ウクライナ情勢は緊迫の度を深めており、「全面戦争(full-scale war)」に進むのではないかという声が大きくなっている。全面戦争とは、ウクライナ対ロシアということになる。欧米諸国、つまりEUとNATO加盟諸国はウクライナを応援し、軍隊を送ることまではしないが、物資や武器を送るということになる。ロシア軍は独立承認した2つの地域にロシア軍を派遣する。そこで衝突が起きるだけではなく、ロシア軍がウクライナの首都キエフに侵攻するということが全面戦争のシナリオということになりそうだ。
ロシアがキエフにまで侵攻してウクライナを併合することにメリットがあるとは考えにくい。しかし、ロシアの行動の根底には西側の論理とは異なる、「不安感」と「被害者意識」があるので、ウクライナを併合したいとは考えているだろう。それでもそれを実際に行うかどうかは別問題だ。
ウクライナがNATOとEUに加盟しないという確約ができれば、ロシアは併合という手段を取らないだろう。ウクライナがヨーロッパ、西側諸国とも政治的には距離を取り(経済的には緊密につながっても)、かつロシアに対してもある程度のつかず離れずということになれば、それが一番の落としどころということになる。
話は横道にそれたが、それではウクライナとロシアとの間で全面戦争(ロシアがウクライナを降伏に持ち込むための戦争)となるかどうか、である。ウクライナとロシアとの間で全面戦争になって喜ばしいのは、金融市場関係、石油産業、武器産業、金(きん)関連産業だろうが、彼らが戦争を望めば、戦争になるだろう。戦争を演出するだろうし、戦争になるように追い込むだろう。しかし、ロシアのプーティン大統領が彼らの仕掛けに乗るとも考えにくい。今回は、「欧米諸国はいざとなったら何もしない、本気で助ける気はないのだ」ということを十分に世界に見せつける効果が得られればそれ以上のことをしないのではないか、それがプーティンにとっての未来への布石になるだろうと考える。
アメリカが米軍を数万単位でウクライナに派遣し、首都キエフの防衛のために犠牲を払うという姿勢を見せれば、アメリカの勝ちであるが、そうでなければ、アメリカも大したことがないということを示すことになる。今のところ、アメリカは経済制裁でお茶を濁す姿勢だ。そうなると、アメリカの負け、ロシアの勝ちということになる。
(貼り付けはじめ)
プーティンがウクライナ東部をめぐる動きで緊張を高めている(Putin ratchets
up tension with moves in eastern Ukraine)
ブレット・サミュエルズ、ローラ・ケリー、モーガン・チャルファント筆
2022年2月21日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/policy/international/595238-tensions-between-russia-ukraine-escalate-as-putin-lays-groundwork-for
ロシアとウクライナの緊張関係は月曜日に劇的に悪化し、ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、人口4千万人以上の国であるウクライナへの軍事侵攻の準備ができたと多くの専門家たちが見ている。
バイデン政権とアメリカの同盟諸国は、ヨーロッパでの戦争の引き金となりかねないロシアの侵攻を回避するため、数週間にわたり外交的な出口(offramp)を追求してきた。
しかし月曜日にプーティンが、ウクライナのドンバス地方にある、ドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国と呼ばれる地域の独立を認める法令に署名したことで、外交的な窓は閉じられたと考えられる。両地域では分離主義勢力とウクライナ軍が長年にわたって戦ってきた。
数時間のうちに、ロシアの指導者プーティンはロシア軍にこれらの地域で作戦を実施するよう指示した。専門家たちは、ロシア軍がウクライナ領内で本格的な作戦を開始し、ウクライナ全域に対する更なる侵攻の前段階となることを予見させるものだと警告している。
ローズ・ゴッテモラー元NATO事務次長は、本誌とのインタヴューで、「まるで音楽で言うところのクレッシェンドが高まっているようだ」と語った。
プーティンは、両地域の独立承認に関する1時間ほどの発言の中で、西側諸国の専門家たちが分析しているように、ウクライナの独立性を疑い、歴史的・文化的にロシア的な国家であるとする歴史の書き換えを行ったのである。プーティンは、ウクライナは西側に利用されていると主張し、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領政権に矛先を向けた。
この高官は「私たちは戦車が出動するまで外交を続けるが、次に何が起こるかは分かるなどという幻想は抱いていない」と述べた。
欧州安全保障協力機構(Organization for Security and
Cooperation in Europe、OSCE)担当米国大使マイケル・カーペンターは、月曜日のプーティンの行動を「ウクライナに対するロシアの全面戦争(a full-scale Russian war against Ukraine)」を仕組むものだと呼んだ。
カーペンター大使は、ウィーンのOSCE本部に提出した声明の中で、「ロシアが何を主張しようとも、冷厳な真実は、ロシアが今まさに軍事行動の口実を作ろうとしていることだ」と述べた。
