古村治彦です。

 バラク・オバマ前大統領が回顧録『約束された地(A Promised Land)』を出版した。日本のメディアが日本関連の記述をキーワード検索したのだろう、鳩山由紀夫元首相に関連する記述を見つけて次のように報じた。

(貼り付けはじめ)

●「鳩山氏は「感じ良いが厄介」 オバマ前米大統領回顧録」

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https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111700728&g=int

 【ワシントン時事】オバマ前米大統領は17日発売の回顧録で、2009年11月に鳩山由紀夫首相(当時)と初会談したことに関し、「感じは良いが厄介な同僚だった」と指摘した。その上で、「3年弱で4人目の首相であり、日本を苦しめてきた硬直化し、目標の定まらない政治の症状だ」と酷評した。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で、鳩山氏が首脳会談で「トラスト・ミー(わたしを信じて)」と発言したにもかかわらず、移設先見直しの検討を決めたことなどにオバマ氏は不信感を持ったとされる。

(貼り付け終わり)

 鳩山元首相に対して、オバマ前大統領は不信感を持ち、「厄介な奴」という印象を持った、と報じた。日本の主要メディアは横並びで鳩山元首相に対して否定的な内容だったと報じた。

 これに対して、「誤訳が酷い」という反撃が出てきた。原文にあたった人々から、「感じは良いが厄介な同僚」という部分は「pleasant if awkward fellow」という表現であって、これは「楽しい人物だが交渉相手にすると厄介な人」と訳すべきだという批判が続出した。以下に記事を貼り付ける。ここから私の解釈、考えを述べる。全く英語ができない人たちばかりが総理大臣になる稀有な国である日本の中で、鳩山氏はスタンフォード大学で博士号を取得している。当時のジョン・ルース駐日大使が鳩山氏と会った時に、スタンフォード大学のアメリカンフットボールティームのヘルメットを持参しプレゼントした様子は今でも記憶がある。通訳を間に挟むまどろっこしいことをしなくても済むが、同時に交渉となると英語ができるだけに厄介ということになる。

(貼り付けはじめ)

●「NHK、オバマ氏回顧録を誤訳? 鳩山氏巡る部分に指摘」

守真弓 朝日新聞

20201118 2040

https://www.asahi.com/articles/ASNCL6KGMNCLUCVL00D.html

 NHKのニュースが17日、オバマ前米大統領が回顧録で、鳩山由紀夫元首相を「迷走した日本政治の象徴」などと評したと報じた。これについてネットなどで「誤訳だ」との指摘が上がっている。

 ニュースは17日午前10時放送で、同日に出版されたオバマ前大統領の回顧録を紹介。「当時の鳩山総理大臣について、『硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ』と記すなど、当時の日本政治に厳しい評価を下しています」と報じた。

 だが、原文の該当箇所では、「鳩山は3年足らずの間に4人目、私が就任してから2人目となる日本の首相だった。(首相が短期間で代わるのは)この10年間、日本政治が硬直化し、迷走したことの表れであり、彼も7カ月後にはいなくなっていた」と記されている。

 ネット上では「『硬直化し、迷走した日本政治の象徴』というのは首相が頻繁に交代することを指していて、鳩山さん個人についてではない」などと誤訳を指摘する声が相次ぎ、該当記事はNHKのホームページの「ソーシャルランキング」でも上位に上がるなど話題になった。

 これについてNHKは朝日新聞に対し、「ネット上に様々なご意見があることは承知しております。今後とも正確で分かりやすい表現に努めてまいります」とコメントした。

 また、時事通信などは、回顧録が鳩山氏を「感じは良いが厄介な同僚だった」と評したと報じたが、原文は「A pleasant if awkward fellow(不器用だが感じの良い男)」といった内容で、これについても翻訳のずれを指摘する声が上がった。

 鳩山元首相も自身の公式ツイッターで、「『不器用だが陽気な』との表現はあるが痛烈な批判はなかった。メディアはなぜ今も私を叩(たた)くのか」と投稿した。(守真弓)

(貼り付け終わり)

