古村治彦です。

 現在、アメリカは対ロシア強硬姿勢を強めている。ウクライナを巡り、ロシアとアメリカは対立している。このブログでもご紹介しているが、ウクライナと対ロシア強硬姿勢という言葉が揃えば、出てくるのは「ヴィトリア・ヌーランド」という人名だ。ヌーランドについては、このブログでも何度もご紹介しているし、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で書いている通り、国務省序列第三位の政治担当国務次官を務めている。今回の対ロシア強硬姿勢のエスカレートの裏には、ヴィクトリア・ヌーランドがいる可能性が高い。彼女がシナリオを書いているかもしれない。これは大変危険なことだ。

 さて、以下の論稿にある通り、ウォルト教授はウクライナ問題について、ロシアとの衝突を避けるべきだという立場だ。アメリカ軍を派遣して、現地でロシア軍と衝突ということになれば愚の骨頂だ。ロシアはジョージ・ケナンが指摘したように、被害者意識を持ち、自分たちの国土を守るために、緩衝地帯を作ろうという考えを長年持っている。NATOが拡大して、やがてロシアの国境にまで迫ることを懸念し、嫌悪している。そのために、NATOを拡大させることは得策ではない。NATOを拡大させるならば、「ロシアを敵視しない」ということをロシアに納得させることが必要だが、それは難しい。なぜならば、NATO拡大の裏には、対露強硬姿勢の欧米の勢力がいるからだ。その代表格がヴィクトリア・ヌーランドということになる。

 また、『』の著者であるウォルト教授はイスラエルについても厳しい見方をしている。イランとの核開発合意を復活させること、もしイスラエルがイランに対して、攻撃を加えるという決定を下すのならば、アメリカの支援を期待すべきではない、ということを主張している。ウォルト教授は、核開発合意の破棄は、アメリカ国内のイスラエル・ロビーの力によってなされたものだと見ており、それはアメリカの国益に合致しないと考えている。これこそは、国際関係論におけるリアスとの考え方である。

 「内憂外患」という言葉がある。国内、国外に問題が山積しているという状態を意味する言葉だ。アメリカはまさに内憂外患の状態だ。個別の問題もあるが、アメリカ国内の問題は深刻な分断だ。その不満を逸らすために、外国の問題をフレームアップする。これはいつの時代にも行われてきたことだ。ロシアや中東の問題をことさらに大きくフレームアップするのは、アメリカ国内の問題が大いに深刻だからと言うことができる。

 私の個人的な見方では、ロシアをフレームアップすることで、相対的に中国へのアメリカの敵視が弱まっているように思われる。これが意図されたものだとすると、その設計者はジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官ではないかと思っている。米中の本格的な衝突は、世界のパワー・バランスを大きく変化させ、不安定さをより増大させることになる。それを避けるために、小さな問題をフレームアップしながらも、衝突は避けるという芸当を行おうとしているのではないかと思う。それはそれでリスクの高い行動だが、米露がお互いに「相手は本気で衝突する気がないだろう」と考えているうちは、まだマネイジメントができるかもしれない。しかし、偶発的ということはある。そうなれば、「想定外」のことが起きて、世界は不安定化する。そのことも念のため考慮しておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンの2022年の外交政策やることリスト(Biden’s 2022 Foreign-Policy To-Do List

-アメリカ大統領ジョー・バイデンが今後1年間に準備すべき課題を予見する。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2021年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/12/28/bidens-2022-foreign-policy-to-do-list/

たとえ彼の政策が気に入らなくても、アメリカ大統領ジョー・バイデンの勇気には感心するはずだ。大統領執務室での最初の日、彼がどのように感じたか想像してみて欲しい。この国は世界規模の新型コロナウイルス感染拡大の渦中にあり、共和党の指導者たちのほとんどがいまだに非難することを拒んでいるクーデター(訳者註:2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件)の失敗を辛うじて乗り切った。2020年にバイデンが打ち負かしたライアー・イン・チーフ(訳者註:コマンダー・イン・チーフのもじり)は、正々堂々と負けたことを認めようとしない(そして今もそうだ)。国は勝ち目のない戦争に陥っており、そこからきれいに抜け出す方法はなかった。民主党は連邦議会でぎりぎりの差をつけて過半数を握っており、個々の連邦上院議員には判断力や誠実さをはるかに超えた影響力が与えられていた。さらに、地球上のすべての生命が依存している生態系は、深刻な異常事態に陥っている。