プーティンの演説の直後、バイデン大統領は、ドネツクとルハンスク地域への米国の投資、貿易、資金の流入を禁止し、同地域で活動する個人に対して制裁を科す権限を付与する大統領令に署名した。
記者団の取材に応じたアメリカ政府高官は、月曜日に更なる制裁が火曜日に行われる可能性があると示唆したが、詳細は明らかにしていない。ヨーロッパ連合(EU)もプーティン大統領の決定に関連した制裁を科すと表明している。
ホワイトハウスは数週間前から、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を再開した場合、懲罰的な経済制裁を科すと表明しており、月曜日の動きを受けて、その圧力は高まる一方だ。
前述のバイデン政権高官は、何がロシアの新たなウクライナ侵攻を構成するかという質問には直接答えず、アメリカは今後数時間から数日の間にロシアが取る措置を分析評価した上で、それに応じて対応するとだけ述べた。
この高官は「これから数時間、一晩中、ロシアの行動を観察し、評価するつもりだ。私たちは、ロシアが取る行動に対して、適切と思われる方法で対応するつもりだ」と述べた。
この高官は、ロシアは8年間ドンバスに軍隊を駐留させていると指摘したが、月曜日のプーティンの命令を受け手、ロシア軍がより露骨に活動するだろうと示唆した。
アメリカの制裁措置の発表と同時に、リンダ・トーマス=グリーンフィールド国連米大使は、ロシアのウクライナに対する脅威について国連安全保障理事会(U.N. Security Council)が緊急会合を開くようウクライナが要求していることを支持すると発言した。
会合は、安全保障理事会がロシアとの危機に焦点を当てるのがこの1カ月弱で3回目となり、ロシアが2月の安保理の輪番議長を務めている間に行われることになる。
トーマス=グリーンフィールドは声明の中で次のように述べている。「全ての国連加盟国は、次に何が起こるかに関心を抱いている。ロシアの行動は、第二次世界大戦以来、ある国が他国の国境を一方的に変更することはできないという原則を掲げてきた国際秩序を脅かすものだ。この原則は国連憲章(UN Charter)に明記されており、全ての加盟国が守ることを制約している」。
前述の政権高官は月曜日、「アメリカはロシアに対して、世界の平和と安定の維持に責任を負う最も重要な国際機関の場において、今日彼らが取った行動に対する答えを出すことを強制するために安保理を再び開催することには価値があるのだ」と述べた。
ホワイトハウスは、日曜日の夜遅く、外交への扉を開いたままにしておくことを示唆していた。その数時間前には、ホワイトハウス当局者がウクライナへの暴力的で破壊的な侵略の可能性を警告していた。
ジェン・サキ報道官によれば、バイデンは、ロシアがウクライナに侵攻しない限り、プーティンと会談することに「原則的に」同意したという。しかし、月曜日のモスクワの行動によって、米露首脳会談はテーブルから取り除かれてしまったようだ。
前述のバイデン政権高官は「ウクライナの北、東、南の各地域において、私たちが現場で目撃している全ての事実に基づいて、私たちの強い感覚は、ロシアが今後数時間から数日の間に起こりうる軍事行動の準備を続けていることだ」と述べた。
アントニー・ブリンケン国務長官は、木曜日にヨーロッパでロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣と会談する予定だ。ラブロフは月曜日の早い段階でブリンケン国務長官と会談することを示唆したが、バイデン政権はロシアの最近の行動から外相レヴェル会談を進めるべきかどうかを議論しているようだ。
ジョージ・W・ブッシュ政権下で3年間にわたり、ヨーロッパ・ユーラシア問題担当の国務次官補代理を務めたデビッド・クレイマーは、ロシアの次の動きは様々な形を取りうる可能性が高いと警告した。モスクワが大規模なサイバー攻撃を行い、ウクライナを通るパイプラインを寸断しようとしたり、ウクライナ領内にさらに軍を送り込んだりする可能性があるとクレイマーは指摘している。
外交政策を専門とする非営利団体ヴァンダーバーグ・コアリション(Vandenberg
Coalition)の諮問委員を務めるクレイマーは、「多くの危機が存在する」と語った。クレイマーは更に「しかし、第二次世界大戦以来のロシアによる最新の領土の強制的な奪取に対して何もしないことは妥協できるものではない。それはここで妥協すれば、プーティンの欲望が高まる一方になってしまうからだ」と述べた。
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バイデン大統領が、プーティン大統領が独立国家として承認したウクライナの分離地域への投資・貿易を禁止(Biden blocks investment, trade in areas of Ukraine recognized as
independent by Putin)
モーガン・チャルファント筆
2022年2月21日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/administration/595209-biden-to-block-investment-trade-in-areas-of-ukraine-recognized-as
ジョー・バイデン大統領は月曜日、ロシアのウラジミール・プーティン大統領がモスクワが支援している分離主義勢力が支配する2つの地域の独立を認める法令に署名した数時間後に、ウクライナ国内の両地域にアメリカが新規に投資、貿易、融資を行うことを禁止する大統領令(executive order)に署名した。
