古村治彦です。

 2020年2月11日にニューハンプシャー州でアメリカ大統領選挙民主党予備選挙が実施された。ニューハンプシャー州が採用している方式は民主党支持と有権者登録している有権者、第三党や無党派と登録している有権者が投票に参加できる方式だ。共和党支持で登録している有権者は共和党の実施している予備選挙に参加する。
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左から:ブティジェッジ、サンダース、バイデン、ウォーレン、
クロウブシャー
 ニューハンプシャー州での結果は、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が1位、インディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジが2位、エイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)が3位、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)が4位、ジョー・バイデン前副大統領が5位となった。
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 予備選挙では15%以上の支持率を得られない候補者には代議員が与えられないので、ウォーレンとバイデンはニューハンプシャー州では獲得代議員数はゼロとなった。アイオワ州ではクロウブシャーが得票率12%台で代議員を1人獲得している。これはニューハンプシャー州を小さな選挙区に分けて党員集会が実施され、それぞれの地区でクロウブシャーの支持が高いところと低いところ、得票数15%以上を獲得できた地区とできなかった地区が混在したためである。アイオワ州の場合には得票数に比例して代議員が配分される。

 一方、ニューハンプシャー州の予備選挙の場合には得票率が15%に満たなかった候補者には代議員が分配されない。そのため、得票率が2桁、10%を下回ったウォーレン(9.2%)とバイデン(8.4%)には代議員が配分されないという結果になった。有力候補としてこれまで各世論調査では支持率トップや上位につけていたことを考えると、急激な下降、失速である。

 サンダースは勝利を収めたが、その差は僅かだった。ブティジェッジはアイオワ州に続いて勢いを得ての2位に入った。ニューハンプシャー州予備選挙での再際のサプライズはエイミー・クロウブシャーの躍進である。クロウブシャーは地味な候補で、これまでの討論会でも目立とうとしてやや空回りする傾向にあった。しかし、投票日直前の討論会で、力強い姿を見せ、支持を大きく伸ばすことに成功した。クロウブシャーは自身のアイデンティティを中西部出身と労働者の家庭出身に置き、粘り強く選挙運動を続けてきた。昨年4月からの討論会は隗を重ねるごとに参加条件を厳しくしていったが、彼女は条件をクリアして討論会に参加し続けてきた。これは凄いことである。

 ウォーレンとバイデンは敗北を喫した。ウォーレンはニューハンプシャー州の隣のマサチューセッツ州を地盤としており、ハーヴァード大学教授だった経歴も持つ。ニューハンプシャー州でも人気が高かったが、クロウブシャーとサンダースの人気に押された形だ。ニューハンプシャー州は元々反中央、判官贔屓の気質があると言われており、ウォーレンは埋没した格好になった。

 バイデンは緊急事態である。深刻である。これまでの全国規模の世論調査で常に首位に立っていたが、アイオワ州に続いて、ニューハンプシャー州でも惨敗となった。これですぐに選挙戦から撤退ということはないが、前評判が高かっただけにその体調ぶりが際立ってしまう。バイデンはネヴァダ州とサウスカロライナ州で挽回を図りたい考えだが、どうもそれがうまくいっていないようだ。

次回はこれまでに行われた2つの予備選挙についての分析記事をご紹介したいと思う。

(貼り付けはじめ)

サンダースがニューハンプシャー州の予備選挙で勝利(Sanders wins New Hampshire primary

ジョナサン・イーズリー筆

2020年2月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/482580-sanders-wins-new-hampshire-primary

ニューハンプシャー州マンチェスター市発。木曜日夜、バーニー・サンダ連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)がニューハンプシャー州での大統領選挙民主党予備選挙で勝利した。アイオワ州での党員集会の結果発表が遅れており明確な勝利者は判明していない。

東部時間午後11時にNBCABCニュースはサンダースの予備選挙勝利の予測を報じた。

今回の結果はサンダースにとって重要なものとなる。4年前のニューハンプシャー州での予備選挙ではサンダースはヒラリー・クリントン元国務長官に圧勝したことを受けて、ニューハンプシャー州での勝利は予想されていたが、それでも勝利を収めることは重要だ。サンダースは最近のニューハンプシャー州での各種世論調査でトップを記録していた。

サンダースはインディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジとエイミー・クロウブッシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)を上回った。両者はサンダースの反エスタブリッシュメントの選挙運動を中道派で行った。