バイデンが直面した課題と配られたカードの貧弱さを考えれば、バイデンはそれほど悪い結果を出している訳ではない。しかし、外交政策におけるいくつかの真の成功にもかかわらず、2022年も彼に大きな安らぎを与えることはないだろう。新型コロナウイルスは依然として深刻な問題であり、アメリカの敵国はますます活発になり、アメリカの同盟諸国はますます分裂しているように見える。一方、かなりの割合のアメリカ人が、誤ったシナリオとでっち上げられた「事実」に満ちた別世界に住んでいる。

しかし、せっかくのホリデーシーズンなので、まずは明るい話題で、潜在的な火種を一つ取り除いてみよう。台湾問題は今後も米中関係を複雑にするだろうが、あえて言えば、2022年には台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう。中国政府とアメリカ政府はともに、ここ数カ月、危機の温度を下げるために静かに努力し、エネルギー価格の低下や気候変動への懸念に対処するために積極的に協力している。台湾をめぐる対立は、米中両国のどちらにとっても今一番避けたい問題なのだ。

バイデンの外交チームは引き続き中国との長期的な競争に重点を置くだろうが、この問題に対する超党派のコンセンサスが生まれつつあり、それがアメリカを強化するための効果的な政策に反映されれば助けとなるだろう。(皆さんもご存じの通り:ビルド・バック・ベター法案がそうだ。)それでも、今後12カ月以内に事態が好転することはないだろう。というのも、2022年には、他のいくつかの問題が政権の受信トレイを埋め尽くすことになりそうだからである。

(1)ロシアとウクライナの問題。 西側諸国の一部の悲観論者とは異なり、私はロシアがウクライナ全土を征服するための大規模な侵攻を行うとは考えていない。ウクライナ全土を占領すれば、強力な経済制裁が発動され、NATOは東側諸国を軍事的に強化する(プーティン大統領はこれを望んでいない)だけでなく、モスクワは怒れる4300万人のウクライナ人を統治しなければならなくなるのだ。頑迷固陋なナショナリズムは旧ソ連帝国を崩壊させた原因の一つであり、このような勢力がウクライナを再統合しようとすれば、モスクワには到底負担しきれないほどの出費を強いることになる。

もしロシアが武力行使に踏み切った場合、表向きはウクライナ東部の親ロシア派を「支援」するための、より限定的な侵攻になると思われ、おそらくこれらの地域を守るための緩衝地帯も追加設定されるだろう。これは、プーティンがグルジア(ジョージア)、南オセチア、アブハジアなどで行った「凍結された紛争(frozen conflicts)」と同様であり、予想が異なことかもしれないが、比較的リスクの低い行動を取るというプーティンの傾向と一致するものだ。利害関係が小さくなるため、「限定的な目的」戦略は、欧米の強力で統一された反応を引き起こす可能性が低くなる。その過程で、プーティンがウクライナにどれだけの損害を与えようとするかが大きな問題だ。プーティンは「教訓を与える」(そして欧米に近づきすぎないよう周囲に警告する)誘惑に駆られるかもしれないが、ウクライナを罰することは、欧米の厳しい反応を招くリスクも高めることになる。

バイデンはここで勝ち目のない状況に陥っている。アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で実際の銃撃戦を起こそうという気はさらさらないし、ウクライナ政府に更に武器を送っても、ロシアの限定的な進出を抑止できるほどパワー・バランスは傾かないだろう。しかし、対露強硬派は、この問題を解決するための外交的取引は、ネヴィル・チェンバレン的な最悪の宥和政策(appeasement)だと非難するだろう。

この魅力のない状況は、NATOの開放的な拡張がイデオロギー的には魅力的だが、戦略的には近視眼的(myopic)であることを思い起こさせる。NATOの拡張は、(1)「広大な平和地帯(vast zone of peace)」を作り出し、(2)ロシア政府が「NATO拡張は脅威ではない」というNATOの保証を容易に受け入れ、(3)NATOが行った、あるいは示唆した約束は決して守る必要がない、と支持者たちは無頓着に考えている。残念だが、この船は出港してしまった。バイデンとNATOが今直面している課題は、ロシアの脅迫に屈したように見せずにウクライナの独立を維持する方法を見つけ出すことだ。2014年当時、ウクライナの中立性について合意に達するのは、簡単とは言い難いが、まだ容易であっただろうが、今日の場合ははるかに困難であろう。