プーティンが独立承認決定について長い演説を行った直後、ホワイトハウスが詳述した大統領令には、いわゆるドネツク人民共和国およびルハンスク人民共和国で活動すると判断した「いかなる人物に対しても制裁を科す(impose sanctions on any person determined to operate in)」権限をバイデンに与えるものでもある。
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は声明の中で、「我々はロシアからのこのような動きを予期しており、直ちに対応する準備が整っている」と述べ、プーティンの行動を「ロシアの国際公約に対する露骨な違反(blatant violation of Russia’s international commitments)」と呼んだ。
バイデンは、月曜日に国家安全保障ティームと会談し、状況の最新情報を受け取っていたが、月曜日の午後遅くに命令に署名した。
制裁を科すという決定は、現在の危機を外交的手段で解決する窓口が閉じつつあることをアメリカが認めていることの兆候である。
バイデン政権は1週間以上前から、ロシアによるウクライナ侵攻がいつ起きてもおかしくないと警告しており、バイデン大統領は金曜日に記者団に対し、プーティンはウクライナ侵攻の決意を固めたと確信していると語った。アメリカは、ロシアがウクライナとその周辺に19万人規模の軍隊を派遣していると推定している。
しかし、バイデン政権は依然として外交の扉は開いており、日曜日にはバイデン大統領が、ロシアが侵攻を開始しない限り、プーティンとの会談に「原則的に(in principle)」同意したとさえ述べていた。その会談が実現するかどうかは不透明である。
新たな制裁が2つのウクライナから離脱した両共和国にどれほどの影響を与えるかは不明だ。
バイデン政権はヨーロッパの同盟諸国と協力し、ウクライナへの軍事侵攻があった場合にロシアに科す、より厳しい制裁枠組を別途用意している。
サキ報道官は次のように述べた。「次のことを明確にしておきたい。これらの措置は、ロシアがウクライナにさらに侵攻した場合に、同盟諸国やパートナー諸国と連携して準備してきた迅速かつ厳しい経済措置とは別のものであり、それに追加されるものである」。
サキ報道官は続けて、「私たちは、ウクライナを含む同盟諸国やパートナー諸国と、次のステップやロシアがウクライナとの国境沿いで続いている事態の悪化について、引き続き緊密に協議している」と述べた。
月曜日遅くに記者団の取材に応じたあるバイデン政権高官は、詳細は明かさなかったが、早ければ火曜日にも更なる措置が取られることを示唆した。
アントニー・ブリンケン国務長官は、プーティンの決定を非難する声明を発表し、ミンスク合意の下でのロシアの約束の拒否を意味し、「ウクライナの主権と領土の完全性に対する明確な攻撃」であると述べた。
ブリンケン国務長官は、新しい大統領令について「ロシアがこの露骨な国際法違反で利益を得ることを防ぐためのものだ」と述べた。
「今回の制裁はウクライナの人々やウクライナ政府に向けられたものではなく、これらの地域における人道的活動やその他の関連活動を継続することができる。ウクライナの主権と領土保全、そしてウクライナ政府と国民に対する我々の支持は揺るぎない」とブリンケン国務長官は述べた。
ホワイトハウスがこの計画を発表すると同時に、EUもウクライナのドンバス地方に属するドネツクとルハンスクの独立国家承認に関与した者に制裁を科すと発表した。
欧州委員会のウルスラ・フォン・ダー・ライエン委員長と欧州議会のシャルル・ミシェル議長は声明で、「ヨーロッパ連合は、国際的に認められた国境内におけるウクライナの独立、主権、領土保全への揺るぎない支持を改めて表明する」と述べた。
プーティンは月曜日に長時間にわたり、不穏な内容の演説を行った。その中でウクライナは歴史的に見てロシアの一部であると主張し、ロシアによるウクライナ侵攻の正当性を訴えたように見えたが、明確に侵攻を命じたわけでもなかった。
ロシアの指導者プーティンはドネツクとルハンスクの独立を宣言する命令に署名し、「友好」と相互援助協定を批准したとも述べた。
プーティンは次のように語った。「キエフで権力を掌握し維持している者たちに、敵対行為を直ちに停止する(stop hostilities immediately)よう要求する。さもなければ、血の海が続く可能性に対する全責任は、キエフを統治している政権の考えに帰することになる。これらの決定を宣言することで、私はロシアの全愛国的勢力の支持を得られると大きな自信を有している」。
その後、プーティンは「平和維持活動(peacekeeping operations)」を行うため、分離地域に軍隊を派遣することを命じ、緊張と紛争が差し迫ることへの恐怖をさらに増幅させた。
プーティン大統領の演説中、バイデン米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、その後、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と電話会談を行った。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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