古村治彦です。
petebuttigieg021

 インディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジが選挙戦からの撤退を発表した。昨年1月に出馬検討を表明してからしばらくは支持率ゼロ%の全くの無名候補であったが、3月にCNNのタウンホールミーティング形式番組での丁寧かつ当意即妙なやり取りが話題となり、MSNBCでも取り上げられ、人気が出てきた。そして有力候補の仲間入りとなった。日本では急に出てきたように報道されてきたが、昨年の3月から既に有力候補者であった。ハーヴァード大学卒業、ローズ奨学生でオックスフォード大学院留学、8か国語を操り、市長時代に南北戦争時代につくられた条例(輜重は休職して軍務に就くことができる)を利用して海軍の情報士官としてアフガニスタン派遣、そして同性愛者で配偶者チャステンと共に選挙運動をするなど人々の注目を集める存在だった。

 ブティジェッジの撤退のタイミングは、バイデンのサウスカロライナ州でも予想よりも多くの得票を得ての圧勝の後ということもあって、バイデンを勢いづかせるものだ。大富豪のステイヤーもほぼ同時期に撤退を発表しているが、こちらもバイデンへの支援ということになる。ステイヤーの場合は献金を通じてこれから支援ができるということになる。

 サンダースはサウスカロライナ州での敗北は織り込み済みであったが、予想よりも低い得票率しか上げられなかった。これはサンダースにとってはブレーキとなる。中道派がまとまりを見せようという中で、サンダースにとってはウォーレンの存在が少し邪魔になってきていると思う。

 今回のブティジェッジの撤退はいろいろと「約束」があるのだろうと思う。今の民主党は、簡単に言えば「オバマの党」と「サンダースの党」に分裂している。ブティジェッジは完全にオバマの党の一員だ。インディアナ州サウスベンド市はインディアナ州の北部で、シカゴに近い。ブティジェッジは選挙本部をサウスベンド市に置いたが、シカゴにも同等の機能を持つ本部を設置している。私はこのことを知った時に、オバマにかなり気を遣っているとこのブログでも書いたが、オバマが大統領退任直前のインタヴューで、民主党には多くの未来のための人材がいる、として全く無名のブティジェッジの名前を挙げていたことも考えると、今回の撤退はオバマからの何らかの話があってのことではないかと思う。もっと言えば、オバマによるバイデンへの間接的な支援であったのではないかと思う。

 ブティジェッジの主張は進歩主義派と中道派の中間のようなもので、「いいとこどり」という批判がなされてきた。そのために進歩主義派の一部と中道派の一部からの支持を集めるという形になった。「モーニング・コンサルト」社の世論調査での「ブティジェッジ支持以外の方に聞きます。ブティジェッジの次に支持する候補者は誰ですか?」という質問に対する答えが「サンダース:21%、ウォーレン:19%、バイデン:19%、ブルームバーグ:17%」という結果であった。この数字を見ると、ブティジェッジ支持者の「二番目のお気に入り(second favorite)」はバラけているということが分かる。従って、同じ中道派であるバイデンもしくはブルームバーグに多くの支持が集まるということはない。

 ブティジェッジは地元インディアナ州サウスベンド市で撤退演説を行った。支持者たちは「2024!」と声を合わせて叫んだ。「2024年の大統領選挙では頼むよ!」ということであるが、果たしてブティジェッジにその目があるのかどうか、可能性は低いと言わざるを得ない。年齢に関しては4年後でも40代はじめであり、朝5時からジムに行って汗を流してスリムな体系を維持するなど健康維持に努めていることから、大丈夫であろう。問題は以下の2点だ。

 まず、ブティジェッジは非白人からの支持獲得に苦闘していた。アフリカ系アメリカ人に関しては、市長時代に市政史上初のアフリカ系アメリカ人の警察本部長を更迭したことで、アフリカ系アメリカ人たちからの評判が悪い。これは本部長となった人物が、警察署内で自分に対する人種差別的な発言があるということを聞き、更衣室に盗聴器を設置、警察官たちの発言を録音していて、実際に差別発言があったことが分かったという事件だ。この事件でブティジェッジは、「盗聴器を仕掛けるということが法律にのっとって行われなかった」ということで本部長を更迭した。これがアフリカ系アメリカ人たちから批判を受けることになった。

また、アフリカ系アメリカ人には同性愛者を忌避する傾向が強い。これは、ブティジェッジが昨年ニューヨークを訪問し、黒人共同体の指導者アル・シャープトン師との会談で、シャープトン自身も認めていることだ。これはヒスパニック系も同様で、ヒスパニック系に多いカトリック信者もまた同性愛者を忌避する傾向が強い。また、白人で「完璧なエリート」であるというところは生理的に受け付けないということもあるようだ。

