古村治彦です。

 昨年末、民主党所属のジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出)が、ジョー・バイデン大統領が進める目玉政策の1兆7500億ドル規模の支出法案に反対することを表明した。現在、連邦上院(100議席)は民主党、共和党両党でそれぞれ50議席ずつを有している。連邦上院議長は、アメリカ合衆国憲法によって副大統領と兼務となるが、可否同数の場合の議長決裁(イギリスではcasting voteと呼び、アメリカではtie-breaking voteもしくはtie breakと呼ぶ)の時しか参加できない。現在の副大統領は民主党所属のカマラ・ハリス副大統領だ。これで、議席数は両党で同数であるが、民主党が多数党(majority)となり、共和党は少数党(minority)となる。しかし、小のバランスは非常に微妙である。民主党側の議員が1人でも病気で登院できない、もしくは死亡してしまった場合は共和党が多数党ということになる。
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ジョー・マンチン(左)とジョー・バイデンの「Wのジョー」
 こうした状況下で、マンチンが所属する民主党から出ているバイデン大統領の目玉政策に反対を表明したことは非常に大きな衝撃を与えた。仮にこのまま採決をすれば、理論上、賛成49対反対51で、法案は可決されないことになる。マンチンはこれまで法案に対して慎重な姿勢を取ってきており、ホワイトハウスも民主党指導部もマンチンと幾度も会談を持ち、法案に賛成するように説得し、どのような内容にすれば賛成するのかということについて話し合いを持ってきた。しかし、その成果は芳しくなかった。ホワイトハウス側は、マンチンが賛成に回ることで合意したという発表をしていたが、マンチンはそれを否定した。
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連邦最高裁判事人事についての話し合いでのトランプとマンチン
 民主党側はマンチンを翻意させるか、共和党側から賛成者を獲得するかしなければ、法案を可決させることはできない。共和党側はこうした大規模支出はインフレーションを進行させるとして反対している。確かに、このブログでもご紹介している通り、アメリカの2021年10月のインフレーション率は6.2%、11月では6.8%となっている。こうした状況下で、共和党は民主党攻撃の手段としてインフレーション率を使うことになる。共和党側から賛成者が出るとは考えにくい。また、マンチンの反対理由を見れば、インフレーションの進行を挙げているので、マンチンを翻意させることは今のところ難しい。

 民主党の支持基盤である労働組合は、マンチンに翻意するように促している。ウエストヴァージニア州は炭鉱労働者が多く、その労働組合が大きな力を持つ。炭鉱労働者組合はマンチンに翻意を促している。これまでマンチンは炭鉱労働者組合と良好な関係を保ってきた。労組の支持がなければマンチンの選挙にも影響が出る。マンチンが次に選挙を迎えるのは2024年だ。

しかし、労組にばかり頼っていては選挙には勝てない。ウエストヴァージニア州では2010年代から共和党が勢力を伸ばしており、現在3名出ている連邦下院議員は全員共和党所属であり、2名出ている連邦上院議員で言えば、マンチンは民主党所属であるが、もう一人の議員であるシェリー・ムーア=キャピトは共和党所属である。大統領選挙でも2000年以降は共和党の候補者が勝利している。マンチンも民主党所属であるが、共和党支持の有権者を意識しなければ選挙が戦えないという状況にある。

 バイデンの目玉政策を実現できるかどうかは、今年初めのアメリカ政治にとって重要なテーマということになる。

(貼り付けはじめ)

マンチンは「ビルド・バック・ベター」法案に賛成票を投じないと発言:「それは駄目だということだ」(Manchin says he will not vote for Build Back Better: 'This is a no'

アレクサンダー・ボルトン筆

2021年12月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/586450-manchin-says-he-will-not-vote-for-build-back-better-this-is-a-no

ジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)は「フォックスニュース・サンディ」に出演し、バイデン大統領の「マンモス急に巨大な」気候変動と社会支出法案に賛成票を投じないと表明した。これはホワイトハウスの最重要政策の実現を根底から覆すものだ。

彼はゲスト司会者ブレット・バイアーに対して、「私はこの法案が継続することに投票することはできない。どうしてもできない。人間として可能なことは全て試してみたが 無理だ。この法案に関しては、それは駄目だということだ」と述べた。

彼は続けて「私は知っていることは全て試した」と述べた。これで、民主党の「マンチンは説得を受け入れて考えを変えるかもしれない」という希望が閉ざされることになった。

マンチンは、バイデン大統領、連邦上院多数党(民主党)院内総務チャールズ・シューマー連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、連邦下院議長ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党、)、その他の同僚と会談し、前途を模索しながら「熱心に」法案に取り組んできたと述べた。しかしながら、インフレーション、29兆ドルに及ぶ連邦債務、新型コロナウイルスのオミクロン変異体による新規感染の急増について依然として極めて懸念していると付け加えた。

「今のような難しい事態になった時、私はいつもこう自分に対して語りかける。ブレット、“ウエストヴァージニア州の人々のもとに帰って説明できないようなことには、投票することはできない”」とマンチンは述べた。

マンチンは、「バイデン大統領は、私自身が2000ページを超える法案の成立に深刻な懸念を抱いていることを知っていた」と発言した。

マンチンは次のように述べた。「バイデン大統領は、私の懸念、問題視していた事柄について知っている。私たちが注意を向けるべきは、新型コロナウイルスの変種が、様々な側面や様々な方法で再び増加することだ。それがまた私たちの生活に影響を及ぼしている」。

マンチンはまた、インフレーションの進行は「多くのアメリカ国民、特に低所得層や貧困層の人々に大きな損害を与える」と警告を発した。

「これらの問題に対して緊急的に私たちの関心を向ける必要があると私は考えている」とマンチンは述べた。

マンチンの法案に対する決定的な反対声明は、ウエストヴァージニア州選出で中道派のマンチン議員とバイデン大統領との間で話し合いが今週も続くと予想していた連邦上院民主党の同僚議員たちにとっては驚きをもって迎えられた。

バイデン大統領は先週発表した声明の中で、マンチン議員が1兆7500億ドルの「ビルド・バック・ベター」法案に関する支出を「改めて支持することになるだろう」と述べ、「今後数日から数週間の間にこの作業を一緒に進めていく」と約束した。

しかし、マンチンは先週末、バイデン大統領の楽観的な発言から距離を置き、「これはバイデン大統領の発言であって自分の発言ではない」と記者団に語った。

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は日曜日の午後早くに発表した声明の中で、マンチンの変わり身は突然であり、彼は先週バイデン大統領に提示した、ホワイトハウスが「全ての人々に受け入れられ、妥協につながる」と信じていた枠組みを撤回したと述べた。

サキ報道官は声明の中で次のように述べている。「フォックスニュースの番組での発言と文書による声明がその努力の終わりを示すものであるならば、それは突然のそして不可解な立場の変更であり、大統領と上下両院の同僚議員たちに対する約束を違えることになる」。

サキ報道官は続けて次のように述べている。「今朝、マンチン議員がビルド・バック・ベター法案に関する立場を翻したが、私たちは、マンチン議員が再び立場を翻し、以前の公約を守り、約束を守るかどうかを確認するために、引き続きマンチン議員に圧力をかけ続ける」。

連邦上院予算委員会委員長のバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は金曜日にはマンチンを説得して法案を支持させることができると本誌に語っていたが、日曜日には、彼に反対票を投じさせたいと語った。

連邦議会進歩主義派議員連盟のメンバーであるヴェロニカ・エスコバー連邦下院議員(敵さ州選出、民主党)は声明の中でマンチンを激しく非難した。

エスコバーは「BBB(ビルド・バック・ベター)法案から離脱すことは、行動を必要とする、私たちの前にある危機を無視していることになる。最高の無責任と裏切りである」と述べた。