開票は終了に近い。開票率83%の時点で、サンダースは得票率25.9%、ブティジェッジは24.1%、クロウブシャーは19.8%を記録した。

エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)とジョー・バイデン前副大統領は上位3名から置いていかれる形でそれぞれ4位と5位になりそうだ。この結果を受けて2人はこれから選挙戦を続けていけるのかどうかについての疑問が出ている。

サンダースは南ニューハンプシャー大学で勝利演説を行った。数百人が集まり、サンダースが壇上に上がると大歓声が沸き上がった。

サンダースは「このニューハンプシャー州での勝利はドナルド・トランプの終わりの始まりとなります」と述べた。集まった支持者たちは「バーニーがトランプを倒す」という声を上げた。

サンダースの勝利はアイオワ州の党員集会でトップに立っていると報じられているが、技術的なエラーによって最終結果はまだ出されていないが、もうすぐ出るはずである。

進歩主義派のサンダースはアイオワ州で得票数で勝利を収めたが、ブティジェッジが全国大会の宣誓済み代議員の数で上回る可能性が高い。サンダース選対とブティジェッジ選対は共にアイオワ州での一部の再集計を要求している。

サンダースはニューハンプシャー州で勝利者となったが、完全な勝利を収めることは今回もできなかった。民主党は長期にわたる泥沼の予備選挙がこれからも進む可能性に直面しており、中にはどの候補者も代議員の過半数を得られないままで民主党全国大会を迎える、コンテステッド・コンヴェンションになる可能性があると考えている人たちもいる。

サンダース同様、ブティジェッジも連続してトップ2で予備選挙を終えることができた。ブティジェッジは1年もしない前には政治的に全く無名な存在だった。前市長がこれからも続ける挑戦は、彼がアフリカ系とヒスパニック系の有権者からの支持を得られるかどうかということである。

ブティジェッジはニューハンプシャー州ナシュア市で集まった支持者に対して、「皆さんに感謝します。ニューハンプシャー州での選挙運動に力を注いでも仕方がないので止めるべきだと忠告する人たちもいましたが、私たちはニューハンプシャー州にとどまりました」と述べた。

選挙結果はクロウブシャーにとっての大きな促進材料となった。クロウブシャーはアイオワ州での党員集会は5位に終わり、全国規模と早期に予備選挙が実施される各州での世論調査では上位の有力候補の後塵を拝していた。

先週金曜日の討論会での力強いパフォーマンスとバイデンの選対の苦闘によってクロウブシャーは力強い結果を得た。討論会が終わって48時間でクロウブシャーは200万ドル以上の献金を受けた。そして火曜日にはネヴァダ州でのテレビ広告の量を増やした。

ニューハンプシャー州コンコード市での集会で、「アメリカのためにエイミーを」というプラカードを掲げた熱心な支持者たちを前にしてクロウブシャーは「胸いっぱいです。まだ全てが開票されていませんが、私たちは形勢を逆転するために地道に努力を続けてきました」と述べた。

ウォーレンにとっては厳しい結果となった。11月のニューハンプシャー州での世論調査では支持率トップに立っていた。アイオワ州では3位となり、ニューハンプシャー州では4位になりそうだ。ニューハンプシャー州はウォーレンの地元マサチューセッツ州の隣の州だ。

これまで予備選挙でトップだったバイデンはウォーレンの後を追いニューハンプシャー州で5位に終わった。アイオワ州では4位だった。バイデンはブティジェッジからの脅威に直面し、クロウブシャーの台頭によって選挙戦から追い出される危険にも直面している。ニューハンプシャー州での予備選挙以降、クロウブシャーは予備選挙に有力候補として参加し戦うことになる。

バイデンはニューハンプシャー州で予想外の敗北となり、火曜日の早いうちにニューハンプシャー州を後にした。彼はサウスカロライナ州に注力したいと述べた。サウスカロライナ州でのこれまでの世論調査でバイデンはトップを維持し続けている。

バイデン選対は、バイデンはアイオワ州やニューハンプシャー州よりもより人種的に多様な人口を持つ州でより良い結果を出すだろうと主張している。しかし、これまでの2州での敗北によって選挙戦が続けられるのかという疑義が出ている。

バイデンはサウスカロライナ州で「まだ終わっていませんよ、皆さん。まだまだ始まったばかりですからね」と述べた。

しかし、サンダースはネヴァダ州とサウスカロライナ州にトップ走者として進むことになる。

サンダースは2016年に非白人有権者を惹きつけることに苦闘したが、2020年では人種的により広範な連合、特にラティーノたちの連合を形成している。ラティーノはネヴァダ州の総人口の約3分の1を占めている。