(2)イスラエルとイラン問題。あなたの名前がマイク・ポンペオ元アメリカ国務長官、ジョン・ボルトン元大統領国家安全保障問題担当補佐官ではなく、民主政治体制防衛財団(Foundation for Defense of Democracies)のようなタカ派ロビーで働いていないなら、イランとの共同包括行動計画(Joint Comprehensive Plan of ActionJCPOA)からの離脱というトランプの決断が過去50年間で最も間抜けな外交政策決定の一つであることをおそらく理解していることだろう。そしてこれが意味しているのは以下のようなことだ。イランは現在、トランプが一方的に協定を破棄しなければ保有していたであろう量よりも多くの高濃縮ウランを保有している。さらに多くの高性能遠心分離機が稼働し、より強硬な政府が誕生しているが、これらはトランプとポンペオの無分別な「最大限の圧力(maximum pressure)」作戦の結果だ。バイデンは大統領就任後、共同包括行動計画を復活させると公約したが、イスラエル・ロビーの力を尊重したためにその実現に逡巡してしまい、手遅れになるまで放置する結果となってしまった。

共同包括行動計画の下で、イランが核兵器1個を製造するために必要なウランを製造するためにかかる時間(breakout time)は1年以上であった。しかし、それが現在では数週間となっている可能性が高い。このような状況は、アメリカのこれまでの行動の結果である。しかし、アメリカまたはイスラエルがイランの核製造設備に対して軍事行動を起こすという話が再燃しているのは驚くに値しない。爆撃によってイランの核爆弾製造能力を破壊することはできない。せいぜい核爆弾製造を遅らせることができる程度であり、その期間もそこまで長くはない。この方法でイランを攻撃すれば、攻撃に対するより確実な抑止力を持ちたいというイラン側の欲求が強まり、イラン政府内の強硬派の立場が更に強くなり、最終的には核の「隠し持ち(latency)」の段階から、公然とした核武装国になるようにしようと、イラン政府全体が説得される結果に終わるだろう。

トランプの失敗のおかげで、今日の選択肢は魅力的なものではない。今後、イスラエルとアメリカ国内にいるイスラエル支持者たちは、2022年の1年間を使って、イスラエルの予防攻撃(preemptive strike)の可能性をほのめかし、実際にはイスラエルに代わりにアメリカにイランへの対処の負担を負わせようとすることは間違いないだろう。バイデンがそうした声を聞き入れず、「イランと戦争を始めたい国は自力でやるしかなく、アメリカの保護はあてにはできない」と明言することを期待する。このことが意味するのは、たとえバイデンがアジア地域や気候変動、新型コロナウイルス感染拡大に焦点を当て、中東にはあまり時間と関心を割かないようにしたいと思っても、中東を完全に無視することはできないだろう、ということである。

(3)信頼性についての懸念。バイデンはまた、アメリカの信頼性について問題にどう対処するかを考えなければならないが、まずその問題が何であるか、その内容を正確に理解する必要がある。世間で言われているのとは逆に、これはバイデンが意志薄弱であるとか、アフガニスタンの撤退が予想以上に混沌としていた、という問題ではない。私や他の人々が繰り返し主張してきたように、関与(commitments)とは、潜在的な挑戦者たちが、大国が特定の問題や地域を守ることに明確な利益を持ち、攻撃者に大きなコストを課す能力があることを認識したときに、最も信頼できるものになる。利害関係が重要でない場合、あるいは必要な能力が欠けている場合、瀬戸際やそれ以上の場所に行く意思があることを相手に納得させるのははるかに難しい。

今日、アメリカが信頼性の問題を抱えているのは、主に2つの理由がある。第一に、アメリカは過度の関与を行っていることで、安全保障関連対応を全て同時に履行することは困難であるということである。理論的には、この問題を解決するために、自国が攻撃を受ける度に激しく抵抗し、将来の攻撃を阻止することが考えられるが、時間が経つにつれ、この方法は資源と政治的意志を消耗する。このため、現在のアメリカの信頼性は、バイデンが無抵抗だからではなく、国全体が無意味な戦争にうんざりしているからやや低いということになる。そして、戦争に疲れているのは、その信頼性を保つために愚かな戦争をし続けたからでもある。 こうして、誰かがこれらの紛争を終わらせようとするたびに「宥和は駄目だ」と叫んだタカ派は、結局、彼らが解決したいと主張する問題そのものを悪化させることになったのだ。

