古村治彦です。

 今回の大統領選挙と同時に連邦上院議員の一部と連邦下院議員の選挙も実施された。連邦下院は2年ごとに全議員に対して選挙が実施される。選挙戦をやりながらの議員活動ということになって大変に消耗する。また、政治家になりたい人にとっては、2年ごとにチャンスが訪れるということで、挑戦しやすい。

 2020年の連邦下院議員選挙では、民主党が共和党から3議席を奪うも、10議席奪われ、共和党は11議席を奪い、3議席を失うということで、差し引きで民主党が222議席、共和党が207議席を確定させ、残り8議席がまだ確定しないという結果になっている。2019年1月から2021年1月までの任期では、民主党が232議席、共和党が197議席、リバータリアン党が1議席、欠員5議席となっていた。民主党は引き続き過半数を確保したが、多くの議席を失ったということになる。連邦上院は、共和党が50議席、民主党が48議席を確定させている。ジョージア州の2議席がどうなるかだが、民主、共和両党で分け合う形となる可能性が高く、そうなれば、共和党が過半数を握ることになる。

 民主党はホワイトハウスを奪還した(仮)と喜んでいるが、その前途は暗いものである。連邦上院は制度上共和党が有利である以上、連邦下院は何としても過半数を確保しなければならない。しかし、2022年の中間選挙で挽回できる可能性は低い。まず、中間選挙では大統領を出している与党の連邦議会での議席は減るのが通常だからだ。これにプラスして、民主党は自分たちの支持基盤とすべき、白人労働者階級とラティーノ系の有権者からの支持を集められていない。そうなれば、次の選挙は厳しいということになる。

 ジョー・バイデンが大統領になっても、彼が直面する課題はトランプ大統領と同じだ。新型コロナウイルス感染拡大を抑えながら、経済も回復させねばならない。ジョー・バイデンが大統領になれば、「自分は新型コロナウイルス感染対策を託されて当選した」ということを理由にして、罰則付きのマスク着用義務化を推進する可能性がある。このようなことが起きれば、「トランプを暴君だのなんだのと言っていたが、バイデンこそが自分たちの生活に介入してくる暴君ではないか」ということで、それこそ、民主党が手放してしまった有権者グループである、白人労働者階級とラティーノ系の激しい反発を招くだろう。

 また、経済対策については、大統領選挙前からバイデンには全く期待が集まっていない。だからと言って何もしない、何もできないということは許されない。しかし、次の中間選挙までに人々に期待に応えることができるかと言えば心もとないということになる。

 「トランプを倒した、やったやった」というバカ騒ぎの後には苦難が待っている。

(貼り付けはじめ)

メモ:民主党は2020年以降の警戒警報に直面している(The Memo: Democrats see warning signs beyond 2020

ナイオール・スタンジ筆

2020年11月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/the-memo/526608-the-memo-democrats-see-warning-signs-beyond-2020

民主党内の最も頭脳明晰な人々の中には警戒警報を受け取っている。民主党は大統領選挙当選者のジョー・バイデンのトランプ大統領に対する勝利を祝っているがそうした中で、警戒警報が出ていることに気付いている。

バイデンは今年の大統領選挙において総獲得票数で約600万票差をつけている。一方、リベラル派の政治専門家たちの中には、民主党にとって予想外の困難をもたらす人口動態学的な動向に当惑している人々がいる。

2つの事実が特に繰り返し述べられている。その2つとは、ラティーノ系有権者たちからの支持が予想よりも弱かったこと、大学教育を受けていない白人有権者たちの間での共和党支持の強さが継続していること、である。

選挙人獲得におけるバイデンの勝利、バイデン306名対トランプ232名は、おおむね満足できる結果であったが、ウィスコンシン州、ジョージア州、アリゾナ州といった激戦諸州で、大変な僅差であった。これらの州では全て1%以下の得票率の差であった。

有権者の間での教育という側面での分断は、民主党にとってマイナスになっている。2012年の大統領選挙でオバマ選対において内部の選挙予測モデルを担当したデータ・エクスパートのデイヴィッド・ショアがこのことを主張している。

ショアは本誌の取材に対して次のように答えた。「大学の学位を持っていない人々の間での支持が全く上がっていない事実は民主党にとって大変に悪い兆候です。それは道徳的な理由からではありません。その理由は、大学の学位を持っていない人々は都市以外の場所に居住し、地方は全ての選挙において人口に比べて多くの代表を出していることなのです」。“

ショアは続けて次のように述べた。「真実は、小選挙区制度であろうと、選挙人制度であろうと、連邦上院議員選挙制度であろうと、地方の各州に対してより議員や選挙人が配分されているということです。従って、民主党の現在の選挙対策のための連合は立法府における力をうまく生み出せないのです」。

大学教育を受けた白人有権者がトランプに対して反対する動きを行い、それが今年バイデンが勝利した主要な理由となった。2016年の時にはヒラリー・クリントンはここで敗れたのだ。

今回の大統領選挙の出口調査の結果、バイデンは白人の大学卒業生の有権者の間で、トランプに3ポイントの差をつけて勝利した。2016年の選挙の時には、ヒラリーは3ポイントの差をつけられて敗北した。

しかし、バイデンは民主党に対する白人の労働者階級の有権者たちからの支持の減少を目立たせた。今年の大統領選挙では、大学の学位を持たない白人有権者の間では、トランプ大統領に35ポイントの差をつけられて敗北した。この差は2016年の選挙でのヒラリーがつけられた差37ポイントよりも少し改善した。

