古村治彦です。

 今回は、ウクライナ危機を受け、アメリカのジャパン・ハンドラーズ(日本操り班)がどのように考えるかを示す論稿をご紹介する。日本の国力低下とともに、日本の利用価値が下がり、ジャパン・ハンドラーズの地位も下がっている。現役で頑張っているのは(笑)、マイケル・グリーンくらいのものだ。今回はそのマイケル・グリーンの論稿をご紹介したい。

 論稿の主張をまとめて言えば、「太平洋インド地域の方がヨーロッパよりも重要だ。だからと言って、今回のウクライナ情勢でアメリカがロシアに譲歩すれば、インド太平洋地域でもうまくいかなくなる。一時的にインド太平洋地域からアメリカ軍やアメリカの資源をヨーロッパに振り向けてもロシアを抑止せよ、そうしなければインド太平洋でも同じことが起きる」ということだ。

 グリーンは中露枢軸(Sino-Russia axis)という言葉を使っている。彼が意識してこの言葉を使っているのかどうか分からないが、これは大変危険な言葉だ。第二次世界大戦直前、日独伊三国軍事同盟に使われた言葉であるし、ジョージ・W・ブッシュがイラン、北朝鮮、イラクを指して使った言葉だ。これらの国々とは共存できず、打倒しなければならないという意味が含まれる。激しい言葉遣いで、危機を煽り立てることで、自分たちの重要性を高めよう、自分たちの影響力を何とか取り戻そうという姑息なやり方だ。あんまりヨーロッパにばかりが注目されてしまうと、自分たちに回ってくるべき予算が回ってこないということもあるのだろう。

 そのためにはアメリカの国防費を増額せよということになる。しかし、どれだけ増やしても、ヨーロッパとインド太平洋地域(アジア)で同時に二正面作戦を展開する力はアメリカにはない。そのため、軍事面でもヨーロッパの同盟諸国とアジア地域の同盟諸国を動員するということになる。アメリカの落日は世界に印象付けられている。超大国の失敗はその実像以上に大きく印象付けられてしまう。

 アメリカが実際に中露と直接激突するとは考えられない。それではもう冷戦などとは言っていられない。それはもう世界大戦ということになってしまう。そこまでのエスカレートを米中露は望んでいない(それぞれの国内には世界大戦を望む勢力がいるだろうが)。雌雄を決するんだ、という決戦主義ではなく、交渉を継続しながら、ずるずると現状を維持しながら、少しずつ状況を改善していくというのが大人の態度だ。勇ましい言葉に踊らされて、気づいたら自分だけ突出していて、最後は孤独に立ち枯れということになってはいけない。

(貼り付けはじめ)

「アジア・ファースト」戦略があるにしても、ウクライナでのロシアを抑止する必要がある(Even an ‘Asia First’ Strategy Needs to Deter Russia in Ukraine

-アメリカのロシアに対する反撃なくしてインド太平洋戦略はありえない。

マイケル・J・グリーン、ガブリエル・.シャインマン筆

2022年2月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/17/putin-russia-ukraine-china-indo-pacific-strategy/

ウォルター・ラッセル・ミードが最近『ウォールストリート・ジャーナル』紙上で指摘したように、新しい「アジア・ファースト」運動というものが存在する。この考えは、ウクライナ危機へのアメリカの関与に反対するもので、「世界中に手を伸ばし過ぎた(overstretched)、衰退しつつあるアメリカは慎重に戦うべきであり、地政学的にはロシア、ウクライナ、ヨーロッパの将来よりも中国、台湾、インド太平洋の方が重要である」という考え方だ。その通りである。中国、台湾、インド太平洋の将来は、地政学的により重要である。しかし、ヨーロッパにおけるロシアの侵略に直面して、アメリカが後退することは、インド太平洋における、アメリカの中国との戦略的競争を強化するのではなく、弱体化させることになる。

日本の林芳正外相は、ロシアのプーティン大統領に毅然とした態度で臨み、ウクライナに対する日本の断固とした支援を約束し、アジア・ファーストの主張に大きな風穴をあけた。林外相は、中国がウクライナ情勢を注視していること、ヨーロッパの決意の欠如は北京の強圧と好戦性を助長するだけであると正しく指摘した。台湾の蔡英文総統は「ウクライナの状況に共感する」と述べ、ロシアが引き起こした今回の危機を調査するタスクフォースの設置を命じた。北京も今秋の中国共産党第20回全国代表大会(National Congress of the Chinese Communist Party)で中国自身の台湾戦略を修正することを視野に入れ、プーティンが行う次の動きを注意深く観察することになる。アメリカの成否は、敵味方の別なく慎重に測定される。私たちが警告したように、アメリカがアフガニスタンから突然撤退したことで、プーティンが冒険主義(adventurism)を後押しされなかったとは考えにくい。