サンダース選対は政治資金集めのペースを上げ、2020年1月だけで2500万ドルを集めた。そして、今週だけでテキサス州とカリフォルニア州を含むスーパーチューズデーの10州でのテレビ広告とインターネット広告に550万ドルを投じた。テキサス州とカリフォルニア州は最大の代議員が配分されている。

サンダースが成功することで、民主党エスタブリッシュメント派の間にサンダースが勝利するのではないかという恐怖感を醸し出している。サンダースに対峙する中道派の候補者たちが票を食い合っている。

ニューヨーク市元市長マイケル・ブルームバーグはスーパーチューズデーで初めて予備選挙に参加し代議員獲得を目指すことになる。ブルームバーグは3億5000万ドル以上の資金を投じてテレビ広告を放映している。

今週発表されたキュニピアック大学が実施した全国規模の世論調査の結果では、ブルームバーグが3位に上昇し、アフリカ系アメリカ人有権者のバイデンに対する支持を半減させたことが明らかになった。

ニューハンプシャー州での予備選挙が終わった時点で有力候補が選挙戦から撤退するかどうかは明らかになっていない。実業家のアンドリュー・ヤンとマイケル・ベネット連邦上院議員(コロラド州選出、民主党)はニューハンプシャー州での惨敗を受けて選挙戦からの撤退を発表した。ニューハンプシャー州での予備選挙の上位5名は選挙戦を続けると表明するであろう。

ニューハンプシャー州での予備選挙の結果が出る数時間前にウォーレン選対から出されたメモには彼女が選挙戦を続ける意思を持っていることが書かれていた。

ウォーレンのアドヴァイザーたちは、選対が実施した独自の世論調査の結果によると、スーパーチューズデーの半分の州で2位までに、全ての州で3位までに入っていることが分かったと述べた。

このメモには次のように書かれていた。「ニューハンプシャー州での予備選挙は終わったが、宣誓済み代議員の98%はこれから決まる。予備選挙の行方はスーパーチューズデーを過ぎて固まり始めるが、エリザベス・ウォーレンはこの国の全ての民主党員の幅広い連合の選択肢となることをスーパーチューズデーが示してくれることを私たちは期待している」。

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バイデンとウォーレンが代議員獲得に失敗して窮地に立たされる(Biden, Warren on ropes after delegate shutout

リード・ウイルソン筆

2020年2月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/482696-biden-warren-on-ropes-after-delegate-shutout

ジョー・バイデン前副大統領とエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)は、ニューハンプシャー州で実施された全米初の予備選挙での投開票で代議員獲得に届かない得票数しか得られなかった。次の予備選挙に向けて苦闘が続く中で、両者は有力な大統領選挙候補者として考えてよいのかという新たな疑問が出ている。

火曜日夜の投開票の結果、バーニー・サンダ連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)はインディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジを僅差で破った。また、バイデンとウォーレンにとっては大打撃となった。バイデンとウォーレンが得た投票数の合計は、予想外の大健闘で3位に入ったエイミー・クロウブッシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)の得票数にも及ばなかった。クロウブシャーは先週金曜日の討論会で力強いパフォーマンスを見せた。

サンダースはニューハンプシャー州内の大都市で強さを見せて勝利を収めた。サンダースは直接のライヴァルであるブティジェッジに対して、マンチェスター市で2000票以上の差をつけた。コンコード市とナシュア市ではそれぞれ500票の差をつけた。ブティジェッジが最も良いパフォーマンスを見せたのは、ボストンに通勤する人々が多いマンチェスターの南部とダートマス大学のあるハノーヴァーのような大学町であった。

バイデンはこれまでの各種の全国規模の世論調査でトップを走ってきたが、アイオワ州では4位、ニューハンプシャー州では5位という恥ずかしい結果に終わった。ウォーレンはニューハンプシャー州の隣マサチューセッツ州選出の連邦上院議員であり、ニューハンプシャー州で実施された10月の世論調査では3分の1の支持を集めていた。ウォーレンはバイデンを1%未満の僅差でかわして4位に入った。

アイオワ州での党員集会が実施される以前にニューハンプシャー州で行った各種世論調査でバイデンとウォーレンは支持率が悪くても20%、最高で39%を記録していた。しかし、現在は11日後のネヴァダ州、18日後のサウスカロライナ州での予備選挙に向けて厳しい状況に直面している。両者は共に政治献金者と支持者に対して、自分たちは選対を再編成し、再活性化して勝利を収めることができるようにすると説得しなければならない。