デイヴ・“マッドキャット”・サンダースはヴァージニア州南西部を拠点にして活動している民主党系ストラティジストだ。サンダースは長年にわたり、民主党は地方に住む白人有権者たちから文化的に大きく乖離していると主張してきた。

サンダースは次のように述べている。「いつもいつも、“おいおい、田舎の奴らはまたまた自分たちの経済的利益に反する投票をしているぜ”ってことばかり聞く。しかし、どうしてそういう行動を取るのかについて誰も語ろうとはしないんだ。田舎の人たちにそのような行動を取らせる強力な利益が存在する。それが文化なんだよ」。

サンダースは、古い「ブルー・ドッグ」民主党員を例に挙げる。この人々は、「銃所有に賛成で、厚くキリスト教を信仰している」人々だとサンダースは定義している。このブルー・ドッグ民主党員がアイオワ州に多くいたならば、選挙に弱い、共和党所属の連邦上院議員ジョニ・アーンストを落選させることができただろうとサンダースは語っている。アーンストは選挙戦序盤の各種世論調査の結果、挑戦者のテレーザ・グリーンフィールドを追いかける展開であった。しかし、その後に差をつけ、最終的に7ポイントの差をつけて勝利した。

ラティーノ系の支持が集まらなかったことは、民主党の多くの政治家にとって困難をもたらすことになった。

2016年、トランプはラティーノ系有権者の内28%からの投票を獲得した。これに衝撃を受けた専門家たちが存在した。この数字は2012年の共和党の候補者ミット・ロムニーの数字よりも若干高いものであった。トランプの移民に対する厳しい言葉遣いにもかかわらず、数字が良かったのだ。今年の選挙ではトランプはこの数字をさらに上げ、32%の投票を獲得した。

メディアの関心はフロリダ州に集まった。フロリダ州の中で最もキューバ系アメリカ人の多いマイアミ・デード郡におけるバイデンの得票数は、4年前のヒラリー・クリントンの3分の1であった。

一方、トランプ大統領はテキサス州内のメキシコ国境に沿って存在するラティーノ系が人口の大多数を占める各郡で勝利を収めた。民主党はテキサス州内で連邦下院議員の議席数を増やすことができず、テキサス州下院議員選挙での結果は失望に終わった。

デビー・ムカーセル=パウエルはフロリダ州南部地域で、再選に失敗した民主党所属の女性連邦下院議員2人のうちの1人だ。民主党がラティーノ系からの支持を集められなかったことについて、民主党は「社会主義的だ」というレッテル貼りをされたからに過ぎないという責任転嫁について激しく批判した。

ムカーセル=パウエルは水曜日にツイッターに次のように投稿した。「私たちが敗北したことに関しては多くの要素があった。ラティーノ系を標的にした偽情報の拡散、経済再開に関連して失望し、経済状況を心配する有権者たち、“この人種の人なら民主党に入れるだろう”という人種アイデンティティについての考えを持つ全国規模の民主党といったものだ。ただ単に社会主義に対しての反感だけが理由ではない」。

リベラル派のシンクタンクであるセンター・フォ・アメリカン・プログレスの上級研究員レイ・テイシェイラも同様の分析を行っている。テイシェイラは特に、新型コロナウイルス対策に関連する新たな制限とそれによる経済における結果似た対するラティーノ系共同体内に存在する恐怖感を強調している。

テイシェイラは「ヒスパニック系の労働者階級の人々は経済について大変に敏感であるようです。そのことは民主党にとっては役立ちませんでした。こうした人々は自分たちの雇用、家族、収入、働けるかどうかについて大きな懸念を持ちっているのです」と語っている。

更に広く見て、テイシェイラは続けて、「民主党がヒスパニック系有権者に向けて良いだろうと考えて主張している公約は自分たちが思っているほどには良いものではないのですよ」と述べた。

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)の大統領選挙選対の上級顧問を務めたチャック・ロッカは、「社会主義」という批判は誇張されたものだったと述べている。彼はフロリダ州のマイアミ・デード郡について「社会主義という言葉はアメリカのある一つの州のある一つの郡で重要でそれ以上ではないと思いますよ」と語った。

ロッカは次のように主張している。民主党は幹部クラスの中に、もしくは民主党と関係のあるスーパーPACの運営の中に、ラティーノ系とアフリカ系の人物が人口比に比べてかなり少ない状況であり、そのことのつけを支払っている状況だ。

ロッカは「戦略的な決定を行う際には、その場所にはラティーノ系もアフリカ系の人は誰もいないのです」と述べている。

トランプの退場が迫っている中で民主党は大いに安堵している。しかし、民主党は、選挙においてより効果的な有権者連合をどのように形成するかについてこれから数カ月間、激しい議論をしなければならない。

進歩主義派の人々の中には、民主党は草の根の支持者たちをより活性化する必要があると主張し、その考えを「基盤を固めて掴もう」というスローガンに集約している。

しかし、他の人々はショアと同様に、この考えにそこまで説得されている訳ではない。

ショアは次のように述べている。「民主党は議論を巻き起こす、挑発的な物事に力を注ぐ傾向があります。民主党は文化的に保守的な人々に投票して欲しいと望むならば、より穏健で、あまり議論を巻き起こさないようにする必要があります」。

ショアは「ほとんどの選挙で勝利しているのはどんな人かを見てみれば、最もうまくやっている人は、ほとんどの場合、穏やかな人物で、そういう人物が選挙に勝利しているのです」と述べている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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