古村治彦です。

 日本政府は「観光立国」を目指している。2020年夏には東京(と札幌やそのほかの地域)でオリンピック・パラリンピックが開催されることもあり、訪日客4000万人を目指している。世界GDPの40%近くを占め、世界経済の成長エンジンとなっているアジア諸国は人々の生活水準も上がり、海外旅行にも行ける人の数が増えており、海外旅行先として日本が選ばれることも多い。日本全国の観光地で様々な言語が飛び交うようになっている。

 私が生まれ育った鹿児島市にもいくつか観光地があり、その最大のものはやはり桜島であり、建造物で言えば、薩摩藩の藩主であり英明で知られた島津斉彬を祀った照国神社や、藩主の別邸を中心とした磯庭園だ。少し足を延ばせば有名な温泉地である指宿もある。こうした場所で、中国、台湾、韓国からの団体旅行客が多く見られるようになった。

 しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大が起きた。中国で人々が長期休暇となる春節の時期に起きてしまった。この時期は中国から日本に多くの観光客が訪れる。しかし、急遽キャンセルになった。下の記事が示すように影響は大きく深刻だ。

(貼り付けはじめ)

●「新型肺炎、奈良観光に大打撃 人出は「10分の1に」」

2/2() 10:29 配信朝日新聞デジタル

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200202-00000013-asahi-soci

 新型コロナウイルスは奈良の観光にも影響を及ぼしている。奈良県内に住むバス運転手の男性(60代)への感染が判明してから初めての週末を迎えた1日、奈良公園(奈良市)周辺の人出は少なかった。観光バスの出入りは減り、ホテルや旅館ではキャンセルが相次いでいる。

 この日の午前11時過ぎから午後3時半まで奈良公園周辺を歩くと、散策する人の姿はまばら。大勢の外国人観光客がシカにせんべいをやる光景もほとんど見られなかった。例年なら中国の春節にあたり、中国人観光客でにぎわう時期だ。

 鹿せんべいを売る行商組合の男性(58)は「春節なのに、すごく少ない。去年の10分の1くらい。中国人だけでなく全体的に減った感じ。しょうがないですが」と話した。

 中国は感染拡大を防ぐため、1月27日から国外旅行を含む団体ツアーを禁止にしている。翌28日、バス運転手の男性の感染が明らかになった。荒井正吾知事は、男性の運転するバスが奈良公園に1時間ほど立ち寄ったことを明かしたうえで、「県内での感染は想像しにくい」と強調した。

 だが観光客の不安は残る。東大寺や興福寺ではマスク姿の参拝者が目立った。東大寺の近くを家族4人で歩いていた三重県伊勢市の乾智典さん(41)は「子どもがシカを見たいというので連れてきました。ぎりぎりまで迷ったけど、屋外やし大丈夫かなと」

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●「新型コロナウイルスで中国人観光客「40万人減」の可能性」

白井 咲貴日経ビジネス記者 2020130

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00105/013000003/

 新型コロナウイルスの経済面への影響が心配される中、観光業に新たな懸念が出てきた。40万人近い中国人が日本への旅行を取りやめる可能性だ。

 中国人が観光ビザを取得する場合、日本の旅行会社が身元保証人となった「身元保証書」の発行を受ける必要がある。日本旅行業協会(JATA)によると、「127日から3月までに来日する観光客の身元保証書を約40万件発行していた」という。だが、新型コロナウイルスの感染拡大で中国政府が127日以降の海外への団体旅行を禁止した影響もあり、「100%とは言わないが、ほとんどの人が日本への旅行を取りやめることになるだろう」(JATA)。今後、訪日客が激減する可能性がある。

 日本政府観光局(JNTO)によると、20192月の訪日中国人は約72万人、3月は約69万人だった。23月で仮に40万人近くが旅行を取りやめれば、大きな影響が出るのは間違いない。特に今年は「1月中旬までの身元保証書の発行数は前年を大きく上回って推移していた」(JATA)ため、機会損失は大きい。

 すでに影響も出始めている。大手旅行会社の国内旅行責任者は「取引のある旅館でキャンセルが相次いでいる。中国人客のキャンセルの穴を埋めるため、日本人へ積極的にプロモーションしていく」と話す。

 重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した03年時点で44万人だった訪日中国人は、ビザの緩和やLCC(格安航空会社)の増加などで19年には959万人と20倍以上になった。日韓関係の悪化で韓国人観光客が激減する中、中国人観光客は観光業にとって頼みの綱だった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により「40万人減」という大きな打撃を受ける可能性が出てきた。観光関連産業の先行きに不透明感が漂っている。

(貼り付け終わり)

 中国政府は中国国民の海外旅行禁止措置を取っており、現在旅行で滞在している人たちもいずれ帰国することになる。今回の新型コロナウイルスの感染拡大がどれほどの影響を持つものなのかは終息してみて、統計上の数字を見て見なければ最終的なことは分からないが、素人が推計をして見てもかなり深刻であることが分かる。日本政府観光局が出している統計データは大変詳細なものであり、参考になる。

※日本政府観光局のウェブサイト上にある統計データ↓

https://statistics.jnto.go.jp/graph/#category--10

2019年の訪日外国人旅行者の合計は3188万2100名だった。2018年は3119万1856名で、約70万名の増加となった。日本の「観光立国」戦略は推進され、成果を上げている。訪日外国人旅行者の平均滞在日数は約5日間、一人当たりの平均旅行支出額(宿泊・飲食・娯楽など)は約15万3000円(2018年)です。2019年も一人当たりの支出に大きな変化がないものとすると、約3200万人の人が平均15万円のお金を使うということになるから、単純に計算すると、合計で約4兆8000億円のお金を日本で使っているということになる。

