私が大統領選挙に立候補表明した初日から、私の評判を貶めるための組織だった運動が展開されてきた」と述べた。

ギャバードはヒラリーに対して「私の評判を落とす運動の裏に誰がいるのか、そして何故そのようなことをするのかということが不思議で仕方がなかった。今はっきりと分かった。常にあなたがいたのだ」と述べた。
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ギャバードは更に「私と攻撃したいなら大統領選挙に参加してからする」ようにと発言した。

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ギャバードはハワイ州軍の一員であり、イラクに従軍した帰還軍人である。正解事情に精通している人々は、ギャバードの選挙運動はロシアが作成したSNS上のボットやインターネット上の「荒らし」行為によって支援されていることに懸念を持っている。

ギャバードは反エスタブリッシュメント的な外交政策の立場を堅持し発言を行い、人々を驚かせている。特に政権転覆戦争へのアメリカへの関与に対する非難と2017年にシリア大統領バシャール・アサドとの会談は人々を大いに驚かせている。

ギャバ―ドのツイッター上でのヒラリー・クリントンへの攻撃は他の候補者であるコーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)の言葉を失わせる程のものであった。


「リアルクリアポリティックス」の世論調査の平均支持率によると、ギャバードは全国規模では1.2%を記録している。今週のオハイオ州での討論会では支持率下位の候補者であった。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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