火曜日夜のニューハンプシャー州の予備選挙の結果はバイデンとウォーレンにとって厄介なことが起きている兆候である。

バイデンはこれまで主張してきた、当選可能性の筋道が崩れつつある。出口調査に応じたニューハンプシャー州の有権者の約63%が トランプ大統領を倒す可能性がある候補者を党の候補者にしたいと答えた。その内の28%がブティジェッジに投票したと答え、11%がバイデンに投票したと答えた。バイデンはこれまでの選挙運動の中で、彼こそがトランプ大統領を倒すことができる最良の候補者だと主張してきた。

ウォーレンは全ての問題についての計画を発表していることで有名だ。ウォーレンは当選可能性よりも政策の計画を重視している有権者の支持を集めている。自分と主要な問題について考えが近い候補者を選ぶと答えた有権者は33%いたが、その内の3分の1以上がサンダースに投票し、ウォーレンに投票した有権者は少なかった。有権者の約60%がアメリカの健康保険制度を単一支払者制度に変更するべきだと答えたが、そうした有権者の間での支持率はサンダースがウォーレンの3倍以上となった。

バイデンとウォーレンは共に火曜日の時点で、投票結果が出る前からニューハンプシャー州での結果から自身を引き離そうとしていた。

バイデンは早々にサウスカロライナ州に向かった。投開票日にナシュア市での集会が予定されていたがキャンセルした。この集会はセドリック・リッチモンド連邦下院議員(ルイジアナ州選出、民主党)の選挙運動の「スタート」となるはずであった。サウスカロライナ州は、予備選挙の有権者の半数以上がアフリカ系アメリカ人であり、バイデンの勝利が最も確実視されている。スーパーチューズデーに向かう前にバイデンが有力候補であることを示すチャンスがサウスカロライナ州の予備選挙ということになる。

ウォーレンはニューハンプシャー州にとどまり、敗北を認めた。そして、クロウブシャーにお祝いの言葉を述べ、これからも戦い続けることを誓った。支持者に宛てたメモの中で、ウォーレン選対の責任者ロジャー・ロウは、ウォーレンは「この国の隅々を網羅する最も民主党員の連合の選択肢」となると書いている。ロウはウォーレンの選挙運動組織は健在で、スーパーチューズデーの各州で代議員を獲得できるであろうし、彼女の伸びしろはバイデン、サンダース、ブティジェッジよりも大きいと書いている。

それぞれの選対はこれから核となる有権者たちに対して、候補者は全国大会で勝利を得るために必要な1990名の代議員を獲得するための道のりを進む必要があると説得しなければならない。全国規模で選挙運動を行う組織と7桁のテレビ広告向けの宣伝費を維持することができなければ、選挙運動は勢いを失い、停止してしまう。ある候補者が敗北し、もしくは予想を下回るようことが起きれば、選挙資金集めが難しくなるという問題にすぐに直面することになる。

しかし、アイオワ州とニューハンプシャー州での予備選挙でサンダースが何が年の組織作りの成果を見せ、ブティジェッジが世論調査の数字を見事に裏切って見せたことに比べ、バイデンとウォーレンは大きな試練に直面することになった。

バイデンはサウスカロライナ州で勝利を得るという確信は大富豪でヘッジファンドの経営者だったトム・ステイヤーの動きのために揺らいでいる。ステイヤーはアフリカ系アメリカ人の支持を得ることに集中した選挙運動を展開している。スーパーチューズデーが始まれば、バイデンのアフリカ系アメリカ人有権者の間での支持は、ニューヨーク市元市長マイケル・ブルームバーグによってテストされることになる。ブルームバーグは巨額の資金を投じてテレビ広告を放映している。

ウォーレンもまた現状を打破しなければならない状況になっている。ウォーレンはネヴァダ州、サウスカロライナ州、スーパーチューズデーの各州のほとんどの世論調査でトップに立ってはいない。彼女が最後に世論調査の支持率でトップに立ったのは、昨年10月のWBUR・マス社が彼女の地盤マサチューセッツ州での世論調査であった。マサチューセッツ州で彼女が予備選挙で初めての勝利を得るかどうかは明確になっていない。

ラウはメモの中で次のように書いている。「民主党の党指名を獲得するための道のりは州ごとに勝者総取りをするものではない。これは州知事選挙でもないし、連邦上院議員選挙でも州財務長官選挙でもない。これは、各地区に人口に基づいて配分されている宣誓済み代議員を取り合う戦いなのだ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側