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中国からの旅行者は2019年では959万4300名で、全体の約30%を占めている。中国からの旅行者が国・地域別では第1位です。第2位は韓国からの旅行者で、558万4600名で約17.5%、3位は台湾からの旅行者で、489万600名で約15.4%となっている。

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 訪日観光客の80%は東アジア地域、東南アジア地域プラスインドからとなっている。やはり欧米諸国やアフリカ、南米地域からは「日本は遠い」ということになるのだろう。また、アフリカや南米地域には発展途上国も多く、海外旅行を楽しむ余裕がある人も少ないのだろう。

 訪日観光客数上位3名の国々の平均的な訪問客にはそれぞれ特徴がある。例えば、韓国からの訪問客の滞在日数は平均で2.8日、台湾で3.7日となっている。考えてみれば、私たち日本人も韓国や台湾はお手軽な海外旅行先ということもあり、週末の金曜日の夜から日曜日までという旅程を組む場合が多い。逆から考えれば、韓国や台湾からでも日本は週末に訪れることができるお手軽な国ということになるのだろう。

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中国人訪日観光客は平均滞在日数が5.2日で、平均で22万円のお金を使う。その内訳を見ると、買い物に11万円を使うとなっている。私たちが報道などで見る「中国人の爆買い」は統計上の数字でも分かり興味深い。約900万人が22万円のお金を使うというのは、総計すると1兆9800億円を使うということになる。訪日外国人観光客全体で4兆8000億円なので、40%以上を中国人訪日観光客(訪問者数で言えば30%)が占めることになる。中国からのお客さんは「お金を落としてくれる上得意」ということになる。

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今回の事態で中国からの訪日観光客がどれだけ減るのか分からない。事態がピークを越えた、終息に向かっているとなっても、中国政府やWHO(世界保健機関)が終息宣言を出さなければ、中国の人々が海外旅行に出かけるということにはならないだろう。また、他国からの旅行者も減少するだろう。事態の推移を見なければ分からないが、2021年からは回復傾向になっていくであろうが、今年は厳しいと思っていた方が良いだろう。

今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。中国もまたメダル大国であり、中国からたくさんの人々が中国選手の応援に来ることが予想される。そうなると厄介なのが訪日中国人に対するヴィザ発給だ。終息宣言があって、また通常通りということになるだろうか。SARSの事例から、新型コロナウイルスがピークを過ぎるのは今年の5月から6月と予測する医学者もいる。オリンピック・パラリンピックの直前だ。

封じ込めは中国国内から人々が出ないということで行われている。終息宣言が出ても、それではすぐにまたいつも通りとなるかどうか、日中両国政府にとって頭が痛い問題だ。日本政府としては日本国内の世論もあり、医師の健康診断を受け、新型コロナウイルスに感染していないことを示す証明書を中国からの訪問客が提出することを義務付けるだろう。これは訪問予定者にとって手間となり、それなら訪日は諦めようということになれば中国からの訪日客は減少する。

また、オリンピックを機会にして中国以外の国々からの訪日も増えることが予想された。しかし、今回のウイルスの封じ込めがいつまでかかるかに依るが、見込まれていた訪日客は減ることが容易に予想される。アジアを一緒くたにして見る傾向が強い欧米諸国では、人々の間で日本は中国の隣で危険だという心情が残る可能性がある。そうなれば海外向けに発売していたチケットがどうなるか分からない。キャンセルされて、それが再発売されるとなれば、日本国内で売れる。しかし、海外との間でのキャンセルと払い戻し手続きを行い、国内で再販売手続きを行うのは大変な手間となる。
 オリンピックの場合、特定の種目で世界の超一流のプロスポーツ選手が出場する。例えば、バスケットボールではアメリカ代表はNBAのスタープレイヤーたちで構成される「ドリームティーム」となる。サッカーも年齢制限があるものの、こちらも各国を代表する若手のスタープレイヤーが多く出場する。新型コロナウイルスが収束して間もない段階で、東京で開催されるオリンピックに、これらのプレイヤーが出場することをサラリーを払っている所属ティームやリーグが快く送り出すかとなると不透明だ。彼らの身体と技能を高額のお金を出して買っているのはこうしたティームだ。どのように判断するか、そして、プレイヤー自身がどのように判断するか不透明だ。もし、世界のスタープレイヤーたちの出場辞退となれば、せっかくの人気の花形種目の観客席がガラガラということにもなりかねない。

訪日観光客が10%減少した場合、単純計算で約5000億円のお金が日本国内に落ちないということになる。上得意の中国からの訪問客数が仮に半分となれば、1兆円近いお金が落ちないということになる。ここで完璧なシミュレーションなどできないので、何とも言えないが、かなり大きなマイナスの影響が出るということは覚悟しておかねばならない。日本のGDPは約550兆円だ。1兆円程度のお金は大したことではないということも言えるが、観光業にとっては大打撃となる。日本政府は既に観光業に対して影響を緩和する政策を実施すると発表している。私は昨年行った消費増税をいったん中止するというくらいのことを実施すべきだと考える。

 また、中国経済全体の減速は避けられない状況であり、そうなれば世界経済全体も沈滞することになる。日本もその影響をまともに受けることになるだろう。そのことを考え、大規模な対策を打ち出さねば、オリンピック・パラリンピックのお祭り気分もなく、沈滞した1年となってしまう。

(終わり)

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