マンチンは、民主党の同僚議員たちが、法案全体のコストを2兆ドル程度に抑えるために、子供税額控除の強化などの人気項目の早期期限切れを設定したことに大きな問題があったと述べた。これによって、法案の赤字と債務に対する真の影響が覆い隠されると主張した。

マンチンは次のように述べている。「“皆まだやりたいことがある ”と同僚たちは言う。“私たちは債務残高状況に合わせることができるか?”と言っている。期間を10年に対して2年にすればいい。10年に対して4年、10年に対して1年にすればいいということだ」。

マンチンは「それは、ウエストヴァージニア州の有権者について考えると、このようないい河岸な態度は本物とは言えない」と述べた。

マンチンは、連邦上院共和党が要求した法案に関する連邦議会予算局(CBO)の最新分析によると、ビルド・バック・ベター法案が全ての条項を更新する場合、今後10年間で4兆5000億ドル以上のコストがかかると指摘した。

リンゼイ・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は、ビルド・バック・ベター法案の期限が10年に延長される場合にかかるコストについて連邦議会事務局に試算するように要求した人物だ。グラハムはマンチンの表明に賛辞を贈った。

グラハムは「ビルド・バック・ベター法案を支持しないというマンチン議員の決断に私は心から高く評価する。これは、同法案に関する議会予算局の分析を理解したことに起因している」と述べた。

マンチンは、フォックスニュースの番組に出演直後に発表した声明の中で、番組で述べた多くの点を繰り返し述べた。

マンチンは「最善を尽くしたが、ウエストヴァージニア州で大規模なビルド・バック・ベター法案について説明できず、この巨大な法案を前進させるために投票することもできない」と述べた。

マンチンは次のように述べた。「ワシントンにいる民主党所属の同僚議員たちは、私たちが直面する脅威に対して、わが国を更に脆弱にするような形で、社会を劇的に再編することを決意している。29兆ドル以上にまで膨らんだ驚異的な負債と、ガソリンや食料品店、光熱費など、勤勉なアメリカ人全員に実害のある、人々からお金を取り上げる税金のようなインフレーションなどが終わりの見えない状況にある。そうした中で、法案による更なるリスクを取ることはできない」。

連邦上院エネルギー・天然資源委員会委員長を務めるマンチン議員は、再生可能エネルギー利用を促進し、化石燃料を段階的に削減することを目的とした法案の気候関連条項に大きな問題があるとも述べた。

マンチンは、「この法案が成立すれば、電力網の信頼性を危険に晒し、海外のサプライチェインへの依存度を高めることになる」と語った。

マンチンは、「私の同僚議員たちが求めるエネルギー転換は既に進んでいる」と主張し、議会が既に「 クリーンエネルギー技術に何十億ドルも投資している」とを指摘した。

マンチンは声明の中で、中国やロシアとの緊張が高まっていることも、巨額の社会支出法案を支持しない理由だと述べている。

マンチンは、ロシアがウクライナに対して、中国が台湾や南シナ海に対して攻撃的な姿勢を取っていることに言及し、「これらの懸案事項に迅速かつ効果的に対応する能力は、負債の増加によって大幅に損なわれるだろう」と述べた。

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マンチンのビルド・バック・ベター法案反対を表明する声明を読む(Read Manchin's statement announcing opposition to Build Back Better

『ザ・ヒル』誌スタッフ

2021年12月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/586460-read-manchins-statement-announcing-opposition-to-build-back-better

ジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)は日曜日、バイデン大統領の気候変動と社会支出法案に賛成票を投じないと発表した。これはホワイトハウスの最重要政策の実現を根底から覆すものだ。