 次に、各種世論調査でもはっきり出ているが、ブティジェッジは自分と同世代から下の若者たちからの人気がない。彼自身が属するミレニアル世代(20代半ばから30代後半まで)とZ世代(投票ができる18歳から20代半ばまで)の民主党支持者の圧倒的多数は「民主社会主義者を自認する」バーニー・サンダース支持である。ブティジェッジの持つエリート臭も相まって、ブティジェッジは人気が低い。4年後となればこの世代はますます民主党内で存在感を増していく。高齢者は自然減ということになる。彼が得意だったであろう勉強で例えるならば、苦手科目の克服、非白人と若者からの支持獲得が必要となる。

 更に言えば、2024年に民主党がどのような状況になっているかは不明だ。分裂しておらず、また今年のように大統領選挙予備選挙ができればよいが、先行きはいささか不透明だ。

(貼り付けはじめ)

ブティジェッジが大統領選挙から撤退(Buttigieg dropping out of presidential race

ジュリア・マンチェスター筆

2020年3月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/485392-buttigieg-drops-out-of-presidential-race

ピート・ブティジェッジはサウスカロライナ州での失望感溢れる敗北を受けて大統領選挙から撤退する。全国的に全く無名だったインディアナ州サウスベンド市前市長の流星のような華々しい登場から台頭は、民主党指名候補者争いにおいて多くの彼よりも有名なライヴァルたちをなぎ倒して進んできたがそれも終わる。

ブティジェッジはサウスベンドに向かっている。今夜地元サウスベンド市で発表を行う予定だ。

当時市長だったブティジエッジは昨年4月末に選挙戦への正式出馬を表明した。そして、融合に関するメッセージとワシントンの世代交代を行うという公約を発表した。

ブティジエッジは自分自身を、進歩主義派のバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)とエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)に対する、より現実的な選択肢になり得る存在と規定し、「メディケア・フォ・オール・フー・ウォント・イット(Medicare for All Who Want It"、希望者だけのメディケア・フォ・オール)」計画を打ち出した。

ブティジエッジはまたあらゆる層の穏健派の人々を惹きつけようと努力した。「将来“元”共和党支持者と呼ばれるようになる人々(訳者註:今は共和党支持だけど将来変わるかもしれない人々)」との対話について彼はよく話した。

ブティジェッジはまた主要政党の大統領選挙候補者としては史上初めて同性愛者を公言した人物として歴史に名前を残した。彼の配偶者チャステン・ブティジェッジは選挙運動で大きな役割を果たしてきたが、特にSNSでは顕著だった。

連邦議員として初めてブティジェッジへの支持を表明したドン・ベイヤー連邦下院議員(ヴァージニア州選出、民主党)は本誌の取材に対して次のように答えた。「悲しみ。失望。大いなる敬意。ピートは自分で考えて自分で決めました。彼は自分を支持してくれる有権者が火曜日に意味のある投票をしてもらえるようにしたいと考えました。ミルウォーキーの全国大会で勝利できる可能性がある候補者に投票してもらいたいと考えました。ピートにとっての最良の日々はまだこれからです。選挙期間中、彼には数多くのアメリカ国民から敬意と愛情を注がれました」。

選挙戦を始動させてから、各種世論調査でのブティジェッジの支持率の数字は変動した。彼の選挙運動が最高に盛り上がったのは、アイオワ州での党員集会の結果獲得代議員数において僅差でサンダースを破った場面であった。

しかしながら、ネヴァダ州とサウスカロライナ州で敗北を喫し、それぞれ3位と4位に終わった。ブティジェッジは非白人有権者たちからの支持を引き出すのに苦労してきた。とくにアフリカ系アメリカ人からはそうで、いくつかの世論調査では支持率ゼロ%を記録した。

ブティジェッジに批判的な人々は彼がサウスベンド市長時代に行ったいくつかの決定などについて人種差別的であったという要素を強調して攻撃を行った。その中にはサウスベンド市史上初のアフリカ系アメリカ人の警察本部長の更迭も含まれていた。

ブティジェッジの選挙戦からの撤退の決心は、大富豪のトム・ステイヤーがサウスカロライナ州での敗北を受けて土曜日の午後に選挙戦を停止すると発表した後に発表された。

ブティジェッジは中道派の有力候補としては初めての選挙戦撤退を決めた人物ということになる。残る中道派の有力候補者は、ジョー・バイデン前副大統領、エイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)、ニューヨーク市元市長マイケル・ブルームバーグ(ニューヨーク州、民主党)となる。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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