古村治彦です。

 ジョー・バイデン政権成立前から、アメリカ、インド、オーストラリア、日本の戦略対話枠組である日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad、クアッド)が大きく報道されるようになった。バイデン政権の国家安全保障会議アジア・太平洋調整官(National Security Council Coordinator for the Indo-Pacific)であるカート・キャンベルが責任者の、対中封じ込め枠組である。日本の一部極右、単純なバカ右翼は「これでアメリカと一緒に中国征伐だ!」と喜んでいるようだが(自分たちだけで切り込むぞという考えがないところが奴隷根性そのものである)、事はそう単純ではない。

この枠組に入れられた、インドもオーストラリアも表面上は勇ましく、アメリカの意向に沿うように動いているように見せかけて、面従腹背、裏では「アメリカも中国も迷惑だなぁ」「勝手にやってろよ、馬鹿どもが」と言わんばかりの態度である。日本も、特に経済界は中国と全面的に衝突することは望んでいない。

アメリカは単独では中国を抑える力を持ってはいない。皮肉なことに中国をここまで成長させたのはアメリカの国内市場の旺盛な消費の結果であるが、今頃になって、インドとオーストラリア、日本を巻き込んでいざとなったら、けしかけさせようというところまで来ている。インドは中国と国境を接しているが、中国との全面的な衝突は望んでいない。オーストラリアは二面作戦である。アメリカにも中国にも両属という形を取る。これは非常に賢いやり方だ。以前にもご紹介したハーヴァード大学のスティーヴン・ウォルト教授の論稿では、ドイツが米中露の間をうまく泳いでいるとして高い評価であったが、オーストラリアは米中の間をうまく泳いでいくことになるだろう。

問題は日本だ。日本も面従腹背、二面作戦で行くしかない。どことも喧嘩せず、が基本だが、日本の場合にはアメリカの属国という「立場」がある。非常に利用されやすい。国内の単純な右翼、反中反韓の人々が焚きつけられて、中国と韓国へ吠えかかる役割を果たされるだろう。エマニュエル大使のSNSへの投稿は非常に危険だ。アメリカが前面に立たず、日本が代理で中国にけしかけられる、気づいたら一緒にやっていたはずのインドとオーストラリアがいない、屋根に上ったが良いがはしごを外されてどうしようもないという状況に陥ることが懸念される。のらりくらり、どことも喧嘩しない、というのが長生きの秘訣だ。

(貼り付けはじめ)

ティーム・バイデンは外交を「アジアへのピヴォット2.0」から始める(Team Biden Should Start With an Asia Pivot 2.0

-中国を封じ込めるというアメリカの政策には、バイデンの支援者たちが認めるであろう寄りもトランプ政権からの継続性がより必要となる。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2020年10月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/10/19/biden-trump-china-india-asia-pivot/

日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad、クアッド)の最新の会合が東京で開催された。この場で、アメリカが中国を封じ込めようとしている中で、多くのディレンマに直面していることが明らかになった。誰が今回の選挙でホワイトハウスへのレースに勝利するかは、このディレンマには関係がない。インドは伝統的に中国と対立することを避けようとしてきているが、そうした中でオーストラリア、インド、日本、そしてアメリカの外交担当大臣と長官が会合を持ったことが重要である。しかし、外相会談それ自体は4か国の新たな協力体制構築の明確な証拠を示すものではなかった。外相会談は、アジアにおける中国の台頭に対する懸念を共有する同盟国やパートナーとの間でさえ、ワシントンが行動を調整するのがいかに難しいかを浮き彫りにしている。

民主党大統領選挙候補のジョー・バイデンが勝利した場合、より伝統的な多国間外交政策を重視する彼にとって、この未熟なパートナーシップを更に発展させることは重要な課題となる。同時に、習近平国家主席がここ数カ月、より積極的な国際姿勢を取っている中国に対してより厳しいアプローチを約束した。このことは、アジア地域におけるアメリカの政策は、民主党所属連邦議員の多くが認めたがっている以上に、ドナルド・トランプ米大統領のアプローチとの連続性が必要であることを意味している。しかし、ワシントンのアジア政策の多くが混乱状態にあることは否定できない。より広範な見直しが必要だ。2011年に当時のバラク・オバマ大統領が発表した「ピヴォット(pivot)」戦略に類似した、より広範な見直しがが必要なのである。

