古村治彦です。

 2020年米大統領選挙は、現在のところ、民主党のジョー・バイデン前副大統領が優勢だと報じられている。恐らくこのまま「バイデン勝利」ということにするんだろう。選挙の結果をめぐっては、不満や疑念が存在し、それが暴力事件という形で噴出するだろう。市民ミリシア(civic militias)と州知事が派遣した州兵(national guards)の内戦状態にまで発展することも考えられる。市民ミリシアにはアメリカ軍を退役した元軍人たちも多く参加しており、ただ武器を持っていきがっているような人たちではない。あらゆるシチュエーションでの戦闘訓練を行っている組織もある。簡単に鎮圧されない。そうなれば、捕縛は無理となり、州兵たちに対して射殺命令が出るだろう。

 私は選挙前にそのことを示す論説をこのブログで紹介した。そのようなことが現実になると思っていた人たちは少ないだろうが、今日、私たちの目の前にある危機なのだ。

 私は非常に後悔し、自分を責めていることがある。それは、「この論文を読んでいながら、なぜ気づかなかったのか、大事だと思ったから読んだはずなのに、その内容を敷衍できなかった」という思いだ。それは、私も翻訳作業に参加した『イスラエル・ロビーⅠ・Ⅱ』(講談社)の著者であるハーヴァード大学教授スティーヴン・ウォルトが2018年に発表した論稿だ。そのタイトルは「ディック・チェイニー政権にようこそ」というものだ。

※論稿へはこちらからどうぞ。 

2018年の段階で、トランプ政権は「ディック・チェイニー政権」になっていたのだ。マイク・ペンス、マイク・ポンぺオ、マーク・エスパー、ジーナ・ハスペル、更にジョン・ボルトンというチェイニーの息のかかった人間たち、凶暴なネオコンたちがトランプ政権を占拠していたのだ。トランプ政権が独自に外交をやろうと思えば、ホワイトハウスで、ジャレッド・クシュナーとイヴァンカ・トランプを通じてやらねばならなかった。その代表例が北朝鮮の金正恩委員長とのトップ会談だった。これは、バラク・オバマ政権でもそうだった。国務省を迂回して、キューバとの国交正常化やイランとの核開発に関する合意と言った、自分たちがやりたいことをやるためには、ホワイトハウスを強化するしかなかった。
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ヒラリー(左)とビル・クリントン(中)、チェイニー(右)
 ウォルト教授の指摘で大事なことは、「チェイニー主義(Cheneyism)」という言葉であって、このチェイニー主義には共和党のネオコンと民主党の人道的介入主義派が含まれている。アホ・ブッシュ政権が始めたイラク戦争には、連邦上院議員だったヒラリー・クリントンとジョー・バイデンが賛成していた。トランプ政権は前門の民主党(エスタブリッシュメント)、後門の共和党(エスタブリッシュメント)に挟まれていたのだ。トランプ主義、トランプ現象は、既成のワシントンに巣くう2つの勢力、ヒラリーが代表する人道的介入主義派とチェイニーが代表するネオコンによって包囲され、絞め殺された。そのことに私は早く気づいておくべきだったのだ。トランプ革命は「あらかじめ裏切られた革命」だったのだ。
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チェイニー(左)とバイデン(右)
 ディック・チェイニーの長女リズ・チェイニーはアメリカ国務省や悪名高きアメリカ国際開発庁(USAID)で勤務し、ブッシュ政権(父親のチェイニーは副大統領)では中近東担当国務次官補代理を務めた。2016年から地元ワイオミング州の連邦下院議員を務め、今回2020年の選挙では3回目の当選を果たした。アメリカ合衆国下院共和党会議議長を務めており、連邦下院共和党ではナンバー3の地位にある。このリズが共和党の保守勢力を代表する人物になるという主張も既に出ている。
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リズ・チェイニー(左)とディック・チェイニー
 2016年の大統領圓居を思い返してみれば、民主党のヒラリー・クリントンを共和党支持であるはずの、ネオコンの論客ロバート・ケーガンが熱心に応援していた。これは一つの傍証に過ぎないが、人道的介入主義派とネオコンは同種同根なのだ。そのことは、手前味噌で恐縮だが、拙著『アメリカ政治の秘密』で明らかにしている。

 今回のバイデン勝利で、私はこの、大義名分を掲げて対外戦争をやりたがる人間たちの大復活があると見ている。バイデン政権は「ディック・チェイニー(ネオコン)・ヒラリー・クリントン(人道的介入主義派)連立政権」である。ネオコンは「世界中が民主政治体制の資本主義国になれば世界から戦争がなくなる」という理想主義を掲げ、人道的介入主義派は「独裁者たちの圧政に苦しむ人々を人道的な理由から助けねばならない」という「人道上、人類としてやるべき」ことを理由にしている。しかし、こうした人々も中東諸国や中央アジア諸国の王国や独裁国家を倒そうとは言わない。二枚舌なのだ。

 新型コロナウイルス感染拡大が落ち着けば、経済の復興に焦点が移る。その時に、手っ取り早いのは戦争だ。戦争経済(war-boost-economy)だ。戦費は心配いらない、ドル建て国債はいくらでも発行できるのだ。日本から貢がせても良い。対中、対露、対北朝鮮において、もっとも近距離にある場所はどこか、それは日本だ。大きな戦争が大好き、反中、反露、反北朝鮮のバイデン政権のために、日本はお金だけではなく、いろいろな負担もさせられることだろう。バイデンはトランプの「アメリカ第一(America First、アメリカ国内の諸問題の解決を最優先にするという考え)」と「アイソレーショニズム(Isolationism、国内問題解決優先主義)」を批判して当選してできるのだから、アホのビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュの時と同じようなことになる。

 ジミー・カーターもジョージ・HW・ブッシュも何やらおかしげなマスコミの煽動やプロパガンダで再選はできなかった。しかし、彼らは「元大統領」として、最高に評価が高い人たちだ。田中角栄もそうだった。その時に評価されなくても、後々に評価されるのだ。トランプはその仲間入りを果たしたということはそれだけで誇り高いことだ。

 さぁ、これから厳しい時代になる。戦争の時代になる。影響を最小限とするための準備をしよう。「トランプなんて大嫌い、良かった、バイデンになって」と不幸の始まりに立って、能天気に喜んでいられるのは一面では羨ましい。「Ignorance is Bliss」という言葉がある。しかし、一緒になって、良かった良かった、の浮かれ騒ぎはできない。帝国アメリカの終わり、世界の構造の変化に備えなければならない。

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側