しかし、今回、ウクライナ危機とインド太平洋における中国との戦略的競争との関連は、時に不定形な威信や信頼性の問題を超えている。それはより根本的な戦略の問題である。

アメリカの対中戦略とは、アメリカの同盟やパートナーシップを無縁の別々の地域に切り分けるのではなく、相互に補強し合うネットワークに結びつける世界戦略でなければならない。世界の各地域を切り分けて戦略を立てることは、もう分かっているはずだが、まさに北京が実現しようとしていることなのだ。中国は10年以上にわたって、ヨーロッパを内部分裂させ、ヨーロッパをアメリカから切り離そうと努力してきた。中国は、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)の資金を使い、ヨーロッパ連合(EU)の弱小諸国に対して、ブリュッセルへの恨みを利用した、「17+1」支援プログラムを実施し、これが功を奏した。ハンガリーなどの国々は、2016年の南シナ海での中国の圧力や2021年の香港の弾圧に対するEUの協調的対応を阻止することで、中国の言いなりになった。

今、プーティンの抑止に成功すれば、後々、インド太平洋からより大きな資源をシフトする必要性を減らすことができるのだ。

しかし、この1年、ヨーロッパの地政学的動向は、アメリカとアジアの同盟諸国にとってより有利なものとなってきている。イギリスはアメリカと共同して、AUKUS協定を通じてオーストラリアの原子力潜水艦建造を支援するようになった。フランスはこの協定によってケチをつけられたことに腹を立てていたが、中国が南太平洋のフランス領の島々や非常に広い排他的経済水域を侵食しているため、今後も味方であり続けるだろう。NATOは今日、協議を通じて中国に対してより前向きな姿勢を見せているが、太平洋に面したカナダは対中対応の努力のための強力なパートナーである。アメリカに対して反抗的なドイツでさえ、アナレナ・バーボック新外相の率いる外務省は、中国との「システム上の競争(systemic competition)」を中国政策の前提にしている。

北京が主導する、「17+1」グループのメンバー諸国も、リトアニア政府が「台北」ではなく「台湾」という名称の台湾代表事務所を開設した後、リトアニアに対する中国の猛烈な経済封鎖に警戒を強めている。リトアニアは「17+1」を脱退した。メンバー諸国は、EUが世界貿易機関(WTO)に中国を正式に提訴するのを阻止することができなかった。EU加盟国は、中国に関連する問題で、北京が加盟国を利用しようとする将来の試みを阻止するために、いわゆる有志連合(coalition of the willing)についても議論している。これらは重要な地政学的傾向であり、もしアメリカが、ここ30年間で最も大きなヨーロッパの危機の瞬間にNATOを放棄したら、その影響は計り知れない。

アジア・ファーストの主張の策定者たちは、主に有限な軍事資源について、ウクライナが与える影響について考えている。一時的にせよ、ヨーロッパにアメリカが地上軍や戦略的資産を増派すれば、インド太平洋で必要とされる同様の資源へのアクセスが減少することは間違いない。しかし、軍事的資源の活用を地理的にだけでなく、時間的にも考えることが重要だ。今、ロシアの抑止に成功し、プーティンにコストを負わせることで、後にインド太平洋からより重要な資源をシフトする必要性を減らすことができる。一方、プーティンがウクライナとベラルーシの併合に成功すれば、現在のロシアとNATOの接する境界線(コンタクトライン、contact line)の長さが4倍になるだけでなく、冷戦時代のNATOとワルシャワ条約機構の境界線よりも長いものとなってしまう。この新しい境界線を適切に防衛することは、その出現を阻止するよりもはるかにコストがかかり、はるかに大きな資源を必要とすることになる。

ウクライナ危機に対して自制を主張する人々は、中国との戦略的競争は全方位的な営為であることも忘れてはいけない。中国が台湾攻撃に伴うリスクとリターンを計算する場合、軍事的な戦闘順序と地政学的な影響の両方を考慮する必要がある。もし中国の習近平国家主席が、アメリカのヨーロッパの同盟諸国が台湾への攻撃に対して経済的・地政学的な罰を与えないと考えるなら、抑止力(deterrence)と説得力(dissuasion)は弱まる。ロシアの侵略に直面してウクライナを放棄すれば、北京が行っている大きなゲームにおいて、ワシントンの手札の数が減少することになる。それだけに、日本やオーストラリアなどの同盟諸国の外交的支援を得てプーティンに対抗することに成功することは、北京にとって、NATOやヨーロッパのパートナーが台湾の十番になったらどうするかという重要な前兆になる。