中国の王毅外交部長は、4か国の戦略対話は少なくとも中国を苛立たせる能力は有していることを認めた。マレーシア訪問中、王毅は戦略対話のメンバー国が「インド太平洋版NATOan Indo-Pacific NATO)」を作ろうとしている、その目的は「地政学的な競争の火に油を注ぐ」ことだと非難した。この発言の内容は非現実的だ。アメリカは第二次世界大戦後にアジア地域にはNATOのような組織はふさわしくないと認識していた。アジア地域では、アメリカのパートナー諸国と同盟諸国は広く拡散し、個別の利益は多種多様である。新しい同盟のような関係を設立しようとした以前の失敗を経て、2017年に再生して以来、日米豪印戦略対話(Quad、クアッド)は、テロ対策、サイバーセキュリティ、沿岸警備サーヴィスといった、あまり攻撃的ではない分野を議論する低レベルの会合に限定されている。しかし、これは役に立たないという意味ではない。実際、サルヴァトーレ・バボネスが、『フォーリン・ポリシー』誌上で論じたように、戦略対話は廃止されるべきものでもない。実際、スタートは遅かったが、このグループは徐々に大きな意味を持つようになるだろう。

戦略対話の根底には、インドの考え方の変化がある。最近のヒマラヤ地域での中国との衝突を経て、ニューデリーは米中間のバランスを取る政策をほぼ放棄し、より強固に反中陣営に参加するようになっている。かつては中国への挑発的な行動を避けていたインドの政策担当者たちが、今では挑発的、積極的な行動を取るようになっている。地政学的緊張が高まっている時期に東京で日米豪印戦略対話会議を開催したのはその明らかな具体例だ。また、インド、日本、アメリカの3か国がこれまで参加し実施してきたマラバール海軍演習に、オーストラリアが参加することを発表したこともその一例である。アメリカとインドは、中国の軍事力の増強懸念し、対潜水艦戦などの分野でも軍事協力を深めている。

しかし、日米豪印戦略対話を強力に支持する人々でさえも、このグループの限界は認識している。最近の会議では、偽情報(disinformation)や新型コロナウイルスの管理など、中国に傾斜した幅広い議題が扱われたことが外交文書から読み取れる。しかし、4か国は正式な共同声明に合意することができなかった。おそらく、そうしようとさえしなかったのだろう。そう考えると、NATOのような組織を作る計画を進めるというのは、特にあり得ないことのように考えられる。北京から見ると、日米豪印戦略対話は中国を封じ込めるための攻撃的な計画のように見える。しかし、実際には慎重かつ消極的な姿勢にとどまっている。今のところ、中国の侵略という認識だけが、4か国を協力に向かわせている。今後とも、中国の行動が協力に拍車をかける可能性は高い。

ここから、アメリカの政策に関するディレンマが始まる。スティーヴン・ビーガン米国務副長官は2020年8月、日米豪印戦略対話の主な問題点を言い当てた。「中国の脅威に対応すること自体、あるいは中国からの潜在的な挑戦に対応すること自体、十分な推進力になるとは思えない。また、対話で話される内容はポジティブな議題でなければならない」とビーガンは述べた。しかし、ビーガンの上司であるマイク・ポンペオ国務長官は、北京に対してはるかに対決的な姿勢を取っている。これまでのところ、ポンペオは他の日米豪印戦略対話のパートナー諸国を怯えさせることなく、この姿勢を貫いている。しかし、他の3か国が何らかの形で中国との協力を求めていることを考えると、このアプローチには限界がある。

日米豪印戦略対話参加諸国は、中国とその行動に対して共通の懸念を抱いている。中国がインド太平洋地域の支配的な存在になるような事態は避けたいと考えている。しかし、何をすべきかについての処方箋を共有しているわけではない。ニューデリーの最近の変化を見ても、インドもオーストラリアも日本も、正当な理由なく中国を困らせたくはないのである。いずれも中国の強圧的な外交のリスクを懸念している。特にオーストラリアと日本には、維持すべき重要な経済的結びつきがある。東南アジアの国々の多くは、内心では中国の役割を懸念しているが、北京に対抗するための公的な行動を支持することには慎重で、こうした状況は各国の二枚腰の姿勢を生み出している。シンガポール出身の元外交官ビラハリ・カウシカン氏は最近、『ジ・オーストラリアン』紙とのインタビューで、「ポンペオのようなハードな封じ込めを口にすれば誰も参加しない。日本やオーストラリアであってもそうだ」と述べている。