第二に、今日のアメリカの信頼性は、特定の国際情勢への対応と同様に、国内の分極化と政治的機能不全によって損なわれている。次の大統領が急変して反対方向に向かうかもしれないのに、なぜ他国はアメリカの政策に合わせる必要があるのか。予算編成や新型コロナウイルス感染拡大の管理、必要なインフラ整備に苦労している国と、なぜコストのかかる計画を調整する必要があるのか。物事を効果的に成し遂げるアメリカの基本的な能力に対する信頼が薄れれば、アメリカの信頼性が損なわれるのは必然である。たとえ意志があったとしても、約束を果たすことができると他国を説得することも重要である。

(4)次の人道上の危機。次の人道上の危機がどこで発生するかわからない。アフガニスタンか?ベネズエラか?ミャンマーか?レバノンか?しかし、環境的な圧力、根強い暴力、経済的な崩壊が重なれば、過去の悲劇と頑強な新型コロナウイルス感染拡大に疲弊した国際社会にとって、新たな悲劇を引き起こす可能性がある。このような事態が発生した場合、大統領にとって最も希少な資源である「時間」が直ちに消費されてしまう。もし私がバイデンに助言するならば、予想外の事態に対処するために少し余裕を持っておくように言うだろう。彼はそれを必要とするだろう。

(5)優先順位を決め、それらを守ること。このようなリストを作成していると、エチオピアの内戦拡大、進行中の移民・難民危機、マクロ経済崩壊の可能性、環境災害など、項目を追加するのは容易だ。従って、アメリカの外交政策を担う人々にとって、2022年の最後の課題は、最新の危機に巻き込まれないようにすることであろう。この問題が勃発すれば(上記の第四点を参照のこと)、バイデンと外交政策チームは、現地の従属国、資金力のあるロビー団体、熱心なジャーナリスト、人権活動家、企業利益団体、その他大勢から、今日のホットスポットを大統領の優先リストに加えるよう容赦ない圧力を受けることになるであろう。「アメリカは復活した」ということを証明したいバイデン政権は、こうした圧力に特に弱く、予期せぬ出来事によって政権の軌道が狂う危険性が高くなる。そうなれば、「やりすぎて、そのほとんどを失敗してしまった」最近の政権の長いリストに加わることになる。

ここで、悪いニュースを一つ。2022年を前にして、私は上記のどの問題も、アメリカの将来、そして今世紀の残りの期間におけるアメリカ人の生活にとって、アメリカが国内で直面している課題ほど重要であるとは思えない。私の教え子であるバーバラ・ウォルターのように、内戦が起きる可能性について真剣に研究している人たちは、アメリカの現状と軌道が、数年前までは想像もできなかったような内戦の危険性を現実のものとすると警告を発している。たとえ大規模な暴力事件が起こらないとしても、次々と選挙が争われ、「人々に選ばれた(elected)」政府は民意を代表せず、広く正当性を欠き、政府機関はますます基本的機能を効果的に果たせなくなることは容易に想像がつくだろう。基本的な自由とアメリカ人の生活の質を脅かすだけでなく、このような国内分裂は、効果的な外交政策を行うことをほとんど不可能にし、アメリカの衰退を加速させるだろう。

これまで述べてきた様々な理由から、2022年のバイデンの主な課題は、就任の宣誓をしたときから変わっていない。アメリカが世界の舞台で成功するためには、その民主政治体制の根幹を蝕んでいる党派的狂騒(partisan insanity)を終わらせねばならない。端的に言って、この目標を達成することは、現時点では誰の手にも負えないことかもしれない。更に率直に言えば、この大混乱を止めるには、大規模でかつ困難な憲法改正しかないと私は確信している。しかし、大規模な改革は、現在の政治秩序の反民主的な特徴から利益を得ている共和党を筆頭とするグループから激しい抵抗を受けることは間違いない。

ということで、皆さん、良いお年をお迎えください。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト兼ハーヴァード大学ロバート・レニー・ベルファー記念国際関係論教授

(貼り付け終わり)

(終わり)

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