プーティンと習近平が独自の世界的な連携を強化しつつあることを、リアリズムによってワシントンとパートナー諸国に認識させることになる。中露両首脳は北京冬季オリンピックの開幕前に丸1日かけて、アメリカに対抗するための戦略を調整した。中国はヨーロッパにおけるロシアの要求を正式に支持した。中国とロシアによる、外国に対する干渉活動(foreign interference campaigns)を含む軍事演習や情報活動は、ますます足並みが揃い、慎重に調整されている。西太平洋のアメリカ軍と日本の自衛隊は、空と海における中国とロシアの同時かつ協調的な軍事面での調査活動に対応している。ロシアもまた太平洋地域における大国(Pacific power)である。ロシア太平洋艦隊は300年近くの歴史を有しており、この事実は特に見過ごされることが多い。

バイデン政権が最近発表したインド太平洋戦略では、「ロシア」という言葉がほとんど入っていない。北京とモスクワは、インド太平洋におけるワシントンの複数の同盟関係の効果を削ごうとしている。アメリカは世界中の同盟諸国と協力して、中露の権威主義的枢軸構築を出し抜くべきだ。ロシアが負うべきコストを押し上げることは、中国のコストも押し上げることになる。中露枢軸(Sino-Russian axis)の緊密化は、AUKUSで既に達成されたものを超えて、アメリカとインドとの戦略をさらに調整する潜在的な機会を開くものである。また、米国とNATOの同盟諸国は、東部・西部アフリカに軍事基地を建設しようとする中国への対応について、さらに調整すべき課題を抱えている。ロシアをヨーロッパの孤立した大国として、中国をアジアの孤立した大国として、それぞれを別々に取り扱うことは、非歴史的で、近視眼的で、非現実的で、戦略的とは言えない。

同時に、ヨーロッパとインド太平洋の安全保障上の要求が競合する間の真のトレードオフは、ワシントンにとって警鐘を鳴らすべきものである。国防総省の指導者たちは、官僚的な泥沼を打破することができず、米国アフリカ軍、中央軍、南方軍からインド太平洋に資源をシフトすることができないでいる。国防長官と統合参謀本部議長は、アジアとヨーロッパのトレードオフがより深刻にならないよう、頭を働かせて資源のシフトを選択する必要がある。バイデン政権はまた、2つの重大な軍事的課題に対処するために必要な国防予算を連邦議会に要求しなければならない。国防費の対GDP比は2022年にようやく3%になると予測されており、危険が大きく増大している今、第二次世界大戦後の最低水準である。もしバイデン政権が連邦議会を動かす気がないのなら、新しい連邦議会がバイデン政権を動かすべきだ。最後に、アメリカは中国と全面的な競争関係にあるため、バイデン政権は国際的な経済戦略の欠如を放置してはならない。ホワイトハウスは新しいインド太平洋戦略の中で、この地域の新しい経済的枠組みについて指導力を発揮することを約束している。しかし、その枠組みとは何だろうか。もっと重要なことは、それはどこにあるのか、ということである。経済的安全保障(economic statecraft)と戦略的な影響力は常に密接に関連している。しかし、ある政府高官が私たちに嘆いたように、アメリカの外交政策は今や片手を縛られた状態で運営されているのだ。

これらは政権が解決しなければならない手段に関する問題である。しかし、第二次世界大戦後のアメリカの戦略の目的を劇的に転換させる言い訳にはならないはずだ。安定し、緊密に連携するヨーロッパ諸国は、インド太平洋地域と比較して、かつてほどの重要性を持っていないかもしれない。それでも地球の裏側でアメリカが成功を収めるためには絶対に不可欠な存在であることに変わりはない。

アジア・ファーストの元祖は、ダグラス・マッカーサー元帥かもしれない。1951年にハーバート・ブロックが描いた有名な漫画の中で、マッカーサーは、朝鮮戦争のためにNATOよりもアジアを優先するようジョージ・マーシャル国防長官に働きかけているところを描かれている。マッカーサーの前には、太平洋を頂点とし、ヨーロッパが縁の下に隠れた立方体の地球儀が置かれている。マーシャルは、「我々はもっと丸みを帯びたものを使っていた(we’ve been using more of a roundish one)」と言う。マーシャルの返事は、当時も今も変わらない正論だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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