これら全てにおいて、ワシントンにとって真の危険は、アジアへの取り組みが実際よりもうまくいっていると考えることだ。元アメリカ通商代表のロバート・ゼーリックは最近、トランプの中国政策が特に貿易面で「完全な失敗」だったと主張する、辛辣な論文を書いている。この先も、問題点のリストは長い。他のクアッド3か国との関係は改善しつつあるが、韓国やフィリピンといった伝統的なパートナー諸国との関係は破綻している。アメリカは、狭義の安全保障上の問題を超えて、より広範なアジア諸国とより深い関係を築くための経済的政策を欠いている。「中国を恐れるあまり、トランプ政権は北京の真似をし、アメリカの最大の強みである法の支配に基づく公正で革新的で競争力のある市場を破壊している」とゼーリックは『ワシントン・ポスト』紙上に書いている。

残るのは、軍事的な競争に頼った、バランスを失したアプローチである。2020年10月初旬、マーク・エスパー米国防長官は、アメリカは今世紀半ばまでに海軍の艦船を有人・無人合わせて500隻以上に拡大する計画であると述べた。国防総省の最近の調査によると、これは現在350隻の艦船を有する中国に対して海上での優位性を維持するための積極的な試みとなる。軍備拡張は、超党派のコンセンサスでもある。バイデンが勝利した場合のエスパーの後任として有力視されているミシェル・フロノイは最近、「南シナ海にいる中国の軍艦、潜水艦、商船を72間以内に全て沈める」ことができる能力をアメリカが開発すべきであると考えている。

次のアメリカ大統領が誰になるにせよ、アジアにおけるアメリカの軍事力を強化することが必要となる。中国の海軍の近代化は、アメリカの単独行動では追いつけないペースで進むと考えられる。しかし、これまで中東やヨーロッパからアジアへアメリカ軍をシフトさせる試みは、遅々として進まなかった。新型コロナウイルス感染拡大の後では、余分な資源を見つけるのは難しいだろう。どのような現実的なシナリオであっても、米国はパートナー諸国とこれまでと異なる種類の軍事関係を築かなければならないだろう。そうなるにしても、日米豪印戦略対話がこの強化された軍事協力の主要な手段になるとは考えにくい。

軍事力と反中国外交政策に傾くことで、アメリカの対アジア政策はバランスを欠くものとなっている。アメリカの元外交官エヴァン・フィーゲンバウムは、アメリカが「アジアにおけるヘッセン傭兵(Hessians of Asia)」になってしまうと警告を発している。ヘッセン傭兵とは、アメリカ独立戦争においてイギリス側が雇ったドイツ人傭兵部隊のことである。フィーゲンバウムの言葉が意味するところは、アメリカの同盟諸国とパートナー諸国はアメリカを中国に対する軍事上の釣り合いを取るための装置と考えるだろうが、アジア地域の政治上、経済上の諸問題を解決するための方策にはならないとも考えるだろう、というものだ。このようなアプローチは、ビーガンが述べた「前向きな課題」を追加しうる多くの差し迫った懸念を考慮すると、特に近視眼的であるといえるだろう。アメリカがアジアにおいて、ヨーロッパにおけるNATOのような効果的な集団安全保障システム(collective security system)を構築しようとするならば、非軍事的な関係、目標、価値の共有を反映したパートナーシップによってそれを実現しなければならない。

新型コロナウイルス感染拡大からの回復を加速させるための様々な方法は、各国の協調を進めることである。それによって各国間の関係が深化し団結する。国際貿易システムの修復はもう一つの方法である。国際貿易分野において、アメリカは環太平洋経済協力協定から脱退して以降、主導することに苦闘している。トランプ大統領の破壊的で一貫性のない政策に阻まれてきたのだ。サイバーセキュリティから人工知能と電気自動車のような出現しつつある部門を監督するルールまで、非軍事的な協調のための大きな根拠になる。しかし、繰り返しになるが、日米豪印戦略対話がそのための最適な場となるとは考えにくい。その代わり、アメリカはより広範なアプローチを必要としている。2011年のオバマ大統領のピヴォット(軸足転換)政策は、多くの批判を受けながらも、少なくとも、現在のアメリカの外交政策に欠けている目標の多くを達成しようとするものであった。それは、アジアにおけるアメリカの軍事力を強化する一方で、伝統的な同盟関係を修復し、より深い経済協力関係を構築することを目指したものである。その実行力は乏しかったかもしれないが、基本的な考え方は健全であった。バイデンが大統領になった場合、「アジア・ピヴォット2.0(Asia Pivot 2.0)」を構築することは、素晴らしい出発点となるだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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