 今回の出来事で思い出すのは、終戦末期の「subject to」の翻訳問題だ。1945年に8月10日に日本政府は「国体護持」を条件にポツダム宣言受諾を米英中国ソ連に回答した。それに対して、8月12日に国務長官ジェームス・バーンズの書簡(バーンズ回答)がもたらされた。その中に、「the authority of the Emperor and the Japanese Government shall be subject to the Supreme Commander for the Allied Powers」とあった。外務省は「天皇と日本政府は連合国最高司令官の制限の下に置かれる」と訳し、陸軍は「従属する」と訳した。「従属する」を正式な訳としてしまうと、ポツダム宣言受諾反対が勢いづいてしまうので、「制限の下に置かれる」がこの当時は適切な訳だったと私は考える。しかし、日米関係の現状は「従属」そのものである。

 アメリカ国内では日本の元首相のことなど全くニュースになっていない。当たり前のことだ。ニュースになっているのは、「バラク・オバマが妻ミシェルに大統領選挙に出たいと言った時に激しく反対された」ということだ。これをどう解釈するか、だが、2つの解釈が成り立つと思う。一つは、「ミシェルは元々自分(夫バラク)が大統領選挙に出ることに激しく反対した。だから大統領になろうなんて毛頭思っていません。だから、民主党員や支持者の皆さん、2024年大統領選挙にミシェルにどうか出て欲しいなんて考えないでください」というものだ。

 もう一つは、「ミシェルは大統領になろうなんて野心はこれっぽっちも持っていません(どなたかとは違って)。皆さん、どうですか、“出たい人より出したい人”じゃないですか?こんな無欲なミシェルこそ大統領選挙に“出したい”ですよね?」というものだ。さて、バラクの真意、そしてミシェルの真意はどうなのだろうか。

 政権樹立当初からレームダック(死に体)状態のジョー・バイデン大統領(仮)にとって、最大のそして緊急の課題は新型コロナウイルス感染拡大対策だ。これで「大統領選挙に通った(仮)」ようなものだ。ワクチン開発に関して「朗報(のようなもの)」も出ている中で、ここで対策に失敗したら、「なんだよ」ということになって支持率は下がる。経済対策についても恐らく思い通りにはできないだろう。最悪の想定は、これから今まで以上に会議やら行事やらで人前に出たり、人々と交流したりする機会が増える。そうした中で大統領就任直前、もしくは直後に、対策の陣頭指揮をとらねばならない時に、新型コロナウイルスに感染してしまうことである。

今回の大統領選挙と同時に実施された連邦議員選挙では連邦上院では共和党が過半数維持の見込み、連邦下院では民主党が過半数を維持したが、共和党との議席差はこれまでになく小さくなっている(民主党退潮のためなのか民主党所属のナンシー・ペロシ下院議長はこの2年間の議員の任期が議長として最後の任期となる、2022年に議長から退くと表明した)。連邦議会対策は難しい。

 通常は副大統領が連邦議会対策、根回しを行うことが多い。カマラ・ハリスは現職の連邦上院議員からの転身なのでその点は有利である。しかし、上院議員としての任期はまだ1期目であったことを考えると、連邦議員たちと深い話や腹を割った話ができるかと言えばそうではない。まだまだ新参者なのだ。

 2022年には連邦上院議員の一部と連邦下院議員全員の選挙、大統領選挙と大統領選挙の間に実施されるので、中間選挙(mid-term election)と言われる。学校の中間試験もmid -term exams と呼ばれているが、これはバイデン政権にとっての中間試験である。この2年間で成果が上がらなければ、民主党所属の現職連邦議員たちにとっては厳しい選挙となる。ここで、共和党が躍進して連邦上下両院で過半数を取るようなことになれば、2024年にバイデンが出馬することはほぼ不可能となる。元々2024年に出ることを期待されていないし、「選挙の顔」としても使えないのなら、表向き年齢や健康のことを理由にして、1期限りで引退ということになるだろう(再選に失敗した大統領は恥ずかしいというような風潮も一部にあるが自分からの引退ならばそこまで傷つかない)。

 しかし、こんなことをぐちゃぐちゃ考えなくても、そもそもジョー・バイデンの仕事は大統領選挙終了時点で終わっていた。既にレームダック状態だ。バイデンの最重要の仕事は選挙でドナルド・トランプを倒すことであり、それ以外は全く期待されていなかった。お笑い芸能の世界で使われる言葉で言えば、「出オチ(登場した時が最も面白くそれ以降は面白くない)」である。

 民主党員や民主党支持の有権者たちはもうバイデンに期待していない。「早くバイデンが辞めて副大統領のカマラ・ハリスが大統領に昇格して女性初の大統領にならないかな」「ミシェル・オバマにこそ次の選挙に出て欲しいな」と考えている。ある世論調査の結果では、2024年の大統領選挙の民主党候補になって欲しい人という質問では、第1位がミシェル・オバマ、第2位はカマラ・ハリスという結果だった。バイデンはもう2024年には出ることができないと皆が考えている。史上初めて、初当選した大統領が既に「レームダック(死に体)」状態になっている。