声明の中でマンチンは次のように述べている。「これまでの5カ月半、私は、バイデン大統領、シューマー連邦上院多数党(民主党)院内総務、ペロシ連邦下院議長、そして全ての政治的志向を持つ同僚議員たちと可能な限り真摯に協力してきた。それは私の深刻な懸念は置いておいても最善の道を模索し決定するためだった。私はこれまで発表してきた複数の声明、新聞の論説記事、私的な会話の中で自分自身の持つ懸念を明らかにしてきた。新型コロナウイルス感染が拡大し、インフレーションが進行し、世界各地で地政学的な不確実さが増大する中で、私の懸念は大きくなっていくばかりだった」

マンチンは続けて次のように述べている。「私は常に、“私はウエストヴァージニア州に帰って説明できないことには、賛成票を投じない”と述べてきた。私は最善を尽くしたが、私はウエストヴァージニア州でビルド・バック・ベター法案について説明できない。私はこのマンモス級の法案を前進させるために賛成票を投じることはできない」。

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炭鉱労働者組合はマンチンに対してバイデンの計画についての反対を再考するように促す(Coal miners' union urges Manchin to reconsider opposition to Biden plan

カール・エヴァース=ヒルストロム筆

2021年12月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/business-a-lobbying/business-a-lobbying/586661-coal-miners-union-urges-manchin-to-reconsider

ウエストヴァージニア州の炭鉱労働者たちを代表しているアメリカ鉱山労働者組合(UMWA)は月曜日、ジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)に対して、バイデン大統領のビルド・バック・ベター計画への反対を考え直すように促した。また、UMWAは、職を失った何千人もの炭鉱労働者を雇用するために、製造業者が炭鉱地帯に施設を建設することを奨励する税制優遇措置もあることを強調している。UMWAは、社会支出法案には炭肺に苦しむ炭鉱労働者たちに便益を与える基金が2021年末で期限を迎えるのを延長することが含まれていると指摘している。

セシル・ロバーツUMWA委員長は声明の中で次のように述べている。「こうした理由も含め、この法案が通過しないことに失望している。私たちはマンチン連邦上院議員に、この法案への反対を再検討し、炭鉱労働者の労働維持に役立ち、組合員とその家族、そして地域社会に有意義な影響を与えることになる法案を同僚と協力して可決することを強く求める」。

マンチンは日曜日、民主党が進める約2兆円規模の気候変動と社会支出法案を支持しないと表明した。民主、共和両党で50議席ずつを有している連邦上院で可決の可能性を潰すことになった。マンチンは、同僚議員たちは法案ではなく、インフレーション、国家負債、新型コロナウイルスの患者数の増加に対処すべきだと述べた。

無数の利益団体がマンチンに軌道修正を求める中、鉱山労働者組合の声明は最もインパクトがあるかもしれない。マンチンは炭鉱労働者の家庭に生まれ、数十年にわたりUMWAと密接に協力してきた。UMWAは昨年、マンチンを名誉会員に任命した。

マンチンは昨年の名誉会員任命の際の声明の中で次のように述べている。「UMWAの組合員とともに、彼らが当然得られる年金と医療給付を確保するために徹底して戦ったことは、私の人生において最大の栄誉の一つである」。

石炭の仲介会社の株式を保有するマンチンは、法案のクリーンエネルギー条項の見直しに重要な役割を果たし、離職した石炭労働者のためにクリーンエネルギーの新規雇用を奨励する措置を推し進めた。

ロバーツ委員長は声明の中で、バイデン大統領が進める支出パッケージには労働者の組合結成を認めない企業に罰則を科す条項が含まれており、これはマンチン氏が支持する組合結成促進法案(PRO Act)から取り入れられた措置である、とも述べている。

ロバーツ委員長は次のように述べている。「この条項は、雇用主による組合潰しが激化しているアメリカで団結権を回復するための長期的な能力にとって不可欠だ。しかし、現在、何百万人もの労働者が職場で権利を行使するための道は開かれていない」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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