古村治彦です。

 大変遅くなったが、2回目(予定では3回目の)のアメリカ大統領選挙候補者討論会についての記事をご紹介する。

 私は「またトランプ大統領がやりたい放題で、途中でマイクの音を切られて怒って退席するんじゃないか」と考えていた。しかし、これは浅慮であり、短慮だった。トランプ大統領はバイデン前副大統領の発言を遮ることはほぼなく、司会者のクリステン・ウェルカーにも丁寧に接し、感謝の言葉さえ述べた。不良がちょっと良いことをすると、何かとてもよいことをしたように感じられる、あれと同じだ。もしくは、織田信長が舅の斎藤道三と会見するときの様子と同じだ。いつでもどこでも一本調子のバイデンに比べて、これで評価が高くなったと感じた。

 バイデン前副大統領は自分のキャラクターにはない姿を見せようと躍起になっていた。彼は何度も「カモン」を連発していたが、相手を攻撃し、激しい言葉を使う、ああいう姿は彼のキャラクターに合っていない。

 私が驚き、印象に残ったのは、トランプ大統領が何度か、バイデンの発言を聞きながら、うなずいたことだ。反対の意思を示す時は顔の表情を変えたり、首を振ったりしていたので、彼はバイデンの発言内容で考えに合う部分には同意を示していた。バイデンがトランプ大統領の発言内容に同意を示すようなことはなかった。トランプ大統領のうなずきを見ながら、私は、アメリカで今出現している「分裂」について考えざるをえなかった。

 現在のアメリカの分裂は、トランプ大統領が引き起こしたという論調だ。しかし、果たしてそうなのだろうか、と私は疑問を持つ。そもそも分裂が先にあり、その結果としてトランプ大統領が当選したと私は考えている。しかし、もっと言えば、民主党側の党派的な利益と狭量さのために、分裂を演出しているのではないか、と考えるようになった。

 副大統領候補者討論会の最後で、司会者が子供からの「どうして激しくいがみ合うのか」という質問が紹介された。ペンス副大統領は「激しく論戦を戦うのは共にアメリカのことを思ってのことで、終われば仲良くするんですよ」と答えたが、カマラ・ハリスは最後までバイデンの名前を繰り返すだけで、ペンスのような素晴らしい答えをすることはなかった。

 最後の討論会の勝者はトランプ大統領だと私は判定する。そして、選挙までの最後の日々、支持率にどのような影響を与えるかを注意深く見たいと思っている。既に討論会の効果は出始めている。

(貼り付けはじめ)

トランプ・バイデンの最後の討論会の5つのポイント(Five takeaways from the final Trump-Biden debate

ナイオール・スタンジ、ジョナサン・イーズリー筆

2020年10月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/522398-five-takeaways-from-the-final-trump-biden-debate

火曜日の夜、トランプ大統領とジョー・バイデン前副大統領は激しくも統制の取れた討論会でぶつかった。今回の討論会は11月3日の投開票日に向けて、有権者たちに候補者の考えを示す最後の機会を与えることになった。

トランプ大統領は先月末のクリーヴランドでの1回目の討論会で破壊的な姿勢を示したが、共和党関係者は選挙の結果に悪影響を与えるのではないかと懸念を持った。

討論会で何度も衝突があった。候補者たちはお互いに家族、人種、移民について激しい攻撃を行った。

2020年大統領選挙の最後の討論会のポイントについて書いていく。

(1)トランプ大統領はトーンを変えた(Trump changed his tone

トランプ大統領は火曜日夜に最高の態度を見せた。

今月初めの討論会での破壊的なパフォーマンスによって有権者たちの多くはテレビのスイッチを消したことだろう。しかし今回の討論会では、バイデンの発言に割り込むこともほとんどなく、司会者のNBCニュースのクリステン・ウェルカーに対して丁寧に接した。

大統領選挙候補者討論会運営委員会は全く別の結果になるだろうと考えて準備していた。委員会は、一人の候補者が直接受けた質問に対して答えをしている間に別の候補者に割り込まれないようにするため、それぞれの候補者のマイクの音声を着ることができるようにしていた。

トランプ大統領は今回の討論会でバイデンに対してより多くの時間を話させる心づもりだったようだ。トランプ大統領のアドヴァイザーたちが望んだ戦略はバイデンを混乱させるか、失言をさせようというものであった。

しかし、そのようなことは起きなかった。バイデンが明らかに動揺している場面もあったが、力強く反撃をしている場面もあった。国境で不法移民の親と子を強制的に離れ離れにさせるトランプ政権の政策に対しては声を震わせ感情をあらわにし反応した。

しかし、全体を通して、トランプ大統領の前回に比べて穏やかな態度はトランプ大統領に対する評価を上げることに貢献した。

トランプ大統領はより洗練され、良く準備をしているように見えた。彼はまたリラックスしているようにも見えた。それでも、バイデンが長年職業政治家としてワシントンにいたことや刑法改正への支持を取り上げて激しく攻撃した。刑法改正によってアフリカ系アメリカ人の投獄数がかなり増えることになった。

1回目の討論会はトランプ大統領の評価を下げることにあり、共和党の幹部たちは水面下でパニックに陥った。

共和党の連邦議員たちは今回の討論会を受け、自分たちの選挙の結果について少し楽観的になれることだろう。しかし、各種世論調査の結果では、共和党の連邦議員たちは11月3日において大量落選する危険性に直面している。

(2)両候補者がパンチの応酬(Both candidates landed punches

火曜日の夜、候補者それぞれが相手を押し込む場面を作った。それぞれの党を応援している人たちが自分の応援している候補者が明らかに勝利したと主張するのは当然のことだが、どちらに投票するか決めていない有権者にとって、今回の討論会でどちらが明確に勝利したかを決めるのは難しい。

いくつかの両者の違いが際立っている重要な分野において、引き分けであった。

例えば、新型コロナウイルス感染拡大について、バイデンはトランプが責任を取ることに失敗し、アメリカ国内で多くの死者を出したと攻撃した。しかし、トランプ大統領は、いつもに比べてより的を絞った形で防御し、ヨーロッパ諸国の多くが新型コロナウイルス感染拡大を経験していること、そして、バイデンと民主党がより広範囲な閉鎖(シャットダウン)を望んでいると述べた。

トランプはバイデンについて「彼が言っているのは閉鎖ということだけです」と述べた。

トランプはバイデンに対して、息子ハンター・バイデンとハンターのビジネスについて圧力をかけようとした。しかし、バイデンは何も間違ったことはしていないと否定し、トランプ大統領が税金還付書類を提出していないことに言及し、大統領からの攻撃をかわした。

このパターンは火曜日の討論会で何度も繰り返された。討論会はトランプ大統領の基準ではあるが、極めて真っ当な討論会となった。

共和党と民主党は共に自分たちの候補者たちの最高の瞬間に集中するだろう。ボクシングの言葉で言えば、両者は堅実なジャブを当てたが、ノックアウトパンチは出せなかった。

(3)トランプはバイデン一家を追いかけている(Trump goes after Biden’s family

トランプ大統領はバイデン一家と彼のお金関係にスポットライトが当たるようにさせようとした。これは討論会が始まるずっと前に既に始まっていた。

トランプ大統領は討論会の会場にトニー・ボブリンスキーを特別に招待した。ボブリンスキーは元米海軍大尉で、ハンター・バイデンの海外でのビジネスの会計を管理していた時期がある人物だ。

ボブリンスキーは関係書類をFBIと連邦上院国土安全保障・政府問題委員会に提出するだろうと述べている。これらの書類はバイデンが副大統領としての政治的な影響力を利用して、ハンターの海外とのビジネス契約を締結させたことを示すものだと述べている。

メディアはこの疑惑を注意深く取り扱っている。トランプ選対は、ボブリンスキーが討論会の前にナッシュヴィルで発言ができるように調整することで、メディアが報じざるを得ないようにさせようと試みた。

トランプ大統領はとにかくどんな問題でも良いからバイデン一族に焦点が当たるように仕向けた。

バイデンは疑惑を否定し、外国からのお金は一銭ももらっていないと述べた。更に、彼の息子がやったことは全くもって公正なことであった、疑惑を持ち出しているのはロシアによる欺瞞情報作戦の一環だ、とも述べ、トランプ大統領自身の外国でのビジネスと税金の還付について人々の注意を向けさせようとした。

バイデンはカメラを見つめて「大事なことは、彼の家族や私の家族についてではなく、これをご覧になっている、皆さん自身の家族についてです。中流階級のご家庭ならば、今大変な状況を過ごしておられることと思います」と述べた。

バイデン一家に対する注目は終わっていない。トランプ大統領は11月3日の投開票日までの最後の戦いでバイデン一家についての問題を中心的なテーマにする意向であることは明らかだ。

共和党の幹部の中にはトランプ大統領のハンター・バイデンを手掛かりに攻めるという戦略について疑義を呈している人たちがいる。この人たちは、有権者は、雇用、経済、医療、新型コロナウイルス感染拡大について懸念を持っているのであり、ハンター・バイデンのビジネスについてではない、と主張している。

しかし、トランプ選対は、バイデンの好感度を下げるためにバイデンの性格やキャラクターについての疑問を呈することが必要だと確信しているようだ。各種世論調査では、2016年のヒラリー・クリントンに比べて、バイデンの方が好感度が高いという結果が出ている。

(4)クリステン・ウェルカーは司会者として輝いた(Kristen Welker shone as moderator

今回の選挙期間中の討論会の司会者たちは火曜日の夜まで素晴らしい時間を持てなかった。

フォックス・ニュースのクリス・ウォレスは1回目の討論会でコントロールができなかったと評価された。『USAトゥディ』紙のスーザン・ペイジは副大統領候補討論会で受け身過ぎだったと批判された。C-SPANのスティーヴ・スカリーは予定された2回目の討論会での司会をすることすらできなかった。スカリーは批判を受けたツイートについてハッキングされたものだと嘘をついたことでC-SPANはネットワークへの出演できなくなった。スカリーがネットワークへ出演できなくなったのは、トランプ大統領の新型コロナウイルス陽性が判明した後、討論会が彼とは関係ない理由でキャンセルとなった。

NBCニュースのウェルカーは討論会開催以前の期間、トランプ大統領から攻撃を受けた。

実際、ウェルカーはSNS上で幅広い評価を受けた。最後の討論会の司会ぶりで、ステージ上でもトランプ大統領自身からさえも評価された。

ウェルカーは討論がきちんと続くようにし、候補者たちが数々の政策で考えを述べるようにさせた。しかし、彼女は自身の存在を目立たせようとはせず、討論会のスターになろうとはしなかった。

ウェルカーはスムーズにかつプロフェッショナルなパフォーマンスを行った。大きなプレッシャーがある中で彼女のパフォーマンスは印象的なものであった。

(5)トランプ大統領は十分にやったか?(Did Trump do enough?

トランプ大統領のパフォーマンスは称賛を受けるだろう。特にトランプ大統領が極端に攻撃的な姿勢を見せることで、連邦議員選挙で共和党が議席を減らすだろうという懸念を持っている共和党幹部たちからは称賛を受けている。

しかし、トランプ大統領が大統領選挙の流れを変えるだけのパフォーマンスができたかどうかは疑問である。

トランプ大統領はリアルクリアポリティックスが出している全国規模の世論調査の数字の平均で、バイデンから8ポイントの差をつけられている。また、全ての激戦諸州でもバイデンにリードされている。

ナッシュヴィルでの討論会では、選挙戦を根本的に変化させるような瞬間を見ることはなかった。

より穏やかなかつ人間的な態度を取ったというだけで、トランプ大統領は1回目の討論会に比べて評価が高かった。大統領は末子のバロン君の新型コロナウイルス陽性についても言及した。

トランプ大統領が討論会の後半でバイデンについて、職業政治家として何十年も解決すると人々に約束し続けた問題が残っていることを指摘すれば、バイデンはトランプ大統領に対して感情的になって声を荒げるはずだった。

しかし、バイデンは大きな失言をしなかった。トランプ大統領はバイデンの失言を必要としていた。トランプ大統領が示した能力全てをもってしても、彼の支持率を引き上げることはできると考える理由は存在しない。

討論会終了直後に「クック・ポリティカル・レポート」のチャーリー・クックは次のようにツイートした。「トランプ大統領にとっての良いニュースは何かって?1回目の討論会の時と違って、彼は誰も傷つけなかった。悪いニュース?彼は10ポイントも引き離され、その状況を変えることはできなかった。選挙戦の情勢は変化なしだ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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