 だいぶ話が脱線してしまったが、要は2024年にミシェルが大統領選挙に出馬するかどうかだ。私は昔日本の政治家に対して使われた言葉、「絹のハンカチを雑巾にして使うな」という言葉を使いたい。また、このブログでも紹介したことがあるが、ミシェルはそもそも政治家には向かない。周りにいる人の多くが馬鹿だと感じられ、そう感じた相手とは口を利かないという話を聞いたことがある。できる人、切れ者は概してそうだ。そういう人が数年間も自分を押し殺して、楽しげに振舞うというのは精神に大きな負担を与えることになる。それならば、民主党員や支持者たちは「ミシェルは最後の切り札、最終兵器」と「お守り」のように考えておくべきだ。最後の切り札、最終兵器は使われないことでこそ最大の効果を発揮する。ミシェルの存在はまさにそうなのだ。

(貼り付けはじめ)

オバマは妻ミシェㇽが彼の大統領になりたいという野心に対して抵抗したと述べた(Obama describes wife Michelle's resistance to presidential ambitions

ジョン・バウデン筆

2020年11月15日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/in-the-know/in-the-know/526087-obama-explains-wife-michelles-resistance-to-presidential

オバマ前大統領は、彼と彼の妻である前ファーストレイディーのミシェル・オバマがいかにして、大統領選選挙出馬に対しての彼女の抵抗をいかにして乗り越えたかについて語った。オバマは日曜日夜に放送されたCBSの「60ミニッツ」に出演し、幅広い話題でインタヴューを受けた。

CBSのスコット・ペリーはオバマの回顧録の一節についてオバマに質問した。この一節の内容とは、将来ファーストレイディーとなったミシェルが、バラクの大統領になりたいという野心をすげなく否定したということである。ミシェルはバラクに対して次のように述べたということだ。「私はあなたに大統領選挙に出て欲しくない。いいこと、バラク、そんな簡単に行くと思っているわけ?」。

ペリーは「そして彼女は部屋を出ていったとあります。彼女が反対した訳ですが、それでもあなたが大統領選挙に出馬することを諦めなかったのはどうしてですか?」と質問した。

オバマ前大統領は次のように答えた。「それは至極もっともな疑問ですね。分かっていただきたいのは、このやり取りが行われたのは、私がアメリカ連邦上院議員選挙に出るちょうど2年前のことだったということです。この時の選挙は通常とは異なる選挙となりました。私が連邦議会選挙に出る2年前の話しなんですよ」。

「私が連邦上院議員選挙に出る数年前の話しなんですよ。幼い子供が2人いました。ミシェルはまだ仕事をしていました。私はその時に次のように自問しました。“大統領選挙に出るなんてどれだけ誇大妄想なことなんだろうか?どれだけ悪いことなんだろうか?自分自身に対して何かを証明しようとどれだけ本気なのだろうか?”」。

オバマは妻ミシェルが徐々に「“私は邪魔をするべきではないのだ”という結論に至る」ようになったと述べた。

オバマは更に「もちろん彼女の納得は不承不承でしたよ。選挙に勝っても彼女の不満を和らげることはできなかったという事実もあります。何故なら大統領になることで大統領の家族にかかる大きな負担があるからです」とも述べた。

ペリーは、「あなたが全身全霊を傾けねばならない職責から退いて初めて、あなたが大切にしていたことは、あなたが愛する人に対する感謝だったということを認識されたと思うのですが」と指摘した。

オバマは次のように答えた。「私が大統領在任中に既にそのことを認識していたと思いますね。彼女は我慢をしてくれて、そして私のやったことを許してくれました。このことは私が今でも心から感謝している崇高な行いでしたし、私自身が彼女の崇高な行いに値するとはとても言えません」。

オバマ前大統領のCBSとのインタヴューは、彼の回想録『約束された地(A Promised Land)』の発売日(火曜日)の直前である日曜日に放送された。インタヴューの中で、オバマは彼の次のトランプ大統領に対して厳しい批判を行った。2020年の大統領選挙での敗北とトランプが結果を受け入れることを拒絶していることを受け、オバマはトランプを